第54話 沙花又 陽樹
第1ステージの中堅戦はあっけなく終わる。
続く第2ステージの中堅戦に波乱はあるのか?
「めんどーだから早く済まそう」
開口一番、対戦相手のレイリーに向かって話すのは沙花又 陽樹。
黒髪の少年と灰色髪の青年。
年齢は変わらないはずだが、年の差を感じる組み合わせ。
沙花又が幼く見えるのかレイリーが大人びて見えるかは定かではない。
「大会に出場しておいて面倒くさいとは、よく分からん奴だな」
レイリーは首をかしげる。
「まあいいじゃない。…てかアナウンスまだ?」
沙花又は自分のペースで話し続ける。
「そろそろじゃないか?…ほら」
「えー、おまたせしました。これより第2試合中堅戦を開始したいと思います」
司会の念動 勝さんの合図で試合が開始された。
「貴様には悪いが、こっちは後がないんでな。飛ばしていくぞ」
レイリーは臨戦態勢をとり、沙花又との距離を詰める。
「元気いい系か。テンションついていけないや」
沙花又は持っている刀をヨイショっと構える。
自身の身長よりもはるかに超える長刀だ。
鞘収められているにもかかわらず、周りは包帯のようなもので何重にも巻かれている。
「そんな刀、身の丈に合わないのではないか?」
「そう言いながらちゃんと警戒してるくせに?ツンデレなのか?」
「ツン…?ちゃんと日本語で話せ!」
レイリーの蹴りが沙花又を襲う。
沙花又はひらりと躱し、後方へ下がる。
「むっ…」
すんなり避けられ、少し悔しそうなレイリー。
「そんなまっすぐ蹴り入れても避けられるのは当然じゃない?」
そんな沙花又の言葉など聞く耳持たず、再び突進。
「馬鹿の一つ覚えみたいに…」
はあ…とため息をつく沙花又。
レイリーはお構いなしに拳を振りぬく。
だがそれも軽々と避けられる。
すると、レイリーは沙花又との距離をとる。
その差は2Mほどだ。
「…?」
沙花又は不思議なものを見るかのように首をかしげる。
…が、次の瞬間、
ゴツッ。
鈍い音と共に沙花又は顔を抑えて後ずさる。
「…っつ…」
沙花又の鼻から血が流れる。
血を袖で拭きながらレイリーを睨む。
「ちょっとはその舐めた態度も改めてくれたら嬉しいね」
レイリーはにこっと笑いながら沙花又を見る。
一方の沙花又。
「…遠距離攻撃…魔法…氣の練度って言ってたけど…いや、これは…」
攻撃が直撃したと同時、現状を冷静に分析していた。
「思ったより冷静じゃないか」
「…魔弾…か?」
その単語にレイリーは反応を見せる。
「正解か。氣の練度にしては違う感じがしたんだよね。これは魔法というより魔力を用いた応用。だがそれも極めれば魔法になりうる…か」
「博識だな」
レイリーはたった一撃で見破られたことを悔しがる。
「きみは破壊力のある魔法を使う。最初体術と身体強化魔法を用いた黄色の特色と思ってたけど…違うみたいだね」
沙花又は続ける。
「単純な身体強化なら集中強化からの攻撃でその威力は何倍も膨れ上がる。それをしないということは…できない、もしくはしても意味がない、という結論になる。前者であるできない、だと魔法の複合が難しいとかもあるけど、集中強化は魔力量1でも使用できる簡単な魔法。複合が難しい可能性は低い。それに後者である意味がない、という仮説を立てるなら元々君の破壊魔法に身体強化を乗せたところで相乗効果が得られず魔力の無駄になる。これが一番現実的な考えか」
「…末恐ろしいね」
自身の魔法を語ることなどなかった。
そんなレイリーも思わず絶句する。
ほんのわずかな情報量だけで、ほぼ正解までたどり着く目の前の少年に。
「前の試合で身体強化とは違うこと…氣の練度の話もブラフか?まあそれなりの情報はあったわけ」
「…1回攻撃を受けたことと、前の試合の情報だけでここまで分析できるの…?桁違いの洞察力ね」
「俺の風と似たような感じなんかな?見れば分かる的な」
サンジュ学園の選手、水炎寺 波流渦と風間 風助は沙花又の分析に驚いている。
いや、風間は驚いている様子はない。
「見られれば見られるだけ厄介になるわね」
「全部初見殺しするしかないっしょ」
「そんな事できたら苦労しないわよ…」
水炎寺は頭を抱える。
ボォォォ。
沙花又はまだ話の途中だが、レイリーは自身の拳に赤いオーラを纏わせる。
美登との試合でも使用していた魔法だ。
