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サイドB-41 サーフライト家の密偵たち

「ふう、なんか予想外のとんでもない方向にいっちゃったわね」


自分たちの現主人であるカエデ・ツバキ姉妹のパーティメンバーになったと紹介されたマルティ達が、短時間で屋敷全般を大改修し、しかもホムンクルスとウッド・ゴーレムをお手伝いとしておいていった嵐のような時間のあと、アカーシャはゲオルクと裏庭でやりとりをしていた。

マルティ一行は今夜も宿泊は固辞してそうそうにかえっていった。

宿泊どころか夕食まで固辞する態度をいぶかしまれたが、ホクト=マルティにしてみたら同伴していた意思のないサブ・キャラのサロモンを接触を少なくさせるために一刻も早く引き上げる必要があり、長居はできないことなどアカーシャたちにわかるはずもなかった。


「それはそうだが、屋敷としては良い方向に進んだ。これからは屋敷維持という些事に多く時間を費やす必要はなくなった。だが、厄介なことはできた」

「そう、あのホムンクルス達とウッド・ゴーレムよね」


マルティたちは好意といっていたが、それにしては置いていったものがすごすぎた。

アカーシャの見立てでは、ホムンクルス達はホクトたちほどあからさまではないが、それでも戦闘能力においてゲオルクと父ベルルートが力を合わせても、三体のうち一体でもどうにかできないという鑑定がでてしまった。

その他の屋敷を維持するという能力が秀逸で、戦闘には特化していないようではあるが、実力的にベルルート一派の眼の上のたんこぶになっていることにかわりはない。

おまけに付属従者として疲れを知らないウッド・ゴーレムたちが、24時間480日ずっと屋敷内の警備してくれる。

それは逆に言えば、屋敷にアカーシャたちの使っている草、密偵たちが出入りしにくくなっていることを指していた。


「あの連中のことをお嬢様たちに聞いてみたか?」

「ええ、アースワンのダンジョン潜航にパーティとして参加してほしいと依頼されて、以後付き添っているらしい。いまは正式にパーティメンバーとして登録されているらしいが。どんな特技があるかまではさすがに穿ちずきる質問なんで怪しまれないようにそれとなくしか聞けていないけど、お嬢様たちも言葉を濁していた。いろいろあるみたいね」


アカーシャはその時の姉妹の反応を思い出す。

ふたりともなんかバツが悪そうに、いろいろすごいことができるよとは教えてくれたが、具体的にはなにひとつ説明はしてくれなかった。

話せない事情があるのか、または突拍子もない内容なので話しても信じてもらえないとでも思っていたのか判別はできなかったものの、アカーシャの直観ではどちらもありそうな気配はした。

最低限得た具体的な情報としては、彼らが提供してくれるご飯やデザートはすべておいしいということだけだった。

ホムンクルス・メイドのパイがお嬢様方だけではなく自分たちにも供してくれる食事をみれば、納得できる内容だった。


「それが、ベルルート様が依頼をうけて調査していた連中というわけか」

「どうやらそうみたい。だれの依頼かまでは教えてもらっていないけど」


ベルルートはこの件の依頼者に関しては、詳細を黙して語らず、アカーシャたちも知らない。

知っているのは外部で活動している草達のリーダー格の者だけだとアカーシャは思っている。

草のリーダーは名前をスマークという、ベルルートの長年の腹心だ。


ベルルートを筆頭とするアカーシャたちのメンバーは、外部の草をいれても総勢9人の小規模な集団だ。

サーフライト家の屋敷ではたらく家令長のベルルート、庭師のゲオルクにメイドのアカーシャの他に、屋敷外で活動するスマーク率いる6人だ。

彼らはサーフライト家だけに仕える密偵集団だった。


サーフライト家は代々多くの騎士団長を輩出してきた、騎士に特化したノースランドの名家である。

代々のイオシス騎士団長をつとめるなかで、密偵に特化した部下を使って簡単な諜報活動をさせていたのが、自然部隊となり独立したものだった。

経緯の詳細は語られなくなって久しいが、密偵部隊が形成されていくなかで、イオシス騎士団所属というよりもサーフライト家出自の団長専属という色合いがだんだんと強くなり、ある代で団長職が別の家に移った際に独立部隊の密偵集団は引き継がれることがなく、そのままサーフライト家に属する集団となっていった。


密偵というだけあって、諜報活動に有効な陰行や鑑定、隠密に特化したスキルを持つものが多く、確実に情報は持って帰る為の武闘訓練はされたものの集団だった。

長年サーフライト家に仕えてきた集団で、その存在は噂程度にしかイオシス騎士団ではしられておらず、代々当主が変わるたびに引き継がれてきたのだが、この代でそれは破綻してしまった。


