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僕が白雪姫?

「麗子さん、お兄さん帰りましたよ」


 麗子さんはもの凄いしかめ面でベランダで煙草を吸っていた。

空にかかる満月が、みがいた鏡の様に綺麗に輝いている。

恐る恐る僕はお兄さんに頼まれた事を伝えた。


「あの……帝国ホテルでのクリスマスパーティ、頼むから出席してくれってお兄さんが」


「どうせまた見合いだよ!その上真っ赤な花柄の振袖だあ?成人式なんぞ行くもんか!」


「でも振袖って言っても下は紺の袴ですし、ハイカラさん風で、麗子さんに似合うと思うけどな。お兄さん、わざわざ靴も特注したって言ってました」


「どうせ私は足がデカイよ!チックショウあの親父、娘なんて自分の所有物、都合よく使える道具だと思ってやがる」


 そんな風に扱われたら、女なんて真っ平だって気持ちになるのも無理はない。

世間がその人に期待することが、その人の〝有りたい自分〟と一致するとは限らないのだ。


「でも…麗子さん、本当は赤とか着たいんじゃないですか?この前、買い物帰りにショーウィンドウの赤いドレスのマネキンの事、ずっと見てたじゃないですか」


「あれは、ドレスを見てたんじゃない! 靴を――あ〜説明するのもいやになる」麗子さんの眉間のシワが益々深くなった。


「そんな怒った顔ばかりしないで。せっかくの綺麗な満月の夜なのに。彼もあんなに笑って輝いてるんですから、麗子さんも笑ってくださいよ。ね?」


 麗子さんは、またあの探る様な眼をした。初めて会った時の眼。

そして、囁いた。


〝Spieglein, Spieglein, an der wand: wer ist die schönste Frau in dem ganzen Land?〟《鏡よ、壁の鏡よ。国中で一番美しい女は誰?》


「またですか?それ口癖なんですね。初めて会った日も、トイレの洗面台の前で“鏡よ壁の鏡よ”って麗子さん、後ろから急に言うから驚いて……」


アレ?なんか忘れてるような。

「わーっ、麗子さん、あ、あそこ男子トイレですよ!」


「気付くの遅い! 遅すぎる。お前はホントに…」

麗子さんの顔が、警戒レベルに達した。


「九ヶ月だぞ、ずっと一緒にいて……なんで思い出さないんだ、お前は!」

 突然麗子さんが泣き出した。


「私達、生まれる前に出逢ってるのよ!まさか娘が……〝ムッター〟って私を呼びながらいつも私を追い掛けてきた可愛い娘が、股間が凸の男に生まれ変わってるなんて。それもこんな頓馬でヘタレの甲斐性なしに!」


わ!麗子さんが泣いたの初めて見た。

それに、初めて聞いた高い声。


「七回目の、最後の転生でお前にもう一度あえるなんて……。私は一目で分かったのに! お前、なんにも感じなかったの?」


「ハイ、運命の女性だって思いました」


「運命がちがーう! 私、確かめたくてお前の後付けたのよ。︎そして鏡の問いでわかったの。雪の様に白く、血の様に赤く、黒檀の様に黒い……私の可愛い、Schneeweßchenシェネベッチェン


「はいい? 白雪姫、僕がですか?」


「それよ! お前いつからドイツ語解る様になったの?

さっきも、トイレでも私はドイツ語で喋ったの。

 それにドイツ語にはね、男性名詞と女性名詞ってのがあって〝月〟は男性なの。世界中で、〝月〟を〝彼〟と呼ぶのはドイツ人だけなのよ!」


「は? その、あれ?」

もはや、僕の理解を完全に超えていた。


「あーっ、もういい!説明してやる。そこにお座り!」


 麗子さん(白雪姫のお母さん?)はその場にドンとあぐらをかき、

 僕はチョコンと正座した。


「私ね、七人の小人に呪われたの。それで、七回も生れ変わる破目になったのよ」


 そうして、麗子さんは語り出した、本当の白雪姫のお話を……。


 ◇


 「私は、七歳で修道院に入ったの。

あの頃は良家の子女はみんなそうだった。

 そうやって親の決めた相手が迎えに来るまで一歩も外に出られずに、お祈りと花嫁修業をさせられた。


 女の子達は檻から出たくて、相手が誰だろうが喜んで結婚したものよ。

〝ここよりはましだ〟って信じてね。外の世界はもっと酷いとも知らずに。

 私の夫になる男が迎えに来た時、私はまだ八歳だった。


 彼は王になったばかりの若者で、私の親はいい話だと思って二つ返事で了承した。あの時代は、愛じゃなくて家どうしの取決めで結婚するから、そういう事って多いのよ。



 当然〝白の結婚〟だと思ってた、

法的には夫婦でも性的関係の無い結婚をそう言うの。

 でも教会で式を挙げた夜、彼は八歳の私をベッドに引き摺り込んで、嫌がる私に言ったの


『お前は僕の妻だ、妻としての当然の義務だ。お前は神に誓ったんだからな』

結婚と言う名の合法的レイプ。私の夫に成った男は幼児性愛者だったのよ。


 どこにも逃げ場は無かった。 

あの時代の女は男の所有物、財産の一つにすぎなかったから。


 でも夫は私にベタ惚れで、どこに行くにも私を連れて行った。

そして誰もが私を見てその美しさを褒めちぎった。

 その時初めて私は、美しい女は微笑み一つで何でも欲しいものを手に入れられるのだと気づいたのよ〝これは私を守るたった一つの武器なんだ〟ってね。


 だから子供が産まれると分かった時、私は迷わず最高の美を望んだ。

『雪のように白く、血のように赤く、黒檀のように黒い子供が欲しい』


 美しさが、産まれる子供を幸せにしてくれると愚かにも信じ込んでたの。




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