第53話 学年NO.2同士
先鋒戦が終わり、試合は中堅戦へ。
次の試合に出る選手は果たして誰になるのか?
「じゃあ、行ってくる」
自身のチームメイトに声をかけ、ステージに上がっていく藍色髪の男性は美登・H・紫翁。
イリーナル学園の選手だ。
ここ、第1ステージではたった今、中堅戦が始まろうとしていた。
美登達は次の試合を話し合った結果、ここで負けてしまっては敗北が確定してしまうことを危惧。
そのため、補欠組は大将戦に出る判断を選択。
結果、美登が出る形となった。
「勝ちが欲しいんだが…次の相手はあんたかよ」
美登は目の前にいる対戦相手を見てぼやく。
「そう踏んでの判断です」
見事相手の出方を見抜き、試合前の駆け引きに勝ったのは老游院学年ナンバー2、梁・我酢だ。
「まあ大将戦に温存されても困るしな。どっちみちか」
「それは自分なら勝てる、ということですか?」
「勝てる、じゃねえ。勝てる可能性が1番高いってことだな」
「なるほど…」
梁は少し考え、
「…甘く見られたものですね」
美登に対して圧をかけてくる。
「…」
美登の表情は変わらない。
「昨日の試合を見させてもらいました」
梁は続ける。
「正直、そちらの学年主席以外は勝てる見込みはある、と思ってます」
「…そうかよ」
「貴方が何を根拠に勝てる可能性を示しているかは分かりませんが、せいぜい頑張ってください」
梁は話し終えて構えをとる。美登も自身の日本刀に手を置き、いつでも戦う姿勢をとる。
「えー、おまたせしました。これより第2試合中堅戦を開始したいと思います」
司会の念動さんの合図により、中堅戦が幕を開ける。
「『居合・おきn』…」
試合開始と同時に自身の十八番を撃とうとした直後、
ダンッ!
「…!?」
美登の顎に何かがぶつかる。
突然のことで困惑する美登。
すぐに体勢を立て直し、攻撃しようとする。
…がその場に膝をついてしまう。
自分の身体が思うように動かない。
状況が呑み込めない美登に梁は告げる。
「…視界は大丈夫ですか?」
その言葉にようやく気付く。
まともに梁の姿が捉えられていない自分の視界に。
「これは…?」
「貴方は身体が頑丈。故に生半可な攻撃ではこちらが体力消費してしまうだけ。…なので明確に一撃で落ちるよう対策を練ってきました。それがこれです」
梁は丁寧に説明してくれる。
「ん~なるほど~」
観客席にいるイリーナル学園1年担任の佐々木 歪先生が納得したように手をポンと叩く。
「先生…何がなるほどなんでしょう?」
隣に座るお嬢、公家院 華は佐々木先生に尋ねる。
「美登くんの身体能力~、具体的には回復力なんですが~、それが他と桁違いなのは知ってますよね~」
「はい。美登さんの回復力は学内新人戦やこの統合新人戦でも明確に高いことが分かります」
「そうですね~。それで対戦相手の方は考えました~。いかに余力を残し倒せるかを~」
「次の試合もある以上、下手な持久戦はかえって自分の首を絞める結果になりかねない…?」
「そのと~り。彼の戦闘スタイルを考えるに~たどり着いた結論は~」
「人間の構造を利用した一撃必殺」
佐々木先生の言葉の邪魔をしたのはイリーナル学園2年担任、的場 入先生。
「人間の…構造…?」
お嬢は考え込む。
「人間の顎というのは~強い衝撃が入ることで何かが起きますよね~?」
ほぼ正解みたいなものだが、その問いにお嬢はあっ!と声をあげる。
「脳震盪ですねっ!」
「それです~」
佐々木先生はお見事と言わんばかりに手を叩く。
「打撃に強い奴には内部からの攻撃。氣を使う連中が考え付きそうなものだ」
的場先生はふんっと鼻を鳴らしながら話す。
「…なるほど、脳震盪か…」
美登は自身で気づく。
「その通りだよ。しかし気絶させるつもりで撃ったんだが…想像以上の打たれ強さだね」
「これしかないんでね」
そういって立ち上がろうとするが力が入らない。
「…主審」
梁は美登に背を向け、司会である念動さんに話しかける。
「はい?」
「私は弱い者いじめをするために大会に参加したわけではないです。どうすればこの試合は終わりますか?」
梁は本気だ。
だからこそ、美登は怒号する。
「ふざけんなっ!」
「その格好で威勢を張るのは構いません。その心意気があるなら立ってもらえませんかね?」
梁は冷静に答える。
美登は再び立ち上がろうとするが、美登の世界は揺らぎ続けている。
「…くそっ!うごけっ!うごけっ!」
自身の太ももを打ちつけ、必死に動こうとするが、結果は変わらない。
「んー、やはり規定通り場外か本人の降参以外は難しいですね。彼はやる気満々みたいですし」
念動さんは美登の状態を確認しながら伝える。
「…分かりました」
梁は念動さんの言葉を了承し、美登に近づいていく。
タッ…タッ…タッ…
ゆっくり、ゆっくりと美登との距離を詰めていく。
美登は焦り、力いっぱい振り絞るも現状は変わらない。
梁は美登の間合いに届かない程度の距離で止まる。
「…覚悟は良いですか?」
梁は告げる。
美登は腰に下げている日本刀を持ち、防御態勢をとる。
そして目を閉じる。
『どこからこようと…』
余計な五感を遮断し、梁の攻撃に専念する。
「無駄ですよ」
梁の右腕が動く。
美登は…動かない。
ダンッ!
