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第12話「アビゲイル・クロワ」 - 5

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

クロワ家の応接室には重苦しい沈黙が漂っていた。訪問者たちはそれぞれの目的を胸に秘め、ロジャー・クロワの前に座っている。


「トーマス殿、久しぶりです。今日はどういったご用件で?」


やはり、姉が急死した後とは思えないほどロジャーは平静だった。


「アビゲイル様が亡くなられたこと、心よりお悔やみ申し上げます。さぞお辛いことでしょう」


ロジャーは冷淡な表情を崩さず、淡々と答える。


「姉は天命を全うしたに過ぎません。それを悲しむのは姉への侮辱です。全ては起きることとして決まっていたのです」


その無機質な返答に、トーマスは心の中でため息をついた。


(くっ…やはりこの男の攻略は難しい…)


重い空気を切り裂いたのは、マリアだった。彼女は静かにカップを置き、穏やかな声で尋ねた。


「ロジャー卿、その後お変わりなくお過ごしでしょうか?」


ロジャーは軽く頭を下げ、礼を述べた。


「マリア伯爵、式典ではご挨拶もできず申し訳ありませんでした」


「あのような事件がありました。気にしないでください。それにしても、本当に酷い惨劇でした。クロワ家にとっても、これで2人目の聖職者を失うという事態になってしまいました」


ロジャーは無表情を保ったまま、じっとマリアを見つめている。


「クロワ家は代々高位聖職者を輩出してきた名門です。そのクロワ家が2人もの聖職者を失いました。最初は次女のリリー殿。あの方は聖騎士団の副団長でした」


「もう何年も前のことです」


短く答えるロジャーに構わず、マリアは続けた。


「17年前です。私はまだ10代でした。当時、聖騎士団のトップ2人が不審死を遂げたと聞いて、驚いたのをよく覚えています」


ロジャーの目がわずかに細まったが、依然としてその顔は平静を保っていた。


「それだけではありません。その後、団長を継いだラルフ殿まで亡くなりました。次々と失われていく聖騎士団の指導者たち…まさに激動の時代だったと言えるでしょう」


「激動? 聖騎士団に必要な犠牲が払われたに過ぎません。全ては必然です」


ロジャーの声は冷たく、その語調には揺るぎがなかった。


「そうですか。しかし、当時の聖騎士団の状態を考えると、その犠牲が本当に必要だったのか疑問が残ります」


ロジャーは答えず、マリアを見ていた。その目つきは少し険しくなっていた。


「その後、ここにいるグレース団長がなんとか聖騎士団を立て直し、現在に至っています。その手腕は見事なものでした」


「その話は私にどういう関係が?」


ロジャーは問うが、マリアはなおも続ける。


「それまでの間の聖騎士団の心許なさには、王宮中が心配していたと聞きます。それもこれも、当時の首脳陣に何らかの問題があったのは間違いないでしょう」


その言葉に、タリーサは焦って口を挟んだ。


「ちょ、ちょっと待ってください、マリア様。父ルーファスに問題があったと仰るのですか?」


グレースも鋭い声で続けた。


「伯爵、何を仰りたいのか分かりかねますが、聖騎士団へのその侮辱は看過できません。撤回してください」


マリアは冷静な表情のまま二人を見回した。


「撤回はしない。黙ってそこに座っていろ」


タリーサとグレースが戸惑いながらも黙り込む中、マリアはさらに言葉を重ねた。


「そしてアビゲイル様も同じです」


「…なんですと?」


ロジャーの声が少し低くなる。


「保守派だの革新派だの、高位聖職者たちが内輪揉めに明け暮れた姿は、教会全体の恥と言ってもいいでしょう」


その言葉が放たれた瞬間、グレースはわずかに肩を震わせた。


(マリア様…亡くなった方になんて言い方を…)


ロジャーの目がさらに険しくなり、抑えた声で反論した。


「保守派と革新派の対立は、健全な議論を生み、国を正しい方向に導いたと私は考えている」


マリアはわずかに肩をすくめた。


「結果を見れば、停滞を招いただけです。高位聖職者たちは既得権益に溺れ、国の進化を阻害しました」


「阻害?…何を言うのだ、伯爵!」


ロジャーはもはや冷静ではなくなっていた。


「後に歴史の教科書には、腐敗した教会の象徴としてアビゲイル様たちの名前が載ることになるでしょう。悲しいことです」


ロジャーの苛立ちがさらに滲んだ。


「解せない…なぜそこまで言われねばならないんだ。姉は…アビゲイルは、貴女が王宮の庭を走り回っていた頃から、ずっとこの国に尽くしてきた。貴女に何が分かるというのですか!?」


ロジャーは鋭く問うが、マリアは動じることもなく笑みを浮かべている。


「よく分かっているつもりですよ。アビゲイル様を国葬にしようという話がありますが、言語道断です。そんな事をしたらベレンニア王国の品性が疑われます」


「くっ…どこまで姉を侮辱するつもりだっ!!」


タリーサは、不安を胸に抱えながらも、2人の応酬から目を逸らすことができなかった。

しかし、トーマスはその様子を冷静に観察していた。


(ロジャーが感情を露わにしている…これはいけるかもしれない)


「悲しいことがもう1つ。クロワ家は長い歴史の中で数々の高位聖職者を輩出し、王国に貢献してきました。しかし、それもここまでですね」


ロジャーの眉がわずかに動いたが、マリアは話を続けた。


「今では貴方一人で、後継ぎもいません。このままではクロワ家の歴史もここで途絶える。名門クロワ家は終わりを迎えるのでしょう」


その言葉に、ロジャーの拳が膝の上で固く握られた。目はかすかに震え、普段無表情を保っている顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


挿絵(By みてみん)


「いい加減にしろ…」


吐き捨てるように言ったその声には、もはやこれまでの冷静さは一切なかった。


「クロワ家は…アビゲイル・クロワは…まだ終わっていない…!」


言葉を絞り出すように、彼は低く、しかし震える声でつぶやいた。呼吸が荒くなり、我慢ならないといった様子で肩を上下させている。


その言葉に、場にいた全員に衝撃が走る。遂にロジャーから手がかりを引き出した瞬間だった。


マリアはわずかに目を細め、微笑んだ。


「そうですか…それは興味深い話ですね」


その微笑みに気づいたロジャーは、顔を硬直させた。目を伏せ、唇を結んだ表情に滲むのは、失言を悟った後悔の色だった。


沈黙が訪れた後、マリアはゆっくりと立ち上がった。


「ロジャー卿、本日は貴重なお時間をありがとうございました」


一呼吸置いて、マリアは皮肉を滲ませながら言葉を続けた。


「アビゲイル様にまたお会いしたいものです。こうして議論をご本人とじっくりしたかった。本当に残念です」


(第12話 完)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

マリアの挑発によってロジャーから失言を引き出すことができました。アビゲイルは終わっていない・・・


次話、一度カルメサス家に戻った一行は最終作戦を決行します。

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