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サイドA-43 北斗のゲーム性癖は....

三人は1週間かけて第19層を満喫した。

海底をわたってのショートカットを度々行ったため、実際はもう少し短縮できたのだが、今回はカスミのキャラへの馴れを目的としていたため、たくさんの魔物となるべく遭遇するよう動いた結果だった。


カスミは武器のレベルを下げたおかげか、魔力をゆるく込めた程度で『神聖魔道剣術』の剣技も発動できるようになってきた。

まだそれほどの相手ではないということなのなのだろうが、ふるった剣が残像のように増えていき、一度に5~6本に増えてそれぞれが独立した動きをして魔物に襲い掛かるのは見ものだった。


技の名前とかはないそうだが、カスミは勝手に「神聖魔道剣術-多殺刃」と名乗っていた。

剣がミスリルなので、魔力と親和性もよく、キャパは不明だがカスミの感覚では少なくともあと20~30倍程度の魔力を込めても問題いと判断した。

そこまで発動するほどの相手はいないが、今度魔物の大群に遭遇したら、発動させてみてもよいと感じた。


「にしてもなんだな、やっぱり北斗が考案したダンジョン階層だな」


カスミが第19層をクリアして、第20層を走破中につぶやく。


「たった一週間だが、相当な魔物を狩れた。それはそれでいいんだけど、素材になるものがすべて食べれるものばかりだ。しかもドロップ品が10倍になるスキルだっけ?あれのおかけで、あたしたちのストレージにはそれぞれ数トン単位で肉やら牙やら皮が収まっている。魔石だけでも小~中クラスで1000個弱だぞ」


飽きれたようにミヤビつぶやいたのだった。

カスミは弟の生産系でのゲームの癖をよく理解していた。

癖というよりは性癖に近い。


北斗はそういったゲームの中で必ずといってよいほど料理を生成するための食材や武具や乗り物製作用の鉱物、薬の材料になる薬草や建築用の木材や粘土、はては食材を作り出すための植物や木の種を、限界を越えて採集しまくるのだ。

なのでストレージサイズはいつも限界まで広げて、それで足りない分は格納箱や格納庫を無数に生産して並べており、それが設置限界値になっている場面をカスミは何度もみている。


ゲームとしてはすでにコンプリートしていて、もう起動もそれほど必要ないのだが、北斗は度々起動させてはそういった倉庫を見回って自分の収集成果を見回っては、悦に入っているのだった。

そのうちゲームの抜け道を見つけては、収納箱を増やしてまだまだ収集物を納めたり移動させたりと、一体何のゲームかと思うくらい収集物の整理に時間を取られていたりする。


第19層の魔物にしたって、カニや牛、大蛇やイノシシ、サメやブリ、オークや亜竜といったファンタジー限定のものもあるが、どれもこれもが食べれるものばかりである。

ファンタジーでは定番のゴブリンやトロル、オーガや小さなウルフがこの層にはいない。

食べれないからだ。


「みごとに食材に限定された魔物ばかり。しかもそれが集団で間断なく襲ってくる。ゲームバランスとしてありえないぞ」


しかもこの世界は、ゲーム機内ではなく夢の世界かもしれないが現実である。

ゲームシステムの制限は存在しない。

厳密には世界のリミットは存在するだろうが、この世界の広さが現実世界の地球規模であるとしたら、北斗一人がどんなに備蓄を増やそうが、そこまではどうあがいても到達はできないだろう。

それほどまでに世界に対して個人の生産力など、どれほどチートに見えてもたかが知れている。

北斗もそれをわかっていて、やりたい放題やっているのだろうとカスミは考えた。


とはいえ、魔物が多いのは香澄にとっても非常にありがたく、うれしいシステムだった。

多人数で行うFPSならともかく、ローカルでやるロープレは魔物のリポップは頻度が多い方がレベリングが簡単だ。

香澄のキャラ自体は、ほとんどレベルアップは望めないそうだが、それでも実際に剣や魔法やスキルをふるえるのは、現実世界の自身の環境や体力では絶対にふれることはない。


まあ、このような特異な体験のご相伴にあずかっているわけだ。

そこら辺はある程度弟に合わせてあげるのもよいかなと思う。


それに、香澄自身認めたくはなかったが、面白いように素材が蓄積されていくのは、少し快感を感じていた。

もちろん、この後の第79層にたどり着くまではだったと、あとからおもうのだったが...


