サイドA-45 お米やリンゴやイチゴは
「第79階層をこんな風に改造した当初は、とにかく生成リストにある食べれる植物や果物、麦と大豆みたいな豆とか、野生にあるリンゴやイチゴに似た物とかを頑張って作ってたんだ。あと菜の花はリストにあったんで菜種油のために群生させたりしていたけど。他には海も配置して大規模な塩田を作って塩を大量に作っていた。ほんとうは砂糖も欲しかったんでサトウキビを作りたかったんだけど、それは生成リストになくて無理だったから、天草に近い野草を菜の花同様群生させて効率悪いけど砂糖っぽい風味の調味料もちょびちょび作ったりしていた。そんなこんなをしているうちにさ、ある種の生成リストの品目がいつの間にか増えていて、その中に米とかリンゴとかあったんだ。どうもいろいろ作り続けたことで生成レベルが上がったらしく、その過程でつくれるものも増えていたみたいなんだ」
「ほう、ダンジョンが何かしらの形でレベルアップというか、進化したと」
「いや、説明はしょっちゃったな。ダンジョンの生成物ではなくて、サブキャラのスキル『種子生成』でできるものが増えていたんだ」
北斗は農耕に即した能力をもつサブキャラ、マーガレットとジョセフィーヌについて、簡単に香澄に説明する。
今回北斗が説明したのはジョセフィーヌの能力についてだった。
ジョセフィーヌの『植物育成促進にかかわる魔法(極)』はレベルMAXで、それ自体はもう成長の余地がないと思っていたのだが、生成できる種子や苗については、うれしいことに進化するスキルだったのだ。
このダンジョンで農耕を当初より任せていたのだが、その過程でたくさんの種子や苗を生み出しているうちに、スキルとしてのレベルが拡張したようなのだ。
スキルMAXの能力としてはいくら経験を積んでもあがることはないはずなので、魔力で何万と生み出している過程で、そのような変化が起きたものと北斗は想定した。
生成数とそれに伴う使用魔力量の総量で相乗的な要素もあったかもしれないが、とにかく生成できる種や苗の種類が徐々にだが増えていった。
最初に生成できるようになったのは、米でいえばあきたこまち(秋田)とさがびより(佐賀)、イチゴでいえばあまおうとさがほのか、梨は幸水、リンゴはサンフジと王林だった。
ほかにははくさいと大根、万能ねぎにバナナ、ビワとイチジク、柿だった。
これらが生産できるようになり、さっそく第79階層にて育て始め、生産できたことに喜んでいた北斗であったが、なぜに産地によって特色のある野菜や果物が、それらの特定された産地のものだけ、しかも米なんて県名まで伴ってリストに出るのか、不思議だった。
どうして米やいちごという汎用的な生産名称ではなく、日本国の地域的な限定がされたのか?
「でもね、すぐにそれは思いついたんだ。なぜそんな選択肢が生成リストに表示されたのか」
「いや、皆まで言わないで。ビワとイチジクが出た時点で分かったから。普通の人はあんまし好みには出ないけど、あんたなら大好物ジャン」
「そのとおり、ご明察だね。そう、普段から俺が食べている種類や銘柄ばかりだったんだ」
北斗は気が付いた。
種子生成リストにあるのは、普段から自分が好んで食べているものと、近場のスーパーでよく手に入る銘柄だったのだ。
もっというとお手頃で手に入る、銘柄だった。
同じスーパーには米に限って言えば魚沼産コシヒカリや北海道産ゆめぴりかだって販売している。
ただしそれらは北斗が買っている銘柄よりも少し高い物ばかりで、購入していなかった。
イチゴに関して言えば栃木県産とちおとめも普通に売っているが、味が余り好みでないため、味重視のあまおうや小粒だけど価格がお手頃なさがほのかを購入していた。
「それに気が付いてから、種類を増やしたいものについては、いろいろ試すようになった。現実世界で北斗としてどれくらいそれらの食が常態化すれば種子生成リストに現れるか不明だったんで、手探りで購入して食べまくったけど」
お米はだいたい20日間食べ続ければ、生成リストに追加された。
他のものも総量というよりは、食べ続ける事が生成リストに乗りやすい傾向をつかんだ北斗は、毎日いろいろな種類のものを並行して食べ続けた。
生成リストに載るものは質も関係あるかもしれないからと、金銭的には厳しかったが同じ銘柄でも産地から取り寄せたり、高級店で手に入れたりして、食べ続けた。
「そのおかげか、懐はだいぶ痛かったけど、この世界でできるのは高級品と呼ばれるクオリティのもばかりが作れるようになった」
「ふーん、そりゃまた豪勢なことね」
香澄も感心しながら聞いた。
三人は速足でかるく1時間は歩いていたが、畑は一向に途切れることがなく、先も途切れることなく続いている。
