第28話 パーティ
学内新人戦を明け、我がイリーナル学園は落ち着きを取り戻している。
生徒たちは休息を、外部の者は生徒たちのスカウティングを、各々のやるべき事に精を出している。
学園の教員たちには生徒のケア・指導を継続して行うように指示を出している。
「…はぁ」
今回の学内新人戦も何事もなく終えることはできた…のだが、懸念すべきことも増えたのも事実。
今年の1年生は粒揃いが揃っている。
…いや、揃えたと言ってもいい。
格式があるもの、問題を抱えているもの、様々な生徒を集め正しき未来に繋いでいけるよう導くのも我々の役目。
若き未来の卵が間違った方向に行かないようにする…のだが、
「どうしたものか…」
イリーナル学園の学長、ジェフ・イリーナルは悩んでいた。
新入生の情報はある程度認知しているはずの学長。
入学後、問題が生じても迅速に対応できるように生徒を把握するのは当然のこと。
だがイレギュラーは発生するもので…
「…」
1枚の履歴書を見て黙ってしまう。
その履歴書には、『黒崎 迅』と書かれた少年の紙が。
あの公爵家、公家院 華の護衛として入学。
魔力0という肩書きは、この世界において肩身を狭くする。
少年の場合は、魔力は低かったとしてもそれ以外の数値がずば抜けて優秀。
将来性のある少年を育てるのも我々の役目。
護衛だからという理由で入学を許可したわけではない。
「それにしても少年はいったい…何者なんだ」
美登少年の『呪い』に対する対応、その戦闘で見せた人工魔装、少年自身の『呪い』のようなもの、そして決勝戦で見せた戦い…
「公爵家の護衛として修羅場をくぐってきたのは分かるが…。まるですべてを分かったうえでの行動をしているように見える。
あの年でそんなことができるのか?可能なのか?
…それこそ最前線にいるような…
「はっ」
…まさか、そんなことが…?
いや、よりにもよってそんな残酷なこと…
仮にもあそこは由緒ある公爵家。
「あまり憶測でものをいうものではないな…」
悪い予想を振り払い、実務に移ろうとする学長。
トントントンッ。
すると前の扉からノック音が。
「はい、入りたまえ」
ガチャッ。
「失礼しますね~」
1人の男性教諭が入室する。
「君か」
「ご無沙汰してます~」
入ってきたのは我がイリーナルの教諭、佐々木 歪先生だ。
「どうされましたか?先生」
学長は佐々木先生の訪ねてきた用事を問う。
「いやぁ~雑談でも、と言いたいところなんですが~。うちの生徒のことで少しお話をしたくてですね~」
「…うちの生徒さんはたくさんいますが、誰のことでしょうか?」
学長は分からないようなふりしながら聞き返す。
「…黒崎くんのことですよ~」
「あら、今大会でもっとも予想外の出来を見せたあの生徒ですか」
「そうです~」
「てっきり、主席の子を提示してくるのかと思っていました」
「学長も分かっているのでは~?」
「さて、なんのことでしょう」
しらばっくれる学長。
佐々木先生は客席用のソファへと座る。
「まあまあ、じっくりお話ししましょうよ~」
「…いいですよ」
ここでの学長室で話された内容は、またのご機会に。
ー現在ー
学内新人戦から数日が過ぎ、俺 黒崎 迅はお嬢たちと自分の家でパーティを行っていた。
「今日は迅の準優勝、そして~」
「えー、お嬢とかのんの3位を記念してー」
「「「「「かんぱーい」」」」」
お嬢と俺の挨拶を済ませ、パーティの掛け声を行う。
「体調は良いのか?迅」
大樹が俺の身体を心配し気遣う。
前回の誘拐事件の時と違い、1日程度で目が覚めたらしい俺は試合の結末を知った。
その後お嬢に勝てなかったことへの謝罪をするが、謝ることではないと逆に怒られてしまった。
「特に気にするほどでは」
「それなら良かったぜ」
大樹も安心して食事を続ける。
「私らも参加してよかったのかしら?」
うさみは功労者に含まれていないのにパーティに参加することに少し遠慮がある様子。
