サイドA-13 雑貨店にて
『従者憑依』というスキル? を使ったことによって、北斗の現実世界の飼い猫の雅を割点ける操作ができ、ネオアンバー・ソメイユワールドではいままで意志のないNPCの猫人のミヤビに、個性と意志が芽生えた。
それさえも、じつはホクトがそう思っているだけで、本当に現実世界の飼い猫が割り当てられているかどうかの確認はできないが、現実世界で猫とは会話ができないのでしょうがないが、少なくとも目の前のミヤビはいままでにない挙動をしているのは確かだった。
ミヤビは割り当てられた状況に混乱していたが、ホクトという仲間のことと自身のことはよく理解していた。
この世界でのミヤビというキャラクターが、ここ数日間行ってきたことの記憶や自身の能力についても、ちゃんと覚えていた。
これは、ホクトが触れると同時にこの世界の記憶を会得したのと同様なのだろうと、ホクトは納得した。
ミヤビは同時に自分が現実世界では、ホクトに飼われている黒猫であることも理解していた。
「猫である自分は全く変わんないし、餌をくれるホクトのこともよくわかるにゃ。でもなんというか、この体になると意識が広がるというか、今までどうでもよかったことが、考えられるようになるのにゃ」
ひとしきり混乱でホクトに喚きちらしたあと、ミヤビは内心を整理するように語った。
「相変わらず考えることの大半をご飯が占めているのには変わりにゃいけど、ホクトと話すことでなんとなくだけどこの体としての自分がだんだんわかってきて、考える範囲も増えるような気がするにゃ...」
黒猫としての自分とのギャップに戸惑ってはいるみたいだったが、心の補完はすすんでいるようであった。
ホクトとしては新しい能力の顕現に、もっといろいろ確認したいこともあったが、飼い猫の混乱がもう少し収まるまではとそれ以上の追及はやめた。おいおい確認していけばよいだけの話した。
(これが取説にあった、「独自の判断での行動が初期条件によって可能」ていうわけか)
実践はまだであるが、ミヤビとしてのキャラクター本来が持っている応用力と雅の独自思考が重なることで、おそらく今以上の連携やとっさの判断の幅が広がるんであろうとホクトは思った。
雅の猫としての本能、気まぐれがあまり反映されないことも願いながら。
★★★
その日雑貨屋のシェリーは珍しい客を迎えていた。
「ホクト久しぶりだね、ずいぶん顔を見ないから、おっちんでるんじゃないかと思ってたよ。でなに後ろの猫人さんは?」
ファーラーン村の北側の魔の森の奥、ベガ火山帯に近い地域に一人住むホクトが、久々に顔を見せたのだった。
ホクトの住む小屋とシェリーの雑貨屋があるこの村、ファーラーンは徒歩で約1日の距離があり、早々来れない場所ではあるが、それでも食材確保のために、1月に1回は来ていたホクトが今回は3か月も姿を見せなかったので、シェリーは少し気にかけていた。
「や、やあシェリー。ちょっといろいろ立て込んでてね。なかなかこちらに来れなかったんだ。あっ、彼女?ちょっと故あって、いまは二人でパーティーを組んでいるんだよ」
ホクトは、なぜかおどおどと、探るような口調で答えた。シェリーは何か違和感を覚えた。
とくにホクトとは違って凛として立つ猫人種族は、シェリーもうわさでは聞いていたが邂逅したのは初めてである。
たしか、もっとあったかい南の大陸に多く住んでいる種族で、なにを間違ってこんな北の地域にいるのか謎である。
しかも村も通らずいきなり魔の森で出会ったのだとしたら、いったいどこから漂流してきたのか?
「ふーん、で今日は何がほしいの? いつもの小麦粉と塩、胡椒に干し肉? あとポーションかな?」
村一軒しかない雑貨屋とあって、シェリーの店ではたいていのものはそろう。
食材や果物、衣類、食器や調味料、初級のポーションや薬草、乾燥加工した食品と賞味期限付きの自家製パンもある。
武器や武装、魔道具の類はさすがに専門店があり、より高価なポーションは冒険者ギルド支部で販売しているが、簡易的な物であればここでもそろえることが可能であった。
「今回は小麦粉と塩、胡椒かな。在庫はあるかな?」
「あるにきまってるでしょ。でどれくらい欲しいの?」
「えーと、小麦粉が大麻袋100と塩が同じく5袋、胡椒が小壺3つかな」
「小麦粉が100袋? すぐには無理だけど明日まで待ってもらえば揃えられるけど、けどどうやって持って帰るの?荷馬車でも買ったの? たしか馬とか家畜は魔物が寄ってくるから飼えないとか言ってなかったっけ? あと価格もそれだけだと金貨7枚くらいになるけど、大丈夫?」
「ああ、それなら問題ない。あとパンもおいしそうだね。できるだけ多く買いたいから、明日までに量産しておいてくれないかな。銀貨50枚程度」
「えーと、作れるかどうかは置いといて、銀貨50枚だと1500個ぐらいになっちゃうんだけど、持ってせいぜい7日だよ。二人で食べきれる?よく考えたら小麦粉だってもって1年だよ。そんなに買って消費できるの?」
「そっちも大丈夫。とりあえず用意しておいて。パンについてはそれ以上でも買い取るから。あ、あと果物と野菜も明日入る分売れる範囲で全部ほしいから、お願い」
「パンよりも野菜や果物のほうがすぐに駄目になるんだけど、まあ欲しいっていうんならいいわ。それにしてもずいぶん羽振りがいいんだね。ミスリルでも大量に掘り当てたの?」
シェリーが質問するのももっともだった。
ホクトは祖父のジーノと暮らしているときも、どちらかというとほそぼそと鉱物を売って暮らしているというイメージだった。
月に一度の買い出しも、日数がもつ食材を必要菜分だけ購入していくのが常だったので、今回の買い物は費用も含めて異常だった。
「森で狩った魔物の素材がね、冒険者ギルドで少し高く売れたんだ。羽振りがいいのはそのおかげかな」
「魔物の素材? あんたそんな技量持ってないでしょ」
シェリーの中ではホクトは森にすむひ弱い男の子で、剣技を習得していないのはもちろんのこと、魔物に向かっていく姿も想像できなかった。
たぶんだが、仕事柄魔物を回避する術は持っているようには思うが。
「ミヤビ、じゃなかった彼女の手助けによるもんさ。実は今回も冒険者ギルドに素材の買取だけではなく、二人の冒険者登録もしに来たんだ。さっきパーティ組んだって言ったろう? ボア系やオーク系の肉や素材を大量に買取依頼したんで、たぶんシェリーの店の干し肉用の素材なんかも大量に割安で手に入ると思うよ」
「オーク肉ってあんた」
ボア系ならなんとなくわかる。
ボア系は基本単独行動が多いので、比較的しとめられやすい魔物である。
たがオークに関しては、この森では集団で生息している場合がおおく、討伐も進んでいないのでなかなか手に入らない。
つまり二人は、オークの集団を狩ったということになる。
それにしても、ジーノが生きているときからずっと鉱物採集で生計を立ててきたホクトが、いきなり冒険者に登録とはと、シェリーは驚いた。
はっきり言ってしまうと、ジーノの補助でしかない頼りない青年としか認識していなかったホクトが、いきなりオーク狩りとか信じられないのだった。
(付き添いの猫人が優秀なのかしら)
いろいろ違和感ありまくりではあったが、前金として金貨40枚を渡されたシェリーは、明日までになるべく大量の野菜や果物、パンを用意する約束をして、その日は別れた。




