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サイドC-17 『空間を穿つ黒球』

テツガは継続してヒュドラの首を落とし続ける。

竜化のダメージが蓄積してい.るため、最初ほどの頻度はないが、それでも数回のアタックに一回は確実に落としていた。

ガガとランも、プラティアに注意が向かないよう、目くらましの意味も込めてダメージが入ろうが入るまいが攻撃を続ける。


ヒュドラは再生力は鈍っているものの、それでも首は瞬時に再生を繰り返しており、まだまだ戦闘力はおちていない。

攻撃も相手を特定してではなくとにかく吐き続けることを優先して、周囲に火炎をばらまいているため、予測はつきにくくなっており、ランも数回火炎をかすめられ、ダメージをおった。


そんな時間が永遠と続くかとおもわれだか、


「できました、はなれなはれ!」


プラティアの怒声を聞きつけ、三人はアックをやめ、あわててヒュドラから距離をとる。

プラティアが今から発動指せる技をよく知っているため、巻き添えにならないようにだ。


「*~`@&%$%&&*+(~~*////---」


プラティアが意味のわからない声を発するとともに、ヒュドラの5つの頭の目前と、心臓のあるあたりそれぞれに計6点、豆粒大の黒点が発生する。

それは発生してわずか0.5秒で半径3メートルの黒球にかわる。

ヒュドラの頭部と心臓近くの胴体は、それに一瞬にして呑み込まれる。

黒球はさらに0.5秒後には収縮して、こんどは消えた。


あとには、球状に空間をえぐられたヒュドラと、若干の地面が残される。

今の一瞬で、ヒュドラの頭部と胴体の一部は消失しており、切り口から緑色の鮮血を吹き出しながら、ヒュドラがゆっくりと地響きをたてながらくずれた。

テツガから歓声があがった。


「ふう、やっとおわったか」


テツガがゆっくりと竜化をときつつ、座り込む。


「もうへとへとです。魔力が枯渇して倒れそうでした」


ランも同じようにその場にしゃがみ込み、かすったとはいえ火炎で受けたダメージ部をさすりながらごちる。

ガガは、自身には大きな損傷はないものの疲労の極に達してはいた。

それよりもと、


「プラティア、大丈夫か?」


と、背後のプラティアに歩み寄る。

案の定というか、プラティアは地面に倒れ込んでいた。

それも半身魚人の形で。

ガガが近寄って確認するに、死んではいないが意識がないことを確認して、抱き起こして声をかけつづける。

数秒してうっすらとプラティアの目が明き、意識が戻ってきた。


「ああ、すんません。なさけない姿見せまして」

「いや、おかげで助かった」

「ヒュドラは?」

「倒せた。いま絶賛素材に変化しちゅうだ。それにしても毎回すごい威力だ、あれは」

「かもしれませんが、使った後意識が無くなるようでは、まだまだですわ」


プラティアの使った技は、メンバーも知っていて、その威力を見るのは長い付き合いでもこれが三度目だ。

プラティア曰く、ハイ・マーメイド族に伝わる古代魔術の一つらしく、共通語であえて名前を付けるとしたら、『空間を穿つ黒球』だそうだ。

威力は先ほどのヒュドラに対した威力のとおり、魔力が発生した点の半径3メートル四方の物質を刈り取って異空間に流してしまうとうものだった。


刈り取るものに例外はなく、物質はもちろ、発生している魔力やその場の空気でさえも持って行ってしまうらしかった。

ただ発生には古代魔術術式を正確に魚人族の言葉で発する必要があることと、大量の魔力と極度の精神集中が必要なことだ。

そりため一時的にプラティアは人化を解除して術式をとなえたので、半身魚人の姿だったのだ。


「あいかわらず、すごい威力だ」

「でも今回は6点も発生させなければならなかったとはいえ、時間がかかりすぎましたわ。それにまた気を失ってしまいましたし、もう少し精進が必要ですわ」

「そういうな。いまでも十分だ」


自嘲気味にいうプラティアに対して、ガガはねぎらいの言葉をかけた。

それにしてもとガガは思う。

まだ三回しか見たことない技だが、とてつもない威力だと、毎回おもう。

撃ったあとに術者が動けなくなるというリスクはあるものの、受けた生物が五体満足で活動できる場面も想定しづらく、最強の魔術だと感じている。


しいて言えば局所的にしか使えない技であること、対象者が視界内にいなければならないため、戦略的・戦術的には使えないといったところだが、軍隊ではなくあくまで冒険者の使う技なので、そこはよしとする。

動けなくなったプラティアは、メンバーがガードすればよいだけのことだし。


以前テツガが、大物にあったら最初からこの技を仕掛けたら早いんじゃないかと問いかけたことがあるが、それに対するプラティアの反論は苛烈を極めた。


「そんな簡単にいわんどいてな。ほんまに大変なんやであの技は。あほみたいに大量に魔力持っていかれる上に、術式も長いうえにとちられへんし、集中力はんぱないんやから。撃った後もごっつう疲れますし、なんやら寿命も削られてる気がします。おなかもごっつう空きますし、何日かは疲れも残ります。いくら最強のわてかて次撃てるようになるまで最低でも1週間はほしいところですわ」


