第59話 魔人襲来①
統合新人戦第3試合先鋒戦。
レイン・ザガンVS公家院 華の試合が始まろうとしていたその時。
試合は思わぬ形での一時中断となるのであった。
爆発音が響いた直後、第1ステージの試合はすぐに中断となった。
それはこっちでも同様だった。
「第2ステージも試合を中断してください」
司会の念動 勝さんの声が会場に響く。
第3試合先鋒戦、サンジュ学園からは風間 風助。
老游院からは林 玉蘭が出場していた。
「なにがあったんだ?」
「さっきの爆発と、何か関係があるのでしょか…?」
「ま、試合は中断されたんだ。俺らは気長に待とうぜ」
「お言葉に甘えさせてもらいます」
「…ちっ。会場内しか通信が通じねえ。外の状況が分からんねえな」
念動さんは外との接触を図ろうとするが、困難な状態であった。
念動さんの魔法は、メメの魔法に近しい通信魔法。自身が望んだ人物と遠距離での通話が可能となっているのだ。
それにも関わらず連絡が取れない。
これは明らかな妨害を受けているといっていい。
「…上空に何か見えないかい?」
第1ステージではレイン・ザガンがお嬢、公家院 華に向かって何かを問いかけていた。
「上…空…?…はっ!?あれは!」
お嬢は自身の目を疑う。
その視界に見えるのは薄い結界のようなもの。
それはこの会場全体を覆っている。
しかも結界は1つではなく2つある。
「念動さん!」
お嬢はすぐさま念動さんにコンタクトをとる。
「どうされましたか?公家院さん」
「上空のあれ…。1つは反魔法結界です!」
念動さんは上空を確認する。
「ちっ。道理で外と連絡がつかないわけだ。内部の魔法禁止じゃなくて、外部との遮断用の反魔法結界かよ」
念動さんはすぐさま上層部の人と連絡を取ろうとする。
だが、各校の長達の行動は速い。
「結界を確認してきましたが、内側から壊すと少し面倒です」
「2つ目は反魔法結界の結界強化に使われてますね。かなり徹底されているかと」
「…めんどうだ。すべて破壊すれば問題ないだろう?」
「中には一般の方もおる。お前の勝手な行動は許されることではない」
いつの間にかステージに降りていたイリーナル学園長、サンジュ学園長、老游院統括理事長、聖マリウス学院長の4人は誰より早く状況を把握していた。
「…完全に閉じ込められたってことですか」
念動さんは下唇を噛む。
すると突然、謎の声が会場に広がる。
『…下等なる人間風情の諸君。我々はこの中央都市を落としに来た魔人である』
「…は?魔人?」
「おいおいなんの冗談だよ」
「魔人って、魔物なんかよりはるかに上位の…」
観客席は不安と恐怖で埋め尽くされていた。
『…都合のいいことに各戦力はここに集まっていると聞いた。貴殿らはここで自身の都市が滅んでいくところを指をくわえてみているがいい。…それと、無理に結界を破壊すると膨大な魔力が暴走し爆発するようになっている。実力ある貴殿らなら守る術がありそうだが、たかが人間風情は全滅がオチだろう。貴殿らは人間風情の体裁と下等なものを守る自己犠牲があるのだろう?無理はしないことだな』
「…ほう。そんなもの、僕にはないが…」
そう言って右手に氣を溜め始める統括理事長。
「やめんかっ」
聖マリウス学院長、エガエル・マノエル学院長はそんな様子を制止させる。
「さすがに一般人を犠牲にするのは、学長としてどうかと…」
サンジュ学園長、酔艶寺 刀也学園長も困った様子。
「学長方!魔法は使えませんが、電波使用の通信機器は使えるみたいです!今外と連絡が取れました!」
念動さんが学長達に情報を伝える。
「現在、中央都市には3つの魔力反応が固まっているみたいです。おそらく3名の魔人かと。今周囲の警備隊が迎撃に向かってはいますが…少しの時間稼ぎにしかならないかと」
「うむ。念動指揮官、ご苦労であった。君の所の上官達はすぐに来れそうかね?」
「…それが…」
マノエル学院長の質問に念動さんは気まずそうに話しだす。
「クロード大将と天馬大将は別件です。他の中将達は現在前線の戦闘に参加しているみたいです。自分と同じ少将達は出れるらしいですが、魔人相手、さらに3名となると大将クラスは欲しいところですね…」
「…そうか、すまない。無粋なことを聞いたな」
「いえ、とんでもない。…ですが、1つだけ朗報が」
「なにかね?」
「…特殊部隊がこっちに向かっております」
「前線専用部隊、FTSか」
「はい。対魔のみならず対人においても、戦闘・陽動・諜報、すべてに対応ができる我ら防衛軍の規律から外れた存在。あそこから恋ヶ原さんが向かうみたいです」
