第13話「復讐の連鎖」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
地下室への扉がゆっくりと開かれた。
冷たい空気が一行の肌を刺し、息を呑む音が微かに響く。階段を降りるにつれ、異様な空間が視界に広がった。床には精緻な魔法陣が描かれ、淡い光を放つ魔鉱石が配置されている。何かの装置が微かに脈動し、生気のようなものを感じさせていた。
中央には棺が置かれ、その中には修復されつつあるアビゲイルの肉体が横たわっていた。肌はまだ青白く、動く気配はないが、その存在感は異様だった。
「これが…アビゲイル…」
アンナが息を呑むように呟いた。
突然、一行の意識に直接語りかける声が響いた。
『とうとうここに来ましたか。詰めが甘かったです。弟をいとも簡単に突き崩されるとは思いませんでしたよ…』
声の主は眠ったままのアビゲイルだった。彼女の口は動いていない。それなのに、その声は明瞭で、心の奥底に直接届く。
『私は見ての通り、まだ動くことができません。さぁどうしますか? 無抵抗の老婆を殺しますか?』
「何が無抵抗の老婆よ…」
その言葉に、アンナが怒りを爆発させた。
「貴女は国の発展を願うスカーレット様を殺した!」
グレースも顔を険しくし、声を張り上げる。
「お前のせいで多くの人が亡くなった。成敗する…」
「待ってください!」
タリーサは2人を制し、アビゲイルを真っ直ぐに見つめた。
「アビゲイル、今度こそ教えてほしい。なぜ父ルーファスは死なねばならなかったのか。貴女と何があったのか」
アビゲイルは短い沈黙の後、冷ややかな声で返した。
『…そんなに知りたければ、教えて差し上げましょう』
次の瞬間、一行の意識が揺さぶられ、視界が歪む。そして、17年前の出来事が鮮明に映像となり、全員の脳裏に流れ込んできた。
「これは…」
それはルーファスがアビゲイルと対決し、敗れ葬られるまでの映像と、その後ラルフがアビゲイルを糾弾し、斬りかかるもグレースに阻止され、グレースがラルフを葬るまでの映像だった。
マリア伯爵は愕然とする。
「信じられん…貴女は長年、保守派を装っていたのか…」
『人類が未来に繁栄する為の礎です。クロワ家は手段を選びません』
アビゲイルの次の言葉は全員を驚かせた。
『マリア・カルメサス。貴女は我々の同志でしょう? 貴女とはこの世界の未来について語りたい』
マリアはその言葉に一瞬、息を詰まらせた。だが、すぐに震える声で否定する。
「な、何を根拠に…お前と一緒にするな!」
『そうですか? 貴女が望む世界は…』
そこに割って入る声があった。
「何を偉そうに…!」
タリーサだった。 握られた彼女の拳は震え、目には涙が浮かんでいた。
グレースも同じく怒りに震え、今にも飛びかかりそうな形相を浮かべている。
『…マリアさんとの語らいは外野を黙らせてからですね』
その刹那、空気が一変した。
猛烈な頭痛と共に、マリア以外の全員の意識に強烈な衝撃が走る。
「ぐっ…!」
「な、なんだ…!?」
一行は全員その場で倒れ込んだ。頭を抱え、呻き声を上げる。脳を直接殴られるような痛みに、全身の力が抜けていく。 アビゲイルの声が、今度は冷笑を帯びて念波として響いた。
『記憶を送れるくらいです。脳に直接攻撃するのも容易いことです。それにこの部屋では魔力が増幅されていますからね…』
タリーサは苦しみながらも顔を上げた。目の前のアビゲイルは動かないまま棺に横たわっているが、その存在は圧倒的だった。
「くっ…頭が割れそうだ…」
だが、その痛みが突然和らぎ始めた。
頭の中に差し込むようだった苦しみが少しずつ消えていく。
「これは…?」
タリーサが顔を上げると、仁王立ちしたグレースの体からまばゆい光が放たれていた。
彼女の両手は組み合わされ、聖魔法のオーラが紡ぎ出されている。その光が一行を包み込み、アビゲイルの念波を押し返していた。
「私の魔力も高めてもらってるようだな…」
