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サイドA-48 祀(まつり)も特訓

「マツリ、おちついて。ちゃんと説明するから、僕の話をまずはきいて」


混乱しているマツリに、ホクトはなるべく優しい声で話しかける。

ホクトの背後にはミヤビの姿もあった。

ホクト一人の方が警戒が薄かろうとは思ったが、本気で暴れられた時に対応を手伝ってもらうためだ。

なにせマツリもミヤビと同じレベル5000だ。

ヒューマンにしてはレベルが高いとはいえ、いまだレベル3000に到達していないホクトだけでは抑えることは不可能だった。


おもえば同居生活が長かったとはいえ、ミヤビの場合は素直に話を聞いてくれたからよかったものの、はじめて従者憑依させたその当時はレベル1000しかなかったホクトなど、暴れられたら大けがを負っていたかもと、いまさらながらにぞっした。


だが、マツリの混乱はミヤビにくらべて想像以上に大きく長引きそうでもあった。


「マツリ?それはうちの名前かにゃ?はなしって何にゃ、いやお前誰にゃ。敵?味方?というか後ろの黒い奴は何にゃ。こわいにゃ。わけわからないなゃ、なん何にゃ、なにがおきてるにゃ、あー嫌にゃ、帰りたいにゃ、おうちに帰りたいにゃーー」


落ち着かせようと思えば思うほど、あばれるマツリにほとほと手を焼き始めたころ、ミヤビがすたすたと混乱しているマツリに近づくと、げんこつで頭を一発ぶったたいた。

ゴチンと効果音がつきそうなほど、はっきりと音がする強烈な一発だった。


「痛ったー」


レベル5000の防御力をもってしても、ミヤビのそれは相当いたかったらしい。

たたかれた頭を抑え込んで、うめいた。


「痛かったかにゃ?そう感じるなら、これが現実と認識するにゃ。痛いのも現実、おしゃべりできるのも現実、二本足でたっているのも現実にゃ」


頭をおさえつつ、おそるおそるミヤビの方を見上げる。


「すぐには理解できないかもしれにゃいが、そこに立っている人間の男がうちらのご主人様にゃ。まだ日が浅くて覚えてないかもしれにゃいけど、おまえがちょっと前に移動してきた新しい住処で餌をくれている人間にゃ」

「餌をくれてる...」


こんどは北斗の方むいて確認する。

容姿が異なるのはやむを得ないが、それでもマツリはそれが餌をくれている人間とはじめて認識した。

ミヤビをはじめて従者としたとき、彼女はホクトにそういう事実であることだけ理解してくれた。


北斗の容姿の違いは現実とこの世界であるのだが、それは実はミヤビにとってはどうでもよいというかそもそも人間の顔を認識できる能力は現実世界の猫にはできず、声質や臭いで餌をくれる同居人としてだけ認識しているらしいので、容姿の違いはまったく問題にならなかった。


ただ声質も体臭も現実世界とは異なるため、そこだけは混乱したらしいのだが、馴れてくると雰囲気やしゃべり方等が似ているその一点だけでミヤビはホクトを現実世界のホクトと同一視したのだった。


「そうにゃ。そしてこのいまお前がかんじている色々違う環境においても、ホクト、主人の名前だが、は餌をうちらにくれるにゃ。しかもあちらの世界ではうちらが絶対に食べれない、いろんなおいしいものも食べさせてくれるにゃ」

「絶対にたべれないおいしいもの?」


餌の話をしたせいなのか、目に見えてマツリはおとなしくなった。


「それだけじゃないにゃ。うちもそうだがお前もすんごい能力を持っていて、それを活用すればすんごい狩がたくさんできるにゃ」

「狩?狩ってなんにゃ?」

「狩は狩にゃ。あっちの世界でも虫とかネズミとか捕まえたことあるにゃ?」

「うーん、それはまだうちが小さいからかもわからんが、やったことないにゃ。楽しい事なのかなゃ?」

「楽しいにゃ。猫ならだれでも大好きなはずだにゃ」


それは個体によるんじゃないか?と背後から心の中で突っ込みをいれるホクトであった。


「本当にたのしいのかにゃ....。うちは餌の時間までおとなくし寝ているほうが楽しいような気がするにゃ...」

「まあ人それぞれだけど、せっかく優秀な能力があるんだから、ひとまずやってみないか?俺やミヤビがいろいろとやり方を教えるし、もともとその体に備わっている能力だから、すぐに使えるようになるよ。その過程で狩で得たものはほとんど食べれるものだし。鳥系のものはとくにおいしいよ」

