第34話 メンバー発表
1・2年の合同授業は有意義なものとなった。
この経験を活かし、新入生たちはさらなる成長を遂げていく。
それぞれの合同が始まって数日、俺らいつものメンバーは授業内容を話していた。
「それでね、本城先輩すごいのよ!体術はもちろんのこと、魔力操作も繊細でー」
お嬢がものすごい早口で本城先輩を褒め称える。
他のメンバーも圧倒されている。
「確かに、本城先輩の集中強化の精度は高かったわ」
「ふつーに教え方も上手だったしな」
「でしょでしょ!」
お嬢は大樹たちの言葉を重ねるように続けている。
「かのんの方はどうだったんだ?」
「…え?私ですか?」
「他にかのんって名前の奴いるか?」
「…えーと、私と美登くんはそれぞれ剣とぬいぐるみの資料を読み漁っていました」
「…それだけか?」
「…はい、それだけです」
「生成系統の授業ってのは、不思議なことを学ぶんだな」
「…これが思ったより、面白くてですね」
「そうなのか?」
「…今までなんとなくで使用していた方もいらっしゃったみたいで。自分が使用している知識を増やすことによって理解度が上がり、魔法の質が上がってる方もいるんです」
「なるほどな。根本から理解するためことによって戦術の幅が広がるわけだ。その先輩は面白い人だな」
「…はい。最初は少し怖そうな感じだったんですけど、優しい方です」
「ちょっと、聞いてるの?迅!」
そんな話もお構いなく、お嬢が詰め寄ってくる。
「…屋敷で散々聞いてうんざり中ですが何か?」
「少ししか話してないじゃない!?」
「あれを少しというのなら、体内時計を直した方が良いかと…」
毎日帰宅後に1時間みっちりと話を聞かされた身になるとさすがに言い返したくなる。
「すぐそうやって意地悪言うんだから!」
「意地悪って…」
「仲がよろしいことで」
「仲睦まじいですな」
「お前ら変なこと言うなよ」
「かのんも負けてられないわね」
「ふぇ!?」
突然話を振られ、テンパりだすかのん。
「何の話だよ」
「お前には分からねえ話だよ」
「だから何なんだよ」
「だーかーらーお前には分かんねえって!」
大樹と言い争いを始める俺。
うさみはかのんを茶化して遊んでいる。
お嬢は誰も聞いていないのにもかかわらず、本城先輩の話をしていた。
「えーと、ここですね。失礼しますよ」
クラスに聞き覚えのある男性の声が聞こえてくる。
その男性は部屋を確認しながらクラスに入る。
そしてそのまま、壇上に立つ。
「1年生の皆さん、初めまして。イリーナル学園、生徒会長をしてますアルサッド・ビートレイです。急に来てしまい申し訳ありません」
突如現れた生徒会長に皆驚いている。
そんな中、生徒会長はゆっくりと頭を下げる。
「入学式の際に少し挨拶だけさせてもらいましたが、こうしてお話しするのはほとんど初めましてになりますね」
生徒会長はニコッと笑いながら話す。
「生徒会長さん、何の用だろう?」
「なんでしょうね?」
お嬢が問いかけるが、誰も答えが分からない状態だ。
「今回ここに来たのは、直に開催される統合新人戦の話をするためです」
統合新人戦っ!
その単語にうちの精鋭たちは反応を見せる。
お嬢も目の色が変わる。
「今年開催される統合新人戦は例年通り中央都市にある会場で行われます。我が校を含む4校による対抗戦になりますが、この辺は皆さん知ってますよね」
中央都市。
あのごみ公爵のいるところだ。
大抵のお偉いさん方は中央都市でぬくぬく過ごしているのが現状。
爵位などない人々が前線に立つ、どんだけ割に合わないことか。
「はい、知っています」
レオナルドが率先して受け答えをする。
相変わらずの優等生っぷりだこと。
「毎年統合新人戦には学園や院の長が参加することになっているから、僕も一緒に同行することになっている。よろしくね」
「よろしくお願いします」
生徒会長は再び頭を下げる。
レオナルドも同様に頭を下げる。
「あ、あと先生からメンバー発表が決まったからそれも伝えるように言われてました」
手をポンっとたたき、軽い様子で説明する生徒会長。
それが1番重要じゃねえか。
口に出したかったが、我慢することにした。
「ビートレイ会長、それは確定事項でしょうか?」
「そうですね、非常事態がない限りはこのメンバーで行くみたいですよ」
「分かりました。質問に答えていただきありがとうございます」
「大丈夫ですよ。他の方は別で聞きたいことはありませんか?」
生徒会長の問いかけに周囲は顔を見合わせるが、質問は飛んでこない。
「それではさっそく、今回のメンバーを発表していこうと思います」
生徒会長は1枚の紙を取り出し、その文を読み上げる。