「そんなことないわよ。うさみさんも大樹さんも大会に参加した1人なのだから」
「そう言ってくれると助かるぜ」
「あんたはちょっとくらい遠慮ってもんをね…」
食い続ける大樹にため息をつくうさみ。
「…この料理、美味しい」
かのんは豪華な料理を食いながら喜んでいる。
「それならよかった!うちの者に頼んだ甲斐があったわ」
「公爵家は毎日こんな料理食べてるのか、いいなぁ」
大樹は羨ましそうにする。
「ふふ。大樹さんもたくさんあるから遠慮せず食べてね」
「おうよ」
「華、そんなこと言うとほんとに全部なくなるわよ」
「別に構わないわ。残っても仕方ないもの」
「しかたないものー!」
お嬢の言葉を復唱し、楽しそうに食べ進める大樹。
俺はそれを傍目に見ながら、少しずつ食べ進める。
「…なにか考え事ですか?黒崎くん」
近くにいたかのんが気を遣って話しかけてくる。
「いや、こんなパーティなんて滅多にないから対応に困ってただけだ」
「…あんまりこうゆうのはしないんですか?」
「公爵家の社交的なのは何度かあるが、友達となんて滅多にないな」
「…大変そうですね、華ちゃんも」
「だからこそこんな風に楽しそうにしてるのは、こっちとしても嬉しい限りだ。お嬢と友達になってくれてありがとな」
「…華ちゃんには、私もたくさん救われている部分も多いです。公爵家とかじゃなくて、ただ公家院 華ちゃんとして、とても大切な友達です」
「そう言ってくれると、お嬢も嬉しいと思うよ」
かのんに笑いかけながら素直な気持ちを伝える。
するとかのんは、急に顔を伏せ始める。
「どした?なんか変なもんでも食ったか?まともな食事しか出してないと思うが…」
特別辛い物もなかった気がするんだが…
嫌いな食いもんでもあったか。
「…いえ、なんでもありません」
顔を伏せたまま、ボソボソと話すかのん。
「あぁ!わたしのかのんちゃんに何してるの!?迅!」
「いや、何もしてないんだが…」
「あら、あらあらぁ」
うさみは何かを察し、ニヤニヤし始める。
「かのんちゃん!この口の悪い男に変なこと言われなかった!?」
「…いや、ほんとに、なんでもないんですぅ」
「あんたもほんっと、罪な男よね」
「何の話だよ」
「なんでこんなのがいいのかしら」
「だから何の話だよって」
「自分で考えなさいよっ、バカ」
「何で俺は怒られてんだ」
呆れるうさみ、何が何だか分からない俺、俯くかのん、それに声をかけ続けるお嬢、そしてひたすらご馳走を食べる大樹。
このパーティはカオスと化しているのであった。
ひとまずの嵐が去り、皆が落ち着いてきた頃、お嬢が話を切り出してきた。
「改めて皆と話しておきたいことがあったの」
「どうしたのよ、急に改まって」
「…なにか、大事なことですか?」
うさみとかのんはお嬢に質問を投げかける。
「…今度ある統合新人戦についてよ」
「…4校同時で行われる大会ですね」
「各々の新入生最強を決めましょうってやつよね」
「去年のうちは惨敗」
「そう!去年どころではなく、ここ数年イリーナル学園は不調!いい成績を残していないわ」
「去年の優勝は…」
「…聖マリウス学院ですね」
「圧倒的な実力で優勝をもらっていったわ」
「優勝の立役者になったのはロイド・テリオス」
「…テリオス?」
「そう、気になるわよね」
「テリオスって言ったら…レオナルドじゃない」
「…ご兄弟がいたんですかね?」
「本人に聞こうにも…」
「あいつの家庭事情複雑そうだしな」
俺と戦った時に話した内容、強者こそ正義みたいだったし。
何気兄貴が強すぎて蔑ろにされてたって言われても納得できるしな。
「それはまた今度詰めるとして!」
また今度詰めるんだこの人。
「今の新入生の情報!また他の学園の情報!持ってる人はいる?」
「…あっ」
俺は1人思いついた奴がいた。
「はい、迅」
「えーっと、前街に行った時に大樹と話した奴が1人いる。おい、大樹」
「うおっ!?」
未だに食い続けている大樹は驚いた様子で反応する。
