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劣弱と呼ばれた最強護衛  作者: 佐藤 拓磨
第3章 統合新人戦編
55/61

第55話 レイン・ザガン

第2試合もいよいよ大詰め。

大将戦を飾るのはレイン・ザガンと水炎寺 波流渦。

実力者同士の戦い。

勝つのはどちらか…


統合新人戦2日目。

第2ステージでは、大将戦の開始がアナウンスされた。

午前最後の試合もあって、観客のボルテージも上がっている。

それに加え、聖マリウス学院の学年主席にして、今大会最強筆頭と名高いレイン・ザガン。

そしてサンジュ学園の学年主席にして、水炎寺公爵家の一人娘、水炎寺 波流渦。

その両者の試合となれば、試合の見どころがあるというもの。

懸念があるとすれば、レインは前試合での負傷はなし。

水炎寺は前試合の負傷が目に見えて分かるほど。

コンディション状態は明らかにレインのほうがいい。

下馬評もレインが優勢だ。

まあそんなものは、このお嬢様には関係ないことなんだけど。


「私に詠唱する時間はくれるのかしら?昨日の試合はすぐ終わらせたみたいだけど」


「昨日の試合はあちらから攻めてきた結果だ。それにこの観客の声が聞こえているだろう?そんなことしたら俺への口撃がすごいだろうな」


「そんなこと気にするタイプなの?」


「いや、まさか。これは真剣勝負だよ。結局負けたら同じ」


「それには同意見ね。…その割には待っててくれてるみたいだけど」


「これでも聖マリウス学院の看板を背負っている立場なんでね。騎士としての責務と矜持は持っているんだよ」


「それならお言葉に甘えさせてもらおうかしら」


水炎寺は手を前に出し、お嬢との戦いでも使用した詠唱を行う。


『無限の青、増殖する赤、その根源は大いなる希望を胸に!』


紅藍紫槍ブルージュ・プゥプレェランス


赤の炎と青の炎が水炎寺に纏うように踊り出す。

まるで生きているようだ。

その手には赤と青が混ざり合った色鮮やかな槍。

水炎寺家の誇る人工魔装だ。


「それじゃあ行こうか」


レインも自身の剣を抜き、水炎寺に向かって構える。


『先手必勝っ!』


水炎寺は相手の有利をとられないよう、先に動き出す。


「『炎槍攻天(えんそうこうてん)』」


槍の周りに赤い炎を纏わせ、レインへ攻撃する。



ギイィィィン。



水炎寺の槍とレインの剣が交錯する。

炎が当たらないギリギリでの攻防を涼しい顔で実行するレイン。

魔法を使用せずこのスペック。

流石は今大会筆頭。


「まだまだっ!」


水炎寺はさらに手数を増やす。

槍の鋭さも増す。

…が、それでもレインは捌ききる。


「な…っんで当たらないのよ!」


「すまないね」


このままじゃ埒が明かないと判断した水炎寺。

後方へ距離をとり、すぐさま魔法を唱える。


「『炎槍攻天・紅突槍(こうとつそう)』!」


槍の周囲を纏っていた炎は、槍先へと集まる。

そこから繰り出される魔法。



ボオォォォ。



炎の魔法がレインを襲う。

涼しい顔へ変えないレインは剣を再度構えなおす。


「『王角流剣術 龍馬絶燿(りゅうまぜつよう)』」


レインが振った剣はまるで、水炎寺の炎を食い尽くすかのように払っていく。


「なっ…!?」


水炎寺も自慢の炎を防がれ、動揺を隠せない。

その隙を今大会最強候補筆頭は見逃さない。


「『王角流剣術 一刀龍文字(いっとうりゅうもんじ)』」


今度はレインの攻撃。

蒼白色の魔力を帯びた剣が水炎寺を襲う。


『っ!これはやばいっ!』


触れると殺られる。

そう直感した水炎寺は何とか避けようとする。

…が、相手はそう甘くない。


「っっっそおぉぉぉっ!」


水炎寺の悔しそうなことが響く。

身に纏っていた赤い炎は次第に青色へ。


「…あれは」


「…はるちゃん」


観客席のお嬢、公家院 華はボソッと呟く。

ステージ外でチームメイトの試合を見ているノルヴァックも同様だ。


「ありったけの魔力でぇぇぇ!」


青い炎は水炎寺を守るように覆っていくが、レインの振りかざした剣技はその炎すらも紙切れのように斬れていく。

だが、青い炎は決してただ主を守っているだけではない。

レインが触れるたびに、その表面は火傷していく。


「…この程度」


レインはお構いなしに剣を進める。


「『青槍…守天・碧靂鎧甲(へきれきがいこう)』!!!」


水炎寺の魔法発動。

周囲の炎は身体を守る鎧と化す。


「っ!…剣が…通らない…」


ギリギリのところで攻撃を防ぐことに成功。

…だが、


「はぁ…はぁ…はぁ…」


水炎寺はすでに満身創痍。

レインはいったん距離をとる。



シュゥゥゥ………。


水炎寺の魔法はすぐさま解かれる。

その身体は火傷だらけとなっている。


「…相手だけでなく、自身も食らうじゃじゃ馬か」


レインはポツリと呟く。


「…はぁ…はぁ…私の…魔力コントロール不足…実力不足よ…」


「なるほど、確かにそれほどの炎、ましてや人工魔装。並みの力じゃ飲み込まれるのがオチか」


「うるっさいわね…早く来なさいよ…」


たしかに水炎寺の周囲の炎は沈下した。

だが、彼女の闘志はまだ燃えている。


「私も火傷を負っているが、そちらの方が尋常じゃないな」


