第32話 大神 狼牙
突然現れた男性。
1年生は戸惑うばかり。
この男性は何者なのか…?
「どいつだぁ!?レオナルドってのはぁ!?」
突然響き渡る声に皆が振り向く。
「なっ!?この声は!」
2年の今井先輩が何かに気づく。
「…大神」
同じく2年の速水先輩は大神?という名の人物を見つめる。
「お前ら、俺抜きで楽しいことしてんじゃねえよ!」
でけえ声に踏まえて、この間今井先輩に感じた威圧感と同じような気迫を感じる。
「圧があるな、あの人」
大樹がボソッと呟く。
「レオナルドのことを呼んでたわね」
「…何するつもりでしょうか?」
うさみとかのんも少し心配そうだ。
「先輩たちと知り合いだし、腕章が緑色なところを見ると2年生なのは間違いないみたいだけど…見たことない人ね」
「そうですねお嬢。俺も見たことないです」
「…あいつは大神 狼牙。2年の中で1番強い奴だよ」
横から今井先輩が説明をくれる。
「1番強い…ですか?新人戦は今井先輩の優勝なはず…」
「あいつは決勝戦に参加しなかったんだよ」
「ブッチしたのか」
「新人戦の決勝戦を!?」
「俺も似たようなことしようとしたしな」
「お前も教員ぶっ飛ばしたのか?」
「は?」
身に覚えのないことを言われ、思わず態度悪く返してしまう。
「大神先輩は、教職員に手を挙げたんですか?」
「手を挙げたどころかボッコボコよ」
「教員を…」
「ボッコボコ…」
唖然とする俺とお嬢。
「どんだけ強いんだよ」
「化け物は他にもいるのね」
「…怖いです」
3人も同様の反応をする。
「おい、翔!レオナルドってのはどいつだ!」
大神先輩は今井先輩に尋ねる。
「君に教える義理はない」
速水先輩が前に出て、大神先輩を牽制する。
「1年最強がどこにいるかって聞いてんだよ!お前試合見に行ってただろ!早くしねーと片っ端から殺るぞ!」
「おいおい、待てって。そんな急かしてどうしたんだよお前は」
「この間の新人戦、やけに盛り上がったみてーじゃねえか!俺にも殺らせろ」
「この戦闘狂が。そんな圧全開で来んなよ」
…あなたがそれを言いますか?今井先輩?
俺はそんな表情で今井先輩を見ているとこっちに気づいた今井先輩が気まずそうに視線を避けた。
「聞いているのか大神!授業の場で自分勝手な行動は避け…」
「あ?雑魚は黙ってろ」
は、速水先輩を雑魚呼ばわり…?
一応生徒会の属してる人で、2年の中で1番期待されている先輩なのに…。
「なっ…大神!」
速水先輩は剣を抜く。
だが、そんな速水先輩も無視して大神先輩は話を進める。
「翔、早く教えろ」
今井先輩がどう動くべきか悩んでいると、
「レオナルドは、僕です」
当の本人が一歩前へ出てくる。
「レオナルド!なぜ出てきた!」
速水先輩は声を荒げる。
どうせこの場を収めても同じ学園にいる以上何度も会うんだから、別に悪い選択肢とは思わんがな。
「すみません。でもあの先輩は私を名指ししています」
「お前が新人戦優勝者か?」
「そうです」
レオナルドは腰に携えている剣に手をかける。
すると大神先輩は人差し指をスッと上げる。
その瞬間、
ザッ!
ビュンッ!
唐突にレオナルドが後方に吹き飛ばされる。
「レオ!」
吉田がレオナルドの名前を叫ぶ。
「狼牙!」
今井先輩が怒りを含んだ声をあげる。
…なんだ?今のは?
魔法…だよな?
レオナルドがいたはずの場所には斬られたような跡が地面に残っている。
「…くっ」
レオナルドは間一髪のところで剣を抜き防御していた。
予備動作なしの魔法を防ぐ反射神経とか、人間じゃねえな。
「ほう。これを防ぐか」
「狼牙!やりすぎだ!また謹慎食らうぞ!」
「そんなの何の制限にもならねえよ。お前みたいに問題児にでもなってみるか?」
「…冗談でもっ!」
今井先輩は言葉を発すると同時に大神先輩に詰め寄る。
「んなこと言うんじゃねえよ!」
今井先輩の蹴りを大神先輩は腕で防ぐ。
「そんな怒んなって。お前と殺るつもりはねえよ」
「大神、いい加減にしろ。ここはお前の遊び場じゃないんだぞ」
速水先輩は再度大神先輩を牽制する。
「先生、止めてくださいよ」
お嬢は佐々木先生に助けを求める。
「ん~、助けたい気持ちはありますがね~。彼を止めるとなると甚大な被害がでるんですよね~」
「そんな理由で」
お嬢が言い切る前に、
「以前奴を止める際には教師が3人がかり。なおその際に1つの校舎を破壊している」
「なっ…」
的場先生の説明にお嬢は絶句する。
「そんなわけで、我々が介入すると大変なんですよね~。今井くんだと落ち着いてくれるのが幸いですね~」
今井先輩だと言うこと聞くってことか?
