第49話 陳 立駿
夜の作戦タイムも終わり、とうとう2日目。
あと2試合で統合新人戦の優勝者が決まる。
はたして勝つのはどこなのか?
時間は進み翌日の朝。
選手、関係者及び観客はすでに会場入りし、大会の再開を今か今かと待っている状態だ。
「一晩が早すぎる…」
苦虫を嚙み潰したような表情で話すのはお嬢、公家院 華である。
「…は、華ちゃん。せっかくの可愛い顔が台無しだよ…?」
その横で慌てながら話すのは天縫糸 花音。
「だって気がついたら朝だったんだもん…」
「…仕方ないよ。華ちゃん疲れてたみたいだし、すぐ寝ちゃったもんね」
「そうだけど…」
「ぐだぐだ言う暇があるほど、余裕みたいだな」
皮肉な口を利くのは生徒会を指揮する先生、的場 入先生だ。
「…すみません」
お嬢は何か言いたそうな顔をするが、それを飲み込み謝罪する。
「ま~たそんな冷たいこと言って~。素直じゃないんですから~」
1年担任の佐々木 歪先生が的場先生をつつく。
「本心だ」
スパッと斬られてしまう佐々木先生。
「はーい。皆さん聞こえますかー?」
そんな会話の途中で、司会の念動 勝の声は響く。
「大変お待たせいたしました!これより統合新人戦2日目を開始したいと思います!」
うおぉぉぉぉっっっ!
会場が湧く。
「次の対戦相手も決まってます!皆様上空をご覧ください!」
念動さんの声かけに皆が上空を見つめる。
するとモニターから第1ステージ、第2ステージの対戦相手が表示される。
第1ステージ
老游院VSイリーナル学園
第2ステージ
サンジュ学園VS聖マリウス学院
「俺たちの相手は…」
「…老游院か」
メンバーのレオナルド・テリオス、美登・H・紫翁は静かに息を飲む。
「さ~皆さ~ん。いってらっしゃ~い」
佐々木先生は生徒たちを笑顔で送り出す。
「…いってくるね。華ちゃん」
「ええ。無理だけはしないでね、かのんちゃん」
先生やお嬢に見送られ、メンバーの4人は試合向かっていく。
「…悔しいですね~。見送るだけ、というのは~」
佐々木先生は振り返らず、お嬢に声をかける。
声をかけられたお嬢は…悔しそうな顔をしていた。
「…は、い、」
試合に出れない。
この悔しい感情は、お嬢にとって苦痛以外にほかない。
メンバーの皆には一度たりともこんな表情を見せずにいた。
その握りしめた拳には、どれほどの思いがあったかが分かる。
「いいですね。こんなにも強い意志を持っている後輩がいるということは。ますます生徒会に欲しい人材です」
近くに座っていたアルサッド・ビートレイ会長はお嬢に対し好感をもつ。
「自己管理もできない奴には、当然の末路だ」
的場先生は相変わらずキツイ。
「俺らがいなくなっても、先が安泰なのはいいことだねえ」
「そうだね」
ビートレイ会長の隣に座る浦々 灰賀先輩と森波 木馬先輩も好印象だ。
「今回を糧にして~次に繋げてください~」
お嬢は黙って頷く。
「さ~試合を見ていきましょうか~」
佐々木先生の言葉に皆の視線はステージへと向くのであった。
「先鋒は誰が出ようか?」
レオナルドは他の3人に問う。
「んー俺が様子見でもいいけどな」
美登は自身を推奨する。
「…わ、私もいけます」
かのんは緊張しながらも声をあげる。
「わしは出ろと言われれば」
端っこで座っているクノウも同じ意見だ。
「うーんどうしようか…」
レオナルドが考えていると…
ゾクッ。
ステージから悪寒を感じる4人。
たまらずその場所を凝視する。
ステージ上にはすでに老游院の選手が立っていた。
「…んだぁありゃ…?」
美登から一滴の汗が流れる。
「…あ、あの方は昨日はいなかった方ですよね…?」
かのんも警戒しながら話す。
「…すごいのう」
一瞬だけ緊張するもクノウだけはすぐに正常に戻る。
「彼は…すごいね」
レオナルドも固唾を飲む。
「…ここは僕がいくよ」
レオナルドは意を決し、先鋒戦を買って出る。
「俺がいく…と言いたいところだが、すまねえ」
「大丈夫さ、それじゃ行ってくる」
そういってステージに上がるレオナルド。
「先鋒戦は僕だ。よろしくね」
レオナルドは対戦相手に挨拶する。
「ぼ、くは、陳。陳 立駿」
「陳くんか。あらためてよろしく」
「よ、ろしく」
長身で黒髪ポニーテールの男性。
少し拙い喋りだが、聞き取れないほどではない。
「両ステージ選手がつきましたので、試合を開始したいと思います!2日目第2試合先鋒戦、開始!」
念動さんの合図で試合が開始される。
カチャッ。
レオナルドは鞘から剣を抜く。
