第40話 本戦開始
親善試合が終わり、いよいよ始まる大会。
初戦の相手はいかに…
「ではさっそく対戦相手を決めていきたいと思います!」
司会の念動さんが組み合わせを発表する。
「ドキドキするね、かのんちゃん」
「…私は出るかも分からないのに緊張どうにかなりそうです…」
私達イリーナル学園、サンジュ学園、聖マリウス学院、老游院の4校はステージに集まり、準備をしているところだ。
「誰が来てもやることは変わらない」
レオナルドさんの言う通り。
誰が相手でも、絶対に勝って見せる。
「お、対戦カードが決まったみたいですね!それでは発表します!」
みんなの注目が念動さんに集まる。
「初戦の組み合わせは…イリーナル学園VSサンジュ学園!隣の方では聖マリウス学院VS老游院となりました!」
私達の初戦の相手は…サンジュ学園!
波流渦のいるところ!
ふと視線を送ると波流渦と目が合う。
やっぱり、意識しちゃうよね。
「それでは皆さん移動をお願いします!」
「初戦はサンジュ学園か。先鋒は誰が行く?」
「相手の出方次第よね」
「俺が出て様子を見ようか」
3人で話し合い、順番を決める。
「では各選手は前へお願いします!」
念動さんの合図で、先鋒はステージへ上がる。
こっちも美登さんが壇上に上がろうとする。
すると向こう側から声が聞こえてきた。
「待ちなさい」
声の主は…波流渦!
「…なにかな?」
美登さんが反応を示す。
「私の相手は貴方じゃないわ。…出てきなさい、華」
…っ。
私を、ご指名ってわけ…?
「呼ばれてるみたいだよ」
隣にいるレオナルドさんは促すように話す。
まだ戸惑っている私。
美登さんはゆっくりと私に近づいてくる。
「公家院さん、いってらっしゃい」
そう言ってステージから降りる。
「…いいの?」
少し自信のない問いかけをしてしまう私。
「先鋒にこだわってるわけでもないしね。それに、こうゆう方が盛り上がるでしょ?」
にこっと笑いながら返事をする美登さん。
「…ありがとう。行ってくるね」
「頑張って」
「気負わないように」
2人の言葉をもらって、私はステージへ上がる。
「待たせるじゃない」
「待つ余裕もないってわけ?」
「それだけ口が利けるなら安心ね」
「言ってなさいよ」
かのんちゃんは心配そうにこっちを見ていた。
「…華ちゃん、大丈夫かな?…どうか、無事で」
かのんちゃんは両手を合わせて祈るのだった。
観客席では、
「いや~青春ですね~」
「これで負けたら、とんだ恥さらしだな」
的場先生は相変わらず辛口だ。
「なんでムードを壊すようなこというんですかね~?」
「事実を言ったまでだ」
「両者先鋒が出たみたいなので、試合を開始したいと思います!試合開始!」
試合開始の合図が鳴る。
「それじゃあ、存分にやりましょうか!」
「…負けないわよ!」
互いに構えをとり、人工魔装を唱える。
『我望むは力なり。数多の困難を超えるため、顕現せよ! 』
「長銃魔装」
お馴染みの人工魔装が展開される。
対して波流渦も同様に詠唱する。
『無限の青、増殖する赤、その根源は大いなる希望を胸に!』
「紅藍紫槍」
私は銃を、波流渦は槍を顕現させる。
「相変わらずそんな燃費の悪いものを使ってるのね」
「波流渦こそ、そんな細い武器で勝てると思ってるの?」
「その細い武器で学年主席の座をとったんだけど?貴方こそそんなの使ってるから、次席にすらなれないんじゃなくて?」
実績マウントをとられて、何も言えない…。
「うるさいわね!こっちにも事情があるのよ!」
「事情ごときで勝てないなんて、そんな事情なんて捨てちゃいなさいよ!」
大声を張りながら、突撃する波流渦。
キィィィン。
互いの武器が交錯し、重い音が響く。
「どんどん行くわよ!」
槍を振り回しながら、波流渦の攻撃が続く。
接近戦だと、頼みの銃が打てずじまい。
「やりにくい…なぁ!」
小回りの利く武器相手だと、どうしても後手に回ってしまう。
…それなら!