「…余裕がなくなってきた?」
「これ以上長引かせるのは不利と判断した」
「…そう」
沙花又は長刀を前に倒しレイリーに向ける。
「どうぞ」
レイリーの魔法を見ても余裕な態度を変えない沙花又。
先に一撃与えたのはレイリーなはずだが、とてもそうは見えない。
「…いくぞ」
沙花又は動くことなく、長刀をレイリーに向けるのをやめない。
「そんなもので防げるほど甘くないぞっ!」
レイリーは再び、沙花又へ拳を振るう。
先ほどとは違い、魔法使用可での魔弾。
威力は段違いである。
「…」
沙花又は自身の指で長刀を撫でる。
レイリーの攻撃は直撃…しなかった。
「なにっ!?」
レイリーも驚きを隠せない様子。
まるで沙花又から逃げるように避けた魔法は後方ですごい音を立て爆散。
やはり当たればひとたまりもない。
「なにをしたっ!」
レイリーが沙花又を問い詰める。
「なにしたって…魔法」
一言、そう告げるのみ。
だがレイリーは魔法陣も魔法の発動動作も見ていない。
「…無詠唱」
自身と同じ無詠唱を使い、魔法を発動したと考えるレイリー。
「ほんっと、考えることを放棄する人間ほど浅はかだよね」
沙花又は持っている長刀を撫でながらレイリーを口撃する。
「…なんだと?」
さすがのレイリーも度重なる沙花又の言動に耐え切れなくなり、安い挑発に乗ってしまう。
「なんで相手の言葉をそのまま鵜吞みにするのさ?嘘かもしれないだろ?ただでさえ情報が何も分からないってのに。その勘違いが勝敗を分けるって思わないわけ?」
沙花又は淡々と告げる。
完全に沙花又のペースだ。
「だったら!」
レイリーは沙花又に向かって駆け出す。
これまで長刀の範囲外の攻撃で様子を見ていたが、得意の接近戦に持ち込む気だ。
「やっと近づいてきた」
ボソッと呟くと、長刀に爪を立てる沙花又。
「『|振々魔響 斬知』」
長刀に巻き付いている包帯が取れていく。
その長刀の鞘には凸凹と歪な跡が無数にある。
沙花又は凸凹している鞘を爪で引っかくと複雑な音がステージ上に響く。
ブシュッ。
まるで斬られたような音。
気づくと沙花又に攻撃しようとしていたレイリーは傷だらけになっていた。
「なっ…!?」
二度目の不思議な現象。
レイリーはその場に立ち止まる。
「前の試合じゃ軽症みたいだったけど、氣の練度が足りないんじゃない?」
「すぅー…はぁー…」
沙花又の話を聞いているかは分からないが、その場で呼吸を整え始めるレイリー。
「…そのまま挑発に乗って突っ込んでくれた方が楽だったのに…」
沙花又は面倒そうな顔をする。
「おかげで我に返ったよ」
「もう終わりでいんじゃない?」
「笑わせるな…ここからだろう…?」
心底嫌そうな顔をする沙花又。
「氣の練度込められたら時間長くなるじゃん。いい加減にしてよね」
「長引かせる気はない」
そうゆうとレイリーは右の拳に魔力を込め始める。
赤いオーラを重なり、かなりの破壊力を持つことが分かる。
「…未完成の魔弾でも撃つ気?」
唐突の発言。
レイリーはこの試合で何回驚かされるのだろうか。
眉間にしわを寄せながら、
「…なぜ、未完だと?」
「見ればわかるよ。それに完全な状態だったら、最初の一撃で試合は終わっている」
「…そうか」
レイリーは納得する。
「だが、これはそれとは違うぞ?今度は氣も混ぜ込んだ正真正銘だ」
「…へえ」
沙花又は目を見開く。
「それじゃあ、撃って見なよ?」
再び長刀を構え、攻撃に備える。
「…少し、加減はできないが許してくれ」
「それで終わるなら構わないよ」
互いの魔力が高まっていく。
それも見守る周囲の視線も集まる。
「いくぞっ!」
「これで最後っ!」
「『剛氣・魔弾』!」
「『振々魔響 宙廻』」
前回見せた『剛氣・波』を超える威力。
魔力をこめたことで赤いオーラを纏ったまま繰り出される威力は、学生が出せるものではない。
一点特化の破壊力だけで見れば、レオナルドの『王剣光波』を超えるほどだ。
普通ならレイリーの魔法は大会では無敵…なはずだったが、唯一の存在がいた。
この男、沙花又 陽樹である。
今大会初出場ということもあり、情報がなにもない状態。
情報がないからこそ、何をしてくるか分からない。
そんな男が放った技、『振々魔響 宙廻』。
