サイドC-22 北斗ダンジョン会議2
「そもそもの前提なんだが、どうしてこんな事態になったんだ?戦争なんて言葉がでてくるなんて。フィオナ王国は何を心配しているんだ」
ホクトがあげた疑問は、根幹の原因を自分たちが認識していないことが発端だった。
カスミとガガたちのやり取りを注視していなかったエギルとその場にいなかったオリョウに関しても、それは同じレベルなので知らない。
自然カスミに目が向く。
しかたないと、カスミは説明を始める。
「細かい言い回しまでは覚えていないが、彼らが一番に気にしているのがあの大型商船、彼ら曰く『黒船』らしいが、と運搬に利用している大量のゴーレムで、次に心配しているのが麦と米と先端魔道具輸入に関することだ。前者は侵略を心配していて、後者は自国の主要商業の基盤の崩壊の心配だ」
頭の回転の速いカスミらしい要約で、これに三人もうなづく。
「後者についてはなんとなくわかるけど、どこをどうとったら侵略なんて言葉が出てくるんだろう?」
「それはだな、ガガの話だとあちらの国に残留しているゴーレムが少なく見積もっても500体はいて、それらの行方がしれないということらしい。それも個々の戦闘力が高いゴーレムがだ。確かに自分たちの管理していないゴーレムが、大量に自国のどこかに潜んでいるとなれば、侵略の準備と疑ってもよいのではないか?」
「あれが?確かにあちらに残留はさせているけど、それは単に帰りに運ぶものがないんで、魔石の消費を減らすための処理なんだけど。待機場所もあちらに気をつかって、魔獣が大量に出る森の奥にしてるし」
「でも、言われてみれば確かにあちらにしてみれば気持ち悪いかもですね。繰り返しですが邪魔にならないようにと、魔物が襲ってきても数で対抗できるように、森の奥に終結させていますから」
「でも残留の数を把握しているなんて、そうとう商会の行動を監視していないとわからないよね?」
「きっかけはおそらく米と麦と最先端魔道具の輸入量調査だと思うぞ。調べていくうちに、あれ、荷馬車の数の出入りが合わないと気づいたんじゃないか?」
「たしかに...」
カスミの予想通り、ゴーレム残留の件はまさに輸入量の調査の過程でわかってきたことだ。
「それだけではない。こちらの商船、つまり黒船も彼らはすごく警戒している。たしかにこの世界であれに積載量でも運航速度でもかなう船はここらへんにはないからな。軍事利用を疑われても、それをこなせる能力があるから否定もできない。海からと陸からの同時侵行の前振りと想定されても、しょうがないんじゃないの?」
「だから、侵略戦争を想定しているんだ...」
もちろん北斗の分身たちにそんなつもりは、毛頭ない。
ないがあらためて状況を整理すると、疑われてもしょうがない状況を作り出しているのも事実だった。
北斗の分身たち、つまり北斗が軽視していたのは、こういうところだった。
ゲームのなかでであれば、敵国があったとしても、脅威を感じるという前提は存在しない。
責められるのをまっているか、もしくは理由なく侵攻してくるかのどちらかなのだ。
(この世界の人たちは、自身で考え生きている。そしてそれは国という団体にも言えることだ。こちらの力量が上がれば、それを誤解でも恐れる人たちが今回のように出てくるし、恐れや不安は相手を調べたり滅する方向にうごくこともあるんだ...)