「あん時のアイツ、何て名前だったか覚えてるか?」
「ん、んんっ!…ぷはぁ、死ぬかと思ったぜ。んで、あん時のアイツ…?あぁ、風間のことか?」
そうそうそれ、と指を刺しながら肯定する。
「その風間さんって何者なの?」
「サンジュの新入生だよ。…水炎寺のとこ」
お嬢に向けてどこの生徒か伝える。
するとお嬢は少し困ったような顔をしながら、
「…波流渦のところね」
「水炎寺って言うと…」
「…公爵家で有名なところですよね」
水炎寺公爵家。
武闘派でも知られる一家で、そこのたった1人の後継ぎ少女、水炎寺 波流渦は正統なる跡取り娘だ。
「かなり強いって聞くわね」
「…あそこの従者さんも、お強いと聞きます」
レイリーか。
あいつはすこし拗れているところがあるが、実力は折り紙つきだ。
「サンジュは厄介だな」
「そうね」
「あと1つはどこだっけ?」
食いながらも話を聞いていた大樹は残りの1枠が何だっか尋ねる。
「あと1校は老游院ね」
「あそこは少し謎が多いところよね」
「…ずっと在籍してらっしゃる方がトップを務めてますよね」
そう。
あそこはかなり不気味で何故か留年?と言う形でトップが変わっていない。
おまけに理事も兼任している様子だ。
「あそこは毎年何考えてるか分からないから厄介だわ」
そう考えると3校とも侮れない。
万全の準備は必須だ。
「一昨年は唯一準優勝できた年だったが、そん時は生徒会長さんが暴れてたみたいだよな」
「ビートレイ会長ね」
「今年の賢乱演舞祭が最後の締めくくりね」
賢乱演舞祭。
通称、乱舞祭。
学生としての最後となる大会。
全国の猛者が集まり、次世代の最強を決める大規模な祭りだ。
「うちは乱舞祭前に会長選挙があるのよね?」
「…確かそのはずです」
「私たちが出る枠はなさはなさそうよね。毎年2、3年生が主体だもの」
お嬢は少し残念そうにする。
「たまに1年生が抜擢される時もあるらしいが」
「もし今年選ばれるとしたら…」
「…レオナルドくんですよね」
「滑り込みで選ばれるには、どうすればいいかしら…」
「統合新人戦だろ」
俺は真っ先に統合新人戦を名前に出す。
「そこでの成績が、次に繋がるってわけ?」
「少なくとも俺はそう思うがな」
「なるほど…。確かにそうね」
「あの猛者たちが勝ち星あげれば、そりゃ評判も上がって選手として選ばれそうだけど」
「…そう簡単に話が進みますかね」
「さあな」
「さあなってあんたね…」
難しそうな顔をするかのんに対し、眉唾な情報に意見を出すうさみ。
そして食い続ける大樹。
「とりあえず目指すは統合新人戦での出場と結果ね」
「頑張ってくださいお嬢」
「迅も出るのよ」
「流石に今回は無理ですよ」
「私が、直談判するわ」
胸を張るお嬢に一同の笑いを誘う。
「…華ちゃんが言うなら、ほんとになりそうです」
「勘弁してくれよ」
「それも運のツキよね」
「フガッフガ!」
大樹も後ろから何か叫んでいる。
「俺も出るぅ?また秒で負けるのがオチよ。恥を晒しにいくようなもんだわ」
「フガァ!」
またしても大樹とうさみの口喧嘩が始まった。
このままそっとしておこう。
「…また、パーティしたいですね」
唐突にかのんからの申し出。
「当たり前じゃない!またしましょう!」
お嬢は力強く頷く。
「…黒崎くんも、いいですかね?」
俺に問いてもなぁ。
「いいんじゃないか?」
「…ありがとうございますっ」
かのんは嬉しそうにお礼を言う。
俺にお礼を言ったところでなにもないぞ?
開いているのはお嬢だからな。
「ふふっ。それじゃあ皆、今日のところはこの辺にしましょう!また機会があったらよろしくね」
「おぅ」
「えぇ」
「…はい!」
お嬢の締めの言葉に皆が反応を示し、パーティはお開きとなったのだった。
皆さん楽しそうでいいですねぇ( ˘ω˘ )
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