サイドC-28 迎賓館でのフィオナ王国密談
ガガの申し出に、三人は首肯し護衛とメイド一人を外させる。
もう一人のメイド、トモエだけはお役目で姫の側を絶対に離れることはできないと拒否したため、彼女の役割を理解して話の内容を口外しないと誓わせる。
このメイドの処置はあとで大いに役立つとは、このときは誰も想像できなかったが。
「ラン、頼む」
「はい、リーダー」
ラン・ムーは指示にしたがって、部屋全体に盗聴防止の魔法を展開した。
「これで聞き耳を立ててたとしても外部には一切もれない。でさっそくなんだが、三人にお願いがあってきた。俺のアマデウスから受けた依頼内容は知っていると思うが、それについては大方終えられた。だがそれにともなって別の厄介ごとも生じてしまった」
「依頼というと、ファーラーンダンジョンを制覇できたということですね」
さすがはSランクパーティとアカリ姫が少し興奮気味に聞く。
対してアインとその娘のスイレンは、やや緊張した面持ちだ。
「それは朗報ですな。して、もうひとつの『カメヤマシャチュウ』商会の件は、どのように。その新たな厄介ごとに関係ありますかな」
「ああ、その通りだ。一応ファーラーンダンジョンと『カメヤマシャチュウ』商会、それにDランクパーティの『アンバーチャイルド』についても確認が取れた。結論から言うとこの3つは裏で密接に関わり合いを持っていた」
「それは....まことですか?」
ファーラーンダンジョンと『カメヤマシャチュウ』商会については何らかの関わり合いがあることは予想していたが、まさかそこにDランクパーティ『アンバーチャイルド』までが参戦するとはアインもスイレンもおもっていなかった。
そのパーティは最初にファーラーンダンジョンを制覇したパーティというだけで、何かしらの情報源になれば程度の調査対象だったのだ。
ここで、ガガがラン・ムーに目配せする。
ランは相槌をうつと、掌を机にかざす。
突然机の上に数々の果物と穀物野菜が数種類、小刀やおそらくミスリルのナイフ、ケーキの類が机いっぱいに現れた。
ホールケーキやクッキー、饅頭やシュークリームについてはアカリ姫たちもこの町に来てめずらしいお菓子ということで食後やお茶の席で、供されたので見知っていたが、果物や穀物については見たことのないものばかりであった。
それよりも驚いたのはラン・ムーが空中のりそれを取り出したこと、つまり彼がストレージ持ちだということだ。
しかし....。
「これはなんと...それにラン殿はストレージ持ちでしたかな?たしかガガ殿のパーティでストレージもちはプラティア殿だけだったと思いましたが...」
「はい、先日までは。ですが先ほどお話に出たDランクパーティのリーダーのご指導で、この能力を身につけることができました」
「ランだけではない。容量の差はあるが、俺もテツガもだ。もともとストレージをもっているプラティアも、以前の10倍以上の容量を持てるようになっている」
ガガのセリフは三人と後ろに控える護衛メイドにとって衝撃だった。
ストレージとは本来、先天的な能力であるはずである。
誰かの指導によって後天的に身につくとは知られていない。
すくなくとも今この瞬間までは。
「それよりも、これらの品はみんなダンジョンでとれた作物やそれを材料にしたものばかりだ。地上でとれたものはひとつも使われていない」
「いまなんと、今なんとおっしゃられました?ダンジョンでとれたものとは?」
スイレンがいぶかしむように聞く。
「聞き間違いではない。すべてファーラーンダンジョン産ということだ。あのダンジョンの最下層近くには、ダンジョンの特性を生かした大規模なプランテーションが展開されているんだ。それも作付けから収穫までが短周期で行える。我が国に来ていた農産物はすべてここで生産された余剰物だったんだ」
アインとスイレンは、開いた口がふさがらない。
アカリ姫はきょとんとして何がすごいのか理解はしていないようなのだが、二人はありえないセリフを聞いて、次の言葉が見つからない。
「たがそれだけじゃない。おなじくダンジョンからは大量の酪農物、牛やイノシシや羊、鳥にそのうむ卵や乳が生み出されていて、わが国には来ていないもののこの国では普通に流通している。ケーキやプリンなど乳と卵を使用する加工物が普通にでまわっているのもそのためだ。さらには鉱物も大量に生み出されていて、その加工品も多くつくられている。魔石に関して言えばそこはダンジョン本来の住人、魔物たちからこれも大量にとれるため、魔道具の量産がされているというわけだ」
ガガのセリフは、主に二人に大きな衝撃をあたえ、一方何がそんなにショックをうける要因なのかわからないできょとんとしているアカリを含めて、沈黙が続いた。
