サイドB-53 魔力炉解析
ネネ達所有のクルーザータイプの船は、少しの時間で時速60キロ程度まで加速した。
ネネによれば、これがこの船の最高速度らしい。
さっそくマルティは動いている魔力炉をスキル『構造解析』にて視る。
とたん、マルティの頭の中には大量の魔法式が飛び込んできた。
それはマルティがこの世界で解析したすべての魔道具の中で、もっとも複雑で大規模な魔法式であった。
量や規模が多くても、解析自体にかかる時間は同じで、マルティの作業は一瞬で終わった。
あとはこれを図式にして、紙に書きだすことで依頼の作業は完了する。
ただせっかくなので、その横で動いている海水をジェット気流のように吹き出す魔道具と、運転席からこれらの魔道具をコントロールする仕組み、こちらも魔道具なのだが、についても無断で解析する。
魔力炉の性能は、ネネ達が自慢するだけあって解析結果から見ても素晴らしいものであった。
魔力炉自体は50センチ四方の箱に収まるほど小さなものだが、効率は宣言されていたのよりもひくいものの、36パーセントと高効率であった。
宣言にあった4割に満たないのは、おそらくだが動力を供給している魔道具の水流ジェットが最高速でも魔力炉の最大負荷の40パーセントぐらいしか利用しておらず、本来のもっとも効率の良い80パーセント以上を利用できていないためと、北斗は判断した。
電子回路を作る際にもマージンをたくさんとって、素子の寿命を伸ばす手法に似ているので、しごくまっとうな納得のできる設計だ。
「どうですか?魔法式は解析できそうですか?」
無言で魔力炉を眺めるマルティに、ネネ王女が心配そうにはなしかけた。
「はい、もう解析できました。あとはこれを紙に写し取るだけですが、結構おおきな紙を用意しないといけない規模ですね。おまけに情報量がおおいので、写し取るのに少し時間がかかりそうです」
「写し取る?とは?」
「はい、僕のスキルでここに自動的に収まっています。視ようと思えばいつでも写し取れますし、それをもとに物も再現もできますよ」
さすがにこの言葉だけでは信じられないらしく、疑いの目がむけられる。
その雰囲気を汲み取ったマルティは、陸に戻るなりミヤビをよんで彼女のストレージ内にある金属のインゴットを数種類取り出してもらった。
自分のストレージにも入っているが、この面々ではストレージ持ちを知られたくない。
なにをするのかとまわりが見守る中、マルティは自分の錬金スキルを使い、先ほど見た魔力炉そのものをその場で作ってしまった。
「若干素材が違いますが、ネネ様たちの船の魔力炉と全く同じ魔法式を織り込んだものです。乗せ換えてみて試させていただいてよろしいですか?」
「まさか、こんな短時間で...」
余りの作りこみの速さに疑いを通り越して、ペテンだと思われてしまう。
それに仮に魔力炉として動くものであったとしても、貴重な船に損害が出る可能性があるため、すぐに却下された。
「そのようなことをしなくても、私たちにはこれがあります」
とネネ王女は自分のストレージから、ひとつの計器をとりだす。
「これは魔力炉の性能を確認する測定器です。本国でも製造した魔力炉の性能チェックに使っております」
「なるほど。これのほうが定量的に測定できてよいですね」
マルティは自身が作った魔力炉に追加で制御部を作成してとりつける。
「ではいきますよ。まずは船と同じ40パーセントの出力」
「おお、これは...姉様、パワーが私たちの船より2パーセントほどうわまっています」
「ほんとうに?」
計測器を操作しているカロン王子があげた声に、ネネ王女が同じくメーターを覗き込む。
「...たしかに、私たちの魔力炉より性能が出ている」
「まだまだです。いっきに最大出力」
「おおっ、これはわれらの魔力炉に対して3パーセントの出力か、すごい、すごいぞ」
メーターを眺めていた王女の声は、いつしかうるうるとした雰囲気を醸し出していた。
「やった。やったぞ...これで我が国はすくわれる」
「はいっ姉様、ついにやりました」
急な姉弟の勘定の変化に、こんどはマルティたちが戸惑う。
みるとルーバートでさえ、なんとなく目がうるんでいるような気がした。
マルティ=北斗からしたら大したことはしていないように思うのだが、彼らの様子からことはサーマルス・ロード王国にとって相当重要で国の存亡にかかわる危機だったようだ。
「マルティ殿、本当にありがとう。国王や領民を代表して、最大限の感謝を述べさせてくれ」
「あ、いや、よかったですね、ネネ様」
がしりと両手をつかまれて、涙ながらに感謝するネネ王女にたいして、うけるマルティは明らかに隔絶の温度差があるのだった。
★★★
ネネ王女についでカロン王子にも似たようなお礼をされたあと、マルティはホテルにもどって、よみとった魔法式を大ホールの一つで描いていた。
描き取る用紙の大きさは、のりで繋ぎ合わせて6畳よりも大きくなっている。
描いている用紙の横には、ネネ王女より借りたおなじような魔法式の書かれた用紙が置いてある。
ネネの国の魔法士たちが読み取れるサイズで描かないと不便だろうと思い、内容というよりは描かれた文字サイズの確認のためだった。
