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第4話「キラストリエの祈り」 - 3

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

「あんな事になってるって、どうして言ってくださらなかったのですか!!」


タリーサが聖騎士団の訓練を終え、家に戻った瞬間、妹アンナの鋭い声が出迎えた。

まだ荷物を手から降ろすこともできず、彼女はまるで嵐の中に放り込まれたようだった。室内は唯一アンナの苛立った声が響いている。彼女の目は紅く、その瞳は涙をこらえて潤んでいた。


「お姉様が覚悟を決めているのは承知してます! でも家族で助け合わなかったらその覚悟は打ち砕かれてしまうことだってあるんですよ! 現にお姉様は1人で抱えてボロボロになってたじゃないですか!!いつもそう、お姉様は大事な時になると1人で決めて勝手に突き進んでいく。この前だって・・・」


アンナの小言は終わることがなかった。


◇ ◇ ◇


アンナのお陰で、屋外での訓練に移されたタリーサに対するしごきや露骨なイジメは一旦収まっていた。


しかし、これで全てが終わったわけではない。

ペネロペ副団長を筆頭にオーリンダール家の出身である騎士たちは、常に眉間に皺を寄せ、タリーサの一挙手一投足を監視しているかのようだった。彼らの警戒は単なる新人への嫉妬ではない。ルーファス団長の娘として戻ってきた彼女への不信感と、聖騎士団の内部にある複雑な派閥の影響が、冷たい壁を築いていた。


そんな中、初夏の強い日差しが訓練場を照らす中で、転機を迎える出来事が起きた。


グレース団長が鋭い眼光を放ち、鎧のきらめきと共に現れると、その場の空気がピリつく。彼女の立ち居振る舞いは一瞬で注目を集め、ざわついていた団員たちも静まり返る。


「全員、集合!」


鋭く響く声が訓練場の端々にまで届き、瞬時に団員たちが整列する。


「ルオハンジェの北東の森でアンデッドの群れが目撃されるようになった。目撃情報は次第に増え、無視できない状況だ。聖騎士団でこれを掃討する選抜隊を編成する」


グレースから告げられた任務に場内はざわつく。


ここ数年、アンデッドは王都付近に現れていない。アンデッドとの実戦経験を持つ者は減ってきており、何人かの団員は視線を交わして不安を隠し切れない。特にオーリンダール家出身の騎士たちには、聖魔法の源泉であるキラストリエの祝福を深く受けている者はいなかった。


団員の反応を見てグレースは「お前たち、剣の修行ばかりでキラストリエ様への祈りを怠っているのか?」と苛つき始めた。


その時、グレースの目が隊列の後方にある黒髪の影を捉えた。「タリーサ!」声が響く。


タリーサは驚きに目を見開き、体が硬直する。

「は、はい!」全ての視線が一斉に彼女に集まる。

鋭い眼差しの先輩たちが彼女を値踏みするように見つめていた。


「お前は聖魔法は大丈夫だな? アンデッドと戦ったことはあるか?」


「はい!あります!」


その瞬間、周囲から驚きの声が漏れた。

「彼女はアンデッドとの戦闘経験があるのか……」「ただの新人ではないな」とささやかれる声が耳に入る。


グレースは満足そうに笑みを浮かべる。

「よし、タリーサ、選抜隊に入れ!」


◇ ◇ ◇


グレース団長の号令で選抜隊が結成され、タリーサは名高い「一番隊」に組み込まれた。

その隊員たちは全員生え抜きの聖騎士であり、過酷な戦場で名を馳せてきた者たちだ。その中にはベテランのマクスウェルもいた。


道中、隊長のバーニーとマクスウェルの馬がタリーサに近づいてきた。

バーニーは厳しい表情を保ちながらもその目に優しさを含ませて語りかける。


「タリーサ、君の父上の伝説を我々はよく知っている。その名を聞けば誰もが胸が高まる。だからどうしても君に期待してしまう。しかし無理をして命を削るようなことはするなよ。使命を果たすためには生きて帰ることが何よりも大切だ」


マクスウェルも穏やかに頷いた。

「タリーサ、君は我々の家族だ。誰か一人でも欠けることがあってはならない」


タリーサは目を伏せ、一瞬心の中にわずかな重みを感じたが、すぐに顔を上げて彼らを見つめた。


「ありがとうございます。必ず任務を全うします」


その力強い返答にバーニーとマクスウェルは小さく微笑んで前を向いた。


挿絵(By みてみん)


北東の森に入ると、空気は一気に冷たく湿り、辺りは霧で覆われていた。

そこへ、静寂を破って突然アンデッドの呻き声が木々の間から響き渡った。

骸骨や半ば腐った肉のついた屍たちが揺らぎながら現れ、一番隊はすぐに剣を抜き、戦闘態勢に入った。


タリーサは魔力を集中させ、右手の剣に淡い金色の光を宿らせた。

彼女が一歩踏み出すと、光は輝きを増し、アンデッドを貫いた。聖なる炎に包まれた屍たちは呻き声と共に崩れ去った。周囲の隊員たちは息を飲み、タリーサの背中に驚嘆の視線を投げかけた。


「なんて魔力だ……ただの新人じゃないな」と誰かが呟き、別の隊員も頷く。

タリーサの動きは鋭く、そして流れるようで、その姿はまるで戦場の舞踏会を繰り広げる踊り子のようだった。


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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★あとがき★

タリーサが遂に聖騎士団として戦いに出た場面でした。

聖魔法が得意な聖騎士団員が少ないという設定はどうかなと思ったんですが、タリーサの出番の為に採用しました。


次回、最後尾を行く副団長ペネロペ隊の激しい戦闘を描きます。

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