サイドB-50 姉弟が売るものの正体
「サーマルス・ロード王国は、建国して150年の比較的若い国です。以前にもお話しした通りこの大陸の西側の海を渡ったところにあります。本島と複数の島からなる島国です。基本的に他国との交易は行っておらず、国の中で経済活動は完了しております。我が国が単独で経済が成り立っているのは、数種の魔道具のおかげでそれは他国では存在しません。我が国だけが持つ魔法式で形成された魔道具のおかげで、国が成り立っているといっても過言ではありません」
ネネは淡々と説明を開始した。
ここではいつものスポークスマンの役割を果たすカロンは黙っており、姉の方が全権を担っているようであった。
「その魔道具に付与される魔法式は、王家の祖先が構築したとされており伝承や維持についても王家の人間がその役割をになってきました。その魔道具をつかって王国を立ち上げたとも聞いております」
「その国を維持してきたという魔道具とは、一体何なんですか?」
マルティが質問する。
「それは、魔石に蓄えられた魔力を4割の効率で引き出す魔力炉です」
「4割?それ本当ですか?」
マルティとオリョウが驚き、聞き返してしまった。
他の面々は何をそんなに驚いてするのか、検討もつかない。
「ごめん、話の腰をおるようで悪いけど、何をそんなに驚いているの?魔石から炎や水、氷なんかを作り出す魔力炉ならうちらもつかってるじゃん」
飲み水を供給したりコンロなどの炎にする魔道具すべてに、その変換回路ともいうべき魔力炉は大小あれど存在する。
魔力炉自体は珍しいものではない。
マルティは、そういうカエデに対して、少し興奮して向き直る。
「たしかに僕たちの国でも魔力炉はいたるところで動力源として使っている。でもね僕らの使っている魔力炉は、魔石のもつ魔力を効率的に引き出せていないのさ。魔力炉の大きさにもよるけど、生活に使っている魔道具なんかだと、効率にしてだいたい0.1~0.2割程度で、それ以外の魔力はすべて放出してしまっているんだ。もう少し大きい魔力炉だと、よくて0.5割くらいかな。それを改善するために僕が独自に魔法式を作ったりもしたんだけど、それでも1割が現時点では限界なんだ」
先日マルティがサーフライト家にて作った氷冷室の魔石が以前より少なくて済むのは、その技術を応用したからだ。
空飛ぶ馬車についても、それほど大きな魔力炉を組み込めていないので、効率でいえば0.8割程度だが、それでも標準的なものにくらべたら、そうとうに効率がよい。
「そうなんだ....」
「だから4割というのは驚異的な数値なのさ。それでネネさん、ひょっとしてですが買ってほしいというのはその魔力炉の魔法式ですか?」
「それはそうでもありますし、そうでもないのです」
ネネがまたなぞなぞのような話をする。
今度は話の腰をおらないように、皆沈黙してネネの次の言葉をまった。
「マルティさんのご想像のとおり、買ってほしいのは物ではなくてその魔力炉の魔法式です。厳密に言えばその魔法式を応用した製品のパテント料の契約をしたく思っております」
パテント料、つまり提示された魔法式を組み込んだ魔力炉の数に応じて、使用料を支払う方式で契約を行いたいというのだ。
この考え方は北斗の生きている現実世界においては普通のことだが、ネオアンバーソメイユの住人にはなじみがないだろう。
「なるほど、買ってほしいものは物ではないというのは、そういうことだったんですね。それはわかりましたが相談というのはなんですか?魔法式の契約をするだけなら、こんなにたらいまわしに町をわたりあるく必要もなかったとおもいますが...」
「その相談内容というのがいま私たちの家、しいては王国でおきている問題なのです。それを解決しなくては、あなたたちにもその魔法式をお伝えすることができません」
「というと?」
「...じつはその魔法式が、ごっそり盗まれてしまいました」
ネネの言葉にその場の全員が息をのむ。
「魔法式は門外不出として、王家で厳重に管理していました。その魔法式を実際の魔道具に写し取るのも王家の人間が立ち合いのもと、専従の魔導士たちがひと月に2回程度まとめて行うのが通例でした。ところが今から一年前、いつものごとく申請された魔道具にそれを行おうとしたところ、保管庫から写し元となる魔法式を記した図面が複写したものも含めて無くなっていることが判明したのです。すぐに調査を行いましたが、その行先はようとして知れません。ただ保管庫に近づける人間が王家関係者しかおらず、内部の人間にしかそれはなしえないと考えられていましたが、符合するかのようにひとりの王族の行方が知れなくなっていました」
