サイドA-16 ランクDカードをもらう
ホクトたちは、その晩ファーラーンの2件ある宿屋のうちの一つに泊った。
ミヤビの転移能力で、小屋に帰ってもよかったのだが、ホクトのラノベを読み漁ってきて得た感覚からして、常用されているかどうかも不明な転移という、おそらく突出した能力を見せびらかすべきではないことを理解していたので、宿を取ったのだった。
ツインの部屋で、夕食付1泊で一人3,500Mel、銀貨3枚と銅貨5枚であった。
この宿は町に滞在する冒険者たちが多く泊まっており、余り品のいい宿ではなく、ミヤビにちょっかいをかけて来た無骨者もいたが、肩に伸ばそうとした手を、ミヤビが軽く握っただけで声にならない悲鳴をあげて退散させた。
まあ昔は実力者のジーノが一緒にとまっていたので、そういうちょっかいは無かったので全然意識していなかったが、冒険者とは新参者やきれいな女性にはちょっかいをかけたくなる人種であろうと、ホクトはなんとなく理解した。
朝になり、宿屋で簡単な朝食をとった二人は、冒険者ギルドに直行した。
受付はハンナではなく、ホクトの知らない若い女性だった。
すぐさまギルドマスターの執務室に通され、疲れた顔のギルマスと事務員の男性に迎えられた。
ハンナもいたが、こちらも少し疲れていた。
「おはようございます。だいぶお疲れのようですが、何かあったんですか?」
ホクトは、三人のギルド職員にいぶかしげな顔を向けられた。
「たく、誰のせいで疲れていると思ってるんだよ。三人で討伐の集計や買取品の選定をしていて、ほとんど寝てないんだよ。イオシスの本部ともやり取りして、俺は疲れたよ」
ギルマス・ケビンは愚痴った。ほかの二人も同意の相槌を打った。
「えっ、あ、いやなんかすみません.....」
思わず頭を下げるホクトであった。
「まずは冒険者カードだ。ハンナ、やってくれ」
ハンナは二人に、冒険者カードを渡した。記載されているランクは予想通りDであった。
ホクトは、お礼をいった。
「それで報酬の方なんだけどよ。申請通りの数で、報酬は14,560,000Melだ。あと買取リストがこれなんだが、問題ないか?」
ホクトは、ケビンよりリストをうけとった。
内容的には、全く問題なかったが、それでもオーク肉とボア系の肉については、ストレージ在庫の1/20にも満たなかった。
「肉に関しては、金額よりも保存できる量での買取だな。だから毛皮とか魔石とか武器とかは多めにして、なんとか10,000,000Melに近づけた」
魔物討伐報酬と材料の報酬の合計は24,320,000Mel、金貨243枚と銀貨20枚となった。
ホクトの所持金は一気に180倍にになったが、肉の在庫を筆頭に買い取ってもらえる素材はまだまだあった。
ただ、これで雑貨店での支払いもできる。
「しかしよ、なんでまた素材にもならないゴブリンの死体を全部持ってきてたんだ。討伐証明には、右耳だけでよかったのに。知らなかったわけではないだろう?」
討伐対象であるゴブリンの右耳、オークの鼻、フォレストウルフらのウルフ系の耳は、集計のため要求されたので解体スキルで、切り取って渡してある。
ゴブリンキングやオークキング、イビルボア等の上位魔物については、数が少ないので首実検だけで済ませてある。
どちらも血抜きが完璧だったので、数える解体担当員からは大変喜ばれた。血も解体して、ストレージに何十トンも入っているだけなのだが。
「なんでって言われましても、その、そのまま放置するとなんかまた魔物が沸きそうな気がしたんで」
沸くかどうかは別として、別の魔物がその死体をあさりに来る事は、予想できた。
それが小さく無害に等しいスライムであればともかく、大量の死骸は大型の魔物を呼びそうで、ホクトは怖かった。
