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サイドC-23 プラティアのトレーニング

プラティアは50メートル程度の深さの海を高速で泳いでいた。

城に付き添いのメイドに確認し、城から西に広がる海を条件付きで自由に泳いでよいとの許可を得ての行動だった。

条件付きというのは、40センチ程度の魚型ゴーレムを3体監視につけてであれば、ということであった。

それはサメに似た形のゴーレムで、高速に泳ぐことに特化したものであると告げられた。


「うちは、はよう泳ぎますさかい、ついてこれへんかってもしりませんえ」

「それは問題ないです。それよりも何かにぶつかったりして海底とはいえダンジョン内の壁で負傷しないようお願いします」


プラティアの軽口に、付き添いのメイドは平然と答えた。

プラティアが海を泳ぎたいといったのは、待っている時間が退屈なのとこのままでは体がなまってしまうという、心理的かつ肉体的な要求からだった。

泳ぐといってもただ魚体にもどって泳ぐだけではない。

あらゆるバフを自身にかけ、かつ推進力も魔力によって補助を行う訓練を兼ねていた。

水魔法と風魔法の応用で、水流を自身の背後に発生させ、水との中ではありえない高速で移動させる術であった。

それも海底深くで、5気圧という水の圧力環境下でも水上と差がない速度での移動である。

透明度が高い海ではあるが推進50メートルともなると、ほぼ何も見えなくなりソナーのような音波検索による地形の確認も行いつつである。


(うちの魔法が全然効かんかった。まだまだ精進が必要や)


プラティアは数日前のカスミ戦で受けた心理的ショックから立ち直れないでいた。

うぬぼれではないが、いままで同族以外で魔力で自分が劣るということは感じたことがなかった。

魔力自慢をする輩とも何度か邂逅したものの、結果的にはプラティアが圧倒してきた。

それがあのカスミとかいうエルフの前では、赤子の手をひねられるがごとく、まったく太刀打ちできなかったのだ。


上には上がいる、それは世の常ではあることは頭では理解していたが、実際に邂逅した場合にそれをなんの衝撃もなく受け入れられるかというと、プラティアの場合そうではなかった。

しかもその差はほんの少し頑張れば届くというレベルのものでなく、まさにスライムがドラゴンに対峙した程の力量の差であった。

定量的には測れないものの、少なくとも勝てる想定がカスミに対してはひとつもないことを痛感していた。

なので、自分をもっといじめて鍛えて少しでも彼女との差を埋めるべく努力するしか、プラティアの心中のもやもやを少しでも払拭する術はなかった。


この訓練方法は、プラティアの一族で古くから受け継がれる魔力増強の手法であった。

積層化された防御魔法で耐圧バフを風魔法に水魔法を使い続けることで、持続性や練度を上げるだけではなく、魔力を枯渇まではいかないまでも9割5部ぐらいまで削り取るという手法だった。

この方法を用いることで、なぜだが知らないが魔力が増えていくのである。

さすがに全部を使い切ると意識が昏倒してしまうのでそこまでは行わないが、それでも頭痛くらいはしてくるのが常であった。


もっともプラティアの魔力量は膨大なので、無駄に魔力を消費するしか枯渇させることもできず、かといって水柱を立てるほどの竜巻魔法や『空間を穿つ黒玉』では魔力を大量に消費できるものの、周りへの被害も甚大になるため、この状況ではできずこのような消極的な方法しか取れなかった。

この方法は大きな魔法ほどではないが、それを長時間持続させることで消費が蓄積され枯渇させるには有効であり、なにより身体をいじめるとともに心理的なストレスも忘れさせてくれる効果があった。

ダンジョンの中にあって、魔力を枯渇させるリスクを考えないでもなかったが、ここ数日の様子ではセーフティエリアと思って問題ない状況で、カスミもかれらをどうこうする気もないとふんでの訓練だった。


プラティアは一心不乱に魔力をまき散らしながら泳ぎ、時間として5時間は経過していた。

監視につけられたゴーレム魚たちもまいたり見つけられたりを繰り返している。

彼女が告げたように本気のトップスピードにゴーレムたちは追いつけないのだが、ダンジョン内に設置された海の為半径20キロ程度の閉じた海の為、ダンジョン淵に沿って泳ぐが戻るしかなく、その工程で再発見されるというのを繰り返していた。


プラティアはソナーのような周囲確認を行っているので、ゴーレム魚の存在を近くでは確認しているのだが、この海はただの海水の集まりではなくて、じつは魔物や普通の魚、海藻、サンゴ等の岩礁もたくさんあるため、それらとの区別がつきにくく魔力量の違いだけでゴーレム魚を追っているのだが、ここ1時間ほどふとそのなかで特異な魔力が彼女を追っていることに気が付いた。

