サイドB-47 おんなじ料理じゃん
「ギルドでの騒動もそうだけど、なによこれ、以前食べさせてもらったのとおなじ生姜焼きじゃない?お米だってふつうに提供されてるし。どうゆうことよ」
「いや、それはここ『カメヤマシャチュウ』商店で普通に売っているものだし、なにも僕専売というわけではないよ」
場所は商会『カメヤマシャチュウ』建物内にあるレストランである。
そこではマルティが姉妹にふるまったメニューの一部が、普通に頼める品として提示されている。
いまマルティたちの目の前に提供されている内容も、マルティが以前ダンジョン内で供したものとほぼ似ている。
「お米なんてあんたに合うまでは見たことも聞いたこともなかったわよ。この生姜焼きだって、フォレストボアという肉の違いこそあれ、この甘辛い味付けはほぼおんなじだし。それだけじゃない。新鮮な卵を使ったオムライスやオークをひき肉にしたハンバーグとか、これもたしかダンジョン内で食べさせてもらったことあるわよね。さらにこの店ではいろいろな具材の入ったおにぎりがテイクアウトできるようになってるし、どういうことなのよ」
「それは....ここでお米や生姜焼きのタレや新鮮な卵を売っているからだよ」
しごく当然の答えをされて、カエデは戸惑う。
「マルティさん、姉さんが聞きたいのはたぶんどちらがオリジナルなのかと聞きたいんだと思います」
「そ、そうよ、それよ。これらのメニューはマルティたちが考え出したのか、それとももともとこの商会で売っていたものをマルティが真似して私たちにたべさせたかよ」
「なんでそんなことを気にするの?」
「なんでって...あんた忘れたの?自分たちのパーティにはいれば、今後もこんなおいしいものが食べ続けられるって私たちをさそったことを。すべてではないけど、それもあんたのいう本当の仲間になろうと思った要因だからよ」
自分でいってても身もふたもないと気がつたいのか、語尾の方の声は小さくなる。
ここでやっとマルティ=ホクトはカエデが何に引っかかっているかを悟った。
「ああ、なんだそんなことか。それなら心配ご無用。この商会に米の存在やこれらの調理法を伝授したのは、間違いなくホクトだから。そしてこの商会では、米を含む珍しい野菜や果物、肉などの味付け用の供給には僕らが一役買っているから。つまりオリジナルは僕たちの方で、嘘はいってないよ」
「そうなの?」
「そうだね、あんまし詳しくはいってなかったけど、ここの総支配人、『カメヤマシャチュウ』の代表は僕たちの仲間といったの覚えている?あとで紹介するときに話すつもりだったけど、そもそもこの商会を立ち上げたのはホクトとその代表なんだよ。売るものの種類から売り方も含めてホクトとその代表、オリョウさんていうんだけど二人で相談して運営している。たとえばこのレストランだけど、ここで提供されているものは、すべて商会で材料が手に入るものになっている。先に案内していないからわからなかったのもしょうがないけど、この商会で売っている食材は一般的になじみの薄いものばかりなんだ。だから販売促進をかねて、まずは調理したものを広めるという意味で作られているんだ。家庭でも再現できるように料理も比較的調理方法が簡単なものが出されている。そこまで手の込んだものはないはずだよ」
たしかにメニューを見ると品目自体が少なく、マルティたちにごちそうになった中でも比較的簡単そうなものばかりだった。
「それは、そうかも...」
「でも不思議です。イオシスにもこの商会はありましたけど、このようなレストランはありませんでした。売っているものも噂になるようなものもなかったはずです」
「それはまだあそこに出店したのが最近なのもあるけど、このレストラン自体が実験的であるためさ。詳しい状況はきいてないけど、やっとこのレストランも町に少し浸透し始めて、お客が増えてきているところだとおもう。この店で手ごたえを確認して、問題なさそうだったら次は第1支店のミュートラム、その次にイオシスという順番でレストランと売るものを広めていくということだったんでね」
マルティの話はよどみなく、理路整然としていて、カエデの突っ込める部分はなかった。
「なっとくしたら、さっさと食べる方がいいにゃ。なんにしても料理は出来立てが一番おいしいにゃ」
我慢できなかったのか、ミヤビが初めてここで口を出す。
なるほどと姉妹はうなづくよこで、いつのまにかマツリはひとり食事を初めていた。
二人の戸惑いなぞ、どこ吹く風である。
「ミヤビの言う通りだ。温かいうちにいただこう。そのあとでオリョウさんを紹介するから」
それはそうかもと納得しかけて、もうひとつ問題があったことをカエデは思い出す。
「これはこれとして、あの冒険者ギルドの騒ぎの理由も知りたいんだけど」