前当主であったウィステリア・サーフライトが急死してしまって引継ぎがなされなかったこと。

そもそも騎士団に所属できる男子に恵まれず、イオシス騎士団とサーフライト家の関わりが途切れてしまったこと。

密偵集団の資金源であった団長としての資産をウィステリア・サーフライトは慈善事業に投資しすぎて、彼らだけでなくサーフライト家の資産さえ枯渇してしまったことである。


この家の実子であるカエデ・ツバキ姉妹は、そもそもベルルートを家令長としか認識しておらず、密偵集団などと想像もしたことがない。

ウィステリア・サーフライトの死後、そのまま解散でもよかったのだが、もともとがサーフライト家に忠誠をちかって活動していた軍人気質の人間が多かったことやそれ以外に道を選ぶ気もない者たちばかりだったため、いまではサーフライト家存続のために働く集団とかしている。

かといって密偵しかできない集団である。

その能力とそれまでの裏の社会のつながりを生かして、依頼を受けて諜報活動をして資金を得ることで、サーフライト家を維持しようとする集団へと変貌していた。


かれらの望みは、カエデ・ツバキの二人がよい両人を見つけてもらい男子をうませ、サーフライト家の騎士団への復活および騎士団長の誕生であった。

その日までは家を守るために、自分たちがこの家をまもっていくと誓ったのだった。


「それにしても父も空振りで遠出してるところにターゲットがお嬢様たちとうちに来るなんて予想外だったわ。しかもあんな豪奢なゴーレムが引く馬車にのって。それだけは聞けたのだけれど、あの馬車2日でアース・ワンからここまできたそうよ」

「2日?ほらがすぎないか?われら単身で寝ずに強行しても5日間がやっとだぞ」

「間違いないみたいよ。野党にあっても余りのスピードに襲う暇もなく、慌てて追っかけられてもすぐ後方に消えたとカエデ様が楽しそうに話されていたので」

「本当か....」


次の言葉をなくして、ゲオルクは黙り込む。

庭の低木をハサミで選定していた手がとまった。


「父が帰ってくるまで屋敷の整備やら使用人の追加やらで時間稼ぎできると思ったんだけど、それも今日のあれで瞬く間に終わってしまったしね。2~3日後にはファーラーンにむけて出発するらしいわ」


アカーシャは今でも昨日自分が見た光景を忘れられないでいた。

目の前で瞬く間にさびれた家屋が復活していく様や、見たことも聞いたこともないような高機能の魔道具を活用した氷室がわずか数時間で完成してしまったことに。

外壁は目立ちはしないが柵壁よりは頑丈な壁に作り変えられ、家屋はおろか家屋内も壁・絨毯・家具にいたるまで新品同様に復活してしまったこと。

なぜか棚に収められている食器類まですへでぴかぴかになったこと。


足りない人員は、万能ホムンクルスというメイド三人に、無限動力を宿している10体のウッド・ゴーレムを供されることで、解決してしまったこと。

それらがわずか1日半で解決してしまった。


資金面に対しても、それらがほぼ無料で供されただけでなく、お嬢様方の冒険者としてかせいだ資金も数年は持つ現物が支給され、かつ大改装された氷室にもなぜか大量の食材が格納されているという、地獄から天国状態になっている。


「止める理由がないから、これ以上こちらで彼らを継続して調査できなくなるし、ファーラーンへだれか随伴させた方がいいかしら。...どうしたの暗い顔をして」


アカーシャの提案に先ほどから考え込んで反応のなくなったゲオルクにといかける。


「いや、依頼は依頼じゃから、調査継続のために随伴員を用意するというのはよいと思うのだが...なんというか、わしらの目論見や正体など、あの御仁たちはわかっているのではないかな?」


めずらしく気弱にはなすゲオルクに怪訝な顔をアカーシャはむける。


「あの大型狼ゴーレムといい、馬車の性能といい、氷室や建物の修復速度といい、なにひとつわしらの想定だにしない産物ばかりじゃ。どうも器がちがうというか、わしらの手におえん相手じゃなかろうか。わしらが彼らに関心があることなどとっくに見透かしていて、それでもあえて気が付かないふりをする、いやひょっとするとわかってても些事と気にもかけていないかもしれん」


気が付いているかどうかはわからないが、自分たちのことを歯牙にもかけていないと感じる部分については、アカーシャもうすうす感じていた。

ただしそれは敵対する相手としてではなく、カエデ・ツバキを含むサーフライト家を身内と思ってるような誠意ある対応なのだ。


「仮にそうだとしても、依頼を途中で辞めることはできないわ。依頼主が誰であれ、完遂しないと今後にひびくもの。用意だけはしておくわ」

「まあ、そうだな」


ホクトにしてもマツリにしても、アカーシャやゲオルクがある程度の武術のたしなみがあるにしても、何か自分たちに含むところがあるとは夢にも思っていなかったので、これは二人の杞憂に過ぎないのだがそんなことは接触した期間が短いため、お互いの思惑などわかるはずもなかった。


「まあついていけるとなると、人員は限られているがな。連絡はして準備してもらっておこう。それにしてもベルルートさまは、いつわしらのことを両お嬢様にお話になるつもりかのう」


それこそがいまのねじれたような状況を作りだしているのは事実だが、アカーシャもその答えはもっていなく、だまってその場を去った。


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