やっぱあの先輩、ただもんじゃねえのな。
ザッザッザッ。
後方から大神先輩も向かっていく足音が聞こえてくる。
…まさか。
「…大神先輩」
そのまさかだ。
レオナルドが静かに大神先輩に近づいていた。
「もう一度、手合わせお願いします」
「ははっ。お前、いいな」
大神先輩は楽しそうに微笑む。
「おいおい、煽ってどうするんだよ…」
今井先輩は頭を抱える。
「では、行きますよ」
レオナルドは剣を構える。
「いいぜ、一発勝負だ」
大神先輩も攻撃の構えをとる。
「今井先輩。下がっていてください」
「…はいはい、一発だけだからな。狼牙も、それでいいな?」
「今回はそれで我慢してやろう。その代わり最大出力で来い」
今井先輩はその場を離れる。
「お嬢、後ろへ」
「ええ、皆も後ろに集まって」
お嬢は他のメンツにも声をかける。
次第にレオナルドの剣に魔力が集まっていく。
レオナルドは目を開いて魔法を叫ぶ。
「王剣風圧」
魔法発動と同時に大神先輩に向かって剣を振りぬく。
大神先輩は何の動揺もせず、左手を下に右手を上に出す。
「『狼王葬牙』」
多くの斬撃がレオナルドの魔法を食らいつくす。
「…レオナルドの範囲攻撃を防ぎつつ、その上からより高度な魔法の展開…」
「なに、あれ…」
俺とお嬢は高度な魔法を目の当たりにし、言葉が詰まる。
周りの生徒も同様だ。
「くぅっ…」
レオナルドも苦しそうだ。
「これで仕舞いか?」
大神先輩は余裕の表情だ。
「つまらん、終わりだ」
ドォォォン。
大神先輩は魔法の出力を上げ、レオナルドを吹き飛ばし言葉の通りになる。
「やりすぎだ狼牙」
「ふん、この程度の実力で前に出るのが悪い。いい教訓になっただろう?思い上がりの強さは身を滅ぼす」
「大神っ!」
速水先輩は今井先輩と違い、大神先輩の胸ぐらをつかむ。
「将来の希望をお前の都合でおもちゃにするなっ!」
「おい、翔。ほんとにあれが優勝したのか?」
大神先輩は速水先輩の行動など気にせず、話を続ける。
あの人、さっきから速水先輩を無視しすぎじゃないか…?
というよりは、視界に入ってないようにも感じる。
「ほんとだよ、学年主席だ」
「…期待外れだ」
「そりゃあ残念だったな。もう用は済んだだろ?さっさと帰れ」
「そうだな。…翔、あとで俺の所に来い。不完全燃焼だ、相手しろ」
「絶対やだね。ボコボコの未来しか見えん」
「さっきからお前は俺の話を聞いているのか!?」
速水先輩が大声を出す。
「…なんだよ、雑魚」
やっと大神先輩は速水先輩に向き合う。
「いい加減にしろ、先生方が手を出さないことを良いことに好き放題が過ぎる」
「…で?」
「は?」
「それで?お前が代わりに俺を止めんのか?その割にはさっきから口ばっかで何もしてこないが」
「お、お前…」
速水先輩は完全に頭に血が上っている。
「俺にボコられた分際で対等に話を進めんな。生徒会入り?次期生徒会長候補?そんな肩書きで強くなんのか?」
「あの時と、同じだと思うなよ!」
速水先輩が剣を抜こうとしたその時、
「流水」
バシャァァァ。
速水先輩の上から水が流れ落ちてくる。
「ぶっ。な、なんだ」
速水先輩は顔を拭う。
「頭を冷やしなさい」
水魔法を放ったのは須藤先輩だ。
「ここで暴れてどうするのよ」
「…そうだな、すまない」
「なんだ?結局殺らねえのか?…はぁ」
あからさまにテンションを下げ、その場を立ち去る大神先輩。
「ふぅ。台風は去ったか」
今井先輩は一息つく。
「あの災害を帰すとは、やはり品性が欠けている相手には同じ人種がお似合いか」
的場先生は変わらず皮肉を言う。
「生徒1人にビビってる先公は黙っててください。口出さないなら最後まで端っこに座ってても大丈夫ですよ?」
「…なに?」
「今井、的場先生は学園のために最善を尽くしてくれている。そんな言い方は先生を侮辱していると捉えるぞ」
「はいはい、そこはズブズブで仲良くやってください。俺には関係ないんでね」
今井先輩は呆れたように返事をする。
「それじゃ~、一難去ったところで各々先輩の所に集まって授業を開始しましょうかね~」
佐々木先生は話をそらすように行事を進めていく。
「んじゃあ、今井先輩。よろしくお願いしますね」
「おっ!やる気じゃねえか黒崎。いいだろう、俺についてこい」
ウキウキで先輩面をかます今井先輩。
「そ、それじゃあ黄色のグループと公家院さんはこっちでしましょうか」
本城先輩も気まずそうに誘導していく。
「…ちっ、レオナルド。気を取り直してこちらも練習をしていくぞ」
ボコボコにされたはずのレオナルドはいつの間にか準備を整え、速水先輩についていく。
「それじゃ~時間になるまで楽しんでくださいね~」
佐々木先生の楽しそうな声が部屋中に響き渡るのであった。
つ、強い…|ω・)
そ、それに、怖い…(._.)