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サイドB-1 マルティとサーフライト姉妹

ツバキ・サーフライトとカエデ・サーフライトの姉妹は、目の前に広がる狩の結果にとまどっっていた。

深く広い森林の一角、ぽつんと存在する池を囲うようにして少し開けた場所の、緑色の地面の上には、獣の皮や肉塊、人の腕ほどもある対の牙が、見渡す限り転がっていた。

その状況を一人で作り出した当人は、息も上がらず平然として、手のひらから伸びた細長い武器を瞬時に回収した。


「ミヤビ、収納よろしくね」


手のひらに武器を収めた青年は、傍らに控える少女に指示した。

少女は、無言でドロップ品の傍らを歩くことで、回収を開始した。


「えーと」


カエデはなんて言葉を発しようかまよった。

たしか数秒前には、ビックアリゲータの群れが、存在したと思った。


カエデの目視での感覚では、すくなくとも30~40匹はいた。

ビックというだけあって小さいものでも、カエデの身体と同等ぐらいの体積をもち、なかには亜竜なみのものまで数体いた。


しかし、目の前の青年が腕を数回振るっただけで、それらは横一文字に割け、いまはドロップ品となって地面に転がっていた。

まさにかれらがこちらの気配に気が付き、踵を返したのとほぼ同時ぐらいであった。


「えーと、いまたしか、数十匹のビックアリゲータがいたような気がしたんだけど」


青年、というか少年といっても過言ではないその人物は、こちらを向くと少しバツが悪そうに答えた。


「ああごめん、数が多かったのと開けた場所だったんで、いっせいに来られると面倒とおもってついひとりで...。もちろんドロップ品は食べる肉以外、君たちのものだから、勘弁ね」


その見当違いな回答に、カエデはあきれた。


「気にするとこ、そこじゃないんだけど...。べつに気を悪くなんかしてないわよ。ていうか今なにしたの?全然見えなかったけど」


あきれると同時に、興味がわいた。

今回だけとはいえ、パーティを組んでいる以上、ある程度目の前の青年の戦力を把握しておく必要がある。

でなければ、いざという時の連携に支障がでかねない。


もちろんダンジョン潜入事前に一応の打ち合わせはしてあるが、その時聞いたのは「少し強度の高い釣り糸に魔力をのせて、獲物を縊り切る」という聞いたことのない、あまり役立ちそうになさそうな説明の程度だ。

カエデはそのような技を見たことも聞いたこともなかったし、実演はされていないので威力は不明だったのだが、青年が自分とおなじDランク冒険者であることと、ギルドの評判もよかったため、それ以上は聞かなかった。


なんらかの固有スキルのような気もしたが、秘匿したいスキルについては根掘り葉掘り聞くのは冒険者としてはマナー違反なので、聞けなかったのだ。

それにしても、いまのは明らかに想定のはるか上を行く威力だった。


「僕の技、魔導糸を数十本飛ばして、くくって断ち切ったて感じかな」


「断ち切ったって、ビックアリゲータの外皮よ。しかも数十本同時に?」


ビックアリゲータの外皮は、見た目のごつごつ感通り、固いことで有名だ。

通常の鉄剣では歯が立たない。

鋼で重量のある太い剣か斧で、たたき切るしか方法はない。


なのに魔力で強化?したとはいえ、釣り糸程度でここまで簡単に、ビックアリゲータの外皮があっさりと切断されるとは、信じられない。

しかも同時に数十本ということは、よほど鋭利でなければ、引き切るにも相当なパワーがいる。

こんな線の細い青年に、そんなことが可能なのか?


「おねえちゃん、事実だけを見ましょう」


放心していたカエデに、妹のツバキは冷静に突っ込んだ。

納得はできなかったが、妹ツバキの言う通り、目の前の散らばったドロップ品の山から、受け入れるしかなかった。

ここはアースワン・ダンジョンの第4階層。

いままさに、攻略中の4人であった。


★★★


ツバキとカエデの姉妹が、件の冒険者・マルティに遭遇したのは、アースワンの冒険者ギルドであった。


アースワンは都市の中心地にダンジョンを擁することで発展を遂げてきた、典型的なダンジョン要塞都市であった。

ふたりがこの都市を訪れたのは、今回が初めてであった。


未踏破で難易度の高いダンジョンに興味があったのはもちろんだが、ダンジョンに潜ればもちろん、そうでなくてもある程度安定した収入を得やすい都市であるとのうわさにも惹かれたからであった。