一つ一つの図式がけっこう大きく描かれたそれは、全体を把握するには難しく、経年劣化を防ぎやすいという意味ではよい手法であった。
参考があってよかったとマルティは独り言ちる。
これがなくて、マルティの感覚で写し取ってしまうと、面積的にはこれの1/4で済んでしまっていたと思う。
ついでだったが、あちらが用意した2割程度しか性能が出せなかったという魔法式も確認する。
なるほど大筋はマルティが解析した内容と同じだが、増幅で重要なパーツがいくつか抜けているのと、そもそも余計な意味のない回路が間に入って効率を下げているのが読み取れた。
とはいっても、効率2割でもこの世界は大した性能なのだが、効率4割が普通の国ではそれをもとに設計・運用されている施設や機器もおおいだろうから、今動いている魔力炉が動かなくなったときに、国としてのシステムの不備がでてきただろう。
ネネ女王の国の存亡云々は大げさではなく、ほんとうに大問題だったということだ。
「よし、こんなものかな」
一応自分の頭の中の図面と照らし合わせて検図を行い、間違いないことを確認した。
6畳の図面には魔法式がびっしりと埋め込まれていた。
それにしても、とマルティ=北斗は思う。
あらためて描いてみた魔法式はたしかに素晴らしいが、どうも非効率な部分も多いような気もする。
増幅の部分に関しては同じ魔法式を繰り返し重ねていたりするのだが、その図式は汎用化されたもので他の別の部分にも使われていたりする。
ようは無駄が多いのだ。
ただしこのような書き方は、あとあと解析しやすいのも事実だ。
冗長に展開することで、解析をすべき部分をへらすもしくは内容を理解しなくても使えるようにする目的だと思われた。
(でもこれは、おそらくだがライブラリ活用をメインとしているプログラマーのやり方だ...)
発案者の意図は不明だが作り方に北斗はなじみがあった。
他で作ったプログラム、ライブラリの再利用を前提としているプログラマーのやり方なのだ。
北斗は仕事で組込み系もIT系も両方経験しているのでよくわかるのだが、このやり方は後者のやり方ににている。
ライブラリを活用するやり方はリソースもCPUパワーも潤沢に使える環境で行われる手法で、少々贅沢に作ってもハードがそれを吸収できてしまうため、どちらかというと開発速度が早くできる。
一方組込み系ではリソースもCPUパワーもIT系の数十分の一の場合が多く、専用プログラムを個々につくって、なるべくリソースを使わないようにする方式が取られる。
片や周波数もメモリ容量も数ギガ数万円のCPUに対して、20Mの周波数に数十キロバイトの組込みのCPUなど100円前後のものが多い。
北斗はIT系よりも組込み系の経験が多いので、その知識を生かすと、今目の前の汎用ライブラリを多用した図式も専用昨日にしぼって作り変えることで、もっと効率が上げれる確信があった。
とはいえそれは時間がかかる作業で、後日の自分への課題の自分の中で消化して、さっそく昼食やお茶で時間をつぶしている王女たちをよんで、できた図面を披露した。
「実際にはこれを写し取ってもらった魔力炉を動かしてみないとなんですが、先ほど僕が作ったものはこれと同じ式が入っていたので、まあ問題ないと思います」
「ありがとう、ほんとうにありがとう」
「いえいえ、おかげて僕もこれを自由に使えるんですから、お互いさまですよ」
またうるうる感謝攻撃が始まりそうだったので、そうそうにマルティはそれを遮った。
ネネ王女とカロン王子は、図面をひとしきり観察した後、それを自分たちのストレージに納めた。
ネネ王女たちは、この国でのミッションは完了したので一刻も早く帰国するつもりだとマルティたちに告げる。
なのでここダンジョンからいまからでもでたいと言った。
「国ではすでに1年ちかく新たな魔力炉が生産されておりません。ですのでなるべくはやく帰国して皆を安心させたいのです。お約束の魔力炉の貸し出しについては、本国に来ていただかないと許可がとれるかわからないので、もうしわけないですけどかならずお迎えに上がりますので、次の機会ということでご了承いただきたくおもうのですが」
「ああ、帰りの船に乗せたくても宿泊スペースが足りないということですね」
「はい、遊覧ぐらいならよいのですが....」
たしかこの国に来るのに2週間程度かかったと聞いている。
船舶の経験が少ないので、なんともいえないが例えば1日に平均4~5百キロ移動したとして、14日間で7000キロといったところだろうか。
実際は海の様子や海流に乗る乗らないもあるだろうから、最大でも1万キロを想定すればよいかと、マルティは逆算する。
あの船で1月の往復してもらうには、なかなか骨の折れる旅路だ。
強要するのは日本人としての北斗は申し訳なく思う。
魔道具も、もう作れてしまったので見本は必要なくなって訪れる理由も薄くなったが、あのジェット水流装置みたいにまだまだヒントになるような魔道具がサーマルス・ロード王国にはあるのではないかという予感もして、どうしても一度は訪れたい。
「では僕たちがネネ様たちをお国にお届けするというのはどうですか?それもすごく短い時間、そうですね約半日で。そうすればご一緒もできるので」
「は?」
マルティのいった意味が分からず、困惑する王女であった。




