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劣弱と呼ばれた最強護衛  作者: 佐藤 拓磨
第1章 始まりの物語編
2/50

第2話 初日

入学式から翌日。

俺とお嬢はクラスルームに向かって足を進めていた。

入学式の後もこれと言って何事もなかった。

あのあとすぐにお嬢と合流して2人で帰宅するだけのなんてことない日常。

これが3年間続く…なんてことはなく。



教室に着くと、さっそくお嬢の周りに人が集まった。


「公家院さん。おはよう」


「公家院さんと同じ学年でうれしいよ」


「公家院さんは今日も素敵ね」


いろんなところから会話攻めを受けている横で空気のようにただ立っているだけの俺。

そんな俺をかわいそうな目で見ながら声をかけるやつがいる。


「なにしてんだ?公家院と一緒に来たのは偶然か?」


不思議そうな顔して話しかけるのは東郷 大樹。

その横で腰に手を当て同じような顔しているのは宇佐 美鈴。


「偶然にしてはタイミング良すぎるけど」


「まあ、一緒に来たしな」


えぇ!?と2人ともびっくりした表情をする。


「公家院嬢と関わりがあるのかよ」


「あんたもぼんぼんってわけ」


「俺はただの護衛だよ。仕事の関係」


「あら。そんな淡白な関係で済まされると悲しいんだけど」


少し怒った表情で割り込んでくるのはお嬢。


「公家院嬢か。じゃあもっと深い関係にあるってことか?」


「ええ。迅とは幼いころから共に過ごしているわ。迅はあまり話したがらないけど私からしたら一番楽しかった記憶よ」


「ここまで言われてあんな言い回しするあんたも大概ね」


「…ただの人間とつるんでいるのは公爵家としてよくないからな。そこの線引きはしっかりしろと根強く言われている」


「なるほど」


大樹は納得したように手をたたく。


「それにしても迅が友人を作っているなんて思いもしなかったわ。うれしい誤算ね。あなたも学院生活を謳歌しているということかしら」


「友人?そうなるのか」


「おいおい。さみしいこと言うなよ。昨日あんだけ話ししといて赤の他人ですってのはあんまりだぜ」


「それはそうね」


「俺たちはもうマブだぜ」


いつの間にマブになったのだろうか。

まあ、そういううことにしておこう。


「迅の友達なら、私とも仲良くしてほしいわ」


「もちろんいいぜ。俺は東郷 大樹。よろしくな公家院嬢」


「私は宇佐 美鈴よ。うさみって呼んで公家院さん」


「そんな固くなくていいわ。ここには爵位の壁なんてないもの。華って呼んでほしいわ。大樹さん。うさみさん」


「わかったぜ。華」


「そうさせてもらうわ。華」


いつの間にか意気投合し3人で話が進む。

クラスルームの中心では、いわゆる優等生たちの様々な視線が刺さる。


「凡人の分際で」


「気安く話かけるのもおこがましい」


「なんであんなやつらのところに」


嫉妬なのか、不満の声がわざと聞こえるようにしているのが分かる。

そんな中、1人の男が前に出て声をかける。


「お話し中失礼するよ。公家院さん、そんな人たちよりもこっちで話をしよう。有意義な話ができると思うよ」


「おはようございます。アレクシスさん。申し訳ないのだけどあなたにそこまで言う権利があるでしょうか?いくら子爵といえど…」


お嬢の言葉がさえぎられる。


「権利?そんなもの、あるとは言い切れませんが…。少なくともそこにいる野蛮な者共よりは、発言する価値が、私にはあると思いますが」


大樹とうさみの眉間に筋が入る。

お嬢も少し眉が動き、


「この人たちは、私の護衛が選んだ友人たちです。その方々を悪く言うのはいい気分ではありませんが」


「公家院さんを悪く言うつもりはこれっぽっちもありません。ですが、そこで何食わぬ顔をしている男が護衛というのは如何なものかと」


要は、俺のことを目の敵にしているのに都合のいい理由つけてるわけだ。

こっちは絡む気すらないというのに。


「いい度胸じゃねえか。そのケンカ買うぜ」


「その意見には賛成よ」


2人はアレクシスに対して、敵意を見せる。

アレクシスはふっと鼻で笑い、


「小物に用はない」


と一瞬する。

今にも一触即発する展開だったところに、教室のドアが開く。


「あなたたち~席についてくださ~い」


やる気のない声が響く。

声の正体は白衣を着た男性だ。


「佐々木先生」


お嬢がふとつぶやく。


「…この話の続きはまた今度」


捨て台詞をはいてその場を離れるアレクシス。

大樹とうさみは怒りが収まってない様子だ。


「先生がきたら、はいさいならってか!優等生は大変だな」