A級以上の高ランクの冒険者も滞在することが多い事でも有名で、吟遊詩人の歌に出てくる伝説的な冒険者と、もしかしたらお近づきになれるかもという、打算というかミーハー心もあった。

なので、冒険者ギルド内できょろきょろして挙動不審になったのは、仕方のないことだった。


「ちょっといいかな」


そんなときだ。二人に声をかけた一組の冒険者がいた。


「僕のなまえは、マルティ。この都市は初めてで、お目当てはダンジョンの攻略。たぶんだけど、お二人もこの都市は初めてだよね?」

「えっ、ええそうね」


ふたりは、マルティの言葉に相槌を打つのがやっとであった。

急に声をかけられたことはもちろんだが、青年の後ろに目がいってしまい、思考に空白ができたからだ。


青年、マルティと名乗った彼の横には、小柄で浅黒い黒髪碧目で猫人の美少女が立っていた。

その少女だけでも十分目立つ存在であるのだが、その後ろの黒色の大きな塊、こちらをうかがう金色の4つの眼光に、カエデ・ツバキ姉妹は警戒してしまった。


黒い塊は、よく見ると口や四肢が存在し、スリムではないが魔物のウルフに似た形をしていた。

見た目は丸々太ったウルフではあったが、その表面を覆う豪毛は、明らかに動物のそれではなかった。

そう、黒々とした金属の輝きを放っていたのだ。


(ゴーレム?)


二人の心中でその疑問形は、おそらく間違いでないであろうと確信に変わっていった。


人の形をとらないゴーレムはめずらしいだろうが、術者のアレンジ次第では、形はいかようにもなるだろう。

それがクマのような丸々太ったウルフ然としていても、なんら不思議はない。


重厚な存在感とはうらはらに、生物に感じる呼吸や体の揺らぎが全くなく、ゴーレムであることをさまざまと物語っていた。。

そんな二人の様子を知ってか無視してか、青年・マルティはつづけた。


「やっぱりそうか。で失礼だけど、えーと」

「カエデよ。ちなみにこちらは妹のツバキ」

「ありがとう、カエデさん、間違ってたらごめんだけどランクはD以上だよね?」

「ご明察、ランクDよ」


マルティはやったと指をならした。


「じつはダンジョンに入るパーティメンバーを探してたんだ。ここのダンジョン高難易度なんで潜るために条件があって、それで潜りたくても潜れなくて、困ってたんだ。受ける受けないはともかく、話だけでも聞いてもらえないかな」


カエデはツバキに目で確認をとる。

妹は軽く相槌をうった。

カエデはマルティに了承をつたえ、マルティに導かれるまま、ギルド内の端の机へと移動した。


「あらためて、僕はマルティ、専門は錬金術士でランクは君と同じD。そしてこちらがミヤビ。ランクは同じくDで前衛と運搬担当。ふたりでパーティーをくんでいる。そちらは?」


「私たちもふたりでパーティをくんでるわ。本当の姉妹で私が姉。私はランクDで、妹のツバキはランクEよ。外装で分かるかもだけど、私が主に戦闘担当で、妹は支援担当」


「強化魔法と回復魔法が使えます」


ツバキが小声で付け足した。


「後ろのなんだけど、それゴーレムですよね?」


ツバキがどうしてもそれだけは確認、とマルティに問いただす。


「うん、僕のつくったゴーレム。名前はクラウド。スペック..じゃない、特性とかは受けてくれたら話すよ」


マルティは、それ以上の追求をさせないと、きっちりと明言した。


「そう、で、ダンジョンに潜りたいけど潜れないって、どういう条件なの」


「このダンジョンは、都市と冒険者ギルドで管理しているんだけど、ダンジョンの難易度から潜るための最低条件を指定してる。まずは最低3人以上のパーティ登録したメンバーで潜ること。その中に最低S~Cランクの人間が一人はいること。もしくはDランクのメンバーが三人以上であること。僕たちはミヤビ、後ろの彼女ね、もいれて二人なんで、あと一人分Dランクが足りない。クラウドも十分Dランクと同じくらいの能力はあるんだけど、ゴーレムじゃ認められない。なんでDランク以上のパーティになってくれる人を探していたんだけど、もとからこのギルドで稼いでいた人たちは、ダンジョンに潜るために条件に合うようすでにパーティーを組んでいる人たちばかりで、余っているDランクの人は見つからなかった」


「で、この都市にきたばかりであろう私たちをみかけて、声をかけたっていうわけね」


マルティは、ニコリと首を縦に振った。


「どうかな?ダンジョンに潜る今回限定でいいんで、パーティを組んでもらえないかな?」

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