「『集中強化』」
自身に魔法をかけ、陳 立駿を警戒する。
「イ、リーナルで、いちば、ん強い、人」
そういって指を指す。
「僕は確かに大会に優勝したが、一番強いとは思ってないよ」
「け、んそん?」
「そうゆうわけではないんだが。…そうだね、武力だけじゃ最強を名乗れないと知ったと言ったところかな」
「武、力はさいきょ、うにはなれな、い?」
「うーん、難しい質問だね。矛盾するかもしれないが、一概にそうとは言えない。君の所の理事長さんはその武力で最強なんじゃないかな」
「理、事長は、最強」
「だろうね」
「そ、してぼ、くが、それを、継ぐ」
「…なるほど、それが君の強さか」
さっきの悪寒が増していく。
この思いこそが、陳 立駿の不気味さを際立たせる。
「すまないが、話はこの辺でいいかい?」
あまりの圧に耐え切れなくなったのか、レオナルドが試合を再開を提案する。
「い、いよ。いつで、も」
「勝負を急ぐなんてレオナルドらしくないな」
「…それほど、警戒しているということでしょうか?」
「問題なければいいんだけど」
美登とかのんは少し不安な様子を残す。
「『王剣風圧』!」
ボオオォォォン。
いきなりの魔法。
剣から放たれる風は魔力を帯びて相手を覆う。
立駿は不意をつかれ、そのまま直撃する。
「…ふうぅぅぅ」
レオナルドは深く深呼吸をする。
「彼が接近戦を好まずに魔法を撃つのは~初めてみましたね~」
観戦している佐々木先生もレオナルドの言動に疑問を呈している。
「こちらでは感じない何かがあるのでしょうか?」
「そうかもしれませんね~」
お嬢たちの席からは、あの不気味な雰囲気は感じ取れていないらしい。
「これで終わりでいいですか?」
レオナルドは司会の念動さんに声をかける。
「んー、姿が見えてからにしましょうか」
「そうですよね」
レオナルドが少し残念そうにした。
…その時、レオナルドの首筋に何かが這うような感覚に陥る。
「うっ!」
レオナルドはそれを払う…が、そこにはなにもない。
「なんなんだ、これは…」
レオナルドは自分の身に何が起きたか分かっていない様子。
「ふふふっ」
レオナルドは声のする方を振り向く。
そこは魔法を放った立駿のところだ。
「あははははっ」
不気味な笑い声が響き渡る。
「遅いぞ」
最上階から一言。
そう呟くのは老游院統括理事長。
理事長こそが立駿を先鋒戦に抜擢した張本人。
その理事長が言った遅いぞの意味、それは…
「はははははっ」
ステージ上では高笑いの声が続いている。
「…気味が悪いね」
さすがのレオナルドも不気味さを口に出してしまう。
「ははははっ………はぁ」
声の主はやっと笑うのをやめた。
…スンッ。
ボゴッッッ。
「…グフッ!?」
突然の出来事。
激痛と共に地面に叩き潰されているレオナルド。
口から血を吐き出している。
何が起こったか分かっていない様子だ。
すると何かに気づくレオナルド。
とっさに横に転がり、その場から離れる。
バゴッッッ。
レオナルドがいた場所は大きなクレーターのような跡が。
まともに食らえば致命傷だ。
レオナルドは眼に見えない速さで攻撃をされた。
しかも当たるまで気づかないほどの速さで。
現状はその情報しかレオナルドには分からない。
レオナルドは何とか立ち上がり、相手に話しかける。
「…ずいぶんイメチェンしたみたいだね」
レオナルドの視線の先には、自身の魔法を食らったはずの立駿の姿が。
だが、先ほどと違いその雰囲気は真逆だ。
「あぁ…いいね。その調子で…もっと…もっと…」
立駿に何があったのか分からないが、自身の昂ぶりを抑えきれないようだ。
「スロースターターってやつかい?」
「これは俺の魔法の副産物さ」
「副産物…ね」
「そんな話はいい。さっさと続きをするぞ」
立駿は構える素振りを見せない。
だがレオナルドは動けずにいる。
一見、何にもないように見えるが、その佇まいに一切のスキはない。
レオナルドは再度強く剣を握りしめる。
常にくる重圧と悪寒は止まらない。
さっきの幻覚のような感覚も、鮮明に身体に刻み込まれている。
これまで戦った強者とは毛色が違う相手。
この不気味な相手に、レオナルドは勝つことができるのだろうか。
老游院VSイリーナル学園 先鋒戦
陳 立駿VSレオナルド・テリオス
試合継続中
サンジュ学園VS聖マリウス学院 先鋒戦
???VS???
試合継続中
立駿はどうやったら不気味な雰囲気が出るか悩みました(´・ω・`)
雰囲気出てるかな?難しい…