サイドA-22 ダンジョンコア
ホクトは、ダンジョンボス部屋の壁を慎重に「神眼」で観察していく。
この部屋のどこかにかならずあると信じる物を探して。
が期待するものは見当たらなかった。
同じように、床も観察するが、こちらも空振りに終わる。
「おかしいな。絶対にあるはずなんだけど。ひょっとするとこの部屋じゃなくて、第80層のどこか別のところに隠してあるのかな。だとしたら、厄介だぞ」
ひとりつぶやくホクトを怪訝そうに
「何を探しているんにゃ」
とミヤビが声をかける。
「ダンジョン・コアだよ。この部屋にないから、この部屋に近接するところにあると思っていたんだけど....」
「ダンジョン・コア? なにそれ? どんな形をいているのにゃ」
「どんな形って...じつは僕もよくわからない」
ホクトのよく読んでいるラノベや、ファンタジー系のゲームではダンジョンコアは通常、巨大な魔石という形で現れる。
その場所のダンジョンボスのボス部屋か、それに続く隠し部屋に存在することが多い。
なので、ホクトはそれを想定してダンジョンボス部屋をくまなく観察したのだが、それらしいものは見当たらない。
というか、ホクトの知識はあくまで人間の空想の産物で、この世界にダンジョンが存在するからといって、ダンジョンコア自体が存在するかどうかも不明だ。
この世界のホクトとしての知識の中に、ダンジョンコアという記述は存在した。
だが、この世界の住人であっても、それは想定の域をでない、都市伝説的なものであった。
「ダンジョンは魔力の吹き溜まりであるダンジョンコアが作り出すもの」
「ダンジョンコアは、ダンジョンボスの側に存在する」
「ダンジョンコアは、それ自体が生物で、ダンジョンコアがなくなればダンジョンは崩壊する」
と、ホクトが現実世界で知っているファンタジー要素となんら変わらないのであった。
「わからないけど、僕が知っているダンジョンコアは、ダンジョンボス部屋のそばまたはそこに存在していて、形はでっかい魔石とかもしくは魔力を帯びた石柱とか、そんな感じなんだ」
「ふーん、でもこの部屋にはそんなものないにゃ。仮にダンジョンを作り出すことができるくらいの魔力なら、なんかしら感知できそうにゃもんだけど、そんな大それた魔力だって感じないし」
「そう、だよね」
「それより約束にゃ、はやく帰るにゃ」
この場合の帰るは、現実に帰るの意味であった。
「しょうがないか」
だいぶ後ろ髪を惹かれるホクトであったが、ないものはしょうがないので、とりあえず地上にもどるために、部屋端の転移魔法陣に移動する。先ほどの部屋探索のときに、すでに見つけていた。
念のため、『神眼』にて転移魔法陣の使い方を確認したのだが、これがラッキーだった。
[転移魔法陣]
・ダンジョンボス討伐時に使用可能。
・魔力を与えることにより、ダンジョン1楷の出口専用部屋に転移する。
・転移は最下楷から1回への一方通行のみ発動可能。逆の転移は不可。
・2種類の魔力を与えると、転移先はダンジョン・コア・ブロックにかわる。
「あった、ダンジョン・コア・ブロックて、ダンジョンコアがあるところに違いない。魔力2種類は、魔法の種類?それとも二人分の魔力?」
ホクトは二人分と考えて、ミヤビと同時に魔力を転移魔法陣に加えた。
ボスを討伐したことによってすでに淡い緑で光りだしていた転移魔法陣が紫に淡く光りだし、別の受け入れ態勢ができたことをしめしていた。
たぶんこれで目的のほうに飛べると読んで二人は転移魔法陣にふれる。
ダンジョン周回はどのみちするつもりだったので、今回失敗して入り口に戻ったとしても、またここまでくればよいだけのことである。
ホクトの心配をよそに、二人はダンジョン・コア・ブロックに転移した。
★★★
ダンジョン・コア・ブロックは、ドーム状の部屋であった。
壁一面がレンがのような石のブロックで埋め尽くされた、半径5メートル程度の出入り口のない部屋で、ドームトップの部分から昼白色の光が部屋の中心を照らしていた。
部屋の中心には、天井に届かない程度の白いクリスタル柱大小2本たっており、その前面に同じくクリスタルでできたような平台が存在した。
二本のクリスタル柱と平台は、赤・青・緑・白の順に淡く明滅している。
(うーん、これは俺の感覚ではたぶん.....)
