サイドC-19 無双カスミ
「忘れさせるんでなんだけど一応名乗っておくわ。私の名前はカスミ。こう見えてもハイ・エルフよ」
「エルフだろうがハイ・エルフだろうが関係ねぇ。所詮は魔法と弓しか脳がない、弱小種族だろうが」
テツガが吠えるが、ランは心の中では少しその言葉に反論する。
ハイ・エルフは希少種である。
ラン自身もあったことはないが、ガガに耳打ちする。
「リーダー、ハイ・エルフなら伝承によれば精霊魔法も使えるはずです。強敵ですよ」
「うむ」
短くガガはうなづく。当然ガガもそのことは知っていた。
「タクミ、壊れちゃったけどこのバラの絵ガラ好きだわ。また増産しておいて」
「かしこまりました」
カスミの言葉にタクミはうなづくと、ティーカップをうけとって消えた。
「なっ」
「おそらくダンジョン内転移でしょう」
「というか一人になったぞ」
カスミはそんなこと何事もなかったかのように、こちらに対峙した。
テツガはカスミが右手にもつものに、敏感に反応した。
「おいおい、まさか一人で相手するつもりか?それになんだその右手の獲物は」
「君たちがある程度強いのは、あのヒュドラ戦でわかっている。でもそれでもまたまだ差がありすぎるのよ、私とあなたたちでは。1対4はハンデかな。それとこれは君たちを殺さないための対策。私の本来の剣では強力すぎるんで」
と、右手に持った木刀を目の上にあげる。
「ハンデだと?木刀だと?ふざけやがって。リーダー悪いがこいつは俺がいただく」
「うむ、だが油断するな」
相手は強者の雰囲気を醸し出しているものの、テツガひとりでも対等に渡り合えるとガガはまだ思っている。
「そんなほそっちい木刀、すぐたたき折ってやる、うりゃ」
掛け声とともにバスターソードを背面から抜き、スピードと重量をのせてカスミに襲い掛かる。
相手の態度に怒ってはいるが、手を抜かず全力で攻撃するあたりは、さすがはSランクパーティメンバーだった。
その勢いと強さはカスミが構えた木刀だけではなく、カスミの体をも真っ二つにするかとまわりは思った。が、
「ば、ばかな」
テツガは自分の両腕にはしる激痛をなんとかこらえて押し切ろうとする。
バスターソードの5分の1の太さにも満たない木刀に、完全に抑えられた。
しかも構えたところから微動だにせず、たたこうとした勢い分テツガの腕に返ってきてしまった。
「ただの木刀に見えるかもしれないけど、これはすんごく希少な木の枝から作られているんだよ。私用にカスタマイズされてね」
たしかにあの一刀を抑えたのには感心せざるを得ない。
だがここから押し切れば同じこと。
体重差がちがう。
テツガは全体重と全筋力を総動員する。
見た目が細いカスミは、普通に考えればそれに対抗できるはずもなく、またたくまに膝を突きそうなものだが、実際には微動だにしておらず、本人もそれほど踏ん張っている気配もない。
「どうしたの?まさか全力か?」
カスミの挑発のことばに、テツガは少しわれを忘れる。
「ふざけるな」
押し切るのをやめ、テツガは乱刀にかえる。
高速で何度も何度も角度を変え打ちおろし、なんとかダメージを与えようとするが、たくみに角度を変える木刀に阻まれ、すべて阻止されてしまった。
と、空中にテツガの体が浮き上がり、カスミの真後ろに高速に弧を描いて投げ落とされる。
どおんと大きな音をたてて、テツガが背中から落下する。というか地面に打ち付けられた。
「なっ、なんだ」
「おそらく剣での巻き込みです。目では追えませんでしたが、打ち下ろされる剣を受ける木刀で流しつつまきとってベクトルを変えて、テツガは剣ごと後ろに投げ出されたみたいです」
自分に何が発生したのか理解できないまま、カスミの後方で背中を抑えながらも、テツガは起きようとしている。
だが思いのほかダメージが大きいらしく、しかも地面に若干はまっているらしく、すぐには起き上がれない。
「あなたたちも見ていないで参戦したら。言ってるでしょ、1対4だって」
背面であたふたするテツガを気にする風もなく、カスミはガガたちを挑発する。
ガガはランと目配せして突進する。
最初から剣術スキル『千刃』を発動させるべく、魔力を体にまとう。
ガガは魔法こそ苦手だが、魔力がないわけではなく、おもにこの剣術スキルを発動させるために利用する。
強化魔法の一種なのだが、魔力を供給している間だけ、剣の打撃が2倍に速度も5倍になる。
剣と腕が一体になるように魔力で強化もされる上に視力も同等になるので、なみの相手では目で追うことも不可能になる。
このスキルは、ヒュドラ戦でも使用していない。
