サイドA-20 ミヤビのお願い
次の日もホクトとミヤビはひたすらダンジョン攻略をしていた。
各層あまり変わり映えのしない大きさとマップで、若干出てくる魔物や罠などの危険度はあがったものの、ホクトたちにとっては経験値的にうまみのある内容ではなかった。
おそらくであるが、このダンジョンはまだ誰も入ったことのない、未走破どころか攻略者未経験のダンジョンであったのだろうとホクトは考えた。
現実世界の空想の知識ではあるが、ダンジョンもいきものであり、外部の刺激によって成長することが、しばしば物語に語られていた。
外部の刺激、たとえば冒険者がダンジョンに潜って、そこに存在する魔物を狩ることによって、ダンジョンコアはどのくらいで冒険者が踏破できるかの基準をしれる。
用意した魔物を狩られるのはかまわないのだが、それが一方的すぎると搾取されるばかりなので、対抗手段としてより強い魔物を召喚したりするようになる。
罠やダンジョンマップにしても、簡単に対応や走破されてしまうと、それだけダンジョンが吸収できなくなるものも減ってしまうため、それらから学習してより広く複雑な迷宮の想像や致死に至りやすい罠を展開していく。
そうして外界からの刺激をもとに、ダンジョンは成長していくという考え方がある。
そういう観点から見て、このダンジョンは各層の迷宮が狭く、単調で出現する魔物の種類も地上の魔の森とほぼ変わらないことから、だれの侵入もなされていないとホクトは想像したのだった。
その割には層の数が多く、最深部が40層を越えてもまだ出てこないことから、できてから時間だけはたっぷりたっているダンジョンであるとも考えられた。
(ここまで魔力がたまってて、よく今までスタンピードが発生してないよな。いやちがうか。スタンピードは都度発生していても、そもそも森が大きすぎてそこに散開しているだけか)
ホクトたちが伐採するまでは村までの道もなく、そもそもお互いがその存在を認識していなかったのだ。
森からの魔物が多い認識だったが、ひょっとするとその中にスタンピードの魔物が内在していたかもしれないと北斗は推察した。
ホクトとミヤビは、宝箱を含むフロア探索を無視して、とにかく最下層にたどり着くこと優先で休憩も惜しんで高速で移動した。
遭遇する数は増えたが、魔物の種類はそれほど増えなかったため、出会いがしらに瞬殺してドロップ品を手早く回収、先に進んだ。
51層のフロアボスで、やっとオークキングがでてきたが、それでも二人の手を煩わせるには至らずスビートが衰えることなく、その日の夕方には55階層まですすめた。
各層には魔物の気配が存在しない場所もあり、ホクトはおそらくこれが物語でよく出てくるダンジョンのセーフティーエリアだろうとおもいつつ、それでもディー・エッグを展開して寝所を警戒させるのを怠らず、内部大容量のテントをストレージよりだしてその日の進行をおえた。
夕食は昨日のシチューが残っていたのでストレージから出して皿にもり、主食として雑貨店のパンと料理スキルで試しに作ってみたブラッドウルフのウルフ・ジャーキーなども出してみた。
ウルフ・ジャーキーは、ブラッドウルフを利用したせいか、特有の臭みもすくなく食べられない程度ひどいものではないものの、他のメニューと釣り合わず携帯食の域を出ないとのホクトの感想だ。
ただ売り物にはなりそうだったので、まだ結構ストレージにあるブラッドウルフやフォレストウルフの肉を調理して、次に雑貨店に行った際に売ることにする。
といってもすべてを売るには多すぎるので、そのうち自分でも売る手段を考える必要があるかもとホクトは考えていた。
「今日は少しだけ疲れたにゃ、雑魚回収が多すぎて。たまには自宅のベットで寝たいにゃ」
ミヤビが夕飯をとりつつ訴えた。
ここでいう自宅とは、現実世界のベットのことらしい。
『従者憑依』で猫のみやびをこちらに連れてきて、いろいろと本人に検証しているのだが、何度聞いても意識は共通であることがわかるだけだった。
ミヤビ曰く「意識が広がる感じにゃ。あちらで猫であるときは考えないことや、認識してもどうでもよい、スルーされることがこちらではわかるにゃ」だそうだ。
ただ、と続けて、現実の猫でいるときのほうが気楽らしい。
何にも考えず、猫としてのこだわりでしか行動しかないため、疲れないのだそうだ。
もちろんこちらの世界も猫では体験できないことや、猫では絶対味わえない味覚を満喫出来て楽しいらしいが、それが続くと精神的に疲れるらしい。
ホクトがこの世界に夢中すぎて、毎日何かしらのイベントをつくって、ゆっくりさせてくれないというのも要因らしいが。
猫人族としてのミヤビの意見では、もともとのんびり過ごして、必要最低限しか働かない種族らしいので、つき合わせているホクトの問題でもあった。
「そういうなって。悪いとは思うけど、こんな中途半端な場面で現実にもどったら、一日仕事に手が付かないよ。このダンジョン攻略まではつきあって、お願い」
とホクトはミヤビに手を合わせる。
「しょうがないにゃ、どの道ホクトが帰らないとうちも部屋には帰れないし。そのかわり帰ったらあのチューブ状のえさがほしいにゃ。それも一日三回!」
ミヤビの言っているのは、チューブに封印された、ちょっと単価の高いおやつ的なエサのことらしい。
猫特有の自由さで現実でも何かにつけ飽きっぽい雅だが、あのチューブ状のエサに関しては無くなるまで一気に食い尽くすだけでなく、お代わりを催促してくることも多い。足元にまとわりついてなかなか主人のそばを離れないのだ。
金銭的なことだけでなく、そういった事後のわずらわしさもあって、北斗はほんとうに自分の気分の乗った時にしかそれをあげていなかった。
「わかった。それで手をうってくれるんなら、いくらでも」
ホクトはすぐさま了承した。
主人が飼い猫に拝み倒して、飼い猫が譲歩してくれるというおかしなやり取りを見ている者は、感情を持たないディー・エッグだけだった。
後日談、ログアウトと同時にみやびは北斗にしつこくまとわりついて、離れなかった。
エサを与えても「それじゃにゃい」とばかり、非難の声をあげ、やっと思い立った北斗がチューブ状のおやつを2本与えたのだった。




