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二つに割れた月

「風よ吹け~少しも寒くないわ」

 成田に向かう車の中で、麗子さんは呑気に「アナと雪の女王」を歌う。


「寒いですよ、オープンカーですもん」

 僕はいじけて答えた。


「機嫌悪いわね。私、昨夜下手だった?」


「最高でしたよ!だから腹が立つ。僕、一回だけなんて嫌です!もっとしたい、ずーっとしたい。

 男になるなんてやめてずっと僕の奥さんでいて下さい。手術なんてさせません!」


 僕はハンドルを切りUターンした。車線を無視して中央分離帯に突っ込っこむ。


「バカ、前を見ろ!」

 麗子さんの悲鳴。トラックが目の前に迫っていた!



……気がつくと僕等の乗った車は土手に乗り上げて斜めになって止まっていた。


トラックは横転し、荷台のドアが壊れ積荷の箱が散乱している。

 麗子さんは車の外に投げ出されていた。


「麗子さん!」

 駆け寄ると、麗子さんが呻いた。


「畜生、まさかこんな手で来るとは――」


 麗子さんの左手が何か赤い物をつかんで胸から引き抜いた。血が吹き出す。


 それはピンヒールの赤い靴。

 周りに飛び散る潰れた箱からとび出していたのは、一つ残らず真っ赤な靴ばかりだった!


「呪いは成就した―」

「した」

「した……」

 木霊する声。振り向くと、七つの小さな影が走り去った。


 世界がぐるりと回り、突然全ての記憶が戻って来た。

 僕は高い、高い、悲鳴を上げた。


「ムッターしっかりして!」


「あら、やっと思い出したの。相変わらず遅いんだから……」

 ゴボリと麗子さんが、血を吐いた。


「ね、私は何色の靴を履いてる?」


 僕は、ムッターの手をにぎりしめた。


「白よ、ムッター赤じゃない」


「そう……私の勝ち、呪いは終わる。私は赤い靴を履かずに死ぬ」

 ムッターの手が冷たくなって行く。


「遺言状を弁護士に渡してある。私のものは、全てお前に。

 食べてくくらいはあるわ……

 幸せになるのよ。私の可愛いシェネベッチェン」

 

 ムッターの手がすべり落ちた。


「ムッター、ムッター、ムッター!」

 遠くにサイレンの音が聞こえる。



  麗子さんの葬儀が始まり僕も夫として、列席していた。


「雪雄君、見てやってくれよ。麗子綺麗だろ?」

 

 お兄さんが僕に声をかけたのは、通夜も終わって、交代で寝ずの番をしていた時だった。


「あいつは嫌がってたけど、親父がどうしても着せてやりたいって言うからさ。成人式の着物着せたんだ。

 靴も特注してたの、やっと届いたから。納棺に間に合って良かった」


 麗子さんはとても綺麗だった。ハイカラさん風に頭に赤いリボン、花柄の赤い振袖、紺の袴。

 そして特注の編み上げブーツの色は、赤だった。


 僕は外へ飛び出した。


 ◇


 ムッター、貴女に言えなかったことがあるの。私がどうして男に生まれたのかその訳を。


 私の結婚は幸運だった、敵国の娘の私に夫の王はとても優しかった。

 可愛い娘も生まれて幸せだった。


 でも娘の七歳の誕生祝いの日、父が招待されて泊まりがけでやってきた。

 私は嫌な予感がして、その日は娘と一緒に床に入った。


 夜中に変な気配で目を覚ますと、隣で寝ていた娘が口を塞がれ、私の父が馬乗りになってのしかかっていた。

 私は、枕の下にあった護身用の剣で父の首に切りつけた。


 鶏の血抜きの時のように、血しぶきを上げて父は死に、

 哀れな娘はそれを見て気が狂れた。


私が父殺しの罪で首を斬られる時、刑を言い渡した夫の国王は泣き崩れていた。

 美人と評判の私付きの侍女が夫のそばで付き添い、私に向かってペロリと舌を出した。


 その瞬間、全てがわかった。

 誰が私たちの寝室を父に教えたのか、父が忍んできた時なぜ私が目を覚さなかったのか。

 何故入れた覚えのない剣が私の枕の下にあったのか。


 あの女が父を導き、寝る前の飲み物に薬を入れ、枕の下に剣を入れたのだ。私の代わりに王妃になるために!


 ムッター、貴女は私を守り抜いて死んだのに、私はその幸せを守れなかった。

 狡くて汚い嘘つき女に取り上げられた。

 女なんて大嫌い!男の言いなりの弱い私も大嫌い。


 誰かに支配されるのはもう真平、今度生まれてくるときは必ず男に生まれてやる!


 そしてムッターに、ムッターにもう一度会いたい……。


 神が哀れみをくれて、私の望みは二つとも叶った。

 なのに男の私のした事は、ムッターをもう一度死なせただけだった!


 ◇


昼に降った雪で外は白く変わっていた。

 白く縁取られた葬儀場の池の水に、僕の顔が映る。


 雪のように白く、血のように赤く、黒檀のように黒い。

 こんなもの呪いでしかないのに……。


 死んでから赤い靴を履いたムッターの魂は、助かったのだろうか?


 それとも世界に終わりが来る日まで、地獄で赤く灼けた鉄の靴を履いて、踊り続けるのだろうか……


 空には輝く半分の月。残りの半分は池の水におちて揺れている。


「鏡よ、空の鏡よ。ムッターは今何処にいるの?」

 二つに割れた月は答えること無く、ただ蒼く光るばかり。


 



「木の下闇」同様、この作品もカクヨムでは全く読んで貰えなくて、泣きながら削除した作品です。

個人的にどちらも思い入れのある作なので、読んでくれた人がいるだけでほんとうに嬉しい。

「小説家になろう」に来てよかったよー!

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