「...それは、『カメヤマシャチュウ』が、たまたまダンジョン内にそういう層があることをみつけて、回収に『アンバーチャイルド』の協力を得て収穫している、といことですか?」
スイレンがやっとのことで、言葉を紡ぎだして確認した。
「いや、違う。『カメヤマシャチュウ』は『アンバーチャイルド』が運び込んできたものを、売っているだけだ。穀物や鉱物を管理して生み出しているのは、ダンジョン自身なんだ」
言っていることは同じと思われるのに、ガガの否定はスイレンの言葉に考え違いがあることをさしている。
「だから、ダンジョン産のものを『アンバーチャイルド』が回収しているんですよね?」
「スイレン嬢は根本を勘違いをしている。自然に作物が育っているわけではなく、ダンジョンが意図して作物を育てているんだ。鉱物についても同じだ。ダンジョンが自分の意志で意図的に農場を展開しているんだ」
「それは、ダンジョンに自我がある、といっているように聞こえますぞ、ガガ殿」
「だから、そう言っている」
沈黙が再び訪れる。
とても信じられない、と二人は案に訴えていた。
「信じられんのはわかっている。それで相談だ。三人にも今言ったことを、その目で確認してほしい」
「具体的にはなにをすればよいのですか?ガガ殿」
アカリがここではじめて口を出す。
「一緒にファーラーンダンジョンの最下層に来てほしい。そこで今言ったことの真偽をたしかめてほしい」
「そ、それは駄目です」
背後から声が上がる。
「姫様をダンジョンなどという危ないところに行かせるなど、とんでもありません」
護衛からしたら至極当然の反応だ。
物好きな王族の男子が若いころに経験としてダンジョンに潜ったことがある、というはなしはよく聞くが、王族でなくとも深窓の姫がダンジョンに潜ったなど聞いたことがない。
「それについては絶対大丈夫なんだ。信じられんかもだが、あのダンジョンは下層階に行けば行くほど安全なんだ。快適すぎてうちのメンバーもだらけてしまうんじゃないかと思うぐらいだ」
「というと」
「いまも最下層にあるリゾートホテルとやらで、今日随行していない二人はのんびりしてるよ。プラティアはともかくテツガなんか揚げ膳据え膳のグーたら生活を満喫していて、自堕落を体現してしまっている」
にがにがしく暴露するガガだった。
★★★
ガガとアカリ姫たちの夜の密談から一週間後、夜中のファーラーンダンジョンにSランクパーティーのガガとラン・ムーに連れ添ってはいる三人の獣人がいた。
皮鎧にマント、腰に帯剣や魔石の埋め込まれた木製のワンドなど、それっぽい恰好をしていたため、頭をマントで深々をかぶって確認はしずらかったものの、とくに入り口の検問で止められることなく侵入できた。
冒険者ギルド監視員も、装備のチェックしか基本的にしておらず、ダンジョンへの入場料ともいえる銀貨1枚を払えばだれでも通している。
その三人は、先日の相談の内容通り、アカリ姫、アイン宰相とその娘で補佐役のスイレンであった。
アカリ姫の側を絶対離れないと宣言していた忍び『夜露草』のトモエはここにはいない。
今いるはずになっている彼女たちに割り当てられた続き間の船室に、ひとり不測の事態に対応すべく残っている。
作戦はこうであった。
ノースランド連邦国にいる間はイベントが多く、つねにこの国の護衛もまわりにいるので、ファーラーンダンジョンに隠密でいくことはできない。
表立っては訪れることができないのはホクトたちの要望でもあるが、そもそもその追加要望をノースランドが快く思うはずもなく、結果隠密行動をとることになった。
その決行はこの国を出でからの船上から、とガガが提案する。
「船から小舟なので脱出するのですね」
「いや、それだと結局この国の人間にばれてしまう。行程をしられるのはここにいるメンバーだけにしたい。あちらの要望でもある」
「ではいかほどにして」
「船室から直接ファーラーンの町にある、『アンバーチャイルド』の拠点家屋内に移動する」
4人にはピンとこない。
「これもできればあまりひろめて欲しくないらしいのだが...『アンバーチャイルド』のメンバーに空間転移を自在に行えるスキル持ちがいる。彼女にそこから運んでもらう」
「空間転移?言い伝えでしか聞いたことのない絶滅した魔族の技ですな」
「彼女は魔族ではないが、それが可能だ。なんでも一度でも訪れてポイントを設定した地点には、どんなに遠距離でも複数人をともなって移動が可能だそうだ。今日もじつはこの屋敷に入るのに、彼女の力を借りた」
ガガがいまはここにいない協力者を思ってか、指で背後をさした。
「なるほど。それでここに急に忍び込まれたように現れたのですね、ガガたちは」
「ああ、その通りです」
ノースランド連邦国から出る船に、短距離転移でマツリがこっそり乗り込み、隠密にて姫たちと合流しファーラーンにある彼らの拠点へ3人を運んだのだった。




