第58話 統合新人戦最終戦開始?
統合新人戦第2試合は終了。
イリーナル学園は2敗1分けという、散々な結果に。
残る聖マリウス学院との試合でどこまで勝利を重ねられるのか。
「かのんちゃんお疲れ様」
チームメイトの天縫糸 花音を労うのは公家院 華、お嬢だ。
イリーナル学園の面々は昼休憩をとっているところ。
「…ごめんなさい華ちゃん。華ちゃんの代わりに出たのに…」
「大丈夫よ!私だって勝てなかったわけだし…」
頬をかきながら微妙な顔をするお嬢。
それに…と話を続ける。
「次の試合からは私も出るから!先鋒戦は任せて!」
「それは頼もしいのう」
横から違う声が。
同じチームメイトのイチカ・クノウだ。
「さすがに次の試合はクノウさんも出てもらうことになるけど、大丈夫?」
心配そうに尋ねるお嬢。
クノウは忍忍ポーズをとりながら、
「いつでも準備はできておるぞ」
「それならよかった」
「天縫糸くんの試合、良かったですよ~」
1年担任の佐々木先生はかのんを褒める。
「…あ、ありがとうございます」
「以前の課題にしっかりと向き合い、成長した姿が見られました~。…それに最後のは尊敬に値する行動でした~。担任として誇りに思います~」
拍手をしながら話す佐々木先生。
「…でも、勝ちを持って帰ることはできませんでした…」
「たしかに大会である以上~勝利を目指すのは当然です~。ですが、勝ち負け以前に我々は学園に通う生徒~。その本質は人間性・社会性を問うものだと、私は思ったりしますよ~」
「…ありがとうございます」
かのんは素直に佐々木先生の賛辞を受け取ることにしたのであった。
「次が最後の試合。優勝はできないけど、次全勝すればまだ準優勝の可能性はあるわ」
「他の学園の成績次第だがな」
横から刺すような発言するのは2年担任の的場 入先生。
「そんなきついこと言わずに、素直に応援しましょうよ」
そんな的場先生の発言に割り込むのは生徒会長、アルサッド・ビートレイ会長。
ビートレイ会長の横に座る森波 木馬先輩、浦々 灰賀先輩も頷く。
「事実を言ったまでだ」
的場先生はあくまで姿勢を変えない。
「ところで公家院くんは体調面大丈夫ですか~?」
佐々木先生はお嬢にコンディション状態を尋ねる。
「大丈夫です!さっきの試合を見ててやる気みなぎりました!」
「それなら良かったです~」
「レオナルドさんと美登さんの分も頑張ってきます!」
そう、レオナルドと美登はいまだ救護室にいる。
2人とも意識は戻っていない。
本来はそんな早く目を覚ます方がおかしいんだが。
お嬢はヨシッといいつつ立ち上がる。
「それじゃあ先生。行ってきますね!」
教員・先輩に見送られながら、お嬢・かのん・クノウの3人はステージへ向かうのであった。
「お嬢様ーしっかりしてくださいよー」
救護室のベッドの横に座る風間 風助は棒読みで話しかける。
話し相手はサンジュ学園の誇る学年主席、水炎寺 波流渦だ。
「…分かってるわよ」
水炎寺もベッドの横に座り、目の前に寝ている人物を見ながら口を開く。
「あんたがそんなんじゃ、こっちの調子までくるっちゃうよ」
「…それは申し訳ないわ」
水炎寺は意気消沈しながら答える。
風間はダメだこりゃとお手上げ状態だ。
「…レイリー」
目の前で寝ている人物、レイリーに声をかける水炎寺。
目を閉じ、何も答えない従者。
自分のために身体を張ってくれた従者。
水炎寺の心の中は申し訳なさでいっぱいだ。
「次の試合は危険ですかねえ」
風間がポツリとそんなことを呟いていると、救護室に新たな人物が入ってくる。
「調子はどうですか?」
2人は声のする方へ向く。
「え、学園長!?」
「…叔父様」
「やあ」
現れたにはサンジュ学園長、酔艶寺 刀也。
突然の訪問に驚く風間。
「…どうされたのですか叔父様」
水炎寺は訪問の理由を聞く。
「生徒の頑張ってる姿を見に来た。じゃダメかい?」
「そんなことないです。ありがとうございます」
風間が代わりに返事をする。
酔艶寺学園長はそれに、と話を続ける。
「そうなってると思ってきたんだよ、波流渦」
学園長は消沈しているだろう水炎寺の様子を見に来たのだ。
「…この通りですよ」
「レイリーくんには感謝しきれないね。…君の従者になった時から」
酔艶寺は優しい目でレイリーと水炎寺を見る。
「…俺、お邪魔でしたら外に出てますよ?」
空気を察知し、退出する様に動こうとする風間。
さすが空気を読む男だ。
「いや、いてくれても構わないよ?むしろいてほしいくらいだね」
そんな言葉にキョトンとする風間。
酔艶寺は続ける。
「波流渦。君の従者はそんな君の姿が見たくてこんなことをしたのかい?」
水炎寺の身体はビクッと反応する。
「きみの従者はいつだって、君が笑っている姿が、君が輝いている姿が一番だと、私に語るくらいなんだよ。そんな従者が、君を想って行動したことだ。きっとそんな顔をさせてしまったと自身を強く戒めるだろう。彼は自身が傷つくことを軽く見ている節があるからね。今回の行動もそれが招いてしまった結果だが。…君はそれでいいのかい?」
学園長は優しく水炎寺を諭す。
「………じゃない…」
水炎寺は聞こえない声で呟く。
「なんだい?」