「えー、今回厳正なる審査の結果、主席 レオナルド・テリオス、次席 美登・H・紫翁、そして公家院 華、以上を統合新人戦先発メンバーとする。と書かれています。選ばれた皆さん、おめでとうございます。頑張ってくださいね」
…妥当と言えば妥当の選択か。
レオナルドと美登の反応は薄いが、お嬢は喜んでいた。
「レオ、紫翁おめでとう」
「ありがとう圭吾」
「選ばれたからには頑張らないとな」
「かのんちゃん!やったっ!選ばれたよ!」
「…おめでとうございます華ちゃん!」
2人して手を握りお嬢は飛び跳ねている。
かのんはついていくのに必死だ。
「順当なメンバーね」
「口に出すなよ、そうゆうのは」
大樹とうさみは小さな声で話している。
「また」
生徒会長が言葉を続ける。
「天縫糸 かのんとクノウ イチカを補欠メンバーとして同行するもののとする、と最後に書かれてます」
…へぇ。
意外なサプライズだな。
補欠に2人か。
「…へっ?」
急に自身の名前が呼ばれ、唖然とするかのん。
「わぁ!かのんちゃんもだ!やったぁ!」
お嬢が一層喜びを爆発させる。
「わ、わしかのう…?」
教室の隅っこで精神統一しているかのんの次に選ばれた人物も戸惑っていた。
「…く、クノウさん。お、おめでとうございますっ」
お嬢につられてはしゃいでいたかのんは息を切らしながらお祝いの言葉を述べる。
「あ、ありがとうじゃ。…じゃが、わしに務まるかのう」
「補欠組は不測の事態での登録なので、身構えなくても大丈夫だと思いますよ」
生徒会長もプレッシャーを与えないように話す。
ということは、この先発3人+補欠2人が統合新人戦のメンバーってわけだ。
「残念だったな」
大樹が俺を見て呟く。
「なにがだよ」
「あんたが選ばれなかったことでしょ」
「別に願ってないが」
「私は悔しい」
俺らの会話にお嬢が入ってくる。
「あんなに先生や先輩に迅のことを推したのにも関わらず…。私の力不足だわ」
「そんな事してたんですかお嬢」
「当たり前じゃない。迅が出れば優勝間違いなしよ」
「へぇ、公家院さんの護衛さんはとても強いのですね」
お嬢の話を聞いていた生徒会長さんはこの話に乗っかってきた。
「いや、強いのは前から知ってるんですよ?学内新人戦も拝見していましたからね」
あれは借り物だ。
『呪い』なんて、実力にもなりはしない。
「そうなんです!なのに選ばれないなんてっ!」
「まぁ、先生方の采配も分かりますよ」
「えっ…?」
お嬢は不思議そうに生徒会長を見る。
「彼はあまりにも不確定要素が多すぎます。元々学内での成績や地力のある選抜組と比較すれば、推薦する材料が少ない」
そりゃそうだ。
俺でもこんな不安定な奴入れたくないね。
「でも、新人戦ではいい成績を残しました!」
「それも一時的なものと判断されたんだろうね。うちの生徒会を束ねている先生が誰か知ってるでしょ?」
「あっ…」
お嬢は思い出したかのように言葉を詰まらせる。
「…的場先生」
そう。
かのんの言った通り、生徒会を牛耳ってるのは2年生の担任である的場先生。
この間、今井先輩が速水先輩と的場先生がズブズブな関係と言ったのも、単に教師と生徒だけでなく生徒会を通じて繋がっているという意味でもあった。
「会議の場でも的場先生は発言力がありますからね。否定材料はいくらでもあったでしょう」
「そんなの…あんまりよ」
「別に俺は良いですがね」
「あれ?てっきりやる気があるのかと思ってました」
「あるわけないでしょう?俺はお嬢の進む道が邪魔されなければなんでもいんですよ」
「…なるほど。それが君の主従関係の形ってわけだ」
「どうも」
「長居をしてしまったね。僕は生徒会の仕事があるからこれで失礼するよ。改めて先発メンバーはおめでとう。他の子たちもこれに腐らず、頑張ってね」
クラス全員を激励し、生徒会長はクラスを出ていった。
「…華ちゃん」
かのんは心配そうにお嬢を見つめる。
「気にすんな。この結果は誰でも予想はついてる。俺の評価が底なのは今更だ」
「「化け物なのにな」ね」
大樹とうさみは揃って、失礼なことを言う。
「はいはい。どうせ俺は化け物ですよ」
他愛のない話がクラス中を覆っていく。
生徒会長の唐突な発表には驚いたが、皆臆することなく次に進もうと決意したのであった。
【今回厳正なる審査の結果、
主席 レオナルド・テリオス
次席 美登・H・紫翁
そして2人に次ぐ実績を持つ公家院 華
以上3名をを統合新人戦先発メンバーとする。
また、
天縫糸 かのん
クノウ イチカを補欠メンバーとして同行するもののとする。 イリーナル学園各位決定事項】
選抜メンバー発表されましたね(´・ω・`)
補欠も含め、どんな戦いが繰り広げられるか楽しみです(/・ω・)/