先ほどの鈍い音が聞こえた。
…バタンッ。
美登は梁の攻撃を読み切ることはできなかった。
2度目の脳震盪。
美登が倒れるには充分すぎる威力。
「主審」
梁は念動さんを見る。
「…戦闘続行不可と判断します。第1ステージは試合を終了してください」
『第1ステージ側の試合が終了しました。結果、老游院の勝利です』
最後のアナウンスも行われる。
担架に乗せられ救護班に搬送される美登に声をかける人物が。
「…美登くん!」
同じチームメイトの天縫糸 花音だ。
かのんが声をかけるが美登の反応はない。
「…天縫糸殿」
気づけば後ろには選手として登録されているチームメイト、イチカ・クノウが立っていた。
「…クノウさん」
「わしらは次の試合のことを考えねばならん。選抜組がみな脱落状態なのじゃからのう」
「…でもっ」
かのんが何かを言いかけるがすんでのところで止める。
「…そうだよね。ありがとうクノウさん」
「忍忍」
お得意の忍者ポーズをするクノウ。
次の試合はこの2人のどちらかが出るのが確定している。
果たしてどっちが出るのか?
ー第2ステージー
「はぁ…はぁ…はぁ…」
全身切り傷だらけで息が上がっているのはサンジュ学園の選手、レイリーだ。
「もう終わりで良くない?」
ため息をつきながら、早く終わることを願っている少年。
聖マリウス学院の沙花又 陽樹だ。
「笑わせるな…ここからだろう…?」
「はあ…。なんでこんなことに…」
時は遡り第2ステージの試合開始前…
「お嬢様!次は私が出て参ります!」
意気揚々とそう告げるのはレイリーだ。
そんなレイリーがお嬢様と呼ぶこの人物、水炎寺 波流渦は頷く。
風間はあくまで自身のテンションのまま送り出す。
「じゃあねー」
「いってらっしゃい!」
「おまかせを」
お嬢様から檄をもらい、元気よくステージに向かう。
反対サイドでは…
「早く行けって!」
「いーやーだ!」
ついさっき戦っていた聖マリウス学院の選手、パーラ・ライオネルと試合に出たがらない沙花又 陽樹が言い合いをしていた。
「お前も1試合くらい行ってこいよ」
「なんで行かなくちゃいけなんだ」
「それはおまえが選手だからだよ…」
呆れた様子で沙花又を見るライオネル。
「すまない沙花又。君の力が必要なんだ」
そんな沙花又にお願いする様に声をかけるのは聖マリウス学院の誇る学年主席、レイン・ザガンだ。
「…いやだ」
少し間を置くが、それでも拒否する沙花又。
「また学園長から怒られるぞ」
「そんなのどうでもいい」
「困りましたねえ」
困った様子で顔に手を置くのは公爵家、ナナ・ノルヴァック。
「きみが出ればすべてかいけ…つ…」
言い切る前にライオネルの顔を見て怒られることを悟ってやめる。
「…沙花又」
レインが続ける。
「この試合は記録がとられていることは分かっているな?」
その問いに対して、何をいまさらと言わんばかりに頷く沙花又。
「ということは、この大会は自分のアピールの場でもある。対戦相手の対策だけではなく、我が院の生徒や教員に見られる、という意味でのアピールにもなる」
「それが何だってのさ?学園長や教員の評価なんてどうでも…」
またしても途中で話を切り上げ、少し考えた様子を見せる沙花又。
「…気づいたか?我が院も見るということは、君の尊敬するテリオス先輩も見る、ということだ」
その言葉にハッと気づかされる沙花又。
レインの言葉は続く。
「テリオス先輩に自分をアピールする機会なんじゃないか?残りの2戦は公爵家とその従者。どちらにせよ勝利を勝ち取れば相当評価は上がると思うが」
「…この試合だけだよ」
「そこは約束はできないが、とりあえずこの試合は頼もうか」
沙花又はレインに絆されながらステージに向かっていくのであった。
「…すげーなレイン…」
ライオネルは呆気にとられる様子。
「沙花又の行動理念は単純だからね」
ふふっと笑いながら話すレイン。
「これでひとまずは学園長の機嫌がなおればよいのですが…」
ノルヴァックも一安心した様子なのだった。
老游院VSイリーナル学園 中堅戦
梁・我酢VS美登・H・紫翁
結果、梁・我酢の勝利
サンジュ学園VS聖マリウス学院 中堅戦
レイリーVS沙花又 陽樹
試合継続中
イリーナルは厳しい状況ですね(´・ω・`)
かのんとイチカ
次の試合はどちらが出るのでしょうか?