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劣弱と呼ばれた最強護衛  作者: 佐藤 拓磨
第3章 統合新人戦編
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第57話 第2試合大将戦 決着

統合新人戦第2試合大将戦。

イリーナル学園からは天縫糸 花音。

老游院からは林 美蘭が選ばれた。

花音はイリーナル学園の勝利のため、戦いに臨む。


「おらおらっ!どうしたねっ!これで終わりねっ?」


林 美蘭(リン・メイラン)の乱打にギリギリで避け続ける天縫糸 花音。

自身の十八番であるぬいぐるみを美蘭の氣によって吹き飛ばされた後、即座に距離を詰められ防戦一方の状況だ。


「使い手はそうでもないと踏んでいたけど、なかなかやるね」


美蘭は自分の攻撃を避け続けるかのんを褒める。


「…私も何もしていないわけではないので」


かのんのフィジカル面は以前から学園で指導されていた。

ぬいぐるみを扱うことにより、鮮明な魔力コントロールはできていたものの使い手本人の体力などに問題があったのだ。


「…私だけ、置いていかれるわけにはいきませんから」


「その気持ちは分かるね。…でもここは譲らないね」


美蘭は氣の練度を高め、さらに攻撃のスピードを上げる。


「…くっ」


美蘭の手刀がかのんの顔を掠める。

頬からは血が流れている。

かのんは腕で血を拭い、後方へ下がろうとする。


「逃がさないねっ!」


美蘭はさらに一歩踏み出し、かのんを逃がさない。


「…いま!」


美蘭が近づいた瞬間、かのんが叫ぶ。

すると美蘭が踏んだ場所には魔法陣が。


「…着火(ファイヤ)!」



ボンッ。



掛け声と同時に魔法陣が爆発する。


「ピギャッ」


美蘭は情けない声をあげる。

ケホッ…ケホッ…と咳き込む美蘭。


「…威力は低いですが、これで距離を置けました」


地雷爆破(ファイヤミーヌ)。小癪な手を使うね」


「…お友達だけが、私の戦い方ではないんですよ?」


「こんなの何回くらったところで痛くも痒くもないね」


「…分かっていますよ。私も負けるつもりはないんです」


そういってかのんは両手を広げる。

美蘭も警戒して構えなおす。


「お得意のぬいぐるみは2つともお釈迦ね。1,2つきたところで私には勝てないね」


「…ですので、質より量でいこうと思います」


かのんの手から魔力が溢れる。

薄紫色の魔力はかのんの髪色に合わせて美しさを増す。


「…きれい」


観客席のお嬢、公家院 華も思わず見惚れるほど。


「なんて魔力量ね。…だけど」


美蘭は手刀を構え、氣を高める。


「数増やしたところで無駄ね」


「…やってみないと分かりませんよ?」


かのんの地面から大きな魔法陣が展開される。


「そんなの発動する前にっ!」


美蘭が駆け出す。


「…もう遅いですよ」


魔法陣が光り輝き始める。


「…これはこれまでのお友達とは違いますよ?…私と一緒に戦ってくれる戦友(おともだち)


