サイドC-24 ガガの生い立ち
「おお、これはさっぱりしていておいしゅうす。なんというお酒どすか?」
「あわもりという。米と麹菌から作るお酒で日本酒と似たような原材料だが、米の種類や麹菌種類も若干異なる。こちらのほうが蒸留という工程をはさむ分酒精の割合が高く、醸造で作られる日本酒よりも不純物が少ないんだ。さらにだ」
カスミはもう1瓶別の物をだし、徳利をもう一つ用意してプラティアにつぐ。
すすめられるまま、プラティアはそれを一口のみ、びっくりした顔になる。
「これは...先ほどの泡盛に似ているのにより味はまろやかで、なんというか枯れている、みたいな感じどすな」
「言いえて妙だね。これはね古酒といって、泡盛をカメに入れて暗所で寝かしたものなんよ。3年寝かせると古酒といわれるんだけど、今のは10年寝かせたもんだからね。高級酒だよ」
「まあ、そないな貴重なもんを...それにこの肴もおいしゅうどすな。魚のほしたもんどすか?」
「ああ、アローフィッシュのみりん干しと紅蓮イカの一夜干しね。どっちも干したものだけでもおいしいけど、こんな風に木炭であぶるとまた格別なんだ」
「それにこのお饅頭ですか?以前ファーラーンのお店やギルドで似たもんも食べましたが、中のあんこどすか?こっちは全く一緒なのに、全く感触も味もちがいますな~」
「ああ、これはね、梅ケ谷餅といってもち米が皮に使われているんだよ。私もたまにしか食べれないが好きだよ」
「ああお酒といいスイーツといい、めずらしいもん頂いておおきに...って、うちをここに連れてきたのはべつの目的があるんやわな?」
あの邂逅の後、プラティアはカスミに誘導されて、ひとつの浮島にたどり着いた。
大樹が三本ほどが根を複雑に絡ませあい、その上にわずかばかりの土地を形成していた。
三本の木でトライアングルを組んでいる中心に、ちょっとした屋根のついた平屋があり、畳が敷き詰められた広間には背の低い机が並べられていた。
現代人なら海の家を想像したであろう。
そこに上がるや否や、カスミは酒、肴、デザートを自分のストレージから取り出して机の上に並べ、さらに七輪とよばれる炭用の小型の調理台の上に鉄でできたあみを載せると、魚の干物を並べた。
で二人で小規模な宴会が始まったというわけである。
先日の戦いでも感じたのだが、カスミはプラティアたちを全く敵視していない。
フランクで友達に接するように対応する。
対応も丁寧で豪華である。
なので、自分たちがいまこのダンジョンに軟禁されていることを、ついうっかり忘れてしまいそうになる。
舌鼓を打っているばかりではまずいと、目の前の品々にプラティアは心酔してしまいそうな心をひとまず落ち着けて、カスミに問いかけた。
「話したいというのは本当だ。君のことや君のパーティについて知りたいというのが本音というのは事実だしね。というかこちらは困ってるんだよ、本当に」
「困っている?」
「ああ、君たちのリーダーについて特に。彼が純粋な冒険者だったらこちらもとる道は二つに一つだったんだけど、フィオナ王国のご貴族様ということで、大変決断に到達できないで困っている。そもそもかれはなんで冒険者なんて二足の草鞋をはいているのよ?それもがりがりのSランクがつくほどの猛者なんて」
「ガガが貴族だとなんでこまるんどすか?」
「関係ないと思う方がどうかしているわよ。だってご貴族様よ。方針決定に自分の意思よりも国の方針を優先すべき存在でしょ。だからここのことを知ったからには国に報告するのが普通と思わない?」
「まあ、それはそうどすかも。フィオナ王国の国王さんも確か親友言うてはりましたからな。秘密にしとけって言われても国王はんの利益になる事でしたら、話してしまいますわな、たぶん。しらんけど」
「だろう?だから困っている。で聞くけど、彼は貴族と冒険者、どちらに重きをおいてるんだ。本業はどちらだ」
カスミが追加でプラティアの盃を満たしながら、問うた。
「どっちですやろうな。うちらでもようわかりまへん」
「なんでわからないの?彼とは長いんだろう?」
「そうどすな。今年で15年になりますやろか。うちは『レッドサンダー』に参加した三番目のメンバーどす。パーティ自体の結成はそれからさらに5年さかのぼりますわ。当初はテツガと二人だけのパーティだったんですわ。あることがきっかけでうちもパーティに参加しました」
「あるきっかけ?」
「へえ、ガガたちに初めて会ったのはうちがソロで冒険者やっとりまして、だいたい10年くらいたったころどす。まあ簡単にいえばうちがへまをして死にそうになった場面で助太刀をしてくれたのがガガはんどした」