自身の武器を大きく振り上げ、波流渦との距離をとる。
「このままじゃ埒があかない」
そういって長銃魔装についている近接用の剣を取り出し構える。
「さっさと取り出しなさいよ、それを」
「うるさいわね」
「そうやって毎回探るようにおっきな銃で様子見するのが、貴方の悪い癖よ」
「説教しないで!」
私は双剣を携え、波流渦に向かっていく。
「…そうやって、すぐムキになって突っ込んでくるところもね」
波流渦はニヤッと笑い、槍を構え唱える。
「炎槍攻天」
波流渦の持つ槍の周りを、赤い炎が纏っていく。
「負けないわよっ」
「無駄よ」
槍を地面に突き刺す。
すると地面を這うように炎が私に向かってくる。
「くっ」
すぐさま後方に飛び回避する。
「だろうと思った」
波流渦はその間に距離を詰める。
「しま…っ」
「はぁぁっ!」
突き刺してくる槍を双剣で防御するが、抑えきれず後ろに吹き飛ばされる。
「華ちゃん!」
かのんちゃんの心配する声が聞こえた気がする…。
「いったぁ…」
なんとか軽い傷で済んだ。
だけど、波流渦の攻撃は終わらない。
「ゆっくり休んでいる暇はあるのかしら?」
地面を這う炎は継続して襲い掛かってくる。
「休んでなんかいないわっ!」
双剣に魔力を込め、そのまま地面に向かって放つ。
ドガァァァン。
地面を這う炎は舞い、霧散する。
「芸がないわね」
「品だけあっても勝負には勝てないのよ」
「誉め言葉として受け取っておくわ」
再び槍を構え、私の方をじっと見つめる波流渦。
「今日は彼はいないのね」
彼…?
迅のこと…?
「彼って、迅のことかしら?」
「それ以外に誰がいるのよ」
「他の従者に構ってると、自分の従者に嫉妬されるわよ」
「あら、うちの従者は寛大よ」
観客席側では…
「おいおいお嬢様、それはないぜ。後ろにいる従者様はこんな感じだってのに…」
風間はふと後ろを振り返る。
「お嬢様…またしてもあんな奴の話題を…」
護衛のレイリーは複雑そうな顔をしている。
「可哀そうに…」
はぁとため息をつく風間。
「貴方の従者さんってそんな感じだったかしら…?」
「彼がいないイリーナルなんて、上層部は何を考えているのかしら?」
「それは同意見ね」
「まぁ、こちらとしては嬉しい限りだけどね」
「うちのメンバーは強いわよ」
「あら、こっちだって負けてはいないかしら」
互いに火花が散るような視線が飛び交う。
「お喋りはこのくらいにして、そろそろ決着をつけようかしらね。このままいたぶっていても、弱い者いじめみたいになっちゃうから」
「誰が弱い者ですって…?」
「自覚がないなら、分からせてあげるわ」
「こんのっ…」
私は即座に長銃魔装を取り出し構える。
「なめんなぁぁぁ!」
銃口から大きな魔力砲が放たれる。
「すぐそうやって血が昇って大雑把に技を出す…」
波流渦は依然として冷静に話す。
「余裕ぶってるのも!ここまでよ!」
「青槍守天」
波流渦の槍に今度は青い炎が纏っていく。
と、同時に周りを覆っていく。
「そんな炎で守れるほど、甘くないわ!」
ドォォォン。
放たれた魔力砲は、波流渦へと直撃する。
「やった…?」
土煙で何も見えない。
次第に晴れていく土煙を凝視する。
「……うそ…」
目の前の現状に落胆する。
直撃を食らったはずの波流渦は変わらず無傷で立っていたのだ。
波流渦は服に着いたほこりを手で払い、
「だから言ったじゃない」
ボソッと呟く。
直後、私の目の前までダッシュ。
「炎槍攻天・紅突槍」
膨大な魔力が注がれた槍が炎を纏い、突き刺す。
反射的に長銃魔装で防御するが、圧倒的な力に押され耐えきれず…。
ボォォォン。
「うっ…」
私はそのまま吹き飛ばされる。
「華ちゃんっ!」
「ん~今の一撃は凄まじいですね~」
かのんちゃんの叫び声と佐々木先生の感想がこぼれる。
「…おしまいね」
波流渦の言葉がする…。
…このままじゃ、終われない…。
絶対に一泡吹かせてやるんだから…。
ライバル視している同時の戦い。
波流渦の猛攻は激しく、お嬢は苦戦を強いる。
このまま負けてしまうのか…?