ガガの魔力量では連続で数分間しか使えないうえに、多用するとガガ自身はともかく、剣の老朽化を促進させる欠点のためだ。
金属疲労というらしいが、高額をかけて作った特別性の剣でも、このスキルを使った場合は3回程度でヒビが入ってしまうため、多用できないのだった。
だか本来剣技においても優秀なガガがこのスキルを使うことで、相対できたものは高速に動くことのできるプラティアとランだけだった。
その短時間であれは速度と瞬発力がメンバーいちのランが、ガガの動作に呼応して短剣を手にはしる。
先日『カメヤマシャチュウ』で購入した、隠密バフのかかるミスリルナイフであった。
ふたりは何の打ち合わせもなく、ガガが正面からにランがよこや背後のかく乱を担当する。
二人の出す、文字通り数百の乱打、ガガのそれは切れ味も重さもあるそれを、カスミは難なく受け流してしまった。
どころか、ランは飛び掛かる空中で掌底をうけふっとび、ガガも足元をすくわれ、そのばに腹を下にしてつっぷされた。
そのタイミングを見計らったかのように、高速回転する水のギロチンが5列20個ほど飛来する。
過去にはそれが5個でも防がれた事がないそれはあっさりとはじかれてしまった。
「ちょっとお返し」
いや、実際にははじかれたのは15個で、そのうち5個は飛来した速度を維持したまま、撃ったプラティアに襲い掛かった。
慌てて魔法障壁をはったプラティアではあったが、勢いは殺しきれず、押されるように背後に転んだ。
「こんなものかな?もうちょっとハンデあった方がいいかしら」
揶揄するような感じはなく、事実を確認するだけの言葉が、カスミ以外はだれも立っていない状況で発せられる。
「ふざけるな!」
やっと立ち上がったテツガで膨れ上がる。
鎧がはじけるのもかまわず竜化を50パーセントでする。
巨大化したからだが背後から猛烈に襲い掛かる瞬間、カスミの姿が消えテツガは突進する方向に、奇麗な弧をかいて背中から地面に激突する。
先ほどのダメージの比ではないらしく、竜化しているにもかかわらず、口から緑色の血をはいて昏倒した。
「ドラゴンの一本背負い、きまり。イヤー相手を選ばないあたりさすがは日本の柔道だわ」
消えたのではなく素早く突進するテツガの懐に入り、そのまま背負い投げを敢行したカスミが自画自賛する。
「3分時間を稼いでおくれやす」
背後でプラティアが叫ぶ。
その言葉にガガもランも横たわったまま、思わずプラティアを振り返る。
「おい、人相手にさすがにそれは...」
「このまま負けて、記憶をけされてもいいんどすか?」
プラティアはガガの痛いところをつく。
たしかにここまで時間をかけて頑張ってもガガ本来の成果はまだなく、しかも嘘かほんとか記憶を消されれば、すべて水の泡に帰すのは間違いない。
「これしかおまへん」
「ええい、くそ、3分だな」
立ち上がったガガとランも、プラティアのことばをうけ今度は突進せず、ふつうに攻撃を始める。
すべて受けられるのはわかっているが、プラティアの為の時間稼ぎなので、それはよい。
よくないのは、あの技を人に向けて行うのか?というおそれだった。
翻弄はされているがいまのところ、相手は自分たちを殺すつもりは無い様だ。
半面プラティアのあの技、『空間を穿つ黒球』はきまれば確実に相手を殺傷もしくは重症を負わせてしまう。
過去にも魔物相手以外、プラティアがあの技を行使したことはない。
つまり最終手段を選択せざるを得ないほど、プラティアはこのカスミというエルフを強敵とみなしているということになる。
ガガたちの攻撃が時間稼ぎとわかっているのか、片手でその場を全く動かず、むしろ暇そうに相対しているカスミに対して、カッとなりそうになる自分をガガは抑えて、根気よく攻撃をランと協力して続ける。
「はなれなはれ」
術式が完了したプラティアの言葉を受けて、ガガとランは引き下がる。
カスミは背後で何かしていたプラティアをみて、少し感心する。
「へぇ~結構な魔力集積だね。どんな術なのかしら?」
「その言葉、遺言として賜りますわ」
プラティアの発動の呪文とともに、2点の黒点がカスミの前に突如として現れる。
その点は次の瞬間、半径3メートルの黒い球に膨れ上がる...はずだったが、技は発動しなかった。
黒点が出た瞬間に、カスミが両手の親指と人差し指で、無造作にその黒点をつまんだ。
ぷつ、というあまり派手ではない音をともなって、黒点はつぶれ消失した。
ガガもランもあっけにとられて、動作がとまった。
「そんな、あほな....」
全身全霊で術を行使して、気を失う寸前に見た光景を受け入れられない思いのまま、プラティアは気を失った。