「ではその方が持ち去ったと考えるのが妥当だと、そう思われたのですね」
オリョウが確認するようにきく。
「はい、詳細はお話できませんが...」
ネネにカロン、ルーバートについては沈鬱な表情になる。
「それで僕たちにお願いというのは?その方の行方調査とか?例えばこの国に逃れているとか」
「いえ、それは私たちで行っておりますので。お願いしたいのはその魔力炉の魔法式を再現するための解析を行える方を探しているんです」
「再現?」
「はい、魔力炉自体は大小ふくめて国に現存するものが多数あるため、それほど急を要するわけではないのですが、それでも故障や破損、もしくは耐久年数の関係で先細りするのは目に見えてます。ですので魔法式の再現をしたいのです」
「なるほど。失われた図面が返ってこないことを想定して、被害の少ないうちに再現したいと、こういうことですか?」
「おっしゃる通りです。実際我々でも魔法式を複写していた専従の魔導士たちにより、その試みをしました。複写といっても数多くそれをこなしてきた者たちです。ある程度は記憶にあり、皆の知識をあつめてそれなりの図面はできました。ですが...」
「思ったような性能は出なかった、と」
「はい、その通りです。我々の持っていた魔法式は複雑なうえに大規模でしたので、完全には復元できませんでした。作動はしたのですが、せいぜいが2割程度までしか出なかったのです」
2割でもすごい性能なのだが、それまでがその倍の性能のものを普通に利用していた人々にとってはレベルを下げることに不便を感じるのだろう。
「ご存じの通り、魔法式は魔道具に付与した瞬間に読み取れなくなります。ですので書面に残したり、ひとの記憶に頼るしかありません。対して付与の効果は測ることができますので、いろいろな想定の魔法式を付与して試行錯誤で正解を探っていいくくしかないのですが、それにもある程度の才覚というか生まれ持った感のような能力が必要なのもわかっています。わが国でも研究者などにあたらせていますが、いまだ目ぼしい成果がなく、多角的に人材を募るためにこの国で生産も含めてできる組織を探していたというわけです」
「その白羽の矢が立ったのがわが商会というわけです」
「なるほど、それでその解析の役として僕に白羽の矢があたったということなんだ」
つまりは仲間内でマルティだけがもつルスキル『構造解析』に白羽の矢があたったと言い換えてもよかった。
マルティのありとあらゆる非生命体の製造物の設計図を自動的に作りだして記憶するスキルは、まさにその役柄にぴったりだった。
「わかりました。そのお仕事引き受けましょう。その見返りは商会には使用権だと思うますが、ぼく個人には何があるのでしょうか?」
「それは申し訳ないのですが、私たちもお金はほとんど持ち合わせていません。同じようにその魔法式の使用権というだけでは駄目でしょうか?」
「そうですね。それでよいのですが、僕は商会を営んでいるわけではありませんので...こういうのはどうでしょうか?売り物としてではなく、僕個人がその技術を使ったものを作ることに関しては、できたものに対するパテント料はとらない、というのは?あと、解析の対象があると思いますので、それを譲渡もしくは長期貸出いただけるとか」
「それは...作ったものは売らないで自分達だけでつかうという条件であればということでしたら、問題ありません。あとお譲りできるかどうかは私たちでは判断つきませんので、後日両親に確認するしかないですが、おそらく問題ないかと思います」
ネネは少しよどみのある口調で答える。
彼女の中でいろいろと思案がされながらの回答だからだろう。
「ご両親というと、つまり王様とお妃さまということですよね」
「ええ、現国王ということになります」
「それは、たぶんですけどお国に僕たちもお付き合いしなくてはならないと思うのですが...そもそも解析する場所はどこを想定されてらっしゃいますか?あなたたちのお国ですか?」
「いえ、さすがにそれでは効率が悪すぎます。まだ未完成ですが写しに従属していた魔法士たちが再現した魔法式の図面の写しと、もっとも効率のよいとされている魔力炉を持参しております」
「えーと、みたところ今はお持ちでないようですが。移動中もそのようなものを見たことがない気がしますけど..」
ネネはここでニコリと返した。
「はい、そうですね。私たちがこの国に派遣する人材として選ばれたのには、そこにあります。じつは私たち姉弟は、二人で一つのストレージを持っております。図面と魔道具はそこに納めております」