「…彼女は前線に欠かせない戦力では?」
イリーナル学園長、ジェフ・イリーナル学園長が不思議そうに尋ねる。
「自分にもわかりませんが、彼女から志願したそうです。それをFTSは許可した…と」
「…腑に落ちん。FTS最高戦力の1人である彼女を中央都市に向かわせるなど。…志願というのも気になる」
「彼女は中央都市出身でしたっけ?」
「いえ…違った気がしますが…。ですが現状にとってこれほど朗報なことに変わりありません。…あとは警備隊がどこまで時間が稼げるか…」
「それは…あまり期待できんかもしれんのう…」
会場にいる面々は、その特殊部隊が来るまで何もできない。
外の隊がどこまで頑張れるかがカギとなる。
「先生」
お嬢達選手は、念動さんの指示で一度観客席へと移動していた。
そんな中、担任である佐々木先生に声をかける。
「私達は何もできないのでしょうか?」
何もできないのは承知の上で、佐々木先生に問いかける。
「そうですね~。今はお偉いさん方が奮闘しているみたいなので~私達に出来るのは邪魔しないこと~ですかね~」
「そもそも学生風情がどうすることもできないのも分からないのか?」
2年担任の的場先生も苦言を呈する。
「…すみません」
お嬢は的場先生に謝罪する。
「ま~今のところ軍が動いてるみたいなので~ひとまずは~と言ったところでしょうか~?」
「先生、学園長達の話が聞こえるのですか?」
「いえ~読唇術ですよ~」
「…すご」
流石のお嬢も敬語が取れてしまうほど驚いている。
「特殊部隊の恋ヶ原さんが来るみたいですね~」
「え!?引子さんが!?」
「あら~?公家院くんはご存じなんですか~?」
「え、えーと…公爵家関係で少し…」
少しぎこちなさそうに答えるお嬢。
「なるほどですね~」
「問題はその到着までの時間が稼げるか…ですね」
イリーナル学園の生徒会長、アルサッド・ビートレイ会長は手を口元に当てながら話す。
「どうなるんでしょうね~?」
「敵の数はどのくらいなんですか?」
「3つの魔力反応と言っていたので~3名の魔人ですかね~」
「魔人が…複数も…」
ビートレイ会長は思わず絶句する。
「…それは警備隊の人達で、対応できるのでしょうか?」
おそるおそる佐々木先生に質問する女性。
天縫糸 花音だ。
「それは難しいんじゃないでしょうかね~。防衛軍で例えるならば基本的に1魔人クラスは1大将クラスと言われていますよね~。まあ例外もいるわけですが~」
「…大将クラスって防衛軍のかなり上位の方じゃ…」
かのんも言葉を失う。
「…ん~?」
佐々木先生が突然遠くを見る。
ステージ付近で話をしていた各校長と念動さんも同様に同じ方角を見る。
「…どうしたんですか?先生」
「…何か来ましたね~」
お嬢の問いかけに佐々木先生は目を細めて答える。
「なにかって…」
「少々大きな魔法が展開されました~。何かは分かりませんが~魔法陣ですかね~」
「…魔法…陣…」
「んん~?さらに別の魔法を展開しましたね~同じのを2つ~。………それと同時に2つの魔人の魔力反応が消えましたね」
「…えっ?」
突然の佐々木先生の怖い感じ。
学内新人戦の説教以来である。
「死んだ…?いや、空間ごと切り取って…これは」
佐々木先生はぶつぶつ独り言を続ける。
「せ、先生…?」
お嬢は静かに佐々木先生に話しかける。
「あっ!すみませんね~私に似た魔法を感じましたので~少し考えこんじゃってました~」
「佐々木先生に似た魔法ということは、かなり特殊なやつか」
的場先生も少し緊張している様子で答える。
「何かしらの魔法が2名の魔人をどこかにやった~雰囲気を感じました~。そんな芸当ができる方が近くにいるとは思えませんけどね~」
「転移…魔法…」
お嬢は少し考えた後、何かを思いつき携帯電話を取り出す。
皆に見えないように携帯電話を操作する。
手元をみなくとも、その操作は手慣れたもの。
携帯電話を使用する際に一番と言っていいほどその操作をおこなっているわけだから。
それはある人物への連絡。
そして携帯電話は無音で発信となる。
その画面には…【迅】と書かれている。
だが、その発信はすぐさま切れる。
圏外扱いとなっていた。
「…迅…」
何かを察したお嬢はただひたすら、自身の護衛、黒崎 迅の心配をするのであった。
大会が中断してしまったのは残念です(´-ω-`)
恨むなら魔人共を恨んでください!
そして次回からいよいよ登場!
我らが主人公!