「あと少しこの場にいたら脚が出てたわ」


まあ、あいつの矛先はこの2人じゃないことはだれの目も明らかだし。

護衛がただの凡人なのがそんなにも不快なのか。

そこまで気にするほどでもないか。


「…あなたも何か言い返しなさいよね」


「言い返すも何も、大筋は間違ったこと言ってましたかお嬢?比較的、的を得ていると感じましたが。俺らが凡人なのは間違いじゃないですしね」


「あなたはこう…もう少し自分に対して関心を持ちなさいよ」


あきれた様子で机に戻っていく。

そんなこと言われても、お嬢に敵意が向けられるなら話が別だが。

まあ、そこまで言う必要もない。


「はーい。それじゃ今後の話をしていきますね~」


佐々木先生の話が始まる。


「今日は、初日もかねて改めて基礎的な能力を再度確認していこうと思います。皆さん第1広場のほうにあつまってくださいね~」


皆席を立ち、それぞれ歩き始める。

アレクシスがこちらをにらんでいる。

当然、無視だ。


「俺がなにしたっていうんだか」


俺の独り言は、少なくなっていく教室にポツンと残っていた。







ー???ー

『あいつ、なめたことしているじゃない。』


『殺気が漏れてるっ!抑えて抑えて!それじゃ意味ないよ!』


『…ごめんなさい。でも、あいつにはいずれ報いを受けてもらうわ』


『それには賛成』


女性2人組の会話が聞こえる。

誰が誰に対しての発言かはわからないが、1人の女性は相当怒っている様子だ。

この2人組がどこの誰なんて誰にも分からない。もしかしたら知っている人物もいるかも。

まだ語れることのないこの2人組の出番をお楽しみに。



ー現在ー

第1広場に集まった俺たちは佐々木先生の話を聞いていた。


「えーっと、それじゃあまず、魔力総量の確認をしていこうと思います~。我こそはという方はいますか~?」


ドサっと間髪入れずに足を踏み出す人物が3人。

学年主席金髪のレオナルド・テリオス

次席藍色の短髪の男 美登・H・紫翁

我らがお嬢、公家院 華の3名だ。


「主席として先頭を走ることは当然のこと」


「…責務は果たすべき」


「私が前に出ないとほかの人が委縮しちゃうからね」


「それでは3人同時に水晶へ手をかざしてください」


合図と同時に3人とも手をかざす。

水晶が光り、色が変わる。


「レオナルドくんは黄色、総量は6ってところかな。美登くんは紫色で総量は5か。公家院君は…青色だね。魔力総量は4だね」


数字の結果が如実に出てるな。

結果だけがすべてじゃないがな。

一般人を0と称しているこの魔力という存在は本来持っているだけで奇跡といわれている代物だ。

それを優劣で分けて考えるやつらは血統だの階級だので忙しい連中だけだ。


「ほら、迅もやりなさい」


「おっしゃ。んじゃ迅。一緒に行こうぜ!」


そう急かされて大樹とうさみと3人で水晶へ向かう。

手をかざすとほんの少し光る。


「おぉ!俺は黄色だぞ。魔力1って書いてる」


「さすがゴリラは違うわ。私はっと、うわっ…黄色の1…」


「お前っ、俺と一緒じゃねーか!」


大樹の大笑いが聞こえる。

うさみの背中から怒りのオーラが見れる。


「…死になさい」


ビュンっと廻し蹴りが飛んでくる。


「うおっ!あぶねーじゃねーか。ウサギ女!殺す気か!」


「当たり前よ!あんたと同じなんて死んだほうがまし!そこに止まってなさい!」


「っていいながら俺を殺そうとしているのはなんなんだかなぁ!」


2人の痴話喧嘩がまた始まる。


「迅はどうだったの?」


お嬢が顔を覗き込ませる。


「俺は…無色かな。魔力は0」


周りが驚いた様子を見せる。

さすがにケンカしていた2人も手を止める。


「無色…てなに?そんなの存在するの?」


「いや、俺がバカだから分かんないだけで何かしらあるんだろ…?」


「これはまた、珍しいね。一般人と変わらない数値。黒崎くんは己の身体1つでこの学校に入学したってことになるね」


周りの小声が鳴りやまぬことはない。

俺に対する評価が下がっていくのがよく分かる。


「ふん。この由緒正しい魔法学校で一般人が紛れ込んでるとはな」


我物顔で、威圧してくるのはアレクシス。


「こんなやつが護衛なんてさすがに笑えない冗談。そもそもこの学校にいることさえ不思議なものだ。どんなコネを使って入学したのかな?」


煽るように尋ねてくる。

お嬢が前に出て、なにか物申そうとするが、手で遮る。


「べつに。これも実力のうちってことかな。」


「ここまでの醜態を見せてなお、その開き直りか。自主退学を進めるぞ?」


「おいおい。未知の生物が目の前にいるからってビビんなよ。突っかかってくるんならマシな言い分考えてから話しかけろよ」