「とり!!鳥がとれるのかにゃ!」

「鳥だけじゃないにゃ。魚も牛もイノシシもドラゴンもオークも取れるにゃ。それににゃ、こちらではうちらがあちらの部屋で食べれないデザートていうおやつも食べ放題にゃ」

「おやつ!?あのちゅるちゅるした奴かにゃ?」

「あれもおいしいが、こちらのはもっと豪勢なものが、たくさん食べれるにゃ。...例えばこれなんかどうにゃ」


ミヤビは自分のストレージから洋菓子をひとつ取り出した。

素朴で定番だが、ミヤビも気に入っているマドレーヌであった。

ミヤビより手渡されたそれを、怪訝そうに臭いを嗅いで、恐る恐る一口かんだ。

怪訝な表情は、一瞬で驚愕の表情へと一瞬でかわり、残りもすべて口に放り込んで咀嚼・嚥下した。


「なんなんにゃ、これは。びっくりにゃ、知らない味にゃ、でもとってもすきだにゃ」

「そうにゃろう~」


得意げにミヤビは続ける。


「でもこんにゃのは序の口にゃ。主人、ホクトについてこの世界で冒険すれば、もっとたくさんの味のおいしいものが、いっぱい食べれるにゃ」

「ほんとかにゃ?ついていく、ついていくにゃ!」

「ついていくだけじゃダメにゃ。ちゃんとご主人のいうことをきいて、狩を頑張るにゃ。そうすればおいしいものたくさん食べれるにゃ。な、ホクト主人」

「そうだな。すべて美味しいかどうかは約束できんが努力はするよ」

「わかったにゃ。頑張って狩りするにゃ。そしておいしいものいっぱいもらうにゃ」


猫のことは猫が一番知っているということか、とミヤビのフォローに対して感謝のホクトであった。


★★★


それからは香澄と同じように、第19階層でマツリの特訓を始めた。

特訓といっても、それも香澄同様もともと持っている能力を自在に使えるようにする訓練だった。

加えて心理的にも、魔物に対峙できる感覚をつける為の工程だった。


猫ゆえの特性か、徒手空拳である『秘拳「月夜見闇透拳」(皆伝)』については、あっさりと使えるようになった。

この拳は普通は対ヒューマノイド系に特化しているため、魔物相手には使えにくいのだが、そこはミヤビ先輩の指導の下、突進系の魔物をぶん投げることに応用して訓練した。

ダンプカー並みのイビルボアを突進する力をそのまま投げに転換して、半円をかいて投げて地面にぶつけるさまは、みていてほれぼれするホクトであった。


ミヤビ同様メインウェポンの短剣を使う武技については、なれるまで相当時間を費やした。

もともと猫は道具を使う生物ではないのが影響しており、本能的に自分の身体で戦おうとしてしまうためだった。

これは過去にミヤビが従者としてついたときにも経験していることで、現実の猫の特性を引きずっているというか本質はなかなかかえられないのはしょうがないことで、数をこなして馴れてもらうしかなかった。

馴れてしまえば武技はスキルなので体が自動的に反応するようになるため、100パーセント使いこなせるようになる。

マツリも第19楷層での三日目ごろにそれを獲得した。


やっかいなのは、空間系の『次元魔法群(極)』を教え込むことだった。

そもそも現実世界の猫は次元とか時間とかの概念が全くない。

その概念を教えようとしても、まず理解ができない。

ホクトもさんざんミヤビに対しては概念から教え込もうとしたが、努力むなしく失敗に終わったため、ホクトは使い方だけをおしえる方向にミヤビのときも転換した。

方法といってもホクトがつかえるスキルではないため、事象だけの伝授となった。


つまり、ここを覚えておくマーキングをスキルによってすれば、つぎはここにとんでこれるとか、その転移には連れていきたいパーティメンバーを想定すればよいとか、この能力では厚い壁をすり抜けることができるとか、とにかくできることを事細かに説明して、それが自分にできる能力があることをつづけた。


この世界においてひとつだけ猫たちに厄介なことは、自分たちが理解や想像もできない事象であっても、すくなくともその結果の内容だけは理解しないとスキルとして結びつけができず、発動できないということだった。

原理は理解しなくてもよいが事象は理解する必要があるのだ。


この教育はホクトも大変苦労したのだが、今回はミヤビのときと異なりマツリには見本となる実習がそなわっていた。

つまりミヤビが実演して見せることで、理解がしやすかったのだ。


最初はなんで、どうしてと戸惑っていたマツリではあったが、いろいろ使えるようになると、楽しくなったのかたとえば休息用の建物内でも2階から1階へ短距離転移を使うようになる。

馴れてくれることにはうれしい反面、ホクトとしてはこの世界でも珍しいスキルの持ち主の不利をなくすため、自分たち以外の人間がいる場合には、多用しないよう自制も教え込む必要があった。

マツリはどちらかというと、ミヤビに比べて楽観的で、どうもその教育内容は響いていないようだった。


かくして第19楷層で2週間修行したマツリは、そこそこのレベルで自分の能力を活用できる人材に成長した。


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