グレースの声が鋭く響き渡る。額には汗がにじみ、顔には耐え難い苦痛が浮かんでいる。それでもその目は揺るぎない意志を宿していた。
「グレース団長…」
タリーサは彼女の力強い姿に息を呑む。
「私は動けない。タリーサ、行け!」
その言葉に応じて、タリーサは剣を握り直し、アビゲイルを鋭く睨みつけた。
「アビゲイル! これ以上、あなたの好きにはさせない!」
剣を振り上げ、力強く一歩を踏み出した。その瞬間、再びアビゲイルの念波が彼女の意識を貫いた。
『それは復讐の刃ですか?』
ドキッとしてタリーサは立ち止まる。
『タリーサ、貴女は復讐ではない、父の死の真相が知りたいだけだと言っていたのに、いまその刃で私を殺そうとしている。結局、貴女は復讐に囚われているんですよ』
その言葉がタリーサの胸に鋭く突き刺さる。剣を振り下ろそうとしていた腕が止まった。
「私が…復讐に…囚われている…?」
その言葉と共に、タリーサの心にアンドリュー・エルドムイの言葉が蘇る。
(復讐の連鎖は断たねばならない)
タリーサは息を詰まらせ、剣を持つ手が震え始めた。彼女の目に迷いが浮かぶ。
「これでは…同じだ…」
剣は下ろされぬまま、タリーサは立ち尽くした。
ここでアビゲイルを殺せば残された弟ロジャーを復讐の連鎖に招き入れてしまう。それではセルヴィオラ家とエルドムイ家の過ちを繰り返してしまうだけだ。
彼女は深い息を吸い込み、静かに宣言した。
「私は貴女を斬らない。貴女は法で裁かれるべきだ」
その言葉にグレースが振り返る。彼女の表情は激怒に満ちていた。
「何を言っている、タリーサ!」
グレースは剣を強く握りしめる。
彼女は魔法をやめ、怒りのままアビゲイルへと向かって行った。
「ぐっ…!」
トーマスたちが再びアビゲイルからの強烈な痛みを受けて頭を押さえる。
「私はお前を許さない!お前が復活すればまた多くの人が死ぬ!」
グレースが一歩前に踏み出し剣を構えた瞬間、アビゲイルが再び冷ややかな声を放った。
『貴女は直情的で本質を見抜けない女だ。だからラルフを殺してしまった。今も何も変わっていない』
グレースの瞳が怒りに燃えた。
「黙れ! お前の口からラルフの名を聞きたくない!」
「団長、いけない!!」
タリーサは必死に声を上げたが、その言葉はグレースに届かなかった。
先ほど見せられた映像が脳裏をよぎる。アビゲイルに斬りかかるラルフの姿と、目の前で怒りに燃えるグレースの姿が重なった。
憎悪に突き動かされたその剣は、同じ道をたどるかのように棺に飛び込んでいく。全ての力を込めた一撃が、アビゲイルの胸を深く貫いた。
「…!!」
祈りの神セレティスアの青白い光が棺を覆った。その光は、砕け散る魔法陣の残骸を吸い込みながら爆発的に広がり、地下室全体を飲み込むかのように輝いた。
『…ふふ、これで終わったと思わないことです。世界にはまだ…興味深い駒が残っていますから…』
その一言を残し、アビゲイルの念波は途切れ、光の中で命の灯火は完全に消えた。
タリーサは剣を下ろし、その場に立ち尽くした。
真実という名の冷たい風が、長く閉ざされていた扉を押し開けていった。その風は、彼女の胸の奥に眠っていたものを掘り起こし、暴き出した。それは彼女が期待していた安堵の光ではなく、むしろ暗い影だった。
彼女の視線はグレースに向けられる。今なお剣を握り締めた彼女の姿は、炎を失い、ただ白い灰だけを残す炉のように見えた。タリーサが封じた感情を、彼女が燃え盛る炎として解き放ったのだった。
(こうするしかなかったのだろうか…)
タリーサの手に残るのは、ただ冷たい剣の感触だけだった。
(続く)
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★あとがき★
タリーサは思いとどまるも聖騎士団長グレースの憎悪は止まらず、アビゲイルを葬ることになりました。
次回、その後の彼らと彼らが見た17年前の映像を織り交ぜたエピローグに入ります。




