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呪われたお妃様

*この作品は、成人年齢が20歳だった2019年1月に書いたものです

 カン! 一番小人が槌を振る、真っ赤に灼けた鉄を打つ。

「我らの可愛い白雪姫。我らの大事な宝物。その姫が」


 カン!二番小人が槌を振る。

「魔女の妃に殺された。毒の林檎で殺された」


 カン!三番小人が槌を振る。

「けれども姫は生き返った、王であられる父君の愛ゆえに。魔女の呪いは解かれたのだ」


 カン!四番小人が槌を振る。

「今日は姫と王子の結婚式、魔女の妃の裁きの日。我ら七人呪いも七つ、たった一度の死で許すものか‼︎」


 カン!五番小人が槌を振る。

「七度産まれて七度死ね、我らの呪いの赤い靴を履いて」


 カン!六番小人が槌を振る。

「逃げ果せればお前は自由、靴がお前を七度殺せばお前の魂は地獄堕ち」


 カン!七番小人が槌を振る。

「そうしてお前は赤く灼けた鉄の靴を履いて、地獄で踊り続けるのだ。世界の終わりが来る日まで」


 鎖に繋がれ、魔女の妃が引き出された。


 赤く灼けた鉄の靴を履いて、死ぬまで踊るために。

 遠くで娘の泣く声がする。

「ムッター、ムッター、ムッター……」


 ◇


「ふざけんな!誰がこんなモン着るかー」


 声と同時にマンションのドアが開き、男が転がり出て来た。麗子さんのお兄さんだった。

 続いて紅い着物が降って来る。


「あのクソ親父に言っとけ、今度こんな物持って来たら勘当だ!」


 ドアが壊れそうな音を立てて閉まる。


「お兄さん大丈夫ですか?」

 僕はお兄さんを助け起こした。


「ああ、雪雄君ありがとう」

 可哀想にお兄さんは涙ぐんでいる。


 大会社の社長のお父さんの、秘書をしているお兄さんは、男勝りの妹の麗子さんとお父さんに挟まれて、苦労が絶えないのだ。


 時は十二月上旬。来年の成人式の着物を届けに来て、こんな事になったらしい。

お兄さんは「恋人の君からも説得してくれ」と頭を下げるけど

 そりゃ無理です。

 だって、僕はお父さんの押し付ける見合い避けのための、偽恋人なんですから。


 その上麗子さんは女が嫌で、成人したら性転換手術で男に成るため、タイの病院にもう予約も入れてるんですよ。


 ◇


 僕らの出逢いは九ヶ月前。


 一年間の一般教養のカリキュラムも終わり、仏語の初めての授業の日だ。

僕は講堂の、最前列の席の端っこに座っていた。

 その時ドアが開いて、女の子達の黄色い声の一団が入ってきた。


「うるさいなぁ……」

 振り向くと、騒ぎの真ん中にいた美青年と眼が合った。


 途端に頭の中で鐘が鳴る。

「この人だ、僕の運命の人は」

 て……男なんですけど!


 フリーズした僕に、そいつはツカツカと歩み寄り、無言で隣にストンと座る。そして探る様な眼で、恥ずかしく成るくらいジーッと僕を見詰めた。


 うわわ、どうしよう! 僕、BLヤダ、こまる。

思わず後退りして、そのまま椅子から落ちてしまった。


「おい、大丈夫か?」

ハスキーで素敵な彼の声。僕、BLでもいいかも……。


 授業が始まり、教授が出席を取り出したけど、僕は彼に見とれてた。


「白井雪雄、初日から欠席か?」

 教授の声が響く。


「あ、ハイ!白井雪雄ここです」

 慌てて立ち上がった弾みに、思い切り机の角に男の急所をぶつけた。


 股間を押さえて涙ぐむ僕を見て、彼がドン引きしてる。


「白戸麗子」

「ハイ」 ハスキーな声が答える。


 え、麗……子?振り向くと、軽蔑した様な顔がそこに有った。


「白戸麗子です、よろしく」


 頭が真っ白になり、気づくと授業はもう終わって、僕は講堂の最前列で一人で座っていた。





「ハア……」


 トイレの洗面所で顔を洗って溜息をつく。

 鏡に映る色白で女の子みたいな顔。

 パッチリ目に長い睫毛、真っ赤な唇、ツヤツヤの黒髪。


「雪雄は女の子だったら良かったのにねえ」

 死んだお婆ちゃんがよく言ってたっけ。


 高校の時も、この外見のせいで〝お嬢ちゃーん〟って虐められ、ホモっ気の有る先輩男子にしょっちゅう言い寄られて……。

 操守って卒業できたのが奇跡だったんだよね。


 勉強だけは、頑張って良い大学に入れたけど、友達はできなくていつも一人ぼっち。


 挙句に、白馬に乗った王子様みたいな女の子に一目惚れして……撃沈。

なんで男になんて生まれて来たのやら。神さまお恨みします。


――鏡よ、壁の鏡よ。国中で一番美しい女はだれ?――


「はい、白戸麗子さんです」

 僕は反射的に答えた。


「へえ、そうなのか」

 後ろから聞こえるこのハスキーな声は――。


「わぁ!白戸さん、どうしてここに?」


「どうしてって……手を洗いたいんだが」


「あ、すいません!」

 僕は慌てて場所を譲った。彼女が手を洗う水音だけが響く。


「ン?ペーパータオル切れてる。ハンカチ車か」


「どうぞ」

 僕は胸ポケットからハンカチを出した。受け取ったハンカチを見て麗子さんは怪訝な顔をした。

 白のレースだったからだ。


「わぁ!間違えた。それ死んだお婆ちゃんのです。御守りがわりに持ってるんです。」


「お婆ちゃんね……」

 眉間に深いシワが寄る。

 下を向いたままの綺麗な唇が、声をたてずに動いた。


 〝へたれ〟


「雪雄は車で来てるのか?」

 手を拭いてしばしの沈黙の後、麗子さんは言った。


「え?電車です。免許は持ってますけど」

 すると、すっとハンカチと一緒に車のキーが差し出された。 


「なら、送らせてやる。光栄に思え!」


「ハイ?」

 なんだか分からない内に、僕は麗子さんの専属運転手になっていた。




 慣れない外車の左ハンドル。

オープンカーなのに景色どころじゃない。

事故らずに麗子さんの住むタワーマンションに着けたのは奇跡だったと思う。


 青息吐息の僕を引きずって、マンションの最上階にある自分の部屋に駆け込むと、麗子さんは、見合い写真の束を抱えて待っていたお兄さんに宣言した。


「見合いはしない、コイツと結婚する」


 以来僕は、見合いを断る口実の恋人(仮)として、犬の様に毎日麗子さんの後にくっついている。

はたからどう見えようと、犬で幸せ。運命の女性と一緒にいられるんだもん。





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