サイドB-2 マルティの勧誘
「うーん」
カエデは悩んだ。
この都市のダンジョンに、ふたりはそもそも潜るつもりはなかった。
ダンジョンのある都市は、それだけで人や物資の流通が盛んで、ダンジョンに潜らずとも、冒険者のできる仕事はたくさんある。
加えて、都市の整備もしっかりされているてので、くいっばぐれが少ないと思って移動してきたのだ。
高難易度のダンジョンであることは最初から知っていたし、妹ツバキともダンジョンへの長選挑戦なしの生活を想定してきたのだ。
いくら実質Dランクが三人同行するといっても、危険がまったくないわけではない。
リスクに見合う話では、現段階ではなかった。
「こちらからお願いする条件として、ダンジョン内での食事やポーション関係はすべてこちら持ちでいいよ。あと、休憩時の見張りはすべて僕たちが行うことと、獲得したドロップ品も一部食事にまわせそうなものと、ぼくがどうしても手に入れたいものを除いて、すべてそちらのものにするということで。加えて金貨100枚を追加の報酬を前払い、というのでどう?」
「ドロップ品すべてに、金貨100枚の前払い!?」
ツバキ・カエデとも、声をあわせてしまった。
唖然とした。
あきらかに破格の条件だ。
マルティが、口に指をたてた。
金貨100枚が、隣のテーブルにも届く大きさだった。
「ちょっと、声が大きいよ」
マルティはあたりをうかがうが、たまたまか誰もこちらを振り向く様子はなかった。
ふたりは、しまった、と思った顔をすると同時にマルティに詰め寄った。
「あんだがおかしなこと言うからでしょ。どう考えたっておかしな条件よ」
カエデの言い分はもっともであった。
「だいいち、あんたのどうしても欲しいものって何よ」
「うーん、それはまだ言えないんだけど、でもダンジョン第11層にあることだけは確かなんだ」
このダンジョンは14層までは確認されていることを姉妹は知っていた。
ただ、14層のフィールドダンジョンが高難易度で、まだ誰もその先に行けてないとのことだった。
つまりこのダンジョンは、発見されて数十年たつが、いまだ未走破なのだ。
「どう思う?」
カエデは耳元で、妹ツバキにささやいた。
「話がうますぎると思う。何か裏があるんじゃないかな? それに11層て、そもそも私たちの力で行けるものなの?」
この都市にはAランク冒険者もいると聞いている。
その実力派がそろっていても14階層が限界なのだ。
自分たちのランクでいけるとは到底思えなかった。
条件の良さに、なにか別の目的、例えば自分たちをだまして奴隷として売るとか、そんなことも頭に浮かんだ。
「そう、そうよね」
カエデからしたら非常に後ろ髪惹かれる話ではあるが、妹ツバキの判断は正しく、断る方向に傾いていた。
おもわぬ飛び入りがあるまでは。
「マルティ様、ご商談中すみません。ギルドマスターが納品いただいた素材のことで、どうしても火急にお話ししたいことがあるそうです。お手数ですが、至急ギルドマスター執務室にお伺いいただけますでしょうか」
みるとギルド受付嬢であった。
「素材?ぼくが買取依頼した素材がなにか問題でも?」
「いえそういうわけでは。実は素材があまりに希少品ですので、手に入れた経緯をくわしく知りたいと。あと」
と受付嬢は、手を添えてマルティの耳元に手を添えて小声でなにか話す。
「えーなんで執政官代行まで出てくるの?」
おもわず叫んだマルティを、受付嬢があわてて制止する。
「それは、さすがにすぐにお伺いしないとね。カエデさんツバキさんごめん、ちょっと断れないない用件みたいなので、いかないと。回答明日まで考えといてもらえるかな。おねがいね、じゃあ」
と、あっけにとられる二人を残して、あわただしく去っていった。
「いま、執政官代行とかいってたよね、おねえちゃん」
「いってた」
執政官代行とは、このノースランド連邦国の首都イオシスから、このアースワンを統治するよう赴任している中央政府からの管理官である。
「買取素材がどうこうとか、.....なんの素材なんだろう」
「わからないけど、たぶんそうとう珍しいものなんじゃないかな。ギルマスどころか執政官代行も興味がわくような...」
しばらく無言が続いた後、ツバキが考えをまとめるように、いった
「おねいちゃん、私としては断るつもり百パーセントだったんだけど、結論もう少しマルティさんのこと知ってから出さない?正直私はマルティさんに興味がわいた。あのおっかなそうなゴーレムもそうだけど、ミヤビだっけ?あの傍らにいた猫人の女性も、なんか独特な雰囲気、ただものではない圧力かな、私ずっと感じてた。あの人たち、きっとただのDランク冒険者じゃないと思う。だから、こちらに提示した条件も、11層に行きたいことも嘘ではないと思う。さらにいえば、あの人たちはそれができる実力があるような気もしてきた」
カエデとしては、執政官代行の一件だけで彼らを信じることはできないと思っている。
今回が初めてかどうかは不明だが、ギルマスと執政官代行に顔と素性をさらしてている、もとい確認されている人物となるわけである。
話としてはうますぎるし、得体の知れなさも100パーセントのパーティではあるかが、興味がわいたという点においては妹と同じことを考えてもいた。
カエデはよいしょと、立ち上がる。
「おねいちゃん?」
「どこまで話してくれるかわかんないけど、さっきの受付嬢のとこいくよ」
カエデは妹に向かって軽くウインクした。
「うん」
次の日、ふたりはマルティの申し出を受け入れたのだった。