魔力量はそれほどではないのだが、すごく洗練されていて、なんというかなめらかな効率の良い魔力をそれは発しながら、プラティアの高速に余裕でついてきているのだ。


プラティアの魔力量は7割程度の消費で、もう少し泳ぎたい気もあるのだが、この追跡物いや追跡者はだぶんプラティアに用事があるらしい意思がかんじられたので、中断することにして泳ぎをとめた。


(ライト)


プラティアは聖魔法系の照明魔法をつける。

炎ではないそのは、海中の暗闇でも半径5メートル程度は地上と遜色ない明るさをもたらす。

深海の暗闇に慣れている魚や甲殻類がびっくりしたように光の外ににげていく。

待つこと数秒、追跡者は姿をあわわした。


「「やっぱりねーさんどしたか」」


プラティアは声を魔力にのせて、水中でも相手に届くようにする。

明るみに入ってきたのは、カスミだった。

体を空気の渦で囲まれていたが、それをとめて地面にすとんと立つ。

プラティアとは異なり水中に漂わない。


「「なるほど、こうすれば水中でも声が届くのね」」


プラティアをまねて水中でこえが届くようにする。


「「エルフが長時間水の中に潜っていられるとは初耳ですわ。どんな魔法でっしゃろ」」

「「まあそんな魔法もあるということよ。それよりも気が付いてたのね。わかりにくいようにゴーレムのような魔力の出し方してたけど」」

「「ゴーレムにしてはスピードが早すぎましたし、なにより魔力の質がなめらかというか、ぜんぜん上質なんですわ。どたばたしていないというか、すごく安定していて全くの別もんどす。すぐにわかりましたわ」」


カスミはまいったなと、鼻の頭をかく。


「「それで、何の用事どす?見学の為だけについてきたんとちゃいますやろ」」

「「まあそうだな、訓練しているみたいだからおわったら声掛けようとはおもってたけど....ちょっと話したいとおもってな。酒と肴、デザートを持参したんだが、付き合ってもらえる?」」

「「拒否権はないんですやろ。ええですよ、城に戻ります?」」

「「この先の小島にちょっとした座敷スペースが設けてあるから、そこでどうだ」」

「「島?」」

「「ああ、ちょっとおかしな作りだが、急遽用意した島だ」」


用意したという言葉は引っかかったが、その点についても拒否権はないのだろうとあきらめたプラティアは、カスミに従って移動を開始した。


★★★


「ガガ様、本館にお客様が来ております」


おつきのメイドにそう告げられたのはガガが自室に充てられた部屋のバルコニーで、剣の素振りをしている時だった。

日課というのもあるが、プラティア同様自身の剣技をより深めたく、時間があまっているのにうつつをぬかす気にもなれず、汗をかいていたさなかである。


「客?だれだ?」


とらわれのこの状況で客というのもよくわからない。

先日戦ったカスミか、そのとき呼ばれていたまだ姿を見たことないエギルとかいう人物か?


「本館ロビーにてお待ちですので、お越しください。パーティの方々もご一緒されますか?」


メイドはガガの問いに答えず、用件だけを告げる。

会えばわかるということだろうとガガは追及するのをあきらめ、遠泳にいっているプラティア以外のメンバーにも声をかけるよう願う。


「リーダー、客ってどなたでしょうか?」


合流したラン・ムーが心配そうに声をかけた。

完全に装備を整えており、いつでも戦闘に対応できるようにしているところは、用心の表れだ。


「こんなところで客というのはおかしいぜ。俺たちにここで見たことは忘れてほしいんじゃなかったか?」


テツガも装備は完璧だった。

かくいうガガは、帯剣はしているものの鎧等は装備せず、ここで用意された麻の上着を着ていた。


「事情はわからんが向こうから来たんだ。カスミやここの主が知らないわけないだろうし、とにかく行くしかなかろう」


ガガは先の二人しか想定していなかったが、ロビーにいたのは予想外の人物たちだった。

初見ではあったが、彼らが誰かはすぐに分かった。

猫人が二人に馬車に匹敵するサイズのウルフ型のゴーレム、剣士風のヒューマンの男女が一人ずつに、魔法使い然とした少女がひとり。

「『アンバーチャイルド』か?」


テツガがつぶやくように言う。


「はじめまして、ガガ侯爵様。『アンバーチャイルド』のリーダーをしているホクトといいます。私たちを探しているとギルドマスターに聞いてはせ参じました」


ガガたちのなかで疑問符が山のように発生する。

会いたかったのは事実だが、なぜこのような状況で?

それに彼らはなぜここにいる?


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