1度目に放った『|振々魔響 斬知』は、刀を振るう動作がなくとも、相手に傷を負わすことのできる。
この2つに共通することは、技前の動作がないことだ。
「…この技はすべてを返す。この世の理も、なにもかも」
気づけば勝敗は決しており、倒れ込むレイリーの姿と立ち尽くす沙花又の姿。
「…まいった」
レイリーの敗北宣言。
沙花又ははあとため息をつく。
『第2ステージ側の試合が終了しました。結果、聖マリウス学院の勝利です』
中堅戦終了のアナウンスが流れる。
「いいの?まだ立てるでしょ?もう僕の魔力は空っぽだよ」
「ああ。全力の一撃を完全に打ちのめされた。…これ以上はお嬢様の顔に泥を塗ることになる」
「なるほどね。まあこっちとしては終わってくれて助かるけど」
「貴様の魔法…技は何でも返すことができるのか?」
「宙廻のこと?そうだよ。その代わり魔力完全使用。効率が悪すぎる技さ」
「状況判断が必須の技だな、それは」
「まあね。…じゃあ僕は行くから」
そう言って自身のチームメイトのいるところに帰っていく沙花又。
「…すみません、お嬢様…」
空を見ながら、ひとりでに呟くレイリー。
その表情は甚く悔しそうだ。
「仕方ないわよ」
突然の声。
レイリーは思わず飛び起き、声のする方へ振り向く。
ステージ上には、レイリーの仕えるお嬢様の姿が。
「お嬢様。…すみm」
レイリーは勝負に負けたことを謝ろうとする。
だが水炎寺はすぐに遮る。
「謝ったら許さないわよ。それは昨日の勝てなかった私に対する当てつけかしら?」
「い、いえ!そのようなことは!」
「なら、さっさとステージから降りてあそこにいる風読み君と一緒に応援でもしといてね」
「…はい、はいっ!」
レイリーはすぐさま調子を取り戻す。
なんて単純な奴なんだろうか。
「…私はそこで待ち構えてる彼の相手をしてこようかしら」
レイリーは水炎寺の視線の先を確認する。
そこにはすでに準備を終えた聖マリウス学院の生徒が。
「てっきり、勝ち越してる時点であなたが出てくるとは思わなかったわ」
「それは失礼した」
水炎寺の前に現れたのはレイン・ザガン。
聖マリウスのエースだ。
「またナナでも出して様子見…とはいかなかったみたいね」
「ノルヴァック公爵とは知り合いなのか。昨日は彼女に負担をかけてしまったからね。…まあうちの中堅のせいなんだが」
少しため息をつきながら眉を顰める。
「ナナと華とは幼い頃から次期公爵家の肩書きを背負った同世代だからね」
「なるほど」
レインは水炎寺の話を聞いて頷く。
「話はこのくらいでいいかしら?さっさとやりましょう」
「その身体でやるのかい?」
所々に包帯が見え隠れする身体を見て、つい突っ込んでしまうレイン。
「そうですよお嬢様。昨日のダメージがまだ残っています!ここは私が!」
そういって水炎寺の前に出ようとするレイリー。
そんな姿を見て水炎寺は、
「えいっ」
レイリーの頭に手刀をたたき込む。
打たれた本人はポカーン( ゜д゜)とした表情。
「お、お嬢様…なにを…」
「風間君が出るならまだしも、貴方は今試合に出たばっかじゃない。いいからおとなしく戻りなさい」
ステージ外では風間がくしゃみをしていた。
「…ですが…」
「なに?貴方は私が負けるとでも言いたいわけ?」
「そんなことありません!お嬢様は最強です」
「よろしい。それなら早く行きなさい」
「…ご武運を」
レイリーは納得いっていないが、水炎寺のいうことを聞きステージを去る。
「ごめんなさいね、うちの従者が」
「構わないよ。それにしても、いい関係だ」
「そりゃあ、長い間一緒にいるからね」
「羨ましい限りだ」
「そんなこといっても、手加減はしないわよ?」
「お手柔らかに」
互いに言葉を交わした後、臨戦態勢をとる。
「第2ステージの準備が整いました!試合を開始したいと思います!2日目第2試合大将戦、開始!」
試合開始の合図が下された。
老游院VSイリーナル学園 大将戦
???VS???
試合継続中
サンジュ学園VS聖マリウス学院 大将戦
水炎寺 波流渦VSレイン・ザガン
試合継続中
沙花又 陽樹の能力が判明しましたね(´・ω・`)
剣術に魔法を付与することにより完成された剣技。
一度だけ、どんなものも返すことができる技。
デメリットもありますが、とても強力ですね(>_<)