「言い方を変えたところで、意味ないね」


美蘭の手刀がかのんの首元に届く。

…その寸前で魔法陣の光が美蘭を吹き飛ばす。


「くっ…」


後ろに飛ばされた美蘭は華麗に着地。


「…いきますよ。これが私の全開!『堅果の守護騎士(ケース・ノワゼット)』」


足元の魔法陣から木製の人形が大量に現れる。

その姿は騎士とも王子ともとれる軍服をきた兵隊だ。

黒い縦長の帽子、赤いジャケット、黒いブーツ、そして銃を携える。

かの有名な人形を彷彿とさせる。

大量に現れた木製の人形は一斉に銃を構える。」


「また可愛らしいのを出しましたね~」


観客席にいる1年担任の佐々木先生がニコニコで話す。


「かのんちゃんの新しい魔法!多人数を相手にするときにより有効ね」


「あのモチーフは~主を守る騎士様って感じですかね~」


その言葉にお嬢はハッとする。


「…もしかして…」


きっと、お嬢の予想は的中なのだろう。


「…撃てっ!」


かのんの合図により、発砲。

魔力が込められた弾丸は真っすぐ美蘭に飛んでいく。


「『内氣静功』」


美蘭はさきほどぬいぐるみを飛ばした技で弾丸を防ぐ。


「こおぉぉぉ…」


さらに呼吸を整え、氣を高める美蘭。


「…人形さんっ!」


時間をかけるとまずいと判断したかのんは木製人形を走らせる。


やがて木製の人形は美蘭覆い囲うように突っ込んでいく。


「…『内氣動功』」



バァァァン。



美蘭に群がっていた木製人形はいとも簡単に引きはがされる。

そしてそのまま、かのんに向かって走り出す。


「…動きながら氣を練ってる。あれじゃあ呼吸が持たないはず」


かのんは木製人形を集結させ、防御態勢をとる。


「…無駄無駄ね」


美蘭の手刀は集まった木製人形をガラスのように叩き割っていく。


「…このままじゃジリ貧…だけど、持久戦に持ち込めば」


「そうはさせないね!」


美蘭の攻撃は激しさを増す。

だが、当の本人はとても苦しそうだ。

かのんは一歩、一歩と後退せざるを得ない。

やがて、かのんはステージの際まで押し寄せられる。


「…まだ呼吸が続くの?」


木製人形も残りわずか。

だが美蘭が止まる気配がない。

本人は喋る余裕もないみたいで、ただひたすら手刀を振り下ろす。


「…こうなったら!」


かのんは残り少ない木製人形を使い、一か八かの勝負に出る。


『木の兵士たる我、永遠の冬に捧ぐ、これぞ魂魄の輝き』


「『永久冬兵の輝きエクラ・デュ・ソルダ・ノワルデル』」


詠唱と共に魔法を発動。

すると周囲のくるみ割り人形は次々と爆散していく。


「っ!?」


木製人形の近くにいた美蘭は巻き込まれてしまう。

だがそれは、防御態勢をとり同じく木製人形の近くにいたかのんも同様だ。


「…うっ。…最後!」


かのんは空中に小さな魔法陣を展開。

そして魔法を唱える。


「『空気圧縮コンプレッションエール』」


残り少ない魔力で周囲の空気を操作する。


本来なら少ない魔力での発動ならどうということは無い。

だが、今の美蘭の状況を考えれば効果はある。

美蘭の『内氣動功』は氣のコントロールを内側で高め、動作に反映させる技。

『内氣静功』との違いは、動作の有無だ。

もちろん人体の構造上、動作が加わることによって体内の欲する酸素量は多くなり、呼吸も苦しくなる。

美蘭は少しでも体外への酸素排出を避けるため、言葉を発さず攻撃に打ち込んだ。

結果、かのんの『永久冬兵の輝きエクラ・デュ・ソルダ・ノワルデル』によって不意をつかれ、呼吸は乱れ、体内への酸素供給が必須となる。

かのんはそこを狙い、『空気圧縮コンプレッションエール』を使用し周囲の空気を操作。

美蘭が必要とする酸素供給を遮断する形となった。

これが行われた結果…



スゥゥゥ。



美蘭の意識は絶たれ、そのまま倒れ掛かる。

ステージ際に立っていたことが幸いし、場外に向かって落ちていく。 


『…これで、私の勝ち』


かのんはホッとした様子で全身の力が抜ける。

すると突然、美蘭が倒れ込む場所に魔法陣が。


『…なに…あれ…』


かのんは不思議に思う。

なぜあんなところに魔法陣が?

どこから?

