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サイドB-51 姉弟の共用ストレージ

「私たち姉弟はストレージもちです。それも少し特殊なストレージで姉弟で共有しているストレージになります」


マルティは、すかさずネネを鑑定でみた。

たしかにストレージのスキルが見えたが、表記は「ストレージ(体積、松、共有)」と北斗としては初めて見るストレージタイプだった。

松の属性は時間停止、体積は容量のことだろう。

北斗が持つストレージのユニットや重量とは仕様がまったくことなる。

ちなみに体積は、50,000mm3となっている。

ざっくり計算してみると、小中学校の普通のサイズの体育館2つぶんより少し大きくらいだろう。


「めずらしいストレージですね。きいたことないです。二人でひとつはなんとなくわかりました。入れたり取り出したりするのも二人とも可能なんですか?」

「はい、同時に出し入れも可能です」

「そりゃすごい」


たとえば二人が離れた地点にいたとして、同じストレージということならば簡易転移的な運搬手段として使えるということだ。

そのことをマルティがいうと


「たしかにそのような使い方もできるかもしれません。ただし制約もあります。私たち姉弟が2キロ程度はなれてしまうと、どちらもこのストレージ空間が認識できなくなってしまいます。おっしゃられたような運搬も距離制限があるのです」


なので、今回は二人での来国ということだった。

片方だけでは、このストレージスキルは使えないということだ。


「ふーん、でも使い方次第では、とても有効なストレージスキルですね。で、その能力にて魔力炉の未完成設計図と魔道具がストレージに入っているということですね」


異国を貴重でかさばるものを持ち歩くには、ストレージほど安全でうってつけの手段はない。

くわえて大荷物で手足が不自由にならないのも、見知らぬ異国を旅するのには大きな利点だ。

姉弟がこの国にそろって派遣されたのも、うなづけるというものだった。


「ではさっそく始めませんか?僕の方はいつでも大丈夫ですので」

「というと、マルティさんならば私たちの依頼内容が可能であると、そう思ってよいのですか?」

「さきほども話したように、この商会で売っている他に比べて性能の良い魔道具はすべてマルティの設計によるものです。加えて言いますと、かれは魔道具の原理解析にも優れています。おそらくこの大陸中で、ネネ様たちのご要望にもっとも近い能力の持ち主が彼ですよ」


オリョウがマルティの能力に太鼓判を押した。

大商会の代表の言葉とあって、姉弟も安堵の表情になった。


「オリョウ様がそうまでおっしゃっていただけるのであれば、信じましょう。...ただ実行に移すにはもうひとつ問題が...」


マルティの提案にネネが少し申し訳ない顔をして、いった。


「問題というと?」

「図面の方は良いのですが、魔道具の方がその大きいんです。少なくともこの部屋では建物と魔道具両方がこわれてしまいます」

「では商会の倉庫に移動しましょう。資材保管用に大きくつくられてますから、たいていのものなら置けますよ」

「いえ、それでも難しいです。体積的には問題ないとはおもいますが、その安定させるには普通の倉庫では難しいです。魔道具とは...私たちがこの国に来るために使用した高速艇、船なのです」


一同はちょっと驚く。

マルティ以外、姉弟のストレージのサイズを知らなかったのだから、船一隻がはいるとは驚きだ。


「船とは言っても私たち三人が乗って2週間ふつうに寝起きできる程度の小さなものです。ちいさな馬小屋程度だと思ってください」


それでも十分大きいものだと、全員が心の中で突っ込む。

もちろん二階建ての家や複数台の馬車を丸ごと入れているマルティたちにいえたことではないが。


「なるほど、つまりそれは水に浮かべるほうがよいということですね。でも困ったな。ファーラーンには湖の類はないし、一番近い海でもミュートラム港町だしね」


ファーラーンから南下した場所にあるミュートラムまでは、マルティたちの馬車でも街道が空いている前提でも1日はかかる。


「あの、できればなるべく私たちの船を関係者以外には見せたくないので、ミュートラムのような大きな町ではなく、ひとの少ない場所でお願いしたいのですが...」


依頼主の要望とあって、候補としてミュートラムは消えた。

となると、とマルティは思案し、すぐに思いつく。

同じような思考をしているオリョウもすぐに同じ考えに至ったようで、マルティの様子に相槌をうった。


「ネネさんもカロンさんも、この件が解決したらこの国には留まらず帰国されますよね?」

「ええ、そのつもりですが」

「となるとだ、オリョウ、いいよね」

「それがいちばん確実な方法ですね」

「ねえ、なんなの?」


やや外野のカエデが、意思が疎通している様子のふたりを怪訝におもった。


「いや、君たちにも関係あるんだ。ちょうど君たちに見せたいと思っていたものの立ち合い人数が少し増えるだけでね」


マルティの言葉はちんぷんかんぷんだったが、かまわずマルティは続ける。


「ネネさん、とびっきりの秘密の海辺があります。僕ら以外はだれも入れない秘密の海が。ぼくらもその海のことは他言無用でお願いしたい海です。お互い他では広めてほしくない秘密を交換しませんか?」