「…お前、覚悟はできているんだろうな」


アレクシスの両手から火がともる。


「この魔法を食らっても文句は言えんぞ!」


ボォォ。

そう叫びながら火の玉がこちらに飛んでくる。


「迅!危ない!」


俺は何事もなかったかのように腰に携えている鞘付きの剣を取り出し、

火の玉をいなす。


「なっ!?」


アレクシスは驚いている。

ただの剣の鞘で魔法が防がれたのだ。

一同困惑している。


「…剣に備わっている魔力か」


レオナルドが分析する。


「俺の剣は特殊でな。鞘から出せない代わりに剣そのものの魔力を利用することができる。剣の性質は…反射だ」


「こいつっ」


アレクシスがより強力な魔法を繰り出そうとしている。


「そこまでですよ~」


佐々木先生の声で遮られる。


「白熱するのは構いませんが、先生の前でそれ以上は許されませんよ~。アレクシスくんはあとで処罰が下されると思ってくださいね~」


「先生!もうちょっと早く止めてればこんな大ごとにはならなかったんじゃないですか!」


大樹が先生に問いかける。


「大事も何も。大きな問題にはなっていませんよ?黒崎くんがあの程度の魔法でケガするとも思えませんし」


「なっ…」


アレクシスはバツが悪そうな顔をする。


「先生は迅の実力を見抜いてたんですか?」


「実力も何も、ここに入学できている時点である程度生徒のことは知っているつもりですよ」


「あっ確かに」


うさみが納得したような顔をする。


「まあ、少し刺激が強すぎましたかね。このくらいは実戦にでれば日常茶飯事。3年後前線を希望される方々はもっと刺激の強いことが待ってます。耐性をつけたほうが良いかと思いましてね。」


前線。この世界では安全な地帯と危険な地帯に分かれている。

前線とは危険地帯のこと。

それは魔物と呼ばれる化け物が住み着いている所。

並みの魔法士では簡単に殺されてしまう。

そんな前線を希望する人は少なく、大抵はサポートや裏方の配属を希望する。

特に最前線と呼ばれるところは、死亡率が8~9割を占める。

そんな中、お嬢はこの前線を希望している。

理由としては、次期当主としての箔がつく一番の近道だからだ。

当主となり、危険地帯を減らし、安全地帯をより安全にできるようにするのがお嬢の夢。

その夢のために俺は護衛として支えると決めている。


「それでは皆さん。各自水晶への確認を済み次第、今日はお開きにします。明日から座学も交えていきますので遅刻しないように」


淡々と内容を語る先生。

少なからず、今の説明で臆している生徒もいる。

お灸をすえるという意味では、悪くない選択か。

だが…


「このおれが、魔力0なんかに…」


…あまり気にしないようにしよう。下手に首を突っ込むと痛い目に合うからな。今回みたいに。


「黒崎迅君…かな。さっきのはすごかったね。正直驚いたよ」


「そんな風には見えなかったけどな。レオナルド・テリオス」


「あまり顔には出てなかったかな。でも切磋琢磨していく人が多いのはいいことだ。これからよろしく頼むよ」


そういって、手を差し出す。

俺はその手を握り返す。

ギュウゥ。と強めの握手が返される。

レオナルドはその場を立ち去る。

俺は握った手を確かめる。

赤く握った跡が鮮明に残っている。


「…これが人間の握力かよ」


あいつにもなにかあるのだろう。

まあ俺には関係ないがな。


「迅。大丈夫?」


俺は手を隠しながら、


「特に問題ないですよお嬢」


返事をする。


「そう?じゃあ帰ろっか。大樹さんとうさみさんも待っているわ」


俺は歩き出す背中を見つめる。

お嬢に弊害があるならそれを排除するのが俺の役目。

そのはずだったのに、この時の俺は油断していたのかもしれない。

この数週間後、お嬢は誘拐されることになる。




ー?ー

『…やっぱり暗殺がいいと思うのよね。そうすればバレないでしょ』


『そうゆう問題じゃないんだよ~!?それはそうと例の件はどうですか?』


『今のところ動きなし。今後動く可能性は大きくあるわね。今は様子見ってとこかしら』


『やっぱりそうだよね。このまま平和だったらよかったんだけどなぁ』


『魔物相手と比べればこんなのどうってことないじゃない』


『私は???を抑えるのに精一杯だよぉ』


『なに!?私がお転婆って言いたいわけ!?』


『そうじゃないよぉ』


変わらず謎の2人組の会話が聞こえてくる。

果たしてこの2人は敵か味方か…






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