そんな考えはすぐに吹き飛ぶ。

なんと魔法陣からは1本のナイフが。

しかも美蘭の心臓を刺さるような形で。


「あぶないっ」


かのんはとっさに飛び出し美蘭を抱きかかえる。

そしてほぼ同時に地面へと倒れ込む。


「…あっ」


かのんは急いで美蘭が落ちる場所だったところを確認する。

すでにそこにはナイフもなければ魔法陣もない。

そして自身が場外に落ちたことを自覚する。


「おぉーっと、これは意外な結末。イリーナル学園の勝利かと思われましたが、まさかの場外!老游院の選手も一緒に落ちたことにより、引き分けとなります。試合しゅーりょー!」


司会の念動 勝さんのアナウンスで第2試合大将戦が終了する。


「…あれは…なんだったの…」


かのんは戸惑いを隠せない。

それはこっちもだった。


「…かのんちゃん?」


観客席にいたお嬢は何が起こったか分からない様子。

だが、教師陣は少し険しい顔をしている。


「…老游院」


2年担任で生徒会の先生でもある的場先生は一言、そう呟く。


「いや~同じ生徒を育てる立場としては~、嫌気がさしますね」


佐々木先生の最後の一言はいつもの口調ではなく、怒りが含まれていた。


「えっ…えっ…どうゆうことです…か…?」


お嬢は訳が分からない様子。


「分かりやすく言いますと~老游院の統括理事長様が少し工作をして~自分の選手を処分しようとしたんですよ~」


「…え?」


お嬢は佐々木先生の言葉に理解できていない。


「その結果を~天縫糸くんが助けた形になりました~と言ったところでしょうか~」


「なに…それ…」


「実に下らん信念だな。自分は何をやってもいいという子供じみた考えだ」


この事実は各教員や司会の念動さん、そして最上階にいるお偉いさん方も把握していた。


「なんですか?あれは」


イリーナル学園長、ジェフ・イリーナルは統括理事長に詰め寄る。


「…なんのことだ?」


「気づかないとでも?」


イリーナル学園長は殺気を放ちながら会話を続ける。

聖マリウス学院長、エガエル・マノエルも続ける。


「これ以上、失態を重ねるなよ?」


「失態…くくっ。失態とはなんだ?生徒を殺し損ねたことか?」


この言葉に2人の殺気は最高潮に。


「…あまり挑発なされない方がよろしいのでは?」


サンジュ学園長、酔艶寺 刀也は統括理事長を注意する。


「お前はえらく冷静だな?人の心はないのか?」


「…貴方に言われたくないですが、言ったところで無駄でしょう。それに私だって怒ってますよ?ですがここで私まで怒りまかせになってしまうと、この場を収める人物がいなくなりますからね」


「それは賢明な判断だな」


最上階は殺伐とした雰囲気が流れるのだった。





「お姉ちゃんっ!」


老游院サイドから妹の林 玉蘭(リン・ユーラン)が走ってくる。


「…大丈夫ですよ、眠ってるだけみたいです」


「あ、ありがとうございます」


「…私は何もしてませんよ?むしろ私のせいって感じですよね…」


「いえ、お姉ちゃんのこと気遣ってくださってありがとうございます」


「…はやく救護班の方に見てもらってください」


「はい、ほんとにありがとうございました」


そういって玉蘭は姉を連れて去っていく。


「…勝てなかった」


かのんはポツンと呟く。


「…見事じゃったぞ」


人気のないところからの声。

かのんはびっくりして振り返る。

そこにはお得意に忍忍ポーズをしているイチカ・クノウの姿が。


「…クノウさん」


かのんはクノウの顔を見た途端、大きな涙が流れ始める。


「…すみません、すみません。私のせいで、優勝が…みんなの頑張りが…」


泣きながら謝るかのんをクノウはそっと抱き寄せる。


「大丈夫じゃ、お主はよくやった。相手の心配をした自身を褒めてやるといい」


「…ぐ、ぐのゔざん…ううぅぅぅ…」


かのんはクノウの懐で泣きじゃくるのだった。







老游院VSイリーナル学園 大将戦




林 美蘭VS天縫糸 花音




結果 引き分け

かのんの木製人形は誰を参考に作られたんでしょうね?


あと相変わらず統括理事長は糞です。頭のネジが5~6本くらいないくらい屑です。

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