サイドA-19 ディー・エッグ
「さあて、それじゃ最初のボス戦といきますか」
第1層~第3層を高速移動してつっきって、フロアボスの扉前まで移動したホクトは、ミヤビに言うでもなくつぶやいた。
ホクトはミヤビを伴って、早朝日の上る前にダンジョンに突入した。
時間を早くしたのは、勧誘してくる連中が無理やり同行しないようにとの配慮からだ。
レベルの高いものがそれをしてくれれば、振り切ってしまえばよいだけの話だが、レベルの低いものにそれをされてしまうと、ダンジョンに単身で置いてけぼりとするわけにもいかず、厄介なことになるのは目に見えていた。
ただしこの手も一回しか効かない手段、二回目からは早朝出発を見越しての行動も予測されるので、今回はほぼ夜中といえる時間に出発して、確実に同行者ゼロの状況を作った。
なんとなくだが、無理やり同行を画策していたらしい者たちが、同じ宿に泊まって夕食時にこちらをうかがっていたのがわかっていたが、さすがに魔物が活動的になる夜中に出るとまでは想定していなかったらしく、うまくまけた。
ホクトはダンジョンに潜る前準備として、「鑑定」スキルのレベルを20からレベルマックス値の50までスキルポイントを利用してあげた。
「鑑定」をカンストしたのには訳がある。
その先のスキルチェイン「神眼」を獲得したかったからだ。
「神眼」は、「鑑定」の対象をさらにあげた内容で、対象物の特性やレベルを確認するだけではなく、謎解きの答えやより高位で鑑定では使用用途が解析できないものまで、見えるようになる。
ダンジョンということもあって、謎解き要素が増えることの想定のほかに、ホクトとしてはどうしても自分のゲームシステム構築の欲望のために、必要な措置と考えた。
ただ、自分の想定するものが本当にダンジョン内に存在するかは、潜ってみてみなければわからない。
ホクトは最初から、最下層まで踏破するつもりでいる。
理想のゲームメイクのためには、最低限のクリア事項だが、ミヤビがいればまず間違いなくそれは達成できると確信していた。
そのほかの準備として、同時にダンジョンで有効そうである『罠感知』と『地図自動作成』もLv10まで取得した。
:『地図自動作成』は現実世界のゲーム世界ではスキルとかではなく、ゲームとしてよくある標準機能であったが、この世界ではスキルとしてあることをホクトはスキルチェインで見つけて知っていたので、ダンジョン潜入に際し、獲得したというわけだ。
索敵に関してはすでに『索敵(中)』Lv10までいっているので、これでおそらく事足りるだろうとホクトは考えてそのまま手を付けなかった。
これでどうにかならない敵はよほど隠形が得意だと思うし、そうした魔物が仮にいた場合でも『気配察知(極)』LvMAXのミヤビが同行するのだ。
気を抜きすぎなければ問題ないであろうと、ふたりは結論付けた。
ダンジョンは、ふたりにとってそれほど苦になるレベルのものではなかった。
出現する魔物も、森でおなじみのゴブリンやフォレストウルフ、コボルトばかりであった。
階層を増やすにつれ、オークやゴブリンの上位種などが出始めたが、それでもふたりにとっては日常的に狩っていた魔物のため、さしたる苦労はしなかった。
罠についても上層ではほとんど存在せず、時折見つかる宝箱に仕掛けてあることがあるだけで、しかも鑑定で内容がわかっているので、やすやすと回避できた。
ダンジョン1層1層はそれほど広くもなく、フロアボスとよばれるような魔物も3層に一回程度の割合でしか出てこなかったため、ふたりは急ぐでもなく攻略していったのだが、その日の夕方には第18層のフロアボスである体長3メートルはあるコボルトリーダーとその配下多数を倒していた。
「なんかさ、思っていたのと違うんだけど。こんなにさくさく進むものなのかな、ダンジョンて」
「うちもばじめてなので、よくわからにゃわよ。ダンジョンとして、ここが簡単なんじゃにゃいか?」