現実世界でもそれはある。
自国の領土や文化を守るために、人類も戦争という闘争をいまだに繰り返している。
システムがゲームに似ているということだけで、もらったチート能力をもって遊んでいる北斗だったが、この世界の人たちにとっては恐れをいだいたりするのは当たり前の事だったのだ。
攻略というか、商売の相手として一応フィオナ王国についてはホクトたちは事前調査していた。
王国の名が記す通り、国王や貴族が国を運営していることや、国民の8割以上が獣人であることも確認していた。
建国してからはまだ100年程度しか経っていないらしく、それほど歴史ある国ではない。
というのも、この世界でも場所によっては力や戦闘力は高いものの、比較的知能の低い獣人は奴隷に近い扱われ方をしている場合が多い。
100年くらい前、そんな獣人の実情を憂えた集団が未開の地であった現フィオナ王国の地に町を作り出したのが、国の始まりと言われている。
開発が進むにつれ、うわさを聞き付けた獣人たちが少しづつ集い、やがて小国ではあるが国という体をとりだした。
最初に町を作り出した集団は自然指導者となり、その流れで建国時にはそのまま王や初代の貴族となっていった。
フィオナ王国もノースランドと同じく魔獣ばかりが跋扈する危険な土地で、農地にできるような平地も少なかったため当初は非常に貧乏な国であった。
なので獣人の多くがそうであるように、他の種族よりも戦闘力のある民族が大半を占めていたため、自国で賄えないものは戦争によって隣国から接種することも多く、そのために第一産業も発展しなかった。
そんななか、先王の時代に略奪によらず自国を豊かにしようとする方針を持つ政治が行われ始めた。
それまでとは180度方向性が異なったため、反対勢力も多かったらしいが、ゆっくりとではあったが畑が増え自給率は高くなっていった。
いまでは麦について言えば輸出に回せるほどの収穫が見込めるようになり、国の主要輸出品とまでになっていた。
「現国王も先王の方針にそっており、基本軍事国家ではないとふんで輸出を開始しました。長年ノースランドは不均等な貿易をかの国とは行っていましたので、それを解消したく麦と米の輸出を始めたのです。どちらかというと麦に対抗するために米を主力として、麦についてはこちらでもたくさんあるぞというアピールのつもりでした。まあ理由はほかにもあって、米の美味しさを他にも広めたかったのと、麦よりも精米した米は調理が簡単なんで、相手国への好意からでもありました。魔道具についてもより効率の良いものを輸出して、フィオナ王国の住民の方々にもその便利さや魔石消費をへらしていただこうという意図でした。他にも輸出したいものがありましたが、度を越えると摩擦が起きること必死だったので、その三点に限定しています」
オリョウがフィオナ王国への輸出の経緯と、現状についてはなす。
ホクトもエギルも事の経緯は知っているので、オリョウが話す必要はないのだが、カスミやカエデ姉妹、ミヤビとマツリに状況を理解してもらうためと、経緯を今一度再整理するためあえて口にした。
「まさかそれがこのような事態をうむなんて...たった三種類のものしか輸出していないのに、それがやり玉に挙げられてしまうとは...」
欲を言えば将来的には食品に関してはもっと種類を増やしたいオリョウこと『カメヤマシャチュウ』商会であった。
いまでも相当輸出品を限定していると思っているのだ。
「結果論だが、ケチってゴーレムたちを滞在させたのが問題だったな。もっというと航行速度が早いのはともかく、もっと小さい船にしておけば、このような問題にはならなかったというわけだ」
船を大型にしたのは、それだけ一回の運行で運べる量が多いこと、荷馬車ごとつめて効率も人工も必要内容にできる為だった。
まさしくここが北斗のゲーム感覚で、効率を重視したやり方のあらわれであった。
「ゴーレムの魔石をケチらず、輸送量を犠牲にしてももっと小さい船にしておけば、こんなに悩むこともなかったかな....」
分身三人にして悩む姿勢の北斗であった。
「で、横道にそれたが結局どうするの?かれらをいつまでも拘束していると、それはそれで交渉が面倒になるよ」
中断されている本題にもどすべく、カスミが三人にむかって問いかける。
「それなんだけどさ、フィオナ王国への対応も開示範囲も決定するのには、なんとなくだけど即断された彼らを仲間にいれるかどうかにかかっているような気もする。そりゃガガとかいう貴族はリスクありまくりだけど、他のメンバーは純粋に冒険者のように思えるし、なんか話してどうにかなれば、すべて解決できるような気もしなくもない」
「というと?」
「ガガたちをこちらの味方にいれれば、全部開示したとしても都合の悪いところはあちらの国に開示してもらわないようにすればよいし、かつフィオナ王国とのパイプにもなってもらえると思うんだ。それが王国中心にいる貴族の一人で、かつ有名な冒険者パーティーともなれば、よけい有効な気もするし」
「なるほど...」
「でもどうする?今の段階では、彼らの真意も彼らの特性も全くわかっていないんだぞ?仲間に引き入れるの前提にするには情報が足りなさすぎないか?」
エギルがホクトの言葉に対してもっともな反論をする。
ホクトが一同をみて、にやりとする。
「そこはそれ、体育会系のコミュニケーションといえば実際に手合わせすることだし、あとは飲みニケーションでしょ?」