深海の国をでて単身地上で活躍していたプラティアは、自身の能力がまわりに比べて高いことをすぐにさっとてしまたった。
そのため当初は自身にクリアできない依頼は存在しないと自負していたが、反面増長でもあった。
その結果単身で乗り込んだオーク村で想定外の数とまれにしか存在しない変異種のおかけでピンチに陥った場面があった。
そこでたまたま居合わせたガガたちのメンバーに助太刀してもらい、単身の危うさを痛感したプラティアは以後ガガたちと行動を共にするようになったというわけだ。
「増長しとったんも事実どすが、それ以前に背中を預けられる冒険者がいなかったんも事実どす。なんせうちの周りには10人がかりでもうちに勝てる人はおりませんどしたからな。けどな、それも若気のいたりちゅうとなんどすが、背中をあずけるちゅうのは実力ではなく、信頼なんやとその当時はきがついてませんでしてな。それをガガはんにしらされたんですわ」
ガガもテツガもそれなりの実力者ではあるが、それでもプラティアには単身ではかなわなかった。
だがチームとして動く時の二人は、裁量はガガの質ではあったが、プラティアも舌を巻くほどの効率さをもっていた。
「それにな、あとからテツガがよっている時に偶然聞いたんどすが、どうもそのオーク村の討伐もうちが単身で挑んでいるといって気にかけてくれはったらしいんどすわ。当人は一言もそんなこと言いはりはしませんどしたが、うちからしたらなんか完敗という感じどしたわ」
「それはよい漢だな」
自嘲気味にしゃべるプラティアに、やさしくほほ笑むカスミであった。
「ええと、うちの話やのうてガガはんがどうして二足の草鞋を履いとるか言う話でしたな。それはまあフィオナ王国ではよく知れ渡っている話なんで、秘密にする必要もないですけど、お家の事情に関係するんどすわ」
ガガの父親、ビリア・ルクレールは当時より南方を魔樹海からの魔物より国を守護する諸侯であった。
ビリア・ルクレール候には直系として二人の男子と三人の女子が存在した。
だがそのほかに、屋敷勤めのメイドに候がお手付きをしてうませた庶子が一人いた。
それがガガであった。
庶子であるがゆえに他の子供たちと同列に並ぶことはなかったものの、ビリア候がその下野したメイドを深く愛していたせいもあり、不幸にもガガの母親が魔物に襲われ亡くなった後、家人の反対をおしきりガガを子供たちの遊び相手として屋敷に引き入れた。
とくに次男と同い年だったガガは、実の父とも知らずビリア候に頼まれるがまま忠臣であるよう側仕えさせられ、そしてそれは次男が人質として王都住まいをする際にも同行させられた。
このときビリアの次男付き人として年の近かった現国王と、妙に気が合って身分を超えての友人となった次第だった。
それは現国王だけでなく、気さくで人柄の良いガガは大人の思惑とは別に誰にでも好かれた。
それがガガのその後の運命を大きく変えてしまう。
ビリア候には二人の内室がいた。
長男と次男の母は、それぞれが異なっていたため、自然と跡目騒動がしずかに勃発していた。
ところがそこに、庶子でありながら現皇太子とも中の良い庶子の男子が頭角を表してきたのだ。
二人の婦人は心穏やかではいられなかった。
もちろんガガ自身には後ろ盾もなく、本人もビリア候の息子という自覚がないので、そのようなお家騒動に巻き込まれているとも知らず、王都から帰還後に婦人たちのあたりが強くなったことに困惑するばかりだった。
長年側使いをしてきた次男とも引き離され、屋敷内での仕事はすべて取り上げられ、市民に混じった護衛部隊に配置換えを申し渡されるに至っては、なぜと思わざるをえなかった。
ビリア候もガガを愛してはいたが、そこは貴族らしく家と庶子の息子を天秤にかけたときに家をとる非情さはもちあわせており、婦人たちの懇願通り、ガガを事実上家から排除した。
「でもガガが家を追い出された15年後ぐらいにな、その息子さん二人が南の樹海からのスタンピード対応の際にお亡くなりになられてな、唯一残られた男子ということでガガが屋敷に戻されたということらしいわ」
ルクレール家の家督は長男にわたっていたが、ビリア候の長男にも次男にも男子は恵まれておらず、ガガ以外に選択肢はなかったということだ。
「ガガはんにしてみれば、降ってわいたような跡目の話でっしゃろ。冒険者としても10年以上の経験を積んで、ランクも着々と上がってきた時期でしたさかい、当時はそうとう拒否されてましたわ。うちもその時にはメンバーやったさかい、なんども屋敷からくる使者を申し訳なさそうに追い返していたんをよう覚えとりますわ」
「ふーん、でも最終的に受けたんだ」
「そうどす。まああんなんされたら、ガガはんの性格なら、しょうがないんちゃいますか」




