サイドA-47 祀(マツリ)
ある休日の夕方、北斗の部屋に新しい住人が訪れていた。
住人というか住獣と表現した方がよく、訪れるというよりは北斗に連れられてきたといった方が正確だ。
もっというとそれは猫だった。
「さあ、ついたぞ。ここが新しいお前のお家だ」
北斗はそのあたらしい住人、子猫のはいったキャリーケースをリビングに置いた。
先住の猫がいるところに、いきなりフリーにするのはトラブルのもとで駄目だと、購入したブリーダーより聞いていたから、ゲージはあけずそのままだ。
まずはゲージ飼いになる。
ゲージ内の子猫は白と茶色の子で、足は全体的に若干短かった。
眼は独特の丸い形をして、全体の印象として温和な正確だ。
マンチカンとよばれる種類の猫で、いまは見知らぬ部屋に来たばかりでおとなしいが、基本好奇心が強くてやんちゃな性格をしている事が多いらしい。
普段は主人が帰宅しても飯時以外は寄ってくることのない雅が、何事かと寄ってきた。
「雅、前に話していた新しい仲間の祀だ。仲良くよろしくな」
雅は北斗の言葉に、みゃーと返した。
そして興味深そうに、新しい住人をゲージの外より眺めた。
北斗はそんな雅の様子をみて、先日の「ニューアンバーソメイユ」内でのことを思い出していた。
それは香澄に第79楷層を紹介して、拠点兼宿泊用に作ってある平屋の部屋数が40もある日本家屋風の大豪邸にて、夕食をとっている時のことであった。
ここでの食事の用意はちょっと前まではダンジョンマスターの補佐役であるタクミが面倒見てくれていたのだが、この頃はサブ・キャラで錬金術師マルティの能力で作り出した少女タイプのホムンクルスが、北斗たちが訪れた時に対応してくれているようになっている。
名前をタウという。
給仕らしくマリンブルーのメイド服にやつした黒髪の少女は、見た目は幼くはかない印象を受けるが、そこはマルティの錬金術で生み出した疑似生命らしく高性能で、普通に会話や掃除・洗濯・料理など家事全般ができるだけでなく、主人に従順に仕えるという分別も持ち合わせていた。
能力はそれだけにとどまらず、戦闘能力と防御能力に秀でており、レベルも1200相当という、並みの冒険者では束になってもかなわない力量の持ち主であった。
得意な獲物は槍と棒で、マルティが実験的に魔法付与しまくっているメイド服を着ていることでレベル以上に能力が底上げされており、十分冒険者パーティメンバーとして随行できる能力があった。
夕食はこの層の海に生息させているブリのような青魚の切り身の塩焼きに、ホクトたちが第19階層で狩ってきたリーフ・ジャンク・ドラゴンの霜降り肉ステーキミディアムレア、コカトリスの身と骨からとった出汁に牛乳とコーンを使ったスープに色とりどりの新鮮野菜サラダだ。
当然のように白米はお膳にのっている。
今夜のはコシヒカリ(新潟-魚沼)だ。
ミヤビは飲まないが、ホクトとカスミは辛口の日本酒もご丁寧に徳利とぐい飲みというかたちでそえられていた。
ホクトを含むサブ・キャラたちはパッシブスキルで常態異常回復を持っているため、基本的には酔うとすぐに快方に体が自動的に対応してしまうのだが、酒の香りや味は楽しめるので、つけ添えにしている。
「ミヤビ、相談がある」
「なんにゃ?改まって」
食事後半で、そろそろデザートの果物と生クリームがたっぷり乗ったプリンアラモードとコーヒーが出てくる段階で、ホクトは唐突に話始める。ちなみにコーヒーについては、やっと最近実が収穫できて収穫が始まったところだった。
焙煎がうまくいくか心配だったが、そこはなんと魔物解体のスキルを使うことで簡単にできてしまっていた。
コーヒーなどもダンジョンで取れる対象なので魔物扱いらしい。
「さっきカスミ姉に話していた件なんだけど」
「ああ、今行っている大樹海の探索にカスミを加える件にゃ?」
「そうそれ。カスミ姉も加えるけど、具体的には探索チームをもうひとつ増やそうと思ってる。その方が効率よいしさ。でそのチームわけなんだけど、ミヤビはしばらくカスミ姉と一緒に行動してほしい」
「なんでにゃ?」
「カスミ姉はまだこの世界に疎いし、勝手もミヤビの方がしっているから、不測の事態のときに対応できると思って。わかるだろうけど、あの森に一人で挑むのは、いくら僕たちでも危険が全くないとは言えないし。拠点へ帰るためにもミヤビの空間移動能力は必要だし」
「分かったにゃ。でもマルティはどうするにゃ?それこそホクトの分身になっててレベルも相当高いけど、緊急対応としてはおんなじことがいえるにゃ。だけもフォローがいないにゃ」
ミヤビの言い分はもっともであるが、ホクトは回答をもっている。
