サイドA-10 魔物の解体
自分自身の現状確認の為の狩を終えたマルティは、自宅の小屋について時間を確認、並列して行っている異世界移行1日実験の完了まで、まだ8時間程度残っていることを確認した。
8時間といっても6時間程度は睡眠に充てるため、実質2時間程度だか、娯楽のなさそうなこちらの世界では、食事の時間だけでは持てあましそうなので、どうせならと習得してから未使用の『魔物解体』と『魔物解体(亜)』を実験する時間にあてる。
まずは『魔物解体』を使ってみようとして、解体場所がないことに気がつく。
この能力も『町のレストラン』同様スキルであるため、本来解体に必要なナイフや解体場所は必要ないのだが、解体対象を置いたり、解体物を展開する場所は必要であることは、『ヘルプ』のスキル説明で確認してある。
問題はその展開場所だ。
『魔物解体』を実施するために、対象を例えば庭に置いたりすると、一回は殺害ほやほやの血まみれの死体を置くことになる。
そうすると、その匂いが台やら地面やらについてしまう。
そのにおいは、人間にとっては掃除すれば大して感じることはないであろうが、血の匂いに敏感な魔物たちにとっては、絶好の目印となってしまう。
ただでさえ危険地帯にある小屋なのだ。
わざわざこちらから、魔物を集めるような環境を作りたくはなかった。
なので『魔物解体』の実験はあきらめ、もう一つの『魔物解体(亜)』を利用してみることとする。
こちらのスキルは、基本的に『魔物解体』と同じことができるスキルである。
違いは解体対象を、ストレージの内部のものにできることであった。
解体作業自体の指示も、ステータスウィンドウ内で視覚的に行うことができるため、操作自体もわかりやすい。
ホクトは、ストレージ内に収まっているホーン・ラビット五体をターゲットに選定し、解体内容を全部位に指定、解体物展開先をまだまだ余裕のあるユニットストレージ(松)にした。
スキルを実行、わずかなMPを消費して、ストレージからはホーン・ラビットが消え、代わりに15程度のユニットストレージが埋まった。
埋まったストレージには、ホーン・ラビット5体分の各部位、毛皮、胸肉、足肉、舌肉、角、爪、骨、肝、血、爪、脳、瞳、心臓、胃、魔石(小)、その他内臓物等である。
その他内臓物とは、小さく重要度の低い内臓と排泄物がまとまったもので、正直使いどころはあまりなさそうで、廃棄しか道はないとは思うが、ストレージ内で解体する以上、なかったことには出来ないらしい。
『魔物解体』は、解体できる対象の大きさや種類、解体の精度(解体のきれいさ)、さらには解体できる部位の振分け精度が、レベルによって変わってくる。
ホクトは、すでにどちらのスキルもカンストのLv10であるため、今回狩った対象ぐらいであれば、問題なくきれいに分離しての解体が可能であった。
これより大きな獲物、竜やマンモス、ワイバーンやロック鳥レベルとなると、上位の『魔物解体(上)』『魔物解体(上亜)』が必要であるが、幸いスキルポイントは潤沢にあるので、必要になった時に獲得すればよいとホクトは考えていた。
ホクトは続けて、グレイウルフとレッドボアの解体を、同じようにして行った。
グレイウルフは、徒党を組んで行動する、ライオン程度の大きさの魔物である。
肉も食べれないことはないが、筋張っていて、脂肪も少なく、あまりおいしいものではないと、こちらのホクトの知識がいっていた。
なので祖父ジーノは、よく骨と一緒に煮込んで、どちらかというと出汁的な使い方をしていた。
対して、レッドボアは、現実世界でいうイノシシ系の魔物なので、若干の風味の癖を気にしなければ、大変好まれて食されている食材だった。
取れる肉の量も、グレイウルフや仔馬程度もあるホーン・ラビットと比しても、5~6倍程度は取れるので、普通の冒険者であれば月に1匹程度狩れば、肉としての食材と素材の販売で暮らしていける程度の実入りのある魔物であった。
その他の素材も、ほとんどの部分が売れる対象で、ホクトとしては今日1日のお試し散策で、軽く数か月分の収入を売ることができたのだった。
(まだあまり、外部とは接触したくはないけど、町にはいかないといけないかな)
今日獲得した分で、当分の肉系の食材は確保できたのだが、それ以外のパンや香辛料、調味料の在庫がそこまでない。
小屋の裏手に、背面の山をくりぬいて作った洞窟、自然の貯蔵庫を見つけたのだが、パンの材料になる小麦や塩等の在庫が、それほどなかった。
ローズマリーのような香草、唐辛子のような実かなっている草は、庭横のちょっとした菜園で見つけたので、そちらは何とかなるし、野菜もまあ、森に行って手に入る可能性もあるが、確実に手に入れるには町に行くのが手っ取り早い。
不安なのは、素材の買取先、たぶんラノベを踏襲するのであれば冒険者ギルドで買い取ってもらえるだろうが、これがホクトの知識にはないこと、町になじみの知人がいるのかどうかも、いまは靄がかかっていて不明なことだ。
ジーノ爺さんが、冒険者ランクAだった事実が冒険者ギルドに相当するものがあるということは断定だが、それ以外の知識、この世界での常識がないことに、ホクトはもっとも不安を覚えていた。
考えたくはないが、ジーノが町と対立していた可能性だってあるのだ。
部屋から出た時の経験から、おそらくだがそれらの知識がホクトの脳内に記憶として展開されるとしたら、町についてからだろうとホクトは予測した。
知っていることが、直前まで知ることができない。
結構意地悪なシステムであった。
(まあ、すぐじゃなくてもいいか)
すぐに対応しなくてよい課題ではあるし、それよりもまだまだやりたいこと、魔獣狩りや鑑定によるスキル使用の経験の積み重ねやステータス・レベルアップ、残ったガチャの獲得、小屋周辺の自分の目で見ての探索など目白押しなので、面倒ごとを先延ばしにしたホクトであった。