★★★


その日のうち一行は、商会を辞去して町の中心、ダンジョンの入り口に来ていた。

ダンジョンの入り口は、第一の城壁でぐるりと取り囲まれていて、その中心に冒険者ギルトが管理している見張り小屋と入り口の洞窟があった。

ダンジョンの入り口まわりには、ホクトとミヤビが最初に見つけて処置したままの深さ数十メートルはある外堀に囲まれており、そこまでは細いつり橋が一本わたっているだけだった。


当時は村の近くにありすぎるという危惧から、スタンピードが発生しても村に被害が及びにくいよう、ホクトがサブキャラの能力を使って簡易的につくった対魔物用防止壁だったが、それがいまも何の手も加えられず使われている。

ホクトたちの対処が完璧すぎて、それ以降手を加えられたのは釣り端の補修程度であった。

ダンジョンは入り口から数メートル階段を下ったところから迷宮が平面に広がっており、物理的に考察するならばその竪穴とダンジョンの迷宮とは空間的にかぶっている。

にもかかわらず、堀でうがった部分からダンジョンの断面が見えないことから、ダンジョンが異空間に作られた場所だと認識せざるをえない。


夕刻に近いこともあり、いまからダンジョンに潜ろうという人は少なく、むしろ返ってくる人でにぎわっていた。

このダンジョンは浅い階層でも1日も潜っていれば十分稼げる層があり、ここを訪れる8~9割の冒険者たちが、そこら辺を目標にしている。

返ってくる冒険者たちの顔は、その日の成果に満足している様子のものが多く、いまも両肩に抱えたたくさんのドロップ品を持って帰還してくるものが多かった。


商会を出る際、ちょっとしたいざこざはあった。

マルティが詳細を言わず、ただついてきてくださいとお願いしたせいもあるが、目的地がダンジョンと聞いて今となっては正体がわかっているルーバートが難色を示したのだ。

彼はサーマルス・ロード王家直々の騎士、現役の近衛兵の猛者らしく、二人の護衛役として来ているのだから、ダンジョンのような危険な場所にカロンとネネを連れていくと聞いて拒否してきたのだ。


マルティが自分たちといれば決して危険はないと説得しても、到底信じてもらえるはずもなく、オリョウがここでも口添えをしてくれなければ、ふたりをダンジョンに連れ込むことなどできなかった。


マルティが一行を連れてきたのは、第3階層を経由しての第78階層であった。

第3階層にはダンジョンマスター・エギルに頼んで設定してもらった、マルティ達専用の転移魔法陣による移動である。

第3階層までは道もわかっており、魔物もマルティたちにしてみれば雑魚キャラばかりなので、さっさと駆除して移動した。

転移魔法陣の利用には、名入りの指輪が必要であるが、今回は一時的に利用可能な回数制限付きのそれを渡して、移動してもらう。


「あとで君たち二人には、君たち専用の指輪かネックレスを作るから、どちらが良いか決めておいてね」


マルティはこっそり姉妹に耳打ちしておいた。

ネネたちがいるので全体的にはその魔法陣は特定の階層に移動と曖昧にしか説明がなく、姉妹は詳細を追及しようとしたが、転移先の景色をみて言葉を失ってしまった。


そこはネネ達ネオアンバー・ソメイユワールド人の感覚でいえば豪奢な大広間という感覚だった。

白黒のまだらで構成された大理石の床に主通路部分には赤い絨毯が敷き詰められ、落ち着いた模様と色で構成された壁に意匠をこった石柱ら規則正しく建てられている。

高い湾曲した天井には複数の豪華なシャンデリアが広間を隅々まで照らしており、複数ある花瓶の合間を縫うようにいくつものソファーが置かれている。


極めつけはホール側面がガラス一面に張られており、そこから先にはいわゆるオーシャンビューが広がっていた。

夕刻ということもあって、今しも太陽が海に沈む幻想的な風景がみられ、一同しばしそれに見入られていた。


ここは第78階層に作られた宿泊施設のロビーだった。

北斗の現代人の感覚で作られた高級リゾートホテルで、転移魔法陣の設置場所はそのホテルのロビーに設置していた。


どうせ作るならと北斗はログイン前に高級リゾートホテルの資料を見まくって、簡単な手書きの設計図をつくっての建築だった。

ホテルには最大で200人泊れるようにしてあり、かつ部屋もゆったりとしたスイートルームばかりだ。

この世界は従者もいる貴人も多いため、一緒に泊れるよう使用人部屋を隣接させたロイヤルスイートも20部屋程度用意してある。

そのほか海に面した側に大小4つのプールに8面のテニスコート、大勢が集まって会食等ができるステージ付きの大ホールに、日本人らしくオーシャンビューの可能な露天風呂付大浴場と卓球場も組み込んでいた。


いまはまだないが北斗としては1棟貸のヴィラや海を利用した海上バンガローなども追加で建設予定である。

だれも来させないはずの階層なので、なんのためにといわれると、これはまったく北斗自身の趣味で北斗たち専用のリゾートエリアとなっていた。

ただ、今回は外部のお客さんを図らずも迎え入れる事になったので、作っておいてよかったと思う北斗であった。


「今夜はもう日もくれますし、作業は明日にして今夜は夕食をとって休みましょう」


あっけにとられて口を開かない面々に、マルティは高らかに宣言したのだった。


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