サイドB-13 カエデ、スキルを試してみる
次の日、カエデは魔物に出会うたびに、昨日取得した剣技スキルをすべて試してみた。
「すごい、なにこれ」
自身で出した技の威力に、驚愕していた。
溜めが必要な技は、そうそう出せるタイミングがなかったが、剣速と威力が3倍になるスキルは使い勝手が良く、数回使ううちに意識せずとも、とどめの瞬間に発動することができるようになっていた。
スピードも上がっているため、カエデの感覚的には、3倍の威力どころか5~6倍のダメージを与えている感覚だった。
一定時間スピードが1.5倍に上がるスキルも、打撃時ではなく、素早い相手の攻撃を見極めるのに役立った。
1.5倍程度では大したことがないと思っていたのだが、相対した魔物の動作が極端に遅くなって、冷静に対処できることが判明した。
マルティによると、これらのスキルはまだまだ上に上げることができるらしいので、カエデとしては楽しみが一つ増えた。
ただ同時にふたつやらかしてしまった。
一つはマルティに注意されていたにもかかわらず、体力管理ができずに、とどめのタイミングでスキルが発動せず、体力も低下していたのでピンチになってしまったこと。
もう一つは溜め技の予習をしていなかったので、溜めている間に魔物から直撃をくらってしまったことだった。
あと、もっとも深刻な問題として、溜め技を数回発動した後に、カエデの剣にヒビが入ってしまった。
カエデの使っている剣は鋼製でけっして安い剣ではないが、急激にアップしている腕力とスキルの威力に、使用頻度が極端に上がったせいで、金属疲労が蓄積して壊れてしまったらしい。
これについては、その場でマルティが自身のストレージより取り出した剣を渡すことで解決した。
「これあげる」
手渡されたのは、カエデが持っていたものより細身ではあるが、見るからに雰囲気のある刀身だった。
もらうのは忍びないので、買い替えるまで借りるとしたいカエデではあったが、マルティが付与魔法の練習中に作った剣なので、壊れても問題ないとのことで、押し付けられてしまった。
「なによ、これ」
細身であるため、スキルを発動すれぱすぐに折れるかと思いきや、クラブ系の固い甲羅も手ごたえなくすっと刀身が振り切れてしまい、斬り外したかとおもったほど鋭利な剣であった。
いままで数回斬りつけることで倒せていた魔物も、斬りつける場所を狙うことで一振りで討伐できるようになった。
狙える場所がより精密になったのは、やはりスピードが上がっていることが大きく、剣技とスピードとなにより討伐した数が増えてきたことの経験で、魔物一体を倒す効率が格段に上がっていた。
「鋭利さを増す付与と、軽量化の付与を与える練習時に作った剣だよ」
マルティ的には100点満点中50点のものだから、その程度の剣しか渡せず申し訳ないとのことだったが、カエデにしてみればレアものの1000ゴールドはくだらないと思われる業物の逸品であった。
ちなみに鉄と思った刀身は、マルティが魔力を投じて練りこんだ魔鉄でできていた。
魔鉄とは普通自然界において、魔力の吹き溜まりにある鉄鉱石が数十年かけて形成されることが多く、おいそれと手に入れられるものではない。
手に入ったとしても形成に匠の技が必要で、鍛冶師であれば誰でも加工できる代物でもない。
それを錬金術師であるマルティは、すでに形成された鉄剣に魔力を注ぎ込んで魔鉄に変化させるという技をつかって作った一本であるという。
マルティ自身そのやり方はまだまだ発展途上で、日々研鑽のためにいろいろやり方を変えてつくっているらしく、カエデに渡されたひと振りも、そのなかの一本であるという。
それでもカエデはさすがに希少で市場に出せば自分の手が出ない高価ななもの過ぎて使えないと何度も返そうとしたが、似たような練習の結果があと200本程度ストレージに入っているので、最上級品ではないのは心苦しいが、パーティの前衛担当として、是非にもらってほしいと、マルティはゆずらない。
お互いの価値観の押し付け合いのだったが、カエデにスキルに耐えうる剣が必要なのは事実なので、その剣にみあった金額を支払うのは無理だが、約束の素材を換金した暁には、いくばくかの費用を払うことで、決着が付いた。
マルティにしてみれば、ストレージ内には他のダンジョンで手に入れた魔剣も数本単位であるため、それらに比べたらはるかに性能が低いことがわかっているので、心苦しさはあったものの、アダマンタイトやヒヒロイカネの剣を渡せばそれこそカエデが固辞することは目に見えていたし、なにより彼女の経験のためにならないので、その程度で恐縮されることに恐縮せざるをえなかった。
第8階層の攻略は、5日目だけで足りず6日目に突入していた。
走破する広さはそれほどでもないのだが、島伝いにしか進むことがでず、しかも通路=島なので、魔物がいたら倒して進むしか方法がなく、時間がかかってしまっていた。
唯一の陸地である点在する小島の広さは、大きくても直径が数十メートルのため、魔物がいるとさけては通れない。
島の周りは浅瀬が多いため、ショートカットができそうな場所もあるあるにはあったが、急に深くなっている海が近接していて、大型の海中の魔物が飛び出して攻撃できてしまうらしく、あえてのショートカットしていなかった。
実際クラウドの索敵網にも、大型の魚影が何回もひっかかったらしい。
マルティの魔力糸であれば、飛び出した瞬間に分断できそうだったが、ドロップ品が海中に落ちる可能性が高く、間違って深海に引きずり込まれる可能性もなくはなかったので、非効率と判断してあえて避けるようにしていた。
とはいいながらも、「クジラはさすがに」とか「ブリなら釣るか」と時々わけのわからない言葉を発しては、水中から突如頭上に現れた巨大魚は、ミヤビが瞬時に魔法で切り刻み、マルティも魔糸で切り裂いて、大量のドロップ肉を獲得していた。
片や小島ほどある巨大魚、片や人の大きさ程度ではあるが丸々太った砲弾型の魚の群れであった。
あとで姉妹がミヤビに聞いたところによると、それらの肉食べたさに、マルティがウルフ・ゴーレムに水中を探知させ、魔糸で無理やり引っ張り上げたらしかった。
それでも何とか6日目の夕刻に、第9階層に降りる口までたどり着いた。
そのまま第9階層に移動せず、宿営することにした。
夕食は、マッドクラブの爪の炭焼きと、小麦粉とミルクをバターで溶かしたクリームに、同じくマッドクラブの爪の肉をまぜて、バン粉をつけてあげた「マッドクラブクリームコロッケ」なる料理と、ご飯であった。
ツバキとカエデは二人で、でっかいマッドクラブの爪一つ分、平らげた。