つまり今回はそのめったにない率先し使いたくはないが、撃つべき時だったんだと、ガガはあらためてプラティアに心で感謝した。

ヒュドラのドロップ品は、大量であった。

ヒュドラの牙、鍵爪、瞳、舌、鱗、大きな肋骨、首肉、胸肉、足肉がゴロゴロと地面に転がっており、キラービーンのはちみつ樽ほどではないが、そこそこ大きな樽がいくつか見られた。

おそらくだが、肝や腎臓、心臓などの緑の血に浸かった内臓とおもわれた。


「こりゃすげえぞ」


テツガが見つけたのは人の頭ぐらいありそうな巨大な緑色の魔石であった。

プラティアは、それを喜ぶテツガを揶揄して


「そんなんより、そこの肉焼いて食べたいですわ。もう腹ペコですわ」


と、切実な希望を口にした。


★★★


「それにしてもどうなってるんだ、このダンジョンは?」


何度目かのフロアボスを退治して、テツガは物足りなさそうにメンバーに問いかけた。


ヒュドラとの大戦のあと、さすがに疲弊したガガたちは、リポップが数日かかるため安全地帯であるその場で半日休息をとった。

テツガとプラティアは、魔道コンロの火力だけでは足りないので魔法で火をおこし、さっそく大量に入ったヒュドラの首肉をあぶった。

焼きあがったものを端からスライスし、『カメヤマシャチュウ』にて購入した、『秘伝焼き肉のたれ、ガーリック風味』で味付けして二人して数キロはたべた。

とくにプラティアは、それとおにぎりを合わせて食べるとおいしいことに気が付き、メンバーもそれにならった。

魔道コンロは、これも同商店でプラティアが大量に入手していた卵をやいて、さっと塩と香辛料をかけた簡単な料理で繰り返し使った。

とにかく血肉が足りないと、テツガとプラティアは大量に食し、大量に寝た。


プラティアの魔力量以外ほぼ完全復活したメンバーは、未踏の第20層へ侵出した。

そこは最初に走破したとされる「アンバーチャイルド」の報告のとおり、石の回廊で構成された、ふつうの迷宮ダンジョンであった。

地図は数年前に報告されたものなので、それほどの精度はなかったが、一致しているのは迷宮の広さと魔物の構成だった。


第19層を経験した者にとっては余りにも狭く、魔物もありきたりだった。

ガガたちが遭遇したのは、スケルトンナイト、スケルトンメイジ、ラージマウス、ポイズンスライムぐらいだった。

遭遇頻度も第19層とは桁違いで、どちらかというと第5層までのペース、ぽつりぽつりと遭遇する程度だった。


それが第20層だけでなく、それ以降もずっと続くのだった。

いわゆるありきたりなダンジョンに様相が変化しており、第19層までの手の込んだ感がまるでなくなっていた。

ラン・ムーのレンジャーとしての感もここでは通用して、迷宮探索も比較的効率的に行われていた。


そのため一同はひと月以上費やした第19層とはことなり、各層をだいたい3~4時間程度で移動できていた。

一日の移動がだいたい4層程度なので、ヒュドラとの壮絶な戦いからはや5日で第40層までたどり着いた。


「第19層までは何だったんだ?全然手ごたえないぞ」

「ほんまに極端どすな」


パーティはテツガとランが前衛、中堅プラティア、後方ガガの体制で進んでいた。

第19層で疲れたプラティアを慮ったのと、魔法による後方支援を想定しての布陣で進んでいたのだが、あの日以来プラティアはまったく戦っていなかった。


「迷宮のパターンも端から端に向かうような単純なものですし、罠なんかも普通のものしかありませんし...」


ラン・ムーも困惑気味につぶやく。


「それになんだあのフロアボスは?レベルが明らかに下がってるぞ」


テツガが言っているのは、数層に一回でるフロアボスのことを指しているのだ。

大物だった第19層はもちろんだが、その前の一つの山、第18層のコボルトキングとその群れよりも明らかにフロアボスの規模もレベルも下がっているのだ。


第40層のフロアボスなど、コボルトキング単体だけであった。

テツガ一人でなんなくこなしてしまっている。


「ここのダンジョン・コアは、第19層までは創作に熱心だったが、それ以外は無頓着に放置しているみたいな感じだな」

「そうそう、そんな感じだ」

「まるで作り手が別の思考形態のもののように感じられます。ダンジョン・コアに人格という定義ができればですが」


ランの言葉に、ガガは内心で納得する。

そうなのだ、第19層の作為的なダンジョン奥までの侵出を拒むような巧妙なしかけは、人間的な人格が作り出したもののように感じられるのだ。

それはダンジョン本来の特質である、侵入する人間を効率よく殺して取り込むに反しているように思える。

やはりというか、人間的思想が絡んでいて、この先にガガの疑問が解消するような秘密が存在することはほぼ間違いはないだろう、と確信せずにはいられなかった。


「まあでもあのヒュドラのように災害級の魔物がまだいるかもしれん。増えていなければ深層部までまだ40層もあるわけだから。なるべく体力温存しながら、効率よく前へ進むぞ」


ヒュドラ戦の壮絶さをおもいだしつつ、ガガの言葉にうなづく一同であった。


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