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サイドB-48 ジョージの悩みと商会と

ジョージは思いあぐねていた。

今回の依頼は急にきまったこともあるが、そもそもの依頼内容がパーティ「アンバーチャイルド」の調査というあいまいなため、どこまで調べれば良いのかが不明なのだ。

クライアントに直接会って依頼をうけた頭目のベルルートであれば、欲している情報の核がどこにあるかはわかるだろうが、今回はその伝達機関もなくての調査であるため、見極めが難しい。


ギルド職員にジョージのもつスキルの暗示にて、行商人に行ったようにギルド職員や冒険者に顔なじみのふりをして何人か聞き込みをしてみたが、どれも噂程度の情報しかなく、傾向を知るしか術がない。

もっともホクトたちに親しいとされているギルドマスターのケビンや古株受付嬢のハンナであれば、もっと詳しい情報も収集できるとは思うが、二人とも暗示が効きにくいことをなんとなく予想していて手を出すかどうかいまひとつ決断できない。


冒険者でもないジョージがあまり冒険者ギルドに出入りしているのもまずく、このように冒険者たちが集うような食堂や酒場で話を聞くぐらいしか、おもいついていない。


あとは噂にあったここから北に1日程度のところにあるというホクトの実家を調べるという手もあるが、場所がはっきりしないのに1日かけて魔の森に単独で探しに行くのも、最悪情報を持ち帰れないような危機に見舞われることも想定すると、実行は現実的ではない。


ホクトたちと別れた後、相当の距離をとってファーラーンにあるという彼らのパーティ拠点へもいってみたが、いきなり門に見覚えのあるウッド・ゴーレムをみつけ、つい先日イオシスのカエデ・ツバキ姉妹の屋敷に配備されたそれらのゴーレムはそうとうに厄介なので、しばらくは屋敷に不用意に侵入しないようアカーシャに言われたばかりだったので、これも外からうかがう程度しかできない。


実際彼らが屋敷に入る際、メイドと執事が応対しているのは見ていたのだが、メイドの方が故意なのか不明だが家屋をうかがうジョージの方を見ていて、目が合ったと思われる瞬間もあり、その雰囲気に剣呑なものも感じてとっとと退散してしまった。


ジョージは、基本的には情報収集のみを得意としている密偵で、最低限の逃走のための武術は会得しているものの、立ち回りは得意な方ではないため、危険を察知したら情報を持ち帰ることを優先する、つまり逃げることを優先するタイプで、密偵メンバーもそれを了解している。


それにとジョージはおもう。

今集まった情報と、昨日体験した飛行馬車の件だけでも報告内容としては十分ではなかろうかと思っている。

あれは、人知を越えた恐ろしくも貴重な体験であった。

早く移動できる馬車は地面を走行するものであるから、なんとか想定できる。

しかし空を駆ける馬車が存在するなど、だれが想像できるだろうか?


他国で飛竜をかる騎士が存在するという噂は聞いたことがあるが、空中は基本的には魔物や鳥の領域であり地上の翼を持たない生物にとっては、関わりがないはずである。

だが『アンバーチャイルド』のメンバーは、その領域をやすやすと制覇しているのだ。


加えて空中で遭遇したロック鳥を瞬時に成敗してしまうのに遭遇したのも、大きな収穫だ。

かの魔物は空中で遭遇しなくとも地上の生物にとって災害に等しく、ひとたび現れれば騎士団や冒険者ギルドが協力してあたる事案である。

同行した行商人たちから、マルティやミヤビが旅程で遭遇した魔物を時に狩る場面もあって、そのときの様子を聞いていたので相当な実力を持っているだろうくらいはわかっていたが、ロック鳥のような大型の魔物でさえ低級の小鬼や魔狼を狩る程度にしかおもっていないのがわかったのだ。

ランクDのパーティーにその実力は釣り合わず、実際はランクSであってもおかしくない、稀有な集団である事が把握できたのだ。


この町に来たのは拠点ということもあるだろうが、ダンジョンが目的の可能性が高く、であれば自分ができることもこれ以上はないため、イオシスに戻ることを決意する。

もらった亜竜の肉や、予算の8割をさいて『カメヤマシャチュウ』より購入した塩や砂糖、おにぎりもたっぷりストレージに埋まっている。

これを帰路途中の町や村でさばけば、それなりの実入りになることも商人としてはありがたい。


(それにしてもサーフライト家のお嬢様たちは、とんでもない集団に見入られたものだな...)