「ここからが相談なんだ。お願いといってもいいけど。マツリをミヤビと同じように自立して動けるようにしたいんだ」
マツリとは、ホクトがガチャで引き当てたサブ・キャラで、容姿以外のスキルもレベルもミヤビと全く同じ猫人だった。
つまりミヤビと同じ固有スキル『次元魔法(極)』LvMAXをもっていた。
「マツリをミヤビと同じように意思のあるキャラにして、マルティとペアを組ませたい。もちろんカスミ姉があのキャラとこの世界に馴れてきて、心配いらないと判断したら、ミヤビはまたマルティと行動を共にしてもらっていいんだけど」
「それは構わない...ちょっとまてにゃ。どうやってうちみたいに自律的に活動させるにゃ?」
「それは、つまり...もう一匹猫を飼ってもいいか?ということなんだけど」
おそろおそろホクトが口にする。
現実世界の雅の日常生活にとってデリケートな内容とわかっているからだ。
犬は群生の生き物に対して猫は孤高の動物と北斗の認識がある。
なわばりの認識が、家猫とはいえないこともないだろう。
この世界の冒険に必要だとしても、現実世界の雅が本能として受け入れられるかどうかは、北斗にはわからず自然うかがうような口調になった。
「それは、北斗とうちのすむあの部屋に、もう一匹住人がふえるといってるのかにゃ?」
「まあ、端的にいえば、そういうことになるかな」
ミヤビはここで、デザートのホークをおいて珍しく考え込む様子をみせる。
「それはどんな子を受け入れようと思ってるのかにゃ?」
「どんな子?ああカスミ姉のことで思いついただけなんで、具体的にはこれからだけど、マツリが茶色の猫人なんでそれには合わせようとおもっているけど。あとめぐりあわせにもよるけど、比較的幼い子を探すかな。離乳はしてもらっていなくてはなせないけど、あんまし歳行ってて老い先短いのもなんだと思うし」
「ちょっと聞きたいことと違うんにゃけど...えーと、雌にゃ?あとおとなしいタイプにゃ?」
「性別ね。マツリも女性なりで雌を買おうと思う。性格は個体単位で違うんで確約はできないけど、希望なら種族的におとなしい種類ももえらべはそうなるかなと」
「ならマンチカンなんかどうだ。突然変異で生まれた種類らしいけど、人懐っこいが大人しめの種類だと猫好きの友人から聞いたことあるよ」
カスミが二人の間に入って助言した。
ホクトの言葉を受け、ミヤビはその種類を選んでくれることを条件としてあっさり了承した。
「ただし、ちゅるちゅるおやつひと月くれることも約束にゃ」
条件もしっかり忘れないミヤビであった。
★★★
「なんにゃの、なんにゃのよ、これは。あたいはなんで喋れてるんにゃ。なんで二本足で立ってるにゃ。というかここどこにゃ。あたらしいおうちにいたはずなのに、ここはなんで森の中なのにゃ」
2匹目ではあるがおきまりというか、ホクトにとってはしごく普通の反応の二回目で、自身の感覚の変化や状況の変化に、ストレージから顕現された瞬間にマツリは喚き散らしていた。
ミヤビも自分の経験から当然の反応と、マツリの反応にうんうんとうなづいている。
本人にいわく、あそこまでは騒いていなかったとホクトに同意をもとめたものの、それに関しては火種になりそうな予感でノーコメントを貫いたホクトだった。
マツリが北斗家につれてこられて3日後の夜、北斗はマツリをお決まりのスタート画面にて、サブ・キャラ「マツリ」に従者憑依機能を用いて割り当てた。
ホクトにとっても想定外だったのが、祀は北斗と一緒にベッドで寝ていなかったにもかかわらず、オープニング画面で設定可能対象になっていたことだ。
雅や香澄と同じく設定対象はマツリに限定されているところも同じだった。
雅と祀の距離感を縮めるため、扉で仕切った部屋で祀を自由にさせたり、寝るときにもゲージにいれて寝室において寝たりしていた。
お互いに存在を認識させようとしたところからスタートさせたい北斗であった。
祀をいれたゲージを寝室には置いていたが、ベッド側ではなく同室というだけだった。
だが「アンバーソメイユワールド」は、それでも同行者と認識したのだ。
それは距離なのか、はたまた同室というくくりなのかは不明だっだが、すくなくともベッドに一緒に寝なくても同行は可能そうだということはわかった。
これは大発見だった。
こんどから香澄があちらの世界に同行するつもりで泊りに来ても、いっしょのベットで寝なくてよいということになる。
姉が同衾するというストレス、いや微妙な感覚は今後受けなくてよくなるのだ。
(これだけでも祀を飼った買いがあるというもんだな)
北斗はひとりごちて、混乱するマツリの説得を開始した。




