第39話 老游院統括理事長
統合新人戦に出てきた4校のトップ。
親善試合にて、その実力が明らかとなる。
ー上の階ー
「なぜ奴はあんな突発な行動を起こすのだろうか」
聖マリウス学院の学院長、エガエル・マノエル学院長はご立腹だ。
その様子を隣で見ていた人物が話しかける。
「仕方ないですよ。今に始まったことではないですから」
隣にいるのはサンジュ学園の学園長、酔艶寺 刀也学園長だ。
「まあまあ、生徒達を悪いようにしなければいいのではないしょうか?」
我らがイリーナル・ジェフ学園長も宥めるように話しかける。
「幸い奴の相手はモルドレッドだ。一方的な試合にはなるまい」
マノエル学院長は少し落ち着いたようだった。
なぜこんな事態になっているのか。
時は少し遡る…。
「今年の出来はどうですかな?」
ここは統合新人戦会場の最上階。
各学園・学院の長が集まり、試合観戦をするところだ。
元来、各長たちはここに集合し生徒たちの成長を見守る仕様になっている。
そんな中、マノエル学院長は他の3人に話題を振る。
「うちの所は従妹が入学しましたね」
酔艶寺学園長は嬉しそうに語る。
「あーあの子ですか。確かに実力主義のサンジュではいい成績を残しそうですよね」
イリーナル学園長も賛同する。
「老游院よ。君の所はどうだ?」
マノエル学院長は老游院統括理事長に声をかける。
「…」
統括理事長は話に参加せず、ステージの方を見ている。
「彼は相変わらずだね」
「自分の興味のないことに関しては反応すら示さない」
「その方がこちらとしてはありがたいんですけどね」
イリーナル学園長は困った顔をしながら話す。
「そういえば近頃、よくない噂が流れてきているらしいじゃないか」
マノエル学院長は話題を変える。
「よくない噂とは…?」
「なんでしょうか?」
「いや、どうやらこの間のイリーナルの大会にて邪悪な魔力が検出されたとか」
マノエル学院長は鋭い目でイリーナル学園長を見つめる。
イリーナル学園長はフッと笑い、
「何か誤作動でも起きたんじゃないですか?私にはなにも問題はありませんでしたけどね」
「そうかね。ちなみにあの大会はここにいる4校全員試合を見学してもらってるんだが」
「そうでしたね。なら自身の生徒さんにも聞いてみたらいいかもしれません。実際に見たものの方が信憑性も増しますからね」
「そうすることにするよ」
マノエル学院長とイリーナル学園長のやり取りは静かに繰り広げられる。
「…あれは興味深いものだったな」
するとずっと黙っていた老游院統括理事長が口を開く。
「そういえば統括理事もいらしてましたね。どうでしたか?うちの生徒は」
「ウチに欲しいくらいだったよ」
「そのくらいの逸材とは、見てみたいものです」
酔艶寺学園長は物欲しそうに見つめる。
「酔艶寺さんは見たことないんですか?お嬢様のご友人である護衛さんですよ?」
「恥ずかしながら。お噂はかねがねなんですが、この目で拝見したことがなくてですね」
「なるほど、そうでしたか」
「今大会は不参加で?」
「残念ながら選考を落ちてしまいましてね」
「イリーナルは人材が豊富で羨ましいですな」
マノエル学院長は羨ましそうに話す。
「うちは相変わらず形を大事にしている方が多くてですね…」
「前学園長の校訓がそうでしたな」
「そうなんですよねえ」
「うちも実力主義ではありますが、素行が伴わない生徒が年々増えているのが悩みの種ですねえ」
酔艶寺学園長も困った様子。
「その点、聖マリウス学院は軸がはっきりとされているのが素晴らしいですよね」
イリーナル学園長が聖マリウス学院を褒めるとマノエル学院長は少し怪訝そうに、
「…うちも今年は問題児がおる」
「あら、珍しいことも起こるものですね」
酔艶寺学園長は物珍しそうに語る。
「今回その生徒も参加しているのだが、正直不安の方が強い」
「どこも大変なんですね」
「…くだらん」
統括理事長様はつまらなそうな反応を見せる。
「そんなもの、黙らせればよいだけだ」
「黙らせる…とは?」
「力でねじ伏せる」
「それは…どうなんでしょうか?」
さすがのお三方も苦笑いだ。
「その考えが甘いのだ。貴様らは前線でもその思考で行くつもりか?」
唐突の話題に黙る3人。
「まあ、卒業後の生徒など気に留めることは無いか。生徒ではないのだからな」
「んーそんなことは無いんですけどねえ」
「極端すぎます」
「僕の考えは変わらないがな」
そう言って、再びステージの方を見る統括理事長。
「相変わらずですねえ」
イリーナル学園長は再度困った様子で見る。
すると統括理事長はふと何かに気づく。
そして突然立ち上がり呟く。
「余興に参加する」
急な発言に3人は戸惑う。
「まさか、親善試合に参加するつもりか?」
「そうだが?」
マノエル学院長のセリフに真顔で答える統括理事長。
「ふざけるのも大概にしろ。なぜ貴様は生徒の成長を妨げるようなことをするのだ」
「成長の妨げ?この程度のことが妨げとなるのであれば、その程度の実力だっただけのことだ」
そう言って、部屋から去ってしまった統括理事長。
「…彼の破天荒は凄まじいですね」
「無理止めようとすると、ここ一帯は地獄と化しますからね」
そんなこんなで今に至るわけだ。
お偉いさん方は困った様子だが、会場は大盛り上がり。
何せ老游院のトップが試合をするわけなのだから。
「あの人が老游院のトップなんですね」
