第4話「キラストリエの祈り」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
「!!」
アンナの目に飛び込んできたのは信じがたい光景だった。
床に倒れたままの姉と、そのそばで木剣を握り、無表情で見下ろす二人の聖騎士。
タリーサの顔や体は無数の傷で覆われ、その痛ましい姿にアンナの胸中に怒りが燃え上がる。
「だ、誰だ!!」
気づいた聖騎士のひとりが叫ぶ。
怒りに震える気持ちをなんとか押さえてアンナは2人に告げる。
「…突然申し訳ありません。スカーレット枢機卿の視察です。しばしお邪魔致します」
その言葉を聞いたシェリルは目を見開き、慌ててタリーサに回復魔法を施す。
青白い光がタリーサの体を包み、傷がじわりと癒えていく。
イーサンは咄嗟にドアへ駆け寄り、アンナとスカーレットの進路を塞ぎつつも丁重な態度で頭を下げた。
「スカーレット枢機卿が我々を視察していただけるなんて光栄この上ないです。私はイーサンと申します。以前、礼拝堂での式典でご挨拶させていただきまして…」
「イーサンさん、お久しぶり。今日はタリーサさんにお会いしたくて伺いました。彼女は中にいるかしら?」
アンナに追いついた枢機卿が練習場の中を覗く。
タリーサは傷を治され、今まさに体を起こされたところだった。失神していたのだろう、頭を振っている。
アンナはその様子を黙って睨みつけていた。
悔しくて自然と涙が滲んでくる。
「ああ、あの子ね。タリーサさん、初めまして。訓練中ごめんなさいね。秘書官のアンナが視察に行こうってうるさくて…話題のセルヴィオラの娘を見たいって騒ぐのよ」とスカーレットが笑顔で話しかけた。
アンナの名を聞いてタリーサは目を見張る。
それには気づかずスカーレットは話を続けた。
「貴女がルーファス様のご令嬢なのね。彼が突然亡くなったのは本当にショックだったし、国民も悲しみに暮れました。その後貴女の家は断絶になったけど、生まれの悪さを呪ってはダメよ!貴女よりもっと恥ずかしい立場に堕ちた家の者も頑張ってるのですから!強く生きなさい!!」
タリーサは貶されながら励まされ、何を言われているのか分からないまま、歩み寄ったスカーレットに抱きしめられていた。
抱きしめた手を離すとスカーレットはタリーサの肩を掴んで、さらに言葉を続けた。
「不名誉な出自に負けず、聖騎士団に入団した貴女の勇気は讃えられるべきです。貴女は許しと再生を体現しているのです。絶対に聖騎士団を辞めないで。貴女を批判する者がいれば、この私が全力で守ります!」
その言葉にアンナのみならず、イーサン、シェリルも驚く。スカーレットの発言は、意図せずタリーサに強力な後ろ盾を与えたのだ。
当のスカーレットは自分の演説に満足すると、タリーサの腕を取って外へ出る。
タリーサと腕を組んで仲の良さを示しながら、集まった市民たちに笑顔で手を振る。
「皆さん、亡き父親の意志を継いで健気に頑張るタリーサをどうぞこれからも応援して差し上げてくださいね!」
その声に応えるように、市民たちは歓声を上げた。
そこに枢機卿来訪の連絡を聞いて駆けつけたグレース団長、ペネロペ副団長が現れた。
「スカーレット様、このような場所にお越しいただき恐れ入ります…」
「ああ、グレース団長、お久しぶりね! ねえ、市民の皆様はタリーサさんを見たくてこんなに集まってるのよ。屋内の見えない場所じゃなくて外で訓練をさせてくださらない?市民の要望を叶えるのも聖騎士団の大事な役割よ?」
スカーレットの提案に市民たちは湧き立つ。
そもそも屋内練習場で訓練していたことさえ知らなかったグレースは「ええ、それはいいお考えです。早速変えましょう。ペネロペ、頼む」と請け負った。
ペネロペは何か言いたそうだったが、「御意」とだけ言うとイーサンに目配せする。
スカーレットの視察は、アンナの想像を超えてタリーサの苦境を救ったのだった。
(続く)
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★あとがき★
アンナは姉の様子を見に行くだけのつもりでしたが、行ってみて驚いたことでしょう。
結果としてスカーレットが(偶然にも)救ってくれました。
次回、聖騎士団は特別任務を受けて選抜隊を編成します。