「いったいどのくらい続いているの、この畑は」
「ちゃんと測ったわけではないけど、畑も田んぼ1町(1ha)の単位を基準に作っていて、それが現在だいたい1000ぐらいかな。作物によって単位面積当たりのとれる量とか異なるし、穀物を中心にしてることもあって偏差はあるけど」
「現在...ということはまだまた増やしているのか?」
「面倒を見れる範囲で増やしていこうとはおもっているよ。まだまだ余裕だけどね。ダンジョン生成の方が時間がかかるだけで」
「面倒は誰が見ているんだ?」
「土地整備に関しては、ダンジョン・マスターのエギルに。植樹と育成、収穫については先ほどいった若草姉妹キャラに任せている。畑で働いているゴーレムのコントロール生成と命令、収穫物の保管を、かな」
と、北斗は畑でわさわさと動いている小型のウッドゴーレムのをさした。
「若草姉妹?ああなるほど『若草物語』か。じゃあエリザベスとエイミーもいるのか」
「うんにゃ、まだ現れていない。でもたぶんだけど、同じような能力でそのうち引き当てそうな予感はしている」
香澄だからすぐにその発想にたどり着けたんだね、と北斗は喜んだ。
現実主義の長女・綾子であれば、その想定は全く出てくることもなかったなと思う。
「それにしてもなんでダンジョン内でこんなことしているの?聞いた限りでは二人の能力を使えば地上でも同じことができないの?きけば地上にはまだまだ未開の土地もたくさんあるみたいだし」
「それはね、いろいろな意味で利点があるからさ」
北斗はとくとくとその利点を説明した。
・ダンジョン内であれば気候の変動がなく、水も都合つけやすいため、作物を育てるのに都合がよい。
・疫病や魔物等の被害も考慮しなくてよい。
・若草姉妹の神がかった能力を、白日の下にさらさなくてよく、権力者達の目に留まらないようにできる。
・ダンジョン・マスターのエギルの操作によって、栽培促進の土地質をずっと維持できる。
・ダンジョンの特殊効果により、作物や樹木の成長速度をコントロールできる。
「土地質をずっと維持できるとは?」
「その言葉の通りだよ。田んぼや畑に限るけど、普通作物を同じ場所で同じものを作れ続けると、いわゆる連鎖障害とよばれる問題が起きる。ジョセフィーヌの能力には、この土地の性質を改善できるスキルもあるんだけど、それと同じことがダンジョン・マスターのエギルの操作で一気に広域に可能なんだ。だから土地質の保持はエギルにまかせて姉妹たちにはこのことを考慮なしに同じ畑に同じものをずっと作り続けるよう指示してある」
「なるほど、それは確かに便利だね。あと成長速度コントロールというが、これは?」
「これもジョセフィーヌがもっている、成長促進能力をエギルならダンジョンの魔力を使って全域で促進可能ということだよ。ほら、ダンジョンって魔物や植物などの生物というか有機物、地面や空、迷宮なんかの無機物も魔力で生成したりするんだけど、おなじ要領で畑や田んぼについてもそういう属性を魔力でつけて植えられた植物をあとはダンジョンの一部と認識させることが可能でね。たとえばお米なら普通は苗から収穫まで4ヶ月かかるんだけど、ここでは2週間程度で収穫できてしまう。ジョセフィーヌは苗から生成できてしまうので、作付けや刈り取りを考慮しても3週間あれば全行程こなせちゃうんだ」
「3週間...ちなみに8種類だっけ?お米はどれくらい作っているんだ?」
「いまはひとつの種類で2町づつ。1町あたり一回の収穫が約5トンだから、3週間で5トン×2×8種類で80トン。この世界の1年は480日だから、一回の収穫が20日単位として、24回まわるから、年間で約1700トン収穫可能だね」
現実世界では最近米の価格が高く、ちょっと興味があったので最近調べたばかりだったのだが、それでは1700万トンとかいう数字を香澄は覚えていた。
それに比べれば1/10000と全くもって少ない量ではあるが、この世界には住人も少なく、しかも主食は麦や芋である。
北斗の周辺のサブ・キャラに対してだけでは、あきらかに作りすぎている気もする。
それに弟はまだまだいまから田んぼや畑を増やす気満々である。
今後はもっと石高も増えていくだろう。
「あんたさ、それ食べきれる量なの?」
「えっ、食べきれるかって僕たちだけで?サブキャラ全部出したって、消費は到底できないよ。このダンジョンの外にある町の人口でもまったくね」
「だと思った。じゃあどうするの?時間経過なしのストレージに格納して、増えていくのをニヤニヤしながら眺めるために、ここまでやっているの?」
「それはね....商会を作って、商売をはじめるんだ」