「そうですね~。年齢不詳と謎が多い人物ですね~」
「…ちょっと怖いですね」
「…ふん」
それぞれ思うところはある様子。
戸惑う人たちが多い中、試合開始の宣言が行われる。
「えー皆様!準備はよろしいでしょうか?準備が良ければ親善試合を始めたいと思います!よろしくお願いします!」
司会の合図とともに、試合が開始される。
「騎士道とやらを見せてもらおうじゃないか」
「統括理事だろうが、手加減はしないぞ」
「負ける言い訳は済んだか?」
「…なめるな」
モルドレッド会長は背中の剣を抜き、統括理事長へ斬りかかる。
それをひらりと躱し、モルドレッド会長にデコピンする統括理事長。
「そんな大振りで何が当たるんだ?」
「じゃかあしい」
モルドレッド会長は再度斬りかかろうとするが、
「…っっふぅぅ」
動作を止め、深呼吸をし始める。
「なんだ、図体だけの猪突猛進かと思いきや、意外と冷静か」
「…いくぞ」
再び剣を構え、統括理事長に向かっていく会長。
先ほどとは違い、直線的ではなく変化を加えながら理事長に斬りかかる。
「ふむ、良い筋だ。さすがは会長と言ったところか」
だが理事長は余裕を見せながら軽々とかわす。
「マノエル学院長は優秀なのだな。うちの生徒も見習ってほしいわ」
その発言に老游院の生徒は青ざめた顔をする。
あちらは完全にお通や状態だ。
「まあこのくらいでいいだろう」
理事長は躱し続けるのに飽きた様子。
「躱すことしかできないんじゃないかのう」
「…たわけ」
そういうと、会長の剣を足で踏み動きを止める。
理事長は会長の胸に手をあてる。
そして呟いた。
「よく見て学べ」
ボゴッ!
理事長の手は触れただけにも関わらず、会長に強い衝撃を与える。
「くっ…ぅ…」
会長はその場に倒れる。
「今…なにをしたの?」
「…触っただけで、モルドレッド会長さんが血を吐いて倒れてしまいましたね…」
「あれは~発勁ですかね~」
「発勁…」
「魔法ではなく、肉体による気を使った武術だ」
的場先生が説明してくれる。
「あの威力で魔法ではないのですか!?」
「それが武術だ」
「身体強化も使わず、あの威力…老游院はあれを体得しているの?」
「個人差はありそうですが~院の理念であれば、当然使えてもおかしくはありませんよね~」
「やっかいすぎるな」
美登さんも困った様子だ。
「…もう立てないか?」
理事長は会長に問いかける。
「こんなんへでもないのう」
ふらつきながらも起き上がる会長。
そんな状態を見ながら笑う理事長。
「そうか」
立つのが精一杯の会長に歩み寄る理事長。
「もう1発、食らう覚悟があるか?」
「…やってみな」
「その心意気や良し」
再び会長の胸に手をあてる理事長。
もう1度技が放たれようとしたその瞬間、
「もうその辺でよろしいのでは?」
「これ以上は見過ごせませんよ」
試合中に現れたのは隣で戦っていたはずの2人だった。
「ビートレイ会長!剛毛会長!」
ビートレイ会長は理事長の首に剣を向け、剛毛会長はモルドレッド会長に触れている腕を鷲掴みしていた。
「おや?試合はいいので?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
「ちょっとやりすぎじゃないんですか?」
「これが、やりすぎ?」
理事長の圧が大きくなる。
「そんな甘いこと言ってるから、この程度の実力じゃないのか?」
「貴方がなにを目指しているかは知らないが、この場においてはやりすぎだと判断します」
「…そうか」
理事長は返事と同時に剛毛会長をひっくり返す。
「なっ…」
その場で尻もちをつくが、何をされたか分かっていない様子。
「掴んでいた方が倒れるなんて、そんなことある!?」
「…これも、武術なのでしょうか?」
わたしもかのんちゃんも原理が分からず戸惑いを見せる。
「くっ…」
ビートレイ会長も構えている剣で応対するが、やはり理事長はそれをも躱す。
「足りないねえ」
そっと剣先をつまむと、ビートレイ会長も宙を舞いその場に倒れる。
「興覚めだ」
そういってステージを後にする理事長。
会長が3人がかりでも相手にすらならない実力差。
会場は完全に冷め切っている。
「ん~司会者として傍観していましたが、これはやりすぎなんですかね?」
司会の念動さんは不思議そうにしている。
「まあ学生の範疇ですもんね。うちと一緒にしちゃいけないか。こちらも気を付けます!」
1人で反省してる…。
前線ではあのくらいは問題がない、ということなの?
「モルドレッド会長、動けますか?」
「意地を張りたいところだが、手を貸してくれるとありがたい」
「わかりました。茂野君反対側をお願いします」
「了解」
3人はゆっくりと捌けていくのであった。
「えーでは皆さん、大変長らくお待たせいたしました!気を取り直して、統合新人戦の初戦を行っていきたいと思います!各選手の皆さんはこちらに集まってくださーい!」
念動さんの合図で生徒たちは動き出す。
「では佐々木先生、行ってきます」
「はい~いってらっしゃい~」
「的場先生、勝利を掴んで参ります」
「期待してますよ」
いよいよ始まる統合新人戦。
初戦の相手は誰になるのか…
いや、誰が相手でも負けない。
頑張るね、迅!
親善試合では統括理事長の圧倒的な実力差が見えましたね(´・ω・`)
学生たち、とくに老游院の生徒は委縮してなければいいのですが…