心配ともあきれともとれる感想を残しつつ、明日の出発に思いをはせるジョージだった。

もっとも彼はここでひとつ大事な情報を逃していることに、数年後まで気が付かない。

『アンバーチャイルド』ばかりが目立って密偵としての意識が向かなかったが、もう少し飛行馬車に同乗したサーマス・ロードの3人組にも興味をもてれば彼の仕事は100点満点だったろうに...。


★★★


「お待たせしました。はじめまして。私がこの商会の代表でありここ本店の店長もかねるオリョウといいます。以後よろしくお願いします」


物腰低い小柄のその女性は、カエデとツバキの二人に深々と頭を下げた。

白のブラウスに紺のスカートといういでたちで、独特な髪飾りにイヤリング、右手にブレスレットの抑えた化粧しかしていない女性は、見た目の質素さとは程遠い存在感があった。


食事のあと、マルティは従業員に取り次いでもらい、オリョウへの面会を申し出た。

マルティの存在は商会ではとおっていて、すんなりと応接室にとおされ、オリョウ自身が忙しいらしくすぐには合えないことも告げられた。

その間温かい紅茶とキモモと生クリームがたっぷり乗ったケーキが供され、たらふく食べた後だというのに姉妹はそれをぺろりと平らげた。

カエデに関しては、お替りをいいたそうな顔をしていた。


小一時間ほどして、待ち人オリョウが一人の美丈夫をつれてあらわれ、初面会となった。


「おふたりのことは、マルティから伝えきいております。わたくしもマルティ側の人間で、この国のものではないので、このメンバーの間ではホクトやマルティの言う流布してほしくない情報の会話への警戒は不要です」


オリョウは二人によどみなく、まるで以前から知っているかのような態度で接したため、初対面の二人は少し戸惑った。

なぜならマルティもオリョウに再会したのはこの瞬間で、ふたりの情報を伝える時間などなかったからである。


そこだけは姉妹にも開示できないのだが、イオシスでサーフライト家から一旦引いた夜、ちょうど良いタイミングだったので『多重自我』間で使える念話で連絡して、その夜中に北斗たちは一旦現実世界にログアウトしている。

現実世界に戻れば、『多重自我』で分散していたそれぞれの記憶が統合され、すべてのキャラが同様のそれぞれの状況を把握できるために、おなじく念話でしか聞いていなかったカエデ・ミヤビのことについても、顔や性格まで再度ログインしたときのすべてのサブ・キャラで共有できているというわけだ。


ゆえに初対面であってもオリョウはカエデとツバキのことを人相や性格も含めて知っており、いまのような状況になっている。


「あー、君たちのことは、事前にオリョウには伝えてあったんだ。こればっかりは君たちには取得できないスキルで、僕たちしか使えないんだけど、思念で通話する手段があってね。だから君たちのこともオリョウは了解ずみなんだよ」


さすがに戸惑っている二人をフォローするすもりで、マルティが口添えする。


「そうです。だから心配しなくてよいです。聞いているかもしれないですが、あらためて伝えますとこの商会はホクトと私で相談して立ち上げた商会です。売るものや売り方もすへでホクトとの相談で決めておりますし、ここで売られているものすべてはホクトたちが森やダンジョンで仕入れたものばかりです。あとここで売られている魔道具や武器・防具、馬車などもすべて私たちの仲間で作っている物です。そういう意味ではこの商会の売り物は、すべて私たちの仲間で賄われております。なので表立ってはわたくしが代表ですが、マルティたちもこの商会の店員ともいえます」

「そうなんですね、どおりであのレストランの品目も売られているものも、マルティが私たちにふるまってくれたものに似ているんですね」


ツバキが先ほどレストランでマルティが告白してくれたことの裏がとれたと納得して、うなづく。


「私とホクト、まあもうあなたたちはわかっているでしょうがマルティとは常に情報のやり取りをしてますので、商会の代表とはうたっておりますが、メンバーの一人と認識していただいてかまいませんので、ご遠慮なく。あと商会の店員は私たちの本当の関係を副店長含めて知らなく、懇意深い知人と認識させておりますので、そこらへんは使い分けてください」

「まあ、普通に商店の方として接してくれればいいよ。了解した?」

「なんとなくだけど」


カエデとしては、この国の人ではないというところをもう少し聞きたい気もしたが、それはマルティにも言えるのだが、入れ替われる人格のホクトはこの国の人らしいので、こんがらがる。

それでもそこら辺はなんだか触れてはいけないような、知りたくないような気もしたので、黙っていた。


「使用人たちにも僕同様二人のことはオリョウの親しい友人として伝えておいてね」

「わかりました。おふたりとも何か買われる際には身内価格で対応しますので、遠慮なく」

「ありがとうございます。あの追加でお聞きしたいのですが、そちらの方はひょっとして...」


とツバキがわきで立つ美丈夫に目線を送る。


「ああ、そうだね。もうわかっていると思うけど、彼は僕がオリョウにつけたホムンクルスでイータというんだ」


ツバキはやっぱりといった。

雰囲気でなんとなく、そんな気がしていた。

イータはマルティが作り出した戦闘に傾倒したホムンクルスの一人であった。


「オリョウの補佐兼護衛かな?とはいってもオリョウのほうがはるかに強いんだけどね」


オリョウは魔法職のURサブ・キャラである。

レベルはミヤビと同じ5000で、すべての系統の魔法に加え、古代魔法にも精通している。

ただ特有のスキルで、一度見たり聞いたりしたことを絶対に忘れない記憶力と、高速演算能力を有する生けるコンピュータのような能力者のため、本来であれば冒険者として活躍させてもよいのだが、商会を運営するのに向いていると判断して、この職につかせている。


「やっぱり、そうなんだ....」


本当の仲間になったとはいえ、オリョウといい先日サーフライト家を修復したドワーフのサロモンといい、次から次へと実力過多な知らない人物が仲間となって出てくるのに、まだまだ謎だらけの彼らに少しげんなりするのだった。


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