★★★


「このあとはどうするの?どこに向かうの?」


第19層とはだいぶ様相がかわった、石のブロックで囲まれた通路タイプの第20層迷宮を進みながら、カスミは問うた。


「この層に、他の層に転移できる場所がある。そこまで移動して第79層を目指す。カスミ姉には見てもらいたいものがあるから」

「見てほしいもの?」


聞き返すがそれ以上はニコリと微笑み返すだけで、情報は開示しない。

ついてのお楽しみということらしい。


「それにしてもここも、意外と広いわね。前の層ほどではないけど。もう道も覚えていない」

「第19層で外部からのストッパーにはしてあるけどね。一応念には念を入れて、この層も広さだけは元の9倍程度にはしてある。通路も比較的狭くしてその分ごちゃごちゃの迷路が作ってある」

「ふーん、でその転移ポイントていうのは、まだ遠いの?」

「もう少しだよ。じつは最近追加したんだ」


なんでも以前は浅い層では第3層と第40層にしか深層に転移できるポイントがなかったらしいのだが、たまたまスルーしていた第19層をギルドの依頼で制覇する必要ができて、その際に第40層まで移動するのが時間がかかってしまったとかで、解消のため第20層に転移ポイントを追加したのだそうだ。


その転移ポイントは、第20層のフロアボス部屋とは真反対の方向に配置しており、場所も分かりにくい行き止まりの最遠端にあった。


「ここまでしなくても、これが無いと転移陣は発動も使用もできないんだけどね。どれがいい?」


ホクトはカスミに3種のものをストレージより取り出して提示した。


それらは金の腕輪、サファイアのような石のはめられた指輪に赤く小さい宝石があつらえられた金のネックレスであった。

カスミは取り外しが楽そうで、つけてても戦闘の邪魔にならない指輪を選んだ。


ミヤビとホクトはネックレスタイプですでに首にかけていた。

さんにんがそれぞれ装備した状態で行き止まりの壁に近づくと、地面に水色の魔法陣が発生してそれに足を入れると掻き消すように消えてて別の場所で出現した。


第20層とは異なり、そこはごつごつとした土壁におおわれた洞窟であった。

壁にはいつつけたともわからない松明がゆらゆらと三人を照らしていた。


カスミはホクトとミヤビに続いて、洞窟の出口へと向かう。

かすかに風が入り込んできて、外の気温が適度な気候であることがうかがえた。

さらに洞窟の出口と思しき所からは、日光らしき光も入ってきている。

フィールドタイプのダンジョンなのかと、カスミは想定した。


「なっ、」


若干のまぶしさに目を細めながら洞窟を出たカスミは、驚きの声を上げた。

洞窟の出口は、若干高い山の中腹にあり、そこからダンジョンの遠くまでが見通せた。

眼下には地平線まで続く平原が広がっており、所々に森も見えた。

予想通りのフィールド型ダンジョンで、空は青く太陽のようなものも二つ見えた。


上空には若干の雲も浮かび、言われなければ地上といってもおかしくない景色が広がっていた。

いや、正確に言えばダンジョンとしてはおかしな風景が広がっていた。


「どう?この階層?見事でしょう」


自慢げにつぶやく弟を、香澄はエルフ特有の切れ長の目をジト目にして見つめた。


「そうきたか。いやあんたならちょっとは事前に想定できたか」


香澄は弟の異常性を見誤っていた。

第19層のドロップ品の内容といい、生産量に異常なまでにこだわる北斗の性癖を考えれば、それは少しは予想してもよい内容のものだった。


眼下の平原はきれいに区画化され、そしてその地面は緑や金色で整然と埋まっていた。

一部建物のようなものや、柵のようなものもあり、その内側は何か動物がひしめいていた。


「これは、どう見ても農地と牧場よね。それもどこまでも続く....」


そう、第79層ダンジョンは、見渡す限りの畑と酪農牧場だったのだ。


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