また、たとえそれらの魔物が来なかったとしても、腐敗した大量の死骸は、森に魔力を重責させて新たな魔物を生み出しそうな気がした。
「それでなくても、この樹海群は魔物が多すぎます。僕としてはだいぶ間引いたつもりではいますが、それでも焼け石に水というか、全然脅威が減ったようには感じられません」
ファーラーン村の東にはベルゼ大樹海、南にはファランドール大樹海が広がっている。
広がっているというよりは、二つの大樹海のはざまにファーラーン村があるといってよい。
二つの樹海は、北側のベガ火山山脈地帯を除けば、この広大なノースランド大陸の8割を占めている。
ただ、このノースランドが特別というわけではなく、他の大陸についても似たり寄ったりの割合で樹海が広がっており、人類や亜人類は常にそこから沸く魔物によって、絶滅の危機に瀕していた。
「まあこればっかりはな。今に始まった事でもないし、俺たちも頑張ってはいるが質的に圧倒されている。森が問題なのはわかってはいるが、減らそうにも広すぎる上に生えている木自体が魔物だったりもする。そうでなくても森の魔力をふんだんに蓄積して、硬度の高い木々に化けていて、伐採も一苦労だ。冒険者ギルドも依頼としては常時出しているが、大量の魔物を警戒しつつ手のかかる木々を相手では効率が上がらないんで、率先して依頼を受ける冒険者も少なくて、村の周りをなんとか森が広がらないように維持しているのが、現状ってわけだ」
「えっ、依頼として出ているんですか?」
「ああ。だが依頼達成は、最低でも30本伐採だ。Cラング冒険者パーティでも1週間はかかるぞ」
「でも難易度が高いということは、報酬もいいということですよね」
「そうだな。くわえれば伐採した木々も買取対象だぞ。木材も不足しているから高値で買い取るぞ」
ホクトは少し考え込むと、3日間限定で依頼をうけることを申請した。
★★★
ホクトたちは、買い取ってもらった食材や素材をギルド倉庫に山積みした後、報酬をうけとってギルトをあとにした。
雑貨店によって、昨日頼んだものをうけとる。
シェリーは店を上げて一晩頑張ってくれたらしく、追加で頼んでいた野菜や果物を木箱20箱、シェリー店特性ひねりパンを注文より多い2000個用意してくれていた。
代金は、少し色をつけて金貨9枚を支払い、かつオークリーダーの肉を3体分とフォレストボア1体分を、お礼として渡した。
オークリーダーはオークキングほどではないが、それなりに体躯が大きい魔物なのでそれでも500~600キロあるし、フォレストボアもボア種の中では小さい部類ではあるが、同じくらいの重さだ。
本当はもう少し渡したかったのだが、加工するにしても量が多すぎて腐らしてしまうとかで、断られてしまった。
オークリーダーの肉が少し高級品ということもあり、3体以上タダでもらうことを力いっぱい拒否された。
シェリーは、ホクトの羽振りの良さに驚いていたが、山と積まれた食材を猫人のミヤビが手をかざすだけで、全部消えてしまったのが、一番驚いた。
「はあ、ストレージ持ちなんだ、あんた」
それにしても、相当大きそうなストレージである。
シェリーはなんとなくホクトの変化に得心がいった。
それは大いなる勘違いではあったが、誤解されていることをホクトが知る由もないので、誤解は誤解のまま終わった。
「まだ町にいるんだったら、またパン焼いとこうか?たぶんだけど、そのストレージ、食物が傷みにくいようなタイプのやつなんだろ」
「そうだね、お願いしておこうかな。あと3日はいるつもりだから」
「了解、もらった肉の分じゃないけど干し肉も明日は用意しておくよ。さすがにこの肉は加工が明日までとはいかないんで、在庫品になるけど、そっちはお返しということで、ただでいいよ」
「ありがとう」
次の日の夕方に来る約束をして、ホクトたちは雑貨店をあとにした。




