第4話「キラストリエの祈り」 - 6
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ペネロペはタリーサが巨人ゾンビを倒す姿を見届けると、重い体に鞭打って再び駆け出した。まだ自分の隊がアンデッドに囲まれている。
タリーサの放つ金色の光に一瞬怯み、アンデッドたちはその動きを止めていた。
「今が好機だ、全員、踏ん張れ!」
ペネロペは金棒を振り上げ、アンデッドたちに突撃する。彼女の一撃でアンデッドが次々と吹き飛び、ぬかるんだ土に血と腐臭が混じり漂う中、隊員たちも奮い立った。
「副団長に続け!押し返すぞ!」
奮起した隊員たちはペネロペの後に続き、盾を構えて突撃する。ペネロペが金棒で道を切り開き、隊員たちもそれに続いてアンデッドを押し返していった。
その時、馬蹄の音が近づき、バーニーが率いる一番隊が戦場にやって来た。
「よく持ちこたえてくれた。前線の敵は倒した。ここが最後だ!」
騎馬隊の聖騎士たちは聖なる光をまとい、アンデッドを次々と浄化していく。ペネロペ隊の包囲は次第に解かれていった。
「なんとか耐え抜いたな…。暑い…あの巨人のせいで汗だくだ」
部下に鎧を外してもらいながら、ペネロペは遠くの戦場に目をやった。馬上のタリーサが掲げる剣は金色の光で戦場を照らし、彼女が行く先々でアンデッドが塵となって消えていく。
ペネロペは驚きのあまり息を呑んだ。
「やっぱりそうだ。タリーサは……グレース様と同じ聖なるオーラを纏っている……」
「違うよ、ペネロペ」
静かに現れたグレース団長がペネロペの隣に立ち、冷静にタリーサを見つめる。
「あれは先々代、ルーファス・セルヴィオラ団長と同じ輝きだ」
その言葉にペネロペは目を見張り、改めてタリーサを見つめる。眩い光を放ちながら駆け抜けるタリーサの姿には、自らの使命に生きる覚悟が宿っていた。
「ところで、お前も隊もだいぶ消耗が激しいようだが大丈夫か?」
グレースの問いに、ペネロペはまだ肩で息をしていたが微かに笑みを浮かべた。
「やられはしましたが、問題ありません…認めたくはないですが、タリーサのお陰で助かりました」
一瞬驚いた表情を見せたが、グレースはすぐに穏やかに笑った。
「あいつはもう我々の家族だ。いい加減、受け入れてやれ」
「しかし姫様、タリーサはオーリンダール家にとって脅威です! もし彼女がその力で姫様の座を……」
グレースは笑いながら首を振る。
「タリーサはセルヴィオラ家の名誉のために戦っている。聖騎士団長などに興味はないよ。彼女が背負っているものは、私たち以上に重いんだ。だからこそあの輝きがある」
ペネロペは視線をそらし、遠くで輝くタリーサの姿を見据えた。
その光には、自分には理解しきれない何かが宿っているように思えた。わずかに握りしめていた拳を緩め、彼女は深く息をつく。完全には納得できないまでも、グレースの言葉が少しずつ心に染み込んでいくのを感じていた。
◇ ◇ ◇
その時、森の奥から蹄の音が響き渡り、伝令が息を切らしながらグレースのもとに駆け寄った。
「団長! 王都からの急報です。『聖騎士団はこのまま国境の城塞都市イリアーデイに向かわれたし』。魔王軍が再び攻撃を開始しました!」
グレースの顔に一瞬の緊張が走る。
「早々にヴァリンドール公爵からの救援要請か……大戦になるようだな。王都の部隊は?」
「我々の補給物資を持って既に出発しております!」と伝令が答える。
グレースは周囲を見渡し、部隊の被害状況を冷静に確認した。
「ペネロペ! すまんが、全隊を連れてイリアーデイに向かってくれ!残りのアンデッドは一番隊と私が引き受ける」
「御意」
ペネロペは疲れた体を震わせながらも力強く敬礼し応えた。
すぐさま隊員たちに指示を出し、整然と撤退の準備を進める。疲労を押し殺しながらも、聖騎士たちは整列し、戦場を後にするべく動き始めた。
グレースは愛馬に飛び乗り、戦場の中心へと駆け出していく。蹄が地面を打ち鳴らし、彼女の凛とした声が響き渡る。
「聖なる光の主、キラストリエよ。我が祈りを受け入れ、天より聖なる光を降り注ぎ、闇を打ち払う力を授けたまえ。そしてこの場に集う我らの魂を一つに結び、勇気と力で我らを導きたまえ。キラストリエの名のもとに、光の加護をここに!」
グレースの詠唱が終わると同時に、青白い光が空から降り注いだ。森全体がその光に照らされ、残っていた聖騎士たちの武具は輝きを帯びた。温かく力強い感覚が全身に広がり、隊員たちは戦意を高める。
「皆の者!これが最後だ、一気に片付けるぞ!!」
彼女が力強く声を上げると、聖騎士たちは雄叫びと共に前線へ突撃する。
紫の鎧を纏ったグレースは、戦場に舞い降りた女神のごとくアンデッドを次々と斬り伏せていく。鋭く閃く剣筋と共に、聖なる光が彼女の周囲に渦を巻き、優雅な動きで舞うその姿はまさに神聖な舞踏。紫の残像が駆け抜け、森は静寂を取り戻していった。
戦いを終えて一番隊に戻ったタリーサは、息を整えながら隊列に加わる。
そこへ険しい表情をしたバーニー隊長が近づき、厳しい口調で言う。
「見事な命令違反だったな、タリーサ」しかし、すぐに口元がほころび、彼はタリーサの頭を大きな手でわしっと撫で回した。「だが、大した活躍だったぞ」
タリーサは驚きで目を見開いたが、すぐに苦笑いを浮かべる。バーニーはクシャクシャになった彼女の髪を撫でながら、優しい声で続ける。
「聖なる祈りの神キラストリエ様は君に微笑んでいるようだ」
(第4話 完)
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★あとがき★
ペネロペの筋肉ムキムキ姿の画像はAIが作った予定外のショットだったのですがイイ迫力があったので小説の方を画像に合わせました。鉄の鎧を脱いだらいきなり素肌でいいのかは・・・気にしないことにします。
★この世界・物語の設定★
城塞都市イリアーデイ:ベレンニア王国第3の都市。国境の険しい山の上にある。
ヴァリンドール公爵:イリアーデイを治める武人として有名な貴族。
次話、聖騎士団は連戦。イリアーデイに急行します。