サイドC-27 会談_ガガとホクト(続)
「えーと確認だが、つまりなんだ?ヒューマンやエルフ、獣人を含むすべてのこの国の住人が豊かに暮らせるように、ダンジョンを利用して物資を生み出していて、それらの工程すべてをおまえらのグループが行っている、ということでよいか?」
「さすがはガガさん、呑み込みが早いです」
「はやいって、いやそんなバカな」
にわかには信じられない話である。
ダンジョンをコントロールする術があること自体、与太話としかおもえないが、反面それが事実ならば確かにこの城塞都市、昔は村だったようだが、の発展速度が異常に早いのも説明がついてしまう。
商会『カメヤマシャチュウ』がこんな樹海の奥にありながら豊富な資材を常に保持しているのも説明がついてしまう。
生理的に否定はしたいものの、ものの見事に謎だった点がすべて線でつながってしまう。
だが、仮にそれがすべて本当だったとして、フィオナ王国にとってはいまの黒船や米、麦の輸入問題にあまた在国しているゴーレムの数々の脅威にどう影響するというのだろうか?
真実を知ったとて、それが自国にどう影響する?
「仮にだ、お前たちの言うことが真実だとして、それを俺たちが受け入れたとして状況がどう変わる?お前たちの国からの物質的脅威は変わらないのではないか?」
ガガの率直な意見に、ホクトは首肯した。
「このままでは確かに変わりませんね。そもそもあなたたちの国に何か仕掛けようと思ってやっていることではないので。だが、そちらの言い分も今回のこの訪問でよく理解できました。なので提案があります。取引の提案です」
「取引だと」
「はい、お互いが納得できる形で取引できるよう僕はここにきているのです。でも今のままだとすべて言葉だけで信じられないのもわかります。なので百聞は一見にしかず、第79階層をご案内しますので、そこで見聞きしたものを自国に持って帰って国の中枢の方々に説明してほしいのです。そしてこちらからの提案を検討してください」
「提案とは?」
「それは...それをいう前に一つ確認です。いまから第79階層の様子をお見せするとして、それを自国に持って帰られた時、ダンジョンをコントロールして物資を作り出しているなどというお話は重鎮の皆様に信じていただけるでしょうか?それをあなたたちメンバーが見てきた事実として受け入れられるでしょうか?」
ホクトの心配は、つまりガガたちの国からの信頼度よりも、内容の異常性のほうが高く受け入れられないのではないか?ということだ。
「うーん、内容にもよるだろうが五分五分と言ったところだろうな。国の連中は俺の口伝の内容しかわからないのだから。俺自身が信じられるられない以前に、話が突飛すぎるからな」
「ですよね。そこで第79階層をご案内する方をあなたたちだけでなく、あなたの国の他の方にも見てもらい証言の母数を増やしたいんです。それもなるべくあなたの国の中枢の方たちに」
ホクトの言葉に同調したいが、それは無理なような気がする。
なんせここは国から遠く離れた地の、さらにダンジョンの最下層近い。
「それを実現するのは難しいな。いまおれたちは良くも悪くも囚われの身だ。仮に開放されたとしても次におまえのいう国の重鎮をつれてくるならば、もっと万全の体制と深い猜疑心で再訪するだろうしな。たとえば一個大隊の軍隊を伴ってとかかな。そうなればこの国にとっては侵略がはじまったとうけとられかねない」
ガガは駆け引きせず、ホクトに正直に話した。
こういうところは冒険者同士という、共通意識がよい方に動いていた。
「おっしゃる通りです。ただ今なら重鎮をお迎えするのは比較的簡単じゃないかと思っています」
「はぁ、何言っているんだ?なんで今なら比較的簡単とか...まさか、おまえ」
「やはり頭の回転がおはやい。そうです。いまこの国に、御国のお姫様と宰相が訪問されていますよね?」
★★★
フィオナ王国国王の第3女であるアカリ姫は連邦議員との晩餐のあと、フィオナ王国宰相アイン・ネザーロール公爵とその三女スイレンとともにリビングでくつろいでいた。
目の前にはアカリ専従のメイドであるカズハが入れてくれた紅茶が、心地よい香りをたてていた。
ここはノースランド連邦首都イオシスの迎賓館の一室であった。
フィオナ王国の使節団として三人が護衛や従者22人をともなってノースランド連邦国に訪れたのが10日前、イオシスより最も近いとされる港から上陸して1週間をかけて首都に到達し、本日にいたる。
三日間のノースランド連邦評議員に外交部役人との交渉を終えて、短いながらの表敬訪問を終えた最終日であった。
今回の訪問は、あくまで双方で取り交わした友好条約、お互いに侵略せず無課税の貿易の自由を確約した条約内容の再認識というだけにすぎない、表向きは表敬訪問なのだが実体は黒船やゴーレム群に関するヒヤリングであった。
これらがお互いの侵略しないの条項に抵触しているのではとのフィオナ王国からの詰問にちかい会合なのだ。