「…はぁ…」


「呼吸もろくに整えられない身体に、これ以上何をしろと?早く降参をお勧めするよ」


「…炎槍…攻天…」


再び魔法を唱える水炎寺。

赤い炎が少しずつ周囲に現れる。


「…そうか」


なにかを諦めたかのように頷くレイン。


「…1つ、尋ねてもいいかい?」


「…なによ」


突然の質問。

水炎寺はぶっきらぼうに答える。


「公爵家の人間とは、みんなそうなのかい?」


質問の意図が読めない。

…が、水炎寺は分かる様子。

そして呆れるように答える。


「…私は、全公爵家の代表じゃないから知らないわ…。けど、身近にいる彼女()は…そうね、その通りだわ。…私を含めて…ね」


レインはすっきりしたようにニコッと笑う。


「ありがとう。充分だ」


「…そう。それじゃあ…いくわよ」


「いつでも」


「はぁ…はぁ…『炎槍・攻天…紅…突槍』ぉぉぉっ!」


「『王角流剣術 一刀龍文字(いっとうりゅうもんじ)』!」


炎の槍はまっすぐ相手を射抜いていく。

蒼白色の剣撃はその槍を一刀両断する。

そのまま炎の槍を真っ二つにしながらまっすぐ、ただまっすぐ相手に向かっていく。


「波流渦!」


「はるちゃん!」


どこからか、2つの声が聞こえた気がした。


「…あぁ…負けちゃった…ごめんね…」


水炎寺の儚い声。

それは誰に向けられたものなのか。

誰にも届かない声が、消え入ってしまった。



………静寂。

レインはただその場を動かず、まっすぐ見つめている。

その先にいるのは…水炎寺 波流渦、ではなかった。


「…どう、して…?」


水炎寺の掠れる声。

五体満足の身体。

たしかにレインの剣技をくらったはず。

だが、その痕跡はどこにもない。


「はっ!?」


不意に前を振り向く。



ポタッ…ポタッ…。



自身の頬に何かが落ちてくる。


「…これは…血…?」


スッと上を向く。

そこにはいつものようににこりと笑う従者の姿が。


「…レイ…リー…?」


現状が理解できない水炎寺。

つい疑問符をつけてしまう。


「はい、お嬢様。お怪我はありませんか?」


ただただ水炎寺のことを気に掛けるレイリー。

どこから血が出ているのかを確認する。


「…っ!?あなた…背中っ…」


レイリーはレインの攻撃を背中で受けきっていた。

その結果、血が噴き出し肉が見えるほどの傷。

すぐさま治療が必要な状態だ。

当の本人はそんなこと気にすらせず、ただ自身のお嬢様の心配をしている。


「このくらい大丈夫ですよ」


「わ、私の負け!だから早く彼を…けほっけほっ…」


「俺からもお願いする。2人の治療を急いでほしい」


レインも救護班の搬送を急がせる。

レイリーはすぐさま担架に乗せられ運ばれる。


「貴方も…」


救護班の1人が水炎寺も運ぼうとする。


「ちょっと待ってください…ザガン君」


水炎寺は申し訳なさそうにしているレインに向かって話す。


「これは貴方のせいではないわ、私の実力不足が招いたものよ。…それだけはいっておこうと思って」


「…いや、俺も加減を考えずに本能のまま戦ってしまった。まだまだ未熟だ」


「貴方も怪我の治療をナナにしてもらってね、それじゃあ」


そういって救護班と共にステージを去っていく水炎寺。


「ザガンさん大丈夫ですかっ?」


ステージから降りるとすぐさまノルヴァックが駆けつける。

レインの身体は青白い光によって包まれていく。


「…すまない。ありがとう」


火傷の治療は済んだものの、レインの顔は曇ったままだ。


「珍しいな、お前があんな本気で戦うなんて。…入学してから一度でもあったか?」


チームメイト、パーラ・ライオネルが疑問を浮かべる。


「…水炎寺公爵が俺の実力の応えてくれただけだよ」


そうゆうとノルヴァックの方を向く。


「ノルヴァック公爵。…貴方の友達は、とても強かったですよ」


聖マリウス学院1年生最強。

そして今大会最強筆頭。

そんな人物からの労いの言葉。

ノルヴァックは目の芯が熱くなる。


「ありがとう…ございます」


「まあ、これで全勝ってことで」


パーラがしんみりした空気を変えようと話題を変える。


「そういえば、沙花又は?」


チームメイト最後の1人、沙花又 陽樹の姿が見えず、レインは周囲を見渡す。


「あいつか…?あそこで寝てるよ」


パーラは会場の隅を指さす。

そこには長刀を抱えながら眠っている沙花又の姿が。


「試合中はちょこちょこ目を開けて観てはいたんですが、終わった途端にぐっすりですね」


「試合が気になってはいたみたいだな」


「魔力枯渇の中、起きてただけ嬉しいよ。…それじゃあ午後の試合に向けて準備しようか。2試合目でのイリーナル学園の様子も見たいし」


「あの膨大な魔力も気になるしな」


「…はなちゃん、試合出たのかな…」


聖マリウス学院のメンバーは談笑しながら次の試合の準備を始めるのであった。

ちなみに寝ている沙花又はパーラが抱えて運んだそうだ。

第2ステージ2試合目が終了(´・ω・`)

走るように連続していきましたね(笑)

さあ、次はお待ちかねのお嬢率いるイリーナル学園の大将戦!

果たして誰が出るんでしょうね?

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