第11話「悪夢の式典」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
広場全体が静寂に包まれる中、テオドール国王の深い声が拡声魔法によって広がり、広場の隅々まで響き渡った。
「我が民よ! 今日、この特別な日を迎えられたことを心から喜ばしく思う。そなたがたが共に歩み、共に戦い、この王国を守り続けてきた努力に、我は深く感謝しておる」
威厳ある国王の声に民衆は耳を傾け、誇らしげな表情を浮かべた。王は広場全体を見渡しながら、さらに言葉を続けた。
「この一年、我々の王国は数多くの試練に直面した。魔王軍の侵攻は激しさを増し、国境を守る都市や村々では多くの者が勇敢に戦い、多大な犠牲を払ってこの国を支えてくれたのだ」
国王は一息置き、深い感謝を込めて語り続ける。
「彼らの勇気と献身は、我々全員の誇りであり、この国の未来を築く礎である。そなたがたの力なくして、我々はこの危機を乗り越えることなど叶わぬであろう」
国王の声には深い感謝と敬意が込められていた。民衆の中から拍手が自然と沸き起こり、その音は次第に広場全体に響き渡った。国王は微かに笑みを浮かべながら手を掲げ、民衆の感謝に応えた。
その時、舞台の奥から紅色の装束を纏ったスカーレット枢機卿が壇上に進んできた。
高い帽子を被り、金糸で飾られたその姿は聖職者らしい威厳を漂わせている。突如として壇上中央に進む彼女の行動に、国王は一瞬驚き、眉をひそめた。
「陛下、失礼いたします。ぜひ私からも一言添えさせてください」
スカーレットが丁寧に頭を下げて発言の許可を求めた瞬間、広場の民衆が歓声を上げた。拍手はさらに大きくなり、スカーレットに対する強い歓迎の意を示した。国王は民衆の熱狂を見て、短く息を吐くと、静かに頷いた。
「スカーレット枢機卿、どうぞ」
スカーレットは壇上中央に進み、民衆に向き直って手を広げた。その動きは優雅で、自信に満ちている。
「皆様、私はスカーレット枢機卿です。この場をお借りして、皆様にお伝えしたいことがあります」
壇上の人々も広場の民衆も彼女の言葉に耳を傾けた。スカーレットの声は凛とし、拡声魔法によって明瞭に広がった。
「この国を守るため、国境で戦っている人々がいます。その中でも、信徒自衛団の皆様は神への信仰を胸に、最新の技術と共に戦い、魔王軍を撃退する大きな功績を残しました」
その言葉に民衆の間から拍手が沸き起こり、次第に大きな歓声へと変わる。
「そこで、皆様にサプライズを用意しました!」
スカーレットが一際大きな声でそう告げると、舞台の後方から10人の村人が現れた。彼らは緊張した面持ちで、手には見慣れぬ銃のようなものを持っていた。
「彼らが手に持つこの銃こそが国を守ったのです! 今日はこの新型銃による祝砲で式典をさらにお祝いしましょう!」
スカーレットの提案を聞いて民衆は大いに盛り上がった。
その様子を冷ややかな目で見つめていたアビゲイル枢機卿が、そっと唇を動かした。
「ここだな…」
隣に立っていた聖騎士マクスウェルが不審げに振り向いた。
「何か?」
しかしアビゲイルは不敵に笑い、「気にするな」と返すと、小声で呪文を呟いた。
「呪詛解放、ザオラス…」
その言葉を聞き取ったマクスウェルの顔が青ざめる。
「呪詛…あなたは、やはり……」と震える声で言いかけた瞬間、アビゲイルが冷静に指を振り、鎮静魔法を発動させた。
「これはお前がタリーサにかけた魔法だったな」
そう呟きながら、彼女はマクスウェルがその場に崩れ落ちるのを無表情で見下ろした。
◇ ◇ ◇
アビゲイルの呪詛が発動すると、舞台にいた村人たちが突然体を震わせ始めた。
「うっ……うああああっ!」
彼らは銃を取り落とし、身体を抱えるようにして苦しみ出す。その異様な様子に舞台上の人々は立ち尽くし、状況を見守ることしかできなかった。
次の瞬間、村人たちの体は急速に膨張し始めた。筋肉が異様に発達して服を裂き、鬼のような形相に変わっていく。顔には鋭い牙が生え、全身の血管が浮き出て、瞳は赤く染まった。その姿は、まさに狂気そのものだった。
「やめろ! 近づくな!!」
グレース聖騎士団長の叫びが響く。だが、一人の騎士が不用意に「お前たち、大丈夫か」と声をかけ、近づいてしまった。
次の瞬間――。
「ッ……!」
村人の一人が凶暴化した腕を振り上げ、騎士を殴り飛ばした。鈍い音が響き、彼の体は舞台の縁を越え、広場に向けて投げ出された。悲鳴を上げる間もなく、彼の血が宙を舞い、民衆の頭上に降り注ぐ。
舞台下で騎士が地面に叩きつけられるのを目の当たりにした観衆は、一瞬動きを止めた。誰もが凍りつき、何が起きたのかを理解するまでに数秒かかった。
「え、な、何……?」
「血だ……!」
人々がようやく状況を悟った瞬間、広場全体が割れるような悲鳴で満たされた。
「逃げろ!舞台から離れろ!」
誰かが叫ぶと、堰を切ったように民衆は我先にと出口へ押し寄せ始めた。
歓声で満たされていた広場は一転して、恐怖と混乱の渦へと変わる。押し合う群衆の中、足を滑らせて倒れる者、押しつぶされてうずくまる者が次々と現れた。親が子供を抱えながら逃げる姿や、荷物を放り出して駆け出す人々の姿が混乱をさらに増幅していく。
舞台上ではグレース団長とヴィンセント侯爵が剣を抜き、エリック公爵は従者から薙刀を受け取り、即座に戦闘態勢を取った。マリア伯爵には近衛騎士ヘンリーが前に立ち、既に剣を構えている。その表情には焦りは見えず、冷静に周囲を見回していた。
一方、スカーレット枢機卿は立ち尽くしたままだった。体が動かず、目の前で繰り広げられる惨状をただ見つめているだけだった。
その時、アンナが駆け寄り、彼女の手を掴んだ。
「スカーレット様、しっかりしてください! 逃げるのです!」
「な、何が起きたの……?」
スカーレットは怯えた声を漏らしながら、アンナに引かれて舞台の奥へと進んだ。
後ろでは、鬼のような姿に変わった村人たちがじりじりと舞台上の者たちに近づいていく。よだれが地面に滴り、赤く染まった瞳が次なる標的を探すように動いている。
「聖騎士団、戦闘準備! ペネロペ、民衆を守れ! タリーサ! 舞台に上がれ!!」
グレース団長の鋭い声が響き渡る。
舞台裏に待機していたタリーサ小隊が騒ぎに気づき、すぐさま壇上へと飛び込んできた。
壇上の光景を目にした彼らは、思わず足を止めて愕然とした。
村で出会った仮面の男1人でさえ、アビゲイルの協力でなんとか倒したのに、そんな相手が10人も・・・。
近衛騎士団もすぐに舞台へと上がり、国王と王妃を囲み、守りを固める。彼らの鋭い視線が次々と敵を捉え、わずかな隙も見逃さない構えだった。
「さあ、ここからが本番よ」
その様子を舞台の端で眺めていたアビゲイルは呟いた。
(続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!
★あとがき★
遂にアビゲイルが呪詛を発動させました。それを目撃したマクスウェルは眠らされてしまっています。
次回、凶暴化した村人たちは舞台上の要人たちを襲撃し始めます。