フィオナ王国はその危惧の本気度を示すために、宰相と第2王女での訪問であった。
だが、フィオナ王国の疑いに対して、評議会の対応はまさしく寝耳に水といった状態で、対応には困惑しかみられなかった。
「そもそもあの船は、この国にありながら我々も詳細を知らないのです。知っているのは『カメヤマシャチュウ』商会の持ち物であり、最近突然現れたとしか、我々も認識しておりません。情けない話なのですがあれほど大型の船にもかかわらず造船の行程もまったく感知できなかったのです...」
いくつもの質問に対しての評議会の回答が一貫して、しらなかった、おどろいているの一点張りであった。
それを邪推されないようにということなのか、訪問時からのこの国の対応は通り一遍の対応を通り越して、過剰と言わざるをえなかった。
フィオナ王国使節団が上陸後に現地調達しようとしていた馬や馬車が、待ち構えていたかのようにその港に用意されていただけでなく、誘導兼護衛用にとこの国の騎士団員16名がひかえていた。
首都についたらついたで、評議会あげての歓待で評議長自らとの昼食会や晩餐会の連続に、この国唯一の迎賓館をコックとメイド付きで対応するなど、とにかく使節団のご機嫌を損ねないようにと、必死さが伝わってきた。
使節団の要望は最優先で受け付けられ、それが過剰すぎたのでアカリたちにも別の居心地差の悪さを感じているところだった。
「いつくかの嘘や隠蔽はあるとしても、私たちへの過剰な対応とあの一貫した態度と困惑から、この国の中心があの船との関与は無いと信じてよさそうですね」
「まあ全部とはいいませんが、私も姫様に同意です」
「だとすると、やはり問題は『カメヤマシャチュウ』商会ですか...」
この国への念押しと実体調査が目的の訪問であったが、一通り行程が終わったこの時点でも、ほとんど進展がないことがアインには苦痛であった。
状況打破となるような提案はノースランド評議会からは得られず、また知りえた情報も国で受けた報告と大差ない。
「さて、明日の評議長とのイオシス視察がおわると帰国ですが、姫様を連れ出してまでの訪問でしたが、このままではほぼ成果ないということになります。いったいどうしたものか...」
「アイン、私は他国をおとずれるという機会をいただけでも感謝してますよ。だからそこまで悲痛に思わないでください」
アカリのねぎらいの言葉をうけて沈黙が続いたところに、突然ドアをノックする音がした。
アカリたちの同室にいた護衛の近衛騎士団員とメイド二人のうちの一人に緊張が走る。
メイドのひとりはアカリ専従のカズハという少女であるが、もうひとりはこの旅に同行された『夜露草』という忍び集団のトモエという妙齢の手練れであった。
「なにか?」
近衛騎士団員のきつい誰何が扉に飛ぶ。
「は、その訪問者がいらっしゃりまして...」
扉前にも近衛騎士団員が二人配置されており、その一人が自信なく答えた。
「訪問者?この時間にか?どなただ?」
近衛騎士団員が疑問に思うのもしかたない。
今日の予定されている行事はすべて完了している。
最大限の気を使っているこの国の執政府が、予定外のしかも夜になんらかの差し込みをするはずがない。
「その....ガガ・ルクレール南方守護侯爵様とそのお仲間です」
「はあ?」
すっとんきょうな声で団員が答えたのも無理はない。
アカリ、アイン、スイレン以外がガガがこの国に来ていることは知らないので無理はないが、その三人にしたって唐突すぎる訪問である。
ガガはたしかファーラーンという都市でダンジョンアタックをしているはずである。
「まことに侯爵様か?」
「それはまちがいありません....ただ急におこしになられたので...」
外の団員は言葉を濁している。
ガガ本人であることは本国で何度もあっているので間違いないが、正面から来たのならともかく、いきなり部屋前廊下に現れたなど、どう説明してよいかわからない。
「よい、いれろ」
アカリの相槌をうけて、アインが指示する。
そっとではあるが、アカリ護衛のトモエが扉とアカリの直線状に移動する。
「姫様、その急にくつろいでいるところにすまない」
扉から現れたのは、まごう事なきガガ本人だった。
申し訳なさそうにいうその口調もガガそのもので、スイレンも姫に間違いないと姫をみて頤をふる。
付き添いの小柄な人物は、おそらくパーティメンバーのラン・ムーというものだろう。
「ルクレール候、ずいぶんとおかしな登場で。いったいなんのお戯れで。たしかファーラーンのダンジョンを攻略中とお聞きしていたのですが」
身内とはいえ事情をしらないものがいるここでは、ガガの真の役目についてはふれない。
「ダンジョンについては一応攻略は完了した。が、ちょっと別の問題が生じてな。そのことを相談しにきた。詳細はすまんが人払いを頼む」
ガガが有無を言わせぬ口調で、三人にいった。