「そうなのかもしれないけど、なんというか拍子ぬけというか...まあ素材は解体しなくてよいんで、楽だけど」
ふたりは野菜がごろごろ入ったオークシチューと雑貨店で大量に購入したパンを食べながら、その日の寝床に決めた場所でくつろいでいた。
オークシチューは、材料と水魔法出だした飲料水をもちいて、ホクトのスキル『町の料理人』で作ったものだ。
魔力さえあれば調理過程がいらないので、便利なスキルである。
寝床も比較的安全と思われる場所に設置したテントアイテムを利用していた。
このテント、ガチャで出したものでみかけはよくある2人も入ればいっぱいになる三角テントなのだが、中に入ると20畳ていどの空間が広がっており、簡易ベッドが8つとソファー、独立したにトイレと部屋の中心にバスタブが設置された部屋もある、いわゆるマジックアイテムであった。
テント自体が外部に光を漏らさないうえに、『隠形』と『気配遮断』の付与もあるため、外界からはほとんど感知されないとは思うのだが、それでも見張りは必須となる。
「ミヤビ、ディー・エッグを出して」
ホクトはミヤビにストレージからアイテムを出すように指示する。
ほどなくミヤビの手前に7つのこぶし大の卵型をした物体が、浮遊しながら出現した。
黒い卵は、それぞれが七色に薄くゆっくり明滅しており、音もなく浮遊している。
「テント周辺に6体で半径10メートルで円形に展開。暗黒ドーム発行および周囲警戒。接近する魔物は攻撃可。残り1体は警報連動してホクトに追従」
ホクトの指示のあと、6体がテントを中心に展開し、暗黒の6角ドームが出来上がり、残り一体がホクトの傍らに浮遊のまま移動した。
ガチャチケットは、初回だけではなくことあるごとに、ホクトに配布されていた。
7日間連続ログインとか、1月間ワールド滞在記念とか、はてはURキャラ獲得記念とかガチャの成果をガチャが記念するようなおかしな配布まであった。
ホクトもミヤビのような有効なサブキャラの件があったため、SSR確定ガチャは積極的に使うようになっていた。
『ディー・エッグ』も、そうしたSSR確定でホクトが取得したSSR魔道具である。
7体で一組のこれは、操作者の周囲に浮遊展開して、防御および攻撃を可能とする武具であった。
いまホクトが指示したように、特定空間を覆う属性をつけたドームを形成したり警戒したり、接近する指定対象に対して攻撃も可能である。
特性といっても、特定空間を暗黒化させたり光らせたりするだけで、バリヤーのような防御壁効果はない。
暗黒化させるのは、たんに外部から見えにくくさせるためだけである。
そのため見えなくなっても、そこに何かがあるの場バレバレなのだが、覆ったフィールドは聖属性が付与されとているため、並みの魔物はまず近づいてこない。
攻撃能力は、各個体から発射される直径5mmの光の収束帯、簡単に言えばレーザービームで、その威力は細いながらもドラゴンの鱗も貫通できる。
それがこの場合は6体から一斉に照射されるので、オークやゴブリン程度では急所を貫通されて瞬殺であるし、ドラゴンでさえ時間を少し欠ければ、この魔道具だけで対応できてしまう。
この魔道具、じつは常時も展開できて移動の際にも移動タイプの橋頭堡として利用もできるのだが、ホクトたち自身が強くてその必要を感じないのと、仮に展開してしまうと魔道具だけで魔物を退治してしまい、ホクトたちの経験値にならないため、寝るときなどの周囲警戒用道具として以外は、今のところ使う予定は無かった。
ホクトはミヤビと警報機代わりのディー・エッグ1体をともなって、ダンジョン内とは思えむ無頓着さで就寝した。
(明日はもう少し、経験値の上がる魔物がでてほしいね)
レベル1000を越え、チート魔道具の『ケイオスの指輪』を二つもつけていても、レベルが上がりにくくなっているホクトは、もう少し高ランクの魔物に遭遇できることを祈りつつ、ベットにもぐりこんだ。