その平台は軽く傾斜していて、何か操作を前提としているように見える。
そう、コンソール台のようであった。
ホクトとミヤビが平台に近づくと、モニターのようなメニューがひらき、台座にはキーボードのような文字のキーが浮かび上がる。
浮かび上がったメニューには、
「ダンジョンマスター登録しますか?「はい」「いいえ」」
とこの国の文字で書かれていた。
「たぶんだけど、これがダンジョン・コアだと思う。そしてこの文面からは、このダンジョンにダンジョンマスターなるものは、いまは存在しないことになる」
ダンジョンマスターとは、ダンジョン・コアと同じくファンタジー用語で、ダンジョンを管理する人間や魔物のことをさす。
たまに植物や動物など本能思考しかできないものもあるが、たいていは言葉の分かる魔物やにんげんとなっている。
魔族やバンパイヤ、リッチーなどの話もあるが、だいたいは人間がその役割をしている物語が多い。
それにしても、とホクトはおもった。
その台座はホクトが最初に感じた通り、コンソールキーのある制御盤であった。
キーボードの並びや、メニューモニターの表示の仕方からいって、この世界に似つかわしくない現実世界さながらのインタフェースであった。
この世界がもうひとつの現実とみなしているホクトとしては、寝耳に水状態で久しく忘れていた疑い、この世界が夢ではないか?説がまた頭をもたげてきた。
なんというか、現実感があること以外は世界が北斗に都合がよすぎるし、現実にはあり得ないどころか異世界としてもあり得ないようなゲームシステム、たとえばガチャ要素やゲームオープニングなど、ホクトの知りえるもしくは想像しうる範囲に入っているためだ。
ただファーラーン村であった人たちは、ホクトの心配していた反応、魂の入っていないミヤビのようなNPCとおなじしゃべりかけるまで反応なしや、同じ言葉しかしゃべれない住人だったらどうしようかなどと思ってはいたのだが、それはよい方に裏切られて普通の個性ある人々だったので、ここでも北斗自身の夢説は少し外れたとは思っていた。
ダンジョンコアは、北斗の知るどんな物語の形とも異なっていたが、それでも想像できる範囲のもので、やっぱり夢なのかなーという思いが頭をもたげてきたのも、やむを得なかった。
(まあ、いいか。とりあえずはダンジョン・コア見つけられたんだし)
ホクトはは開き直って、ダンジョンコアおよびコンソールに『神眼』を使った。
[ダンジョン・コア]
・付近からの魔力を吸収・蓄積・増量させる物体。
・ダンジョン・コア単体でもコアとしての本能、貯蔵魔力をより増やすための手段、ダンジョンの生成・拡張・整備をおこなう。
ダンジョンの構造変更、魔物や罠、宝箱等の生成配置を主として行う。
ただし、ダンジョン・マスターが存在する場合は、その範囲は限定的となり、自己修復や現状回帰に留まる。
・ダンジョン・マスターが存在する場合にくらべ、ダンジョン・コア単体の変革対応は、著しく遅い。
・ダンジョン・コアは貯蓄された魔力量に応じて、自身を成長させたり大きくできる。
・魔力の蓄積量はダンジョンレベルにより増大する。レベルに応じた魔力を貯蓄できるが貯蓄速度が早く許容を越えると、余剰の魔力を魔物に変換させて、ダンジョンの外に大量放出する場合がある。
[ダンジョン・コンソール]
・ダンジョン・マスターが、ダンジョンに対する制御、魔物や構造の変更や追加、リポップ周期やドロップ品構成等を行うときに利用する制御卓
・基本メニューによる操作のほかに、魔物や構成品の創造、専用言語によるプログラミングも可能。専用言語の習得は、ダンジョン・マスター登録時に、自動的に行われる。
・ダンジョンコンソールでの魔物や構成品の創造は、ダンジョン・マスターとなったものの想像しうるものしか創造できない。ダンジョン・マスターが実際に相対した物体や生物に関しては、問題なく創造可能だが、ゼロからの創造する対象については、想像力の完成度が低い場合やあいまいな点が多い場合には失敗する確率が高くなる。
・ダンジョンコンソール1台に対し、1生命体のみダンジョン・マスターとして登録可能
・ダンジョン・マスターは、自身に対する改変は不可
・ダンジョン・マスターの解除は、登録生命体が死亡と判断された状態になった時のみ可能。登録された生命体の意志による解除は不可能。
・補足:ダンジョン・マスターは、ダンジョン内のみ移動が可能。ダンジョン外への移動は不可。
ホクトの目標は、ダンジョン・コアをみつけて、それを操作できるダンジョン・マスターに収まることであった。
そのために、ダンジョンを攻略して、やっとダンジョン・コアとそのダンジョンを操作できるであろうコンソールを発見したのだ。
ここまでは、筋書き通り思惑通りとといってよかった。
ただ最後の1行、補足の内容だけが、ホクトの思惑から外れた。
ダンジョン・マスターに収まるということは、このダンジョンにとらわれることと同義になってしまう。
ホクトがこの世界をしって、楽しみつつ検討しているプランだと、それは非常に弊害となる設定であった。
まだこの世界は、自分とファーラーン村しか知らず、それも広げられないと思うと、絶対に受け入れられない条件であった。
(さて、どうしようか?)
ダンジョン・コンソールの問いかけに対して、固まってしまったホクトであった。