「あれね、あれは単純だよ。いままでさんざんパーティー参加の誘いやパーティに入りたいていう希望者をことごとく断ってきたんで、初めて参入させた理由と対象である君たちに注目が集まったというわけさ」
「初めてって...いっていた本当の仲間というのは、他にはいないってこと?」
カエデがそこだけは声をひそめて確認する。
「この国のひとではね。だから君たちが初なのさ」
そう聞くとなんかすごいプレッシャーを感じる姉妹であった。
あの冒険者ギルドの職員の驚きようと、他の冒険者たちの嫉妬や羨望のまじった視線は、そういうことだったのだ。
そしてなんとなくだけど、ほこらしい気持ちが沸いてくるとともに、数か月前までジリ貧だった自分たちに幸運が舞い込んできたことを実感する二人だった。
★★★
そんなカエデたちのやり取りを、レストランの端のほうでみている人物がいた。
今回特別にマルティの馬車に便乗させてもらった人物、ジョージであった。
かれは諸国を行脚する行商人で、公表はしていないが行商人としての仕事に役立つスキル、ストレージをもっている。
ストレージの容量は700キログラムの重量タイプで、ホクトの分類では(竹)タイプの納めているものの時間経過は1/100で進行するものだった。
生業として行商をしているのは本当だし、『カメヤマシャチュウ』のものも何回かおろしてもらって、海岸に点在する漁師ばかりの小さな町で転売なども行って稼いでいるのも事実だ。
だがジョージにはそれとは別の顔があり、ありていにいえば密偵という職業だった。
彼こそがアカーシャたちサーフライト家の属する密偵集団の「草」であった。
ジョージの普段の役割は、商売をしながら諸国をめぐって国内の噂などを集める、サーフライト家の密偵としては軽い方の仕事を受け持っている。
しかし今回はマルティたちの身辺捜査とターゲットが明確な調査である。
本来その仕事をうけもっていたベルルート、彼ら集団の頭目がアースワンでターゲットと行き違いになり、職務を果たせないとの判断で、急遽割り当てられたのがジョージだった。
アカーシャたちからの情報で、マルティたちの移動速度が異常に早いことを聞いていたため、身辺調査するために同行するにはどうしても一緒に行動しなくては見失ってしまうということが明確だったため、マルティたちに同行するという商人たちに別の所持スキルで暗示をあたえ、顔なじみの行商人と認識させて一緒に移動できた。
調査内容はしごく単純で、冒険者ホクトのパーティ「アンバーチャイルド」の詳細調査や普段の素行、ファーラーンの大型商店「カメヤマシャチュウ」との具体的な関係性を調べることだった。
ホクトのパーティは、頭目のベルルートが家令として仕える家、サーフライト家の長女と次女が今回参入したほかに、事前情報であと三人と大型のゴーレムが随伴していることがわかっている。
錬金術師であるヒューマンのマルティ、猫人であるミヤビとマツリのふたりとなっている。
なかでもミヤビは際限なしのストレージ持ちということで、その大きさは信憑性はとぼしいものの冒険者たちの噂では馬車や2階建ての家屋もすっぽりと入ってしまうらしい。
サーフライト家では、大型のウッド・ゴーレムを10体ストレージより出したことや、新たに作った氷室に家人だけでは数年賄いきれないほどの食材もストレージより出したことがわかっている。
パーティリーダーのホクトについては、もともとファーラーン北部の火山帯で、祖父と鉱物などを採集して生活していたことや、その祖父がもとAランクの冒険者で現ギルドマスターのケビンと昔パーティを組んでいたことや、最近は冒険者として活動していることがわかっているが、能力についてはミヤビの名声に隠れて不明な点が多い。
他のAランクパーティのメンバーと腕相撲で圧勝したとの話もないではないが、どうしてランクDパーティの、それまで目立っていなかったぽっと出の15歳の少年にそのような逸話が出たのかも、10年たった今では不明である。
もう一人のマルティについては、サーフライト家での魔道具生成やホムンクルス生成能力がわかっているが、戦闘能力やその他特技については、こちらもあまり知るものはいない。
このパーティ、調べても不明な点が多々あるものの、一番の不明点はそのパーティメンバー全体を同時に集まっているところを見たものはいないこと、ダンジョンを見つけたり攻略した経緯がありながら、いまだランクDに留まっているのかも謎だ。
ふつう4人程度のパーティであれば、冒険において別行動をとることはまずない。
にもかかわらず町中だけでなく、ダンジョンに入る際にも4人であることを見たものは、冒険者ギルドで軽く調査しただけでもいなく、その理由を知るものもギルドの職員含めいなかった。
ランクDのままでいることについては、リーダーのホクトがランクを上げるためのギルドの依頼をかたくなに断っており、そのつもりがないことまでもが判明している。