学園長は聞き返す。
「…いいわけないじゃない!でも、レイリーは私のためにこんな風に…。だったら私は!彼が目覚めるまで一緒にいてやること…しか…」
そういって肩を落とす水炎寺。
「それは彼の望んでいることではない。波流渦がいたところで彼の状態は変わらない」
「それでも私はっ!」
「水炎寺波流渦。君は何のために私の学園へ入った?従者と仲良しこよしをするために入ったのか?従者に守られながら生きるために入ったのか?違うだろう?君は、君が望んだ道を行くためにここに来た。そしてそれを賛同する従者が、命を懸けて、君の道が塞がらないように動いている。それなのに君は立ち止まるのか?従者の気持ちも、これまでの自身の努力も、無駄にするためにここまで来たのかい?」
「…っ」
水炎寺も頭の中では分かっているのだろう。
だが、気持ちの整理ができていない。
そんなところだろうか。
「…風間くん」
唐突に名前を呼ばれ、驚く風間。
「なん、でしょうか?」
「君から、波流渦に言うことはないかい?」
風間の顔から血の気が引いていく。
『この状況で俺が何を言えと!?』
風間の心の中は混乱の渦だ。
「…そう、ですねえ…。お嬢様は、きっと自身が一番許せない、と思います。その気持ちのやりどころを、探しているのではないでしょうか?」
ぎこちなさは残るも、なんとか疑問系で返す風間。
「だ、そうだよ」
学園長は水炎寺の方を向く。
「…で、でも大丈夫です。お嬢様はそのことも理解しています。今ある問題も解決して前に進みます。自分は学園に入ってからしか2人のことは分かりません。…ですが、必ず自身の足で立って前に進めると断言します。今はちょっと休んでるだけです」
風間は慌てながら追加で説明する。
「…ぷっ」
そんな慌てた風間を見て笑い出す水炎寺。
「…なんで貴方がそんなに焦っているのよ」
「…俺にも分かんねえ」
少しばかりか、水炎寺の顔色が良くなった気がする。
「…叔父様」
水炎寺は学園長の方を向く。
「お騒がせしてすみませんわ。私のクラスメイトが精いっぱい考えて話してくれたこと、それが分からないほど馬鹿じゃありません。ですが彼は馬鹿です。それは許してほしいですわ」
「おい」
風間は思わず突っ込んでしまう。
「…さっきよりは、いい顔になったね。少しは安心したよ」
学園長は水炎寺の頭を撫でる。
「こちらこそ騒がせたね。私はこれで行くことにするよ」
「もう行かれるんですの?お忙しいですもんね」
「他の長が今にでも暴れそうなのを必死に抑えながら来たからね。あっちが心配なんだよ」
「…他の長って各校のトップってこと…?暴れるって何?怖いんだけど…」
風間は相変わらず、混乱状態だ。
「分かりましたわ。来てくださり、ありがとうございます叔父様」
「あ、ありがとうございます」
2人は頭を下げる。
「余計なおせっかいをごめんね。それじゃあ」
学園長は手を振りながら去っていった。
「それにしても…ふふっ。何度思い出しても面白いですわ」
「…誰だって緊張するだろ、あんなの」
「でも、あなたの気持ち、しっかり受け止めましたわよ」
「そりゃどーも」
風間は休憩中にもかかわらず、どっと疲れが出たのであった。
ー現在ー
「さあさあ、統合新人戦もいよいよ大詰め。最終試合が始まります!」
司会の念動 勝さんの合図により、観客席の熱気は最高潮。
「まずは第1ステージ!ここまであまり勝利を重ねられていないが、ここで挽回すればまだ上位入賞の可能性はある!だが対戦相手は聖マリウス学院。簡単にはいかないでしょう!頑張ってください。イリーナル学園の登場です」
司会の念動さんの合図により、お嬢・かのん・クノウの3人が会場に現れる。
「対するは絶好調、安定の成績を見せている名門校!学年最強を筆頭に実力者が揃っております。最終試合はどのような戦いを見せてくれるのか?聖マリウス学院の登場です!」
聖マリウス学院の生徒、レイン・ザガン、パーラ・ライオネル、沙花又 陽樹、ナナ・ノルヴァックの4名が姿を現すと会場の熱気が最高潮に増す。
「早速ですが、試合を始めていきたいと思います!両者先鋒の方は前へ」
「それじゃあ行ってくるね」
お嬢の言葉でかのんとクノウは頷く。
「…初戦からあなたが出るのね」
お嬢の前には学年最強と謳われた魔剣士、レイン・ザガンの姿が。
「初戦は貴方が出てくると確信があったので。勢いに乗ってしまったらまずいと判断しました」
「それくらいウチを警戒してくれたってことでいいのよね」
「もちろん」
「そう。…でも負けるつもりはないわよ」
「それはこちらも」
「行くわよ!」
「いざ」
「「勝負!」」
ドオォォォン。
双方仕掛けようとする。
すると突然どこからか、爆発音が。
「な…なに?」
「…?」
選手は戸惑いを隠せない。
だが、1人だけ迅速に対応している人物が。
「皆さん動かないでくださいっ!…はい。…はい、分かりました。皆さん試合は一時中断です!…外部からこの中央都市に侵入者が入ったみたいです。身の安全のため、そのままでお待ちください」
司会の念動さんの説明に選手を含む、会場全員が戦慄するのであった。
今からがいいところなのに邪魔したのは誰だよ(´-ω-`)