第11話「悪夢の式典」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
アビゲイルは静かに目を閉じ、念を送り込む。舞台上に立つ凶暴化した村人たちの赤い瞳が一層光を増し、アビゲイルの意志に従うように動き始めた。
「全員を襲え」
彼女の冷たい指示が伝わると、呪詛に支配された村人たちはそれぞれに目標を定めた。
真っ先に狙われたのは、舞台中央で守られている国王テオドールと王妃レオノーラだった。凶暴化した村人たちが、低い咆哮を上げながら一直線に2人へ向かって歩いてくる。
「いやー! テオ様、気持ち悪い! 追い払ってー!」
王妃の叫びが舞台に響き渡る。その声に、テオドール王は困惑した表情を浮かべながら振り返り、ぎこちなく答えた。
「レ、レオノーラ、国民にそんなこと言っちゃダメだ…」
近衛騎士団長がすぐに指示を飛ばした。
「来るぞ! 国王と王妃に近づけるな!」
近衛騎士団が即座に陣を組み、一斉に剣を抜いて斬りかかった。しかし――。
「グオオオオッ!!」
凶暴化した村人たちは浅い切り傷を受けるだけで、怯むことなくそのまま突進してきた。返ってきたのは圧倒的な力の拳だった。一撃で騎士の盾を砕き、もう一人は宙を舞って舞台の端に叩きつけられる。次々と吹き飛ばされていく騎士たちの姿に、陣形は瞬く間に崩壊していった。
「くっ……! なんて力だ!」
残された騎士がなんとか剣を振るい、村人たちの動きを抑え込もうとするも、彼らは力任せに叩き伏せられる。気づけば、近衛騎士団は半壊状態に陥っていた。
舞台の中央では、グレース聖騎士団長が別の村人に立ちはだかれていた。
彼女が繰り出す剣撃を村人は拳で受け流し、行く手を阻む。すり抜けてかわそうとするたび、鋭い動きで攻撃の軌道を封じられる。
(こいつ…私を国王のもとに行かせないつもりか…)
その時、タリーサの聖騎士小隊が雪崩れ込んできた。
「全員、魔力を剣に宿せ! 普通の刃では太刀打ちできない!」
タリーサの指示を受けた聖騎士たちは即座に剣に魔力を込め、光り輝く刃を手に村人たちに突進していく。
魔力を宿した刃は村人たちの肉体を確実に切り裂き、効果を発揮した。しかし、それでも村人たちは執拗に攻撃を続ける。その異常な執念と力に、聖騎士たちはじりじりと押し返されていった。
◇ ◇ ◇
一方、別の村人たちは教皇と枢機卿たちのいる方へ向かっていた。
「ひいいいぃ……」
ウォルター枢機卿は恐怖のあまり腰を抜かし、その場に崩れ落ちた。村人たちの異様な姿とその圧倒的な力に、体が硬直して動けない。
「神聖な式典を汚すことは許しません」
教皇は村人たちを冷静に見据え、詠唱を始めた。
彼の声が響くと、青白い魔法の壁が目の前に現れ、村人たちの猛攻を防ぎ始める。何度も壁に体当たりする村人たちの姿を見て、教皇は冷や汗を滲ませながらも詠唱を続けた。
しかし、その時、一際大柄な村人が舞台の端から現れた。彼の全身の筋肉は他の村人たちよりさらに膨張しており、巨大な影が教皇たちを覆った。
「ガアアアアアアッ!!」
村人が咆哮を上げた瞬間、青白い壁が一気に消し飛んだ。その衝撃で教皇は後方に吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。
「ぐあっ!!」
腰を強く打った教皇は苦痛に顔を歪め、その場で動けなくなった。
「教皇様っ!」
恐怖で腰を抜かしていたウォルター枢機卿が這い寄り、教皇の体を覆うようにして守ろうとする。しかし次の瞬間、村人の蹴りがウォルターの体に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
ウォルターと教皇は無残にも地面に転がされ、村人の圧倒的な力の前に為す術もなく痛めつけられる。
アビゲイルは固まっているスカーレット枢機卿の腕を掴み、揺さぶった。
「しっかりして! 詠唱を合わせなさい!」
スカーレットは頷き、震える唇を動かしながら呪文を紡ぎ始めた。
アビゲイルとスカーレット、二人の声が重なり合い、聖なる光が舞台を包み込む。村人たちの足元から光の鎖が伸び、彼らの体を縛りつけた。
「グッ……グルルル……!」
村人たちは光の鎖に囚われ、身動きが取れなくなる。暴れようとするものの、聖魔法の力の前では抗うことができない。スカーレットは肩で息をしながら、アビゲイルに向かって短く頷いた。
「ここは私が!」
村人が動けなくなったのを見てアンナが風魔法を発動させた。鋭いかまいたちが村人たちの体を切り裂き、赤い血が舞台を染めた。力強い攻撃に、村人たちは苦しげな咆哮を上げる。
「ほぅ……秘書官がここまでの魔法を使えるとはね」
アビゲイルは驚きを隠せず、目を細めてアンナの方を見た。その声にはほんのわずかな感嘆の色が混じっていた。
しかし、その感心も長くは続かない。体中を刻まれた村人たちはなおも動きを止めず、目をさらに赤く光らせると、一際大きな咆哮を上げた。
「まずい……鎖が解ける!」
スカーレットが漏らした瞬間、咆哮とともに枢機卿たちの聖魔法が掻き消され、光の鎖は跡形もなく消え去った。そのまま村人の一人がアビゲイルに向かって踏み込み、巨大な拳を振り下ろす。
「ッ……!」
拳はアビゲイルを捉え、彼女の体は舞台の上を転がった。力なく横たわるアビゲイルを見て、スカーレットが悲鳴を上げる。
「アビゲイル!!」
彼女はピクリとも動かない。
村人の一人が新たな標的を見つけたようにアンナの方へ目を向けた。
「くっ……!」
アンナが身構えるよりも早く、村人は倒れた騎士の剣を掴むと、それを大きく振りかぶって彼女に向かって投げ放った。鋭い音を立てながら飛んでくる剣の刃が迫る。
「危ないっ!!!」
スカーレットは体を投げ出すようにしてアンナを突き飛ばした。
「っ……」
剣は、スカーレットの背中に深々と刺さっていた。
体が揺らぐ。大量の血が口から溢れ出し、彼女はその場に崩れ落ちた。
「え…スカーレット…様?」
体を起こしたアンナは呆然としながらその光景を見つめる事しかできなかった。
「これ以上はやらせん!!」
エリック公爵とヴィンセント侯爵が割って入ってきた。
「グガッ! グググ…ガアアァァ!!」
エリックは鋭い薙刀で村人の動きを封じ、ヴィンセントは正確な剣さばきで関節を突く。二人の息の合った攻撃に村人は切り刻まれ、膝をつく。
アンナが駆け寄り、崩れ落ちたスカーレットを支える。彼女は血を吐きながら、それでも微かに笑みを浮かべた。
「どうして…私なんかのために…」
アンナの震える声に、スカーレットは力を振り絞って答えた。
「…マリア伯爵からお預かりした…カルメサス家の令嬢を傷つけるわけには…いかない…」
その言葉に、アンナは目を見開いた。
「わ、私は本当はカルメサスの人間では…」
それはスカーレット枢機卿の元にアンナを付ける為にマリアが考えた嘘だった。
しかし、スカーレットはその事に気づいていた。
「知っていたよ…」弱々しく微笑むと彼女はそう答えた。
スカーレットはアンナの頬に微かに触れ、次の言葉を絞り出した。
「逃げなさい……アンナ……」
それが最後の言葉だった。スカーレットはゆっくりと目を閉じ、力を失った手は地面に落ちた。
「スカーレット様ぁぁぁぁ!!」
アンナの悲痛な叫びが舞台に響き渡る。
(続く)
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★あとがき★
アビゲイルの作戦が始まりました。凶暴化した村人たちが国王・王妃・聖職者たちを狙って襲いかかります。
それを防ぐ騎士たちも大苦戦。そしてスカーレットの最期・・・
次回、まだまだ舞台の上の攻防は続きます。




