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赤い靴の呪い

 望み通りの娘が生まれて白雪姫と名づけた。私は夢中で可愛がったわ。


 でもね、その頃から夫の国王が冷たくなった。

 お前を産んだ時、私は十四歳だったけど、夫の基準からしたらもうお婆さんだったのよ。


 そうして国王の美少女漁りが始まった。

 みんな十歳以下の可愛い子ばかり。国王に命令されたら、嫌なんて言え無い。親は泣く泣く娘を差し出してた。


『鏡よ、壁の鏡よ。国中で一番美しい女は誰だ?』

 そう言って国王は、可愛い娘を探したの。

 鏡を持ってたのは妃じゃなくて国王だったのよ。


 なのに、私は夜のベッドの義務から解放されて呑気に喜んでた。

 考え無しのバカだった。

 だって白雪姫が七歳になった時、鏡はこう答えたのよ

 『白雪姫』って」


「あの……麗子さん。お話の途中ですいませんが、これって『本当は怖いグリム童話』の続編か何かですか?」


 グーで殴られた。

「黙って聞け!」


「ハイ」

鼻血を拭いて僕は答えた。


「お前の父親…私の夫の国王はね、実の娘に手を出すのに躊躇する様な男じゃない。

だから私は国王の留守に狩人に頼んで、森の向こうにある私が昔いた修道院に、お前を届けようとした。

 

 なのにお前ったら、狩人が一休みしてる隙に花を摘むのに夢中になって、森の中で迷子になっちゃったのよ。


 狩人の報告を聞いて、私は慌ててあの鏡にお前の事を聞いた。

 そうして七人の小人の所に無事でいる事が分かったの。


 でも、鏡に聞けば国王もすぐ知る事になる。

 グズグズしてる間はない。私は、お前を助ける方法を必死に考えた。


 そうして昔、地下にある秘密の部屋で読んだ本の事を思い出したの。

 人を死んだ様に眠らせる薬の作り方。


 上手くいくか自信は無かったけど、そうでもしないと可愛い娘が血を分けた実の父親のおもちゃにされてしまう。


 八歳の時の初夜の恐怖。

 死んだ方がマシだと泣き叫んだあの夜をお前に味合わせるくらいなら、たとえ失敗して死んでもまだ幸せだと思った。

 

 だから、お前にあの林檎を作って持って行ったの。鏡に私だと気づかれない様に変装してね。

 林檎を食べたお前は死んだ様になって、鏡も白雪姫は死んだと言った。


 それでやっと国王はあきらめてくれた。


 ちょうど隣の国との戦争が始まり、それどころでは無くなったしね。

 小人達はお前をガラスの棺に入れて大事に守ってた。


 でも、私の薬作りは嬉しい事に成功していたの。お前はガラスの棺の中で、眠ったまま段々と成長していった。

 やがて八年の月日が流れ、長く続いた戦が終わり、国王は負けて帰ってきた。


 そして、隣国の王子に払う賠償金をどうするか考えながら森を歩いてたとき、白雪姫の棺を見つけた。

 すっかり大人になった白雪姫をみて、コレを賠償金代わりに出来ると思いついた国王は、小人達を騙して白雪姫を取り上げ、魔法を使って生き返らせた。


 そして白雪姫が吐き出した林檎のカケラを見て、国王は誰が自分の可愛い獲物をこんな風に眠らせて〝大人の女〟にしてしまったのか悟ったの。


 国王は七人の小人を証人にして、私を教会に魔女として訴えた。


 白雪姫と隣国の王子の結婚式の日、私は七人の小人の作った、呪いの込もった赤く灼けた鉄の靴を履かされて、死ぬまで踊るしか無かった」


「麗子さん、あ、あの…まだ続くんですか?」

 僕は既に足が痺れ切っていた。


「そうよ、ここからが本邦初公開。〝誰も知らない秘密の白雪姫〟なんだから」


「いや、あの、既に十分誰も知らない白雪姫になっちゃってますよ?悪いお妃様が灼けた鉄の靴を履いたなんて聞いた事ないし、 白雪姫を助けたのは父親じゃなくて王子様だし、白雪姫の本当のお母さんは姫を産んだ後死んだって…」


「グリム童話の初版本を読んだこと無いんかい、ちゃんと実の母親と書いてあるの!

 子供向けの童話ってのはね、忖度と教育的指導が付きもんだから〝意地悪な継母〟に直されたの。

 それにグリムは初版本のテキストでは五話、三版では六話も別のバリエーションを記載してる。

 いいとこ取りして、最終版の今の形になっただけ

 ちゃんと白雪姫の父親が娘を助けるバージョンも有る。


 最終版には、『一足の上履きが真っ赤に灼かれ、お妃はそれを履いて死ぬまで踊らなければなりませんでした』と載ってるの。発言はちゃんと裏を取ってから!」


 まだ続く様です、足痛いよう。



「それで七人の小人の呪いってのが、七回生まれ変わって、七回赤い靴を履いて死ぬ。一度でも赤い靴を履かずに一生を終えたら、呪いから解かれて自由になれるの」


「え?なんか凄く簡単じゃないですか。靴を履かないよう注意してれば良いだけ?」


「それがそうも行かないの。世の中は女の子にやたらに赤を着せたがるモノなのよ。

 五歳の女の子が、お婆ちゃんに綺麗な赤い靴をプレゼントされて〝コレ嫌い〟なんて言えると思う?周りの大人の目を見たら、履くしか無いの。


 その後、外で友達と遊んでて、解けた靴の紐を踏んで転んだところに、馬車が突っ込んで来てグシャ……それが一回目」


「五歳でグシャですか?」


「そう、グシャ。だから二回めからは気をつけてたんだけど、今度は絵のモデルを頼まれてね。

 赤いドレスと靴を履いてポーズを取ってくれと言うから初めは断ったの。


 そうしたら〝本当は靴をぬいだ裸足の君を描きたいんだ〟と言いだしたから今度は引き受けた。

 昔は、女が靴を脱ぐのは入浴とベッドだけだったからかなり危ない絵なんだけど、私は気にしなかった。

 その絵描きの事が好きだったの。


 絵は入選して、彼、私にプロポーズしてくれた。


 二人で手を繋いで、美術館の階段を登り、張り出された絵を見に行ったら、絵の中の私は赤い靴を履いてた。

 彼が私を気遣って描き直してたの。


 私、思わず後ずさりしてそのまま階段から転がり落ちて死んだの。コレが二回め」


 僕はやっと事の重大さに気付いた。並みの呪